YZR-M1 (ワイゼットアール-エムワン)は、ヤマハ発動機 がロードレース世界選手権 のMotoGPクラスに参戦するために開発した競技専用オートバイ [ 1] 。2002年 にYZR500 の後継として開発され、当初は990 cc (60 cu in)のエンジンを搭載した。それ以来、YZR-M1は990cc時代、800cc時代、1000cc時代とコンスタントに開発され続けている。
M1のMとは、英単語のMissionの頭文字であり、「開発技術を市販車開発へ」と「MotoGPのチャンピオンマシン」という二つの使命を表している。
2002-2003
2002年 シーズンは990cc4ストロークマシンと500cc2ストロークマシンの混走が許された初めての年であった。ヤマハは2ストロークV型4気筒エンジンのYZR500から、4ストローク並列4気筒のYZR-M1への切り替えを決定した。その理由はフレームとエンジンのバランスを考慮したためであった[ 2] 。ヤマハはまた、YZR500の良好な操縦性の維持を求め、M1のエンジンをYZR500の車体構造にはめ込むように設計した[ 2] 。M1は4ストロークエンジン特有のエンジンブレーキ を制御する電子エンジン管理システムを装備した[ 1] 。新型エンジンは5バルブを装備し、キャブレター によるガソリン供給、排気量は942ccであった。シーズン後半までにはレギュレーション上限の990ccまで発展した[ 2] 。フレームもシーズン中に開発が進み、エンジンマウントポジションと燃料タンク形状が変化した[ 2] 。
M1は2001年を通して、マックス・ビアッジ 、ジョン・コシンスキー 、藤原儀彦 、難波恭司 の手によって開発が進められた[ 3] 。2002年 シーズンはビアッジとカルロス・チェカ がファクトリー・チームでM1を走らせ、シーズン終盤には阿部典史 、オリビエ・ジャック 、中野真矢 にも提供された。ビアッジは2勝を記録しランキング2位となり、ヤマハもマニファクチャラーズランキングで2位となった。
2003年 シーズン、エンジンはキャブレターからフューエルインジェクション に変更となり、エンジンブレーキ制御も安定性を改善するために4つのシリンダーのうち2つに通ずるスロットルバルブを自動的に調節したアイドリング制御システムと交換された[ 4] 。M1のライダーはチェカ、アレックス・バロス 、オリビエ・ジャック 、マルコ・メランドリ 、中野真矢 、阿部典史 で、このシーズンは1勝もできずヤマハはマニファクチャラーズランキングで3位となった。
2004/2005
バレンティーノ・ロッシ がヤマハと2年契約を結ぶ。伝えられるところに依ると、1シーズン600万ドルの契約であり、この移籍はプレスによって「彼が噛むことができた物より多くのものを噛み切る」と表現された。ロッシがYZR-M1をホンダ・RC211V のレベルに引き上げることは、批評家やメディア専門家ばかりでなく多くのファンも至難の業と考えた。冬の間にホンダ のマシン開発は好調に進み、マックス・ビアッジ とセテ・ジベルナウ がホンダに世界タイトルをもたらすのに障害は無いと考えられた。
一方、ロッシとジェレミー・バージェス だけがホンダと戦う抵抗勢力であった。バージェスはロッシのホンダ時代のチーフメカニックで、ロッシの移籍に伴って長年共に働いたクルーと共にヤマハに移籍した。これは注意すべき移籍で、ロッシは自身の自叙伝で、YZR-M1でチャンピオンシップに挑むために必要な強固な基盤を提供してくれると書き表している。
2003年から2004年の冬のテストの間に、ヤマハはロッシとバージェスと共同して最大限の努力を払い、大きな進歩を遂げた。組織的な革新とテストで、彼らはブレーキングやクイックな操縦性と言ったM1の伝統的な利点をリファインし、パワーとバランスでまとめ上げた。YZR-M1プロジェクト・リーダーの辻幸一はロッシやバージェスと密接に働き、パワー伝達の改良のため何度もエンジンを修正して実験した。最終的にシリンダーヘッドのバルブは初期型の5から4に変更された。並列4気筒エンジンは伝統的な「スクリーマー」エンジンで、クロスプレーンクランク、90度位相で270-180-90-180の不等間隔爆発であった。この点火順序はV4エンジンの恒常的な運動エネルギーを模倣し、これによってエンジンのトルク特性を大幅に向上させ、フレームとエンジンは接続位置が僅かに変更された。これによってM1はコントロールしやすいマシンとなり、コーナー脱出速度も向上した。冬の間の必死な開発とテストの後、カタルーニャで行われたIRTAのテストでロッシとM1はBMWの車に勝ち、チームは正しい方向への重要な一歩を踏み出したことを世界に示した。
恒例となっていた鈴鹿 での日本GP が安全性の問題のためツインリンクもてぎ で行われることとなり、2004年 シーズンの開幕戦は南アフリカ のウェルコム で行われることとなった。注目に値するこのレースで、ロッシは優勝を遂げ、批判者達を沈黙させるだけではなく、2つの異なるマニファクチャラーで連勝を遂げた初のライダーとなった。ロッシはこのシーズン9勝を挙げ304ポイントを得、タイトルを獲得した。ホンダのセテ・ジベルナウ は257ポイントでランキング2位、マックス・ビアッジ は217ポイントで3位となった。
したがって、2004年シーズンはロッシがバイクの性能では無く自身の才能でタイトルを獲得したことを証明した。彼はGPレース史上で大きな業績を成し遂げた。
YZR-M1とロッシのコンビは2005年もシーズンを支配し、ロッシはホンダのマルコ・メランドリ に147ポイント差を付けてタイトルを獲得した。ロッシは後に、2005年型のM1はこれまで乗ったマシンの中で最高傑作であると語っている。
2006
バレンティーノ・ロッシ のYZR-M1、2006年
M1はシーズン開幕戦からチャタリングで悩まされ、2006年 シーズンはヤマハにとって問題含みであることが判明した。開幕から3戦連続で全てのヤマハライダーが苦しめられ、それはウィンターシーズンの内に開発された3つの大きな機能が原因であると考えられた。すなわち、大幅なエンジンパワーの引き上げと、新たなより固いフレーム、粘着性のコンパウンドと改訂版のプロファイルを持つ新しいミシュラン タイヤが絡み合ったものであった。3つの開発がほぼ同時に行われたため、通常であれば1つの開発につき細心のテストが行われるが、それがおろそかにされた。そして、この問題を理解し解決するためシーズン序盤の多くの労力が費やされた。
ヤマハとYZR-M1の開発の遅れは、バレンティーノ・ロッシのシーズンスタートの不調の原因となった。予選における低いパフォーマンスと不運のため、ロッシはシーズン半ばに手首を負傷し、その苦難は増していった。しかしながらシーズン後半にM1の問題は実質的に根絶された。そしてロッシはポイントリーダーのニッキー・ヘイデン との間にあった大きなポイント差を削減し、第16戦には逆転しついにポイントリーダーとなった。最終戦のバレンシアGPでロッシはスタートに失敗、5周目に転倒して最下位まで沈む。一方のヘイデンは安定した走りで3位に入賞、ロッシは追い上げたものの13位でフィニッシュし、ヘイデンが逆転でタイトルを獲得した。ロッシは5勝を挙げ、ヘイデンは2勝しか挙げなかったものの、ロッシにとっては最後まで不運に見舞われたシーズンとなった。
2007
2007年に再びレギュレーションが改定され、MotoGPマシンの排気量は800ccに縮小された。990ccマシンの最高速度は210 mph (340 km/h) にも達しており、この改定は増加する速度を減らす目的であった。したがってYZR-M1は800ccで開発が続けられることとなった。2007年のプレシーズンテストで、800ccエンジンを搭載した新型YZR-M1は、990ccを搭載した旧型よりもストレートにおいて逆説的に速かった。YZR-M1はよりハードなブレーキング、クイックなハンドリング、コーナースピードの高速化およびより扱いやすいトラクションと、2007年も正常な進化を遂げ、前年型より発展していった。
2006年前半にYZR-M1を苦しめたチャタリングは800ccへの切り替えで取り除かれた[ 5] 。ヤマハファクトリーチームのメインスポンサーはキャメル に代わってイタリアの自動車メーカーであるフィアット となり、車体の色も特徴的な黄色から青へと変わった。チームは青と白のカラーで走らせ、シーズンを通していろいろなカラーリングを採用することをほのめかした。
2007年 シーズンはファクトリードゥカティ を走らせたケーシー・ストーナー が獲得した。
2008
2008型YZR-M1は、MotoGPで最高のオールラウンドマシンと見なされた。ロッシは2位に記録的な差を付けて2008年の世界タイトルを獲得[ 6] 、シーズンを通して表彰台を支配した。チームメイトのホルヘ・ロレンソはポルトガルGPでルーキーとして初めてのM1による勝利を成し遂げ[ 7] 、シーズンでは6度の表彰台を獲得した。ロッシを初めとする多くの人々が、YZR-M1は2008年シーズンにおいてケーシー・ストーナー のドゥカティ との熱い戦いで最高のマシンであることを証明したと述べている。
タイヤ
2002年から2007年までは、ワークス・チーム はミシュラン タイヤ、サテライトチーム はダンロップ タイヤを使用していた。しかし、2006年及び2007年シーズンでのミシュランの開発力不足から、ワークスチームエースライダーのバレンティーノ・ロッシ は、ブリヂストン タイヤを使用することを決定し、またサテライトであったテック3・ヤマハチームは2008年よりセミ・ワークス扱いとなり、長年開発を行ってきたダンロップからミシュランにタイヤメーカーを変更すると発表した。
これにより2008年はフィアット・ヤマハ のロレンソとテック3・ヤマハ のエドワーズ 、トスランド の3名がミシュランを、そしてフィアット・ヤマハのバレンティーノ・ロッシ1名がブリヂストンを使用。このため同じフィアット・ヤマハのロッシとロレンソは、互いにタイヤメーカーの情報漏洩を防ぐためにチームメイトでありながら別々のピットを使う体制でMotoGPに臨み、結果的にはブリヂストン・ミシュランの両方で勝利を挙げYZR-M1のポテンシャルを証明した。
2009年はタイヤのワンメイク化があったが、2008年のシステムが上手くいったこともあり、以降もピットをパーティションで分割し使用し続けている。
ブリヂストンは2015年シーズンをもって撤退、2016年シーズンからはミシュランのワンメイクとなっている。
主な戦績
世界タイトル獲得回数:8 :
バレンティーノ・ロッシ :2004, 2005, 2008, 2009
ホルヘ・ロレンソ :2010, 2012, 2015
ファビオ・クアルタラロ :2021
優勝回数:125 :(2023シーズン終了時)
2002年 ビアッジ :2
2004年 ロッシ :9
2005年 ロッシ:11
2006年 ロッシ:5
2007年 ロッシ:4
2008年 ロッシ:9, ロレンソ :1
2009年 ロッシ:6, ロレンソ:4
2010年 ロレンソ:9, ロッシ:2
2011年 ロレンソ:3, スピーズ :1
2012年 ロレンソ:6
2013年 ロレンソ:8, ロッシ:1
2014年 ロッシ:2, ロレンソ:2
2015年 ロレンソ:7, ロッシ:4
2016年 ロレンソ:4, ロッシ:2
2017年 ビニャーレス :3, ロッシ:1
2018年 ビニャーレス:1
2019年 ビニャーレス:2
2020年 モルビデリ :3, クアルタラロ :3, ビニャーレス:1
2021年 クアルタラロ:5, ビニャーレス:1
2022年 クアルタラロ:3
主要諸元
ヤマハ・YZR-M1 (2016) 主要諸元
エンジン
エンジン形式:
水冷 , 並列4気筒 , 4ストローク 16バルブ DOHC クロスプレーン・クランクシャフト (fires at 180° flat-plane crank).
排気量:
1,000 cc (1.0 L ; 61.0 cu in )
イグニッション:
マニエッティ・マレリ 製 アジャスタブルマッピング - NGK スパークプラグ
燃料供給システム:
フューエルインジェクション
潤滑システム:
ウェットサンプ - JX-ENEOS
データレコーディング:
2D
最大出力:
240馬力 (176kW) 以上
最高速:
340 km/h (211 mph ) 以上
排気システム:
アクラポビッチ
トランスミッション
形式:
6速 カセットタイプギアボックス, with alternative gear ratios available
プライマリードライブ:
Gear
クラッチ:
Dry multi-plate slipper clutch
ファイナルドライブ:
チェーン
シャシーおよび駆動系
フレーム形式:
ツインチューブアルミニウム製デルタボックスフレーム, multi-adjustable steering geometry, wheelbase, ride height, with aluminium swingarm
フロントサスペンション:
オーリンズ製フルアジャスタブルテレスコピックフォーク
リアサスペンション:
Braced aluminium swingarm with single Ohlins shock and rising-rate linkage
フロント/リアホイール:
MFR 鍛造マグネシウム製 17インチ
フロント/リアタイヤ:
ミシュラン 17インチ
フロントブレーキ:
320 mm または 340 mm ダブルディスク カーボン製 ブレンボ製ラジアルマウント4ピストンキャリパー
リアブレーキ:
220 mm シングルディスク ベンチレーテッド ステンレススチール製 ブレンボ製2ピストンキャリパー
重量:
最低 157 kg (346 lb )(ライダーを除く), 200 kg (441 lb )(ライダーを含む)(FIMのレギュレーションによる)
タンク容量:
21 L (6 US gal; 5 imp gal),(FIMのレギュレーションによる)
MotoGP成績
(key ) (太字 はポールポジション 、斜体 はファステストラップ )
* 現在進行中
関連項目
注
参照
外部リンク
50 cc 51 - 125 cc 126 - 250 cc 251 - 400 cc 401 - 600 cc 601 - 1000 cc 1001 cc - 電動スクーター 競技車両 電動競技車両
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