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酷道(こくどう)は、日本の道路の俗語で、一般国道のうち乗用車による通行が困難であるなど文字通り「酷(ひど)い状態の国道」を「国道」の読み(こくどう)にかけて揶揄したもの[1][2]。古くは1930年(昭和5年)の用例が確認されており[注釈 1]、1958年(昭和33年)の阿川弘之の紀行文『東北国道二千キロ』[7]、道路地図[注釈 2]や自治体史[8]、新聞[9][10]、紀行記[11]、国会発言[注釈 3]にも使用例がみられる。
概要
一般的に「国道」といえば、「適切な整備が実施されている利便性の高い重要な都市間道路」というイメージを持たれることが多い。特に地方においては、道路としての存在感や安心感は、他の一般道路とは格別であるとも評されている。
「酷道」という言葉は、一般国道として指定されているにもかかわらず、上記のようなイメージにそぐわない「整備状態の悪い国道」を指す俗語として使われている(詳細は後述)。一般国道のある路線の全区間が「酷道」の状態にあるわけではなく、一部の区間だけが「酷道」であるのが実態だが、酷道区間を持つ路線は全体的に見ても整備状態が良くないことが多いため、当該路線を指して「酷道」と評する場合もある。また、「国道」に対する「酷道」のように、整備状態の悪い「県道」「府道」「都道」「道道」に対する「険道」「腐道」「吐道」「獰道」といった揶揄表現もある[18][19]。
現在では道路踏破趣味の一分野として、この「酷道」を走破することに情熱を傾ける「酷道マニア」の存在も成立しており、インターネット上には「酷道」を通行した際の状況などを記したレポートや旅行記も多数存在するほか、ドライブレコーダーで走行中の前方の景色を撮影・編集し、動画サイトで車載動画として紹介する者も少なからず見られる[20]。その中には趣味が高じて何らかの知名度を得て、一種のアウトドア系ライターなどのプロ・セミプロ的な活動を行っている人物もおり、酷道を扱った単行本やムック、DVDなどが販売されるほどである。また、テレビ東京系列の番組『土曜スペシャル』では、著名人などが酷道を行く「知られざる国道(酷道)の旅」シリーズが過去数回放送されている。
こうした「酷道」も、道路管理者によってバイパス改築や拡幅事業など、年々整備改良がおこなわれており、少しずつ解消されつつある。また、バイパスなどの整備によって旧道となった「酷道」は、国道の指定を外れて都道府県道もしくは市町村道などに降格となることが多く、特に山岳地などで道路の安全確保維持が難しく、将来的に利用価値が見込めない場合は廃道となるケースもある。
地方自治体にとって一般国道の指定は、国から補助金を得て整備状態の悪い道路(=酷道)を改善する手段のひとつであったため、とりわけ1993年(平成5年)に新規指定された450号から507号までの一般国道については、それまで都道府県道までしか通っていなかった自治体からの国道昇格請願が多数あったといわれている。しかし、こういった一般国道の場合、他の国道と比較してもともと交通量が少ない道路であるなどの理由から道路改良整備の優先度が低く、道路改良事業化が後回しにされているのが実状となっている。
特徴
酷道は、下記のような特徴を持つ国道のことを指す。ただし「酷道」は個人の主観で評価されてよばれている用語であり、下記に挙げられる要素は酷道と呼ばれる道路の事例として文献などに記載がある。
- 狭隘道路で大型自動車の通行(一方通行の場合)、または大型自動車同士のすれ違い(対面通行の場合)が困難もしくは不可能な区間がある[24]。対向車が来た際に待避可能な場所がない。
- 道幅が狭い上、前方の見通しが効かないブラインドカーブが多いことから対向車に対する危険度が高く、山林の中では昼間でも日光が遮られて薄暗い場所が多い[24]。
- 住宅街の路地やアーケードのある商店街などが指定されており、明らかに自動車の通行に向いていない。歩行者専用道路で車両が通行できない場合もある。
- 路面状況が悪い[24]、ガードレールのない断崖路など通行が非常に危険な区間、未舗装路やけもの道の区間がある。
- 全線が開通していない、災害で不通になったまま復旧が行われていない、あるいは歴史的経緯により遊歩道や階段として整備されているなど、車両(自動車、原動機付自転車、軽車両)が一切通行できない区間がある。徒歩ですら通行が困難もしくは不能な場合もある[25]。
- 降雨時に地盤が緩み崩落を起こす危険性が高く、土砂崩れや道路決壊で復旧工事中の状態が長期間継続されていたり、通行止め規制が敷かれている場合がある[24]。
- 多くは都市部や人里を離れた人気のない山間部にある峠道で、長距離にわたって沿線にコンビニエンスストアやガソリンスタンドなどの店舗、自動販売機がない[26]。
- 積雪のある地域では、雪が積もるような季節でなくともすでに冬季閉鎖規制により、通行止めになっている場合がある[24]。
- 夏は道路脇の雑草が生い茂っていたり[24]、測量標が確認できないなど、長期間管理されていない区間がある[27]。
- 山間部では現地調査が困難だったり、木が生い茂って航空写真による確認も困難な場所があり、過去の資料から推察したと思われる不正確な地図が作成されることもある[27]。
道路法的に未供用の区間は、正確には国道にあたらないが、路線に未供用区間がある時点で「酷道」と呼ばれる資質があるものと考えられている。
酷道が国道に指定されている理由
一般国道への指定から長い期間を経ても、道路整備が進まず「酷道」の状態にある道路は多い。酷道区間を含むにもかかわらず一般国道として追加指定されてきたのは、「国道らしい道を整備したい」とする地方自治体と、その道路を「国の幹線道路とする資質がある」と認める日本国政府との、双方の思惑の一致が事実としてあったためだとされている。
一般国道の路線数は、1992年(平成4年)の指定(翌1993年〈平成5年〉4月施行)を最後に増加していないが、それまでは海上国道や一般国道の自動車専用道路などを除くほとんどの路線で、主に既認定されている都道府県道(多くは主要地方道)が昇格する形で誕生してきた。
国道に指定させたい路線を有する地方自治体(都道府県)は、まず道路法第5条で規定された一般国道指定の要件を満たす候補路線を作成し、所轄官庁である建設省(現・国土交通省)に国道昇格を陳情する。建設省に集まった候補路線の中から省議にかけられ、さらに絞り込まれた候補路線が残り、道路法で設置を義務づけられている道路審議会(議長:建設大臣)にかけられる。その答申結果が建設省の決定案となり、閣議決定を経て一般国道の路線を指定する政令が公布されることで、新たな一般国道の指定に至る。
こうして誕生したばかりの国道路線は、それまでカテゴリが低い都道府県道以下の道路であったため「酷道」になりがちだが、そこまでして都道府県が欲する道路こそ、整備グレードが高く、かつ迅速に整備したい道路であり、国道になれば、道路の新設や改築にかかる費用の一部について国の負担・補助を受けることができるため、既存道路を国道に昇格させることが、地方自治体が道路整備を進める上での有力な手段となってきた。
こうした道路施策の背景にあるのは、地方の財政は国に比べて潤沢ではないことが挙げられる。大規模な新設や改築が伴う道路整備においては、地方自治体が道路管理者となっている補助国道(指定区間外)の場合[注釈 4]、自動的に国が事業予算の2分の1を負担することになっているが、都道府県道では主要地方道などの例外を除いて、国から補助を受けることができないからである。
酷道の中には「迷路国道」「迷走国道」と呼ばれているものがあり、路面や勾配などの路面的な悪条件以外に、不合理で奇妙なルートの取り方で印象づけられている国道を指している。これらは都道府県が在来あった複数の県道などをつなぎ合わせて、国道に昇格させたい路線として道路が一本化されていく過程で不自然な線形が生まれたのと同時に、一般国道の追加指定が行われてきた後発路線(1974年(昭和49年)以降に指定されたグループ)になるほど、起終点間ですでに整備されている道路よりも、あえて今後整備を必要とする道路が選択される傾向が強くなった結果ともいえる。
時間を経ても酷道状態の国道が存在する理由は様々あるが、その多くは、国道指定後に行われた当該路線の整備事業計画の見直しや、ダム事業など他事業との統合、さらには技術的・地域的な諸問題が判明したことによる道路事業計画自体の延期などが繰り返されてきた結果、酷道状態の道路がそのまま取り残されているのが実情である。
時間は長期化しているものの、そのほとんどは道路整備事業自体が止まっているわけではなく、諸問題が少しずつ解決されるに従って、数年単位で酷道は減少を続けている。実際に、1993年(平成5年)度から2012年(平成24年)度の19年間で、酷道の特徴にも挙げられている自動車通行不能区間[注釈 5]の延長は、175 kmから143 kmへと減少している。
酷道の例
酷道と呼ばれる一般国道は、300番台中盤以降の比較的年代の若い国道に多く、地域別では人口の少ない西日本の山岳地に多く分布し、特に紀伊半島、四国内陸部、中国山地に集中する。全体としては長野県から九州南部にかけた中央構造線沿いの険しい山地に多く存在している。イカロス出版『酷道をゆく』<(文献1)(文献1)、『酷道をゆく2』(文献2)(文献2)では以下の一般国道が「酷道」として紹介されている。ほぼすべてが指定区間に指定されていない都府県管理区間であることがわかる。
かつて酷道とされていた道路
上記同書収録のものに限る。
脚注
注釈
- ^ 1930年に徳田茂が雑誌『道路の改良』第12巻11号に発表した「東北を一巡して」[4]に、秋田県の国道・県道について「某新聞から秋田県の酷道険道の名称を附せられたのも亦故なきにあらずだ」(p. 106、「酷道険道」の脇に強調の傍点あり)との言及があり、昭和5年以前から「酷道険道」との呼び方があった傍証となる。『道路の改良』は道路改良会(現在の公益社団法人日本道路協会[5])の発行、内務省の土木技術官僚が寄稿していた専門誌(1920年 – 1944年刊行)。全号が土木学会附属土木図書館デジタルアーカイブスでインターネット公開されている[6]。
- ^ 『ツーリングマップルR 九州・沖縄』(昭文社 2007年1版1刷 ISBN 978-4-398-65707-7)国道265号の旧道である国見峠に対して用いられている。国見峠が国道265号の路線として指定されていた時代に発刊された『ツーリングマップ』1991年版も同様。
- ^ 1960年(昭和35年)5月11日の衆議院地方行政委員会(第34回国会)で安井吉典議員が、交通事故の原因の一端は道路環境にもあるとして週刊雑誌を引用し「この週刊雑誌を読んで見ますと [...] 日本の道路の悪口をこう書いてあります。日本の国道は酷道だ、県道というのは険道、市道というのは死道、町道は懲道、村道は損道と書いてあります。特に胃腸返し道路というようなことがあって、これは胃と腸がひっくり返るという意味だそうです。これは特に言い方がひどいわけでありますが、しかし、これがまんざらうそでもないといったような面も多分にあると思います。」と当時の道路事情を紹介している[12]。その他に、1969年(昭和44年)2月28日の参議院産業公害及び交通対策特別委員会(第61回国会)での「少なくとも、能登線〔※現在ののと鉄道能登線〕に竝行〔並行〕する国道の中において、道幅が驚くなかれ、4.5ないし7.5というところがあります。10.9キロにわたる国道249号線の一部であります。かつまた、5.5ないし7.7という国道があるわけです。国道じゃない、酷道だと思いますが。」(杉原一雄議員発言)などが見られる[13]。
- ^ 指定区間(直轄国道)は、国土交通大臣が道路管理者で一般国道全体の4割を占め、それ以外の指定区間外(補助国道)は、都府県または政令市が道路管理者となる。
- ^ 自動車通行不能区間の定義は、供用開始している未改良道路のうち、幅員・曲線半径・その他の道路状況により、最大積載量4トンの貨物自動車が通行できない区間を指す。
- ^ a b c 2022年3月31日現在
- ^ 『ツーリングマップルR 九州・沖縄』(昭文社、2007年1版1刷 ISBN 978-4-398-65707-7)では、国見トンネルの開通まで国道265号であった国見峠(椎葉村 - 五ヶ瀬町)を「酷道」と表現している。また『ドライブベストコース100(九州)』(昭文社、1996年4月 ISBN 978-4398223739)では、東臼杵郡椎葉村 - 西臼杵郡五ヶ瀬町のルートとして国道503号の飯干峠経由のルートを推奨したうえで、国道265号を「マニア向け」と表現している。
- ^ 「酷道」を扱ったムック本『酷道をゆく』(イカロス出版、2008年2月 ISBN 978-4863200258)にも紹介されている。
- ^ 該当区間のすぐそばに茨城県道・千葉県道2号水戸鉾田佐原線が並行する。
出典
参考文献
関連項目
外部リンク
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1 - 100 (1 - 57号は旧一級国道。59 - 100号は欠番) |
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101 - 200 (旧二級国道、109 - 111号は廃止・欠番) |
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201 - 300 (201 - 271号は旧二級国道、214 - 216号は廃止・欠番) |
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