本項では、テレビ朝日系列の刑事ドラマ『相棒』のうち、『土曜ワイド劇場』で放送されていた3作品(以下:pre season)およびseason1からseason7までのエピソードについて解説する。文中の「PS」はpre season、「S」はseason、「終」は最終話の略称で、数字は話数を示す。
2000年から2001年にかけて単発ドラマとして放送されたpre seasonでは、切れ者の杉下右京(演:水谷豊)と、捜査一課から左遷された亀山薫(演:寺脇康文)の出会いが描かれており、以降のシナリオにおいては2人が行動を共にしながら様々な事件を解決する様子が描かれる。
pre season2より、鑑識の米沢守(演:六角精児)と組織犯罪対策課課長角田六郎(演:山西惇)が登場。さらに連続ドラマ化されたseason1第1話より、警察庁官僚の小野田公顕(演:岸部一徳)が登場、右京と因縁を持ち、特命係誕生に関わるエピソードのキーパーソンとなりその後長きに渡り作中の狂言回しを務めた。さらにseason2では、第1話より首席監察官の大河内春樹(演:神保悟志)が、第4話より芹沢慶二(演:山中崇史)が登場。続くseason3では、第1話より若手政治家片山雛子(演:木村佳乃)が、第6話より警視庁経理部の職員陣川公平(演:原田龍二)が登場し現在まで続く主要人物のラインナップが出揃った。
2002年以降からは連続ドラマとなり、シリーズとしては最初となるseason1は3ヶ月間(1クール)の放送となった。最終話では、特命係が誕生するきっかけとなった事件が主題となっている[1]。続くseason2では、pre season2で特命係と対決した連続殺人犯の浅倉(演:生瀬勝久)をめぐる事件が展開する[1]。なお、season2より半年間(2クール)での放送が定着した。
シーズンを通じて、薫と記者の奥寺美和子(演:鈴木砂羽)との関係も描かれており、season3では美和子の浮気に端を発した不和が生じるが、season4第1話で薫が復縁を持ちかけ、紆余曲折を経て最終話は二人の結婚で締めくくられる[1]。また、2006年1月1日の元日に2時間スペシャルとしてseason4第11話『汚れある悪戯』が放送され、以降のシーズンでは曜日に関係なく元日に2時間スペシャルが放送されると言う形態が定着している。そして、2008年12月17日放送のseason7第9話『レベル4〜後篇・薫最後の事件』では薫が亡き友の遺志を継ぐため、妻とともにサルウィンという国に旅立つ。第10話から第18話にかけて、右京の相棒が不在の時期を挟んだ後、2009年3月18日放送の最終話『特命』にて、のちに2代目相棒となる神戸尊役の及川光博がゲストとして出演。次回のseason8にてメインキャストとして登板している。
なお、season6放送終了後の2008年5月1日には映画『相棒 -劇場版- 絶体絶命! 42.195km 東京ビッグシティマラソン』が公開された[2]。また、season7終了後の2009年3月28日にはメインの登場人物の一人、鑑識の米沢守を主人公とするシリーズ初のスピンオフ映画『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』が公開されている[3]。これと前後して2009年3月5日にはニンテンドーDS用ソフト『相棒DS』も発売された[4]。
水谷豊と寺脇康文が主演を務めることが決まった後、制作チームの要請を受け、それまでコメディを中心に活動してきた輿水泰弘が脚本を引き受けた[5]。ミステリ好きだった輿水は執筆に当たりシャーロック・ホームズとワトソンのようなコンビによる推理ものを目標とした[5]。
pre season3「大学病院助教授、墜落殺人事件!」では大学病院を舞台に安楽死の是非が描かれた[6][5]。このエピソードでは院内で行方不明になった右京を探す薫が「俺の相棒はどこだ!」と医者に詰め寄る場面がファンの間で印象的なシーンとされている[6]。
その後、テレビシリーズ化に際して輿水以外の脚本家も加わり、社会問題を取りこみながら、コメディーからシリアスまで多様なシナリオが生み出されていった[5]。
season1第10話「最後の灯り」では右京と薫が事件について調べる中、犯人に襲われて海岸まで運ばれて放置される[7]。この際負傷した右京を薫が背負う場面があるが、これに関して水谷は以下のように述懐している[8]。
実はあのシーン、テストのときはゲラゲラ笑いながらやっていたんです。楽しんでる場合じゃないのに、いい大人がおんぶされている格好が面白くてね。寺脇におんぶされると、歩くたびに振動が来るんですよ。その振動に合わせて僕の身体が揺れるでしょ。その揺れ方が可笑しいって、二人で笑っていた — 水谷豊
また同話では、倒叙形式が取られている[9]。
season1最終話「午後9時30分の復讐 特命係、最後の事件」は脚本家の輿水泰弘が同seasonの中で特に印象に残っているとしている[10]。またゲストで登場した北条晴臣演じる長門裕之の演技に関して水谷は以下のように述懐している[11]。
長門さんの役はしたたかで、本当に悪い奴なんだけど、芝居が面白くてね。僕と寺脇が長門さんと向かい合うシーンで、吹き出してしまったんです。もちろん本番なんだから笑ってはいけないんですよ。でも、長門さんの芝居を見ていると、可笑しくてどうにもならないんですよ。もうね、狂気のような面白さだった — 水谷豊
エピソードの中には変わった構成の回もあった。たとえばseason2第3話「殺人晩餐会」およびseason3第8話「誘拐協奏曲」はいずれも密室劇であり、いずれの回もゲストの渡辺哲が異なる役で出演している[12]。このうち前者は薫の味覚の鋭さが凶器の特定につながるという展開がなされている[9][13]。
season2第16話「白い罠」では犯罪被害者と加害者双方の家族の葛藤が描かれた[14]。その中で加害者の死刑執行に立ち会った刑務官である工藤伊佐夫を演じる小野武彦の、加害者家族の悲しみを知ったことで自身の仕事を悔いた際の演技に関して、水谷は以下のように述懐している[15]。
ラスト近くの撮影では、胸にこみあげてくるものがありました。小野さんの芝居を見ていて、もう本当に泣きそうだった — 水谷豊
亀山君はいくら泣いてもいいんです。だけど、右京はどんなに辛くても泣いちゃいけない。右京が泣くと違うことになっちゃうと思うのでね。あのときは気持ちがギリギリの状態というか、涙をこぼさないように必死で堪えたんです。 — 水谷豊
season4第19話「ついてない女」は、大半の場面で右京と薫が別行動をとることが特徴であり、番組の公式ブログでは「役割分担をすることで名コンビぶりが発揮されたのではないか」と記されている[16]。なお、このシナリオの中心人物である月本幸子(演:鈴木杏樹)はその後、season6第11話「ついている女」ほか複数のシナリオに登場し、のちに「花の里」2代目女将としてseason17第19話まで登場した[17]。
2007年10月24日放送のSeason6第1話の「複眼の法廷」は、2年後(2009年)に制定される裁判員制度を主題としており、水谷は2021年の朝日新聞の記事の中で、この制度の在り方や人々に与える影響を予測して制作したものだと聞いたと話している[5]。
season7第9話「レベル4〜後篇・薫最後の事件」をもって薫が日本を去ってから最終話までのエピソードにおいては、毎回右京がゲストやメインの登場人物と組んだり、単独行動をしたりと変則的な状況が続いた[18]。
season7第10話「ノアの方舟」ではゲストとして法務大臣の瀬田宗明を演じる渡哲也が登場したが、水谷は20代のころから渡のファンであり、1977年『大都会 PARTII』第5話「明日のジョー」以来の共演となったことに対して、水谷は「撮影中はファンの顔にならないように気をつけていました」と述懐している[19]。また同話においては法務省官房長補佐官の姉川聖子を演じた田畑智子が右京に同行して捜査をしたことから、田畑が次の相棒ではないかと話題となった[20][21]。
season7第15話「密愛」ではメインゲストが岸惠子と国広富之で相棒はおらず登場人物も限られていたため、番組表は空白が目立った[20]。水谷とは1977年『赤い激流』以来の共演となった岸が演じた宇佐美悦子は右京の大学時代の恩師でフランス文学の翻訳家という設定である[22]。男女の愛を描くフランス文学は右京が大学時代に唯一単位を落とした科目であり、宇佐美にもフランス文学は右京と相性が悪いと指摘され、右京も「男女の情愛ほど知性や理論が通用しない分野はありません」と相性の悪さを認めている[23]。このように本作は愛をテーマにして話が進むが、その際水谷は以下のように演じたと述懐している[24]。
世間ずれしていない先生が男の手管に引っ掛かったからと言って、責められるだろうか。宇佐美先生は学生たちの憧れの人だったけれど、実は生まれ持った身体的なコンプレックスがあった。それで人生を狂わせた女性を、右京は強く責めることはできないな、と思いながら演じていた — 水谷豊
なお、同話では『交響曲第8番』などのクラシック音楽が多用されており、放送後に視聴者から寄せられた問い合わせに応えるという形で番組公式ブログに使用楽曲一覧が掲載された[25]。
pre seasonの2作目における、右京と薫、浅倉禄郎のシーンで8分間の長回しによる撮影が行われた[26]。当初は予定になかったが、テスト段階において水谷の台詞覚えの良さから、監督の和泉聖治より提案された[26]。これに関して水谷は以下のように述懐している[6]。
初めてみたら、どんどん進んで行く。僕が喋り続けている間に、寺脇と生瀬が大変な精神状態になっているのがよく分かるんですよ。二人とも最後のあたりに台詞があるから、自分のところでNGを出さないように、もの凄く緊張している。異様なムードだな、と思いながら演ったのを覚えています。これが成功したことで、和泉監督の長回し(の撮影)が続き、後にいろいろな人が大変な思いをすることになったんですね — 水谷豊
season2第1話「ロンドンからの帰還 ベラドンナの赤い罠」は、本作初の海外でのロケーション撮影となった[27]。監督の和泉から「右京の向こうでの生活を見せたいので、撮影してきてほしい」と依頼され、本隊が東京で撮影している間に、3泊5日の日程で水谷含む撮影隊5人で行われた[27]。撮影隊にとっては行き当たりばったりとなったが、以下に水谷が述べるように意図せず撮影できた場面もあった[27]。
ベーカーストリート駅の前を歩いているうちに、シャーロック・ホームズの銅像(英語版)を見つけたんです。狙ったわけではなく、たまたま見つけたので、じゃあ、挨拶をしなくてはと帽子をとって会釈しました。右京が『おや、こんな所に』という表情で銅像を見上げる姿が、リアルに映っていますよね — 水谷豊
season2第15話「雪原の殺意」および第16話「白い罠」では、番組史上初めてとなる北海道での遠方ロケが実施された[18]ほか、season4第1話「閣下の城」では大理石村ロックハート城で撮影された[29]。
また、テレビ朝日開局50周年を記念して制作されたseason6第10話「寝台特急カシオペア殺人事件! 上野〜札幌1200kmを走る豪華密室! 犯人はこの中にいる!!」では、北海道で行われる裁判の証人の護送車両として寝台特急「カシオペア」が使われているという設定であり、上野、青森ならびに函館駅が実際に登場するほか、走行中の場面も実際の車両を用いている[30]。鉄道ライターの杉山淳一はマイナビニュースに寄せた記事の中で、番組内で「カシオペア」として登場したE26系の客車は検査のため10月下旬から12月上旬まで運休となり、正月特番の撮影スケジュールに合わせやすいと述べている[30]。また、杉山はスタジオセットの食堂車は実際の食堂車と異なると指摘したうえで、物語上でたびたび登場するため実車両ではなくセットを作る必要があったと推測している[30]。
season7の時点ではテープ収録が主体で、大半の番組制作と同様にオフライン編集のみをノンリニア環境で行っていたが、テープ素材のデジタル化に時間がかかっていた[31]。そのため、テープレスカメラの導入をはじめ、収録から編集まで電子ベースで統一することが解決策として考えられた[31]。番組スタッフには常に新しいことに挑戦するという意識があったため、反対意見は出なかったものの、予算の問題や、編集所の検証に時間がかかるため、テープレス化はseason8までお預けとなった[31]。
pre season / 特別編 / season1 / season2 / season3 / season4 / season5 / season6 / season7
以下、当記事管轄範囲の登場回のみ記載。
再放送部分は上のpre seasonの登場人物と同じなので、ここでは新撮部分の登場人物のみ記載する。
season3第7話「夢を喰う女」は、閲覧者の個人情報(帯出記録)を図書館の司書から聞き出す場面に対して、日本図書館協会から「地方公務員法(第34条。守秘義務)違反になりかねない」「警察においてもこのようなことは現在ほとんどしていない」[287]という意見が、他にも世田谷区の図書館など図書館関係者からの指摘が寄せられた[288]ため、欠番となっている(図書館の自由に関する第3宣言[289]違反の行為。捜索差押許可状(令状)以外は照会も認められず、相手方は拒否出来る)。日本図書館協会によれば、テレビ東京の「夏樹静子サスペンス 特捜刑事・遠山怜子」第1作「愛と復讐のウインターギフト殺人事件」(2003年11月16日放送)でも同様の描写があったという[290][291]。
テレビ朝日は、2004年12月15日付で日本図書館協会などに「令状を見せる場面を省略したことは不適切だった」と詫びたほか、謝罪テロップを放送している。
このストーリーについてはオフィシャルガイドブックに「season3第7話は欠番です」と記されているのみで、再放送や番組販売は行われていないうえ、DVDへの収録やTELASAでの配信もされておらず、事実上の封印作品となっている。また、season3のテレビ朝日公式サイトにおけるあらすじのバックナンバー一覧からも削除されており、ノベライズ3上巻末の放送リストでも触れられていない。
なお日本図書館協会では照会での対応は緊急性などを考慮し「図書館側での判断」としており[292]、実際に令状ではなく照会による情報提供が多数行われている[293]。
読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。 — 図書館の自由に関する第3宣言第1項