日本とパレスチナの関係 (にほんとパレスチナのかんけい、アラビア語 : العلاقات الفلسطينية اليابانية 、英語 : Japan-Palestine relations ) では、日本 とパレスチナ の関係について概説する。正式名称から日本とパレスチナ国の関係 、統治組織「パレスチナ自治政府 」から日本とパレスチナ自治政府の関係 とも。日本 はパレスチナ を国家承認していないが、実務上の関係が築かれている。
両国の比較
歴史
パレスチナ略史
第一次世界大戦 以降、イギリス が統治するパレスチナ地域 においてパレスチナ人 と新しく入植してきたユダヤ人 との対立が生まれる[18] 。
1947年 、国連総会 にてパレスチナをアラブ国家とユダヤ国家に分割する決議 を採択する[18] 。
1948年 、イギリス軍 のパレスチナ撤退に合わせてイスラエル が独立を宣言 。これに伴って第一次中東戦争 が勃発し、多くのパレスチナ人 が難民 となった。これは「ナクバ 」(アラビア語 で「大破局」「大災厄」)と呼ばれた[18] 。
1964年 、イスラエル の支配下にあるパレスチナ人 の解放を目的とする「パレスチナ解放機構 (PLO)」が設立され、拠点をヨルダン においた事実上のパレスチナ亡命政府となる[18] 。
1967年 、第三次中東戦争 が勃発。勝利したイスラエル がガザ地区 、ヨルダン川西岸 を軍事占領し入植を開始[18] 。
1974年 、パレスチナ解放機構 は国際連合 のオブザーバー組織となる。
1987年 、「インティファーダ 」と呼ばれるパレスチナ人 による反占領運動が開始[18] 。
1988年 には「イスラエル打倒によるパレスチナ解放」から「イスラエルと共存するヨルダン川西岸地区およびガザ地区でのパレスチナ国家建設」へと方針転換。パレスチナ国独立宣言 が実施される。
1993年 のオスロ合意 に基づき、武力闘争方針が転換されパレスチナ解放機構 を母体とするパレスチナ自治政府 が設立される。1995年 よりパレスチナ国 としてヨルダン川西岸 及びガザ で自治を開始[18] 。
2004年 、パレスチナ解放機構議長 で初代パレスチナ大統領 のヤーセル・アラファート が死去。マフムード・アッバース が2代目大統領に選出される。
2012年 11月29日 、国連総会 においてパレスチナ を「オブザーバー組織」から「オブザーバー国家」に格上げする決議案が賛成多数で承認され、国際連合では「国家」の扱いを受けることとなった[19] 。
日本との関係史
パレスチナ国 は国際連合 加盟国の7割以上に相当する138ヶ国から国家承認を受けているものの[20] 、アメリカ合衆国 やフランス 、イギリス といった西側諸国 のほとんどは主権国家としてのパレスチナ を承認せず一貫してイスラエル の立場に立っている。日本もこれに追随しパレスチナ国 を未承認の状態が続いている。一方で1974年 にパレスチナ解放機構 が国際連合 のオブザーバー組織 となったことを契機として自治政府 との実務上の外交関係は構築されており、1977年 にはPLO東京事務所 が開設された[3] 。
1981年 10月、ヤーセル・アラファート (アラファト)が初めて日本を訪問した[21] 。独立宣言 の翌年にあたる1989年 にはヤーセル・アラファートが再度日本を訪れ、それに伴ってPLO東京事務所は駐日パレスチナ常駐総代表部 へと格上げされた[3] 。その後1995年 には資金難を理由に代表部は閉鎖されるものの2003年 には再開している。一方で日本 は自治政府 が発足してから間もなくの1998年 、ガザ地区 に在ガザ出張駐在官事務所 (日本政府代表事務所)を開設した。これは2007年 、パレスチナ の事実上の首都 として機能しているラマッラー に移転されている[3] 。
外交
パレスチナの国家承認状況 パレスチナ 承認 未承認
パレスチナのオブザーバー国家格上げ決議の投票結果 賛成 反対 棄権 欠席 非会員
2019年、安倍晋三とアッバース大統領の会談の様子
2019年、安倍晋三とアッバース大統領の会談の様子
二国間関係
上述の通り日本 は一貫してイスラエル を国家承認し、パレスチナ を未承認としている。しかし日本政府 はイスラエル とパレスチナ の二国間による平和的解決を支持し、また将来の国家承認および正式な外交関係樹立を予定した国家に準ずる自治地域としてパレスチナ を扱っている[3] 。そのため一定の友好関係が築けている。
国際連合総会 においては、2012年 のパレスチナのオブザーバー国家格上げ決議 (英語版 ) で日本 はフランス やイタリア とともに賛成票を投じた[22] 。2015年 の国連建造物の前にパレスチナ国旗 を掲揚することを認める決議案でもアメリカ合衆国 やカナダ が反対、イギリス や欧州連合加盟国 など西側諸国 を中心とした45か国が棄権するなか、日本 はG7 で唯一賛成票を投じている。賛成票を投じたのは日本 を含む119か国で、結果国旗掲揚は認められた[23] 。またトランプ政権 がエルサレムをイスラエルの首都と認定した問題 についても、日本 はアメリカ に対しその方針を撤回するよう促す決議案に賛成票を投じている[24] 。また国際連合安全保障理事会 においては、パレスチナを国際連合の正式な加盟国と勧告する決議案が2024年4月18日に採決された際には非常任理事国であった日本は賛成しており(決議そのものはアメリカ合衆国の拒否権行使により否決された)[25] 、これを受けて国連総会にて安保理に対する再考の促しとパレスチナに正式加盟の資格があることを認める決議案にも日本は賛成している[26] 。このように、日本は国際社会におけるパレスチナ の立場を比較的尊重している。
また日本政府 はパレスチナ日本代表事務所長を「大使」という名称を用いて外交活動を展開している。日本 が国家承認していない地域において外交官 に「大使」の呼称を用いるのは異例である[3] 。
呼称については日本 はパレスチナ を独立国として承認していないため国名「パレスチナ国 」ではなく、統治機構「パレスチナ自治政府 」が公的には使用される[3] 。
多国間関係
日本 ・パレスチナ を含む重要な多国間の枠組みとしては、日本 ・イスラエル ・ヨルダン そしてパレスチナ の四者による地域協力「平和と繁栄の回廊 」が存在する。これは2006年 当時総理大臣 であった小泉純一郎 がパレスチナ を訪問した際に日本 から提唱されたもので[27] [28] 、ヨルダン渓谷 を経済的・社会的な開発を進めるとともに、パレスチナ の国家としての自立を目指すものである[29] 。現在までに六度の四者協議が開かれた[30] [31] [32] [33] [34] [35] 。ジェリコ市 郊外に農産加工団地を建設する計画はこの構想の旗艦事業で、建設開始以降多くの日本要人がここを視察している[36] 。
また日本 は2013年 、先進国 や新興国 の集まる東アジア におけるリソースや経済発展の知見を動員しパレスチナ の国づくりや経済発展、平和実現を支援すべく「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合 (CEAPAD)」を立ち上げている[37] 。これは主導国である日本 と支援対象国であるパレスチナ ほか、韓国 、中国 、インドネシア 、シンガポール 、タイ 、マレーシア 、ベトナム 、フィリピン 、ブルネイ などが参加する会合で、閣僚級会合が三度(第一回が東京 、第二回がジャカルタ 、第三回がバンコク )[38] [39] [40] 、高級実務者会合が二度開催されている[41] [42] 。
日本要人のパレスチナ訪問
日本 はイスラエル を承認しつつもパレスチナ の国家建設を容認し、イスラエル とパレスチナ の二者間による平和的解決を支持する立場にある。そのことからパレスチナ とは友好的関係を築けており、加えて中東情勢は日本 にとっても重要事項であるため、総理大臣 や外務大臣 といった日本要人のパレスチナ訪問は多い。近年のものとしては以下がある[3] 。
2015年 1月 には当時総理大臣 の安倍晋三 が初めてパレスチナ を訪問[43] 。パレスチナ大統領 のマフムード・アッバース と会談し、テロ問題 などについて意見交換を実施し日・パレスチナ間の信頼関係醸成に寄与した[44] [45] 。また安倍晋三 はパレスチナ の新聞 アル=アイヤーム (英語版 ) のインタビュー で、パレスチナの国家建設を支持しイスラエル に入植を停止するよう促している[46] 。
2016年 9月 には薗浦健太郎 外務副大臣 がパレスチナ を訪問しラーミー・ハムダッラー 首相へ表敬し、財務大臣のシュクリ・ビシャーラ (アラビア語版 ) とは会談を実施[47] 、「平和と繁栄の回廊」の四者会談にも出席した[34] 。また2017年 11月 には総理大臣補佐官 としてパレスチナ問題 の当事者国であるパレスチナ 、イスラエル 、ヨルダン を訪問している[48] 。
2017年 5月 には経済産業大臣 として初めて世耕弘成 がイスラエル とならんでパレスチナ を訪問し、ジェリコ農産加工団地(JAIP)を視察。日・パレスチナ間の経済関係を強化した[49] 。
2017年 12月 には河野太郎 外務大臣 がパレスチナ を初訪問[50] 。パレスチナ大統領 のマフムード・アッバース を表敬し[51] 、パレスチナ首相 のラーミー・ハムダッラー 主催の昼食会にも参加した[52] 。また河野太郎 は2017年 にエジプト で[53] 、2018年 6月 にタイ で[54] 、2018年 9月 にイタリア ・ローマ でいずれもリアード・アル・マーリキー (英語版 ) と外相会談を実施[55] 。電話会談も2017年 8月 に実施されており[56] 、河野太郎 はパレスチナ やイスラエル を中心とする中東情勢を重視する姿勢を見せている[57] 。
2018年 5月 には当時総理大臣 だった安倍晋三 がパレスチナ を含む中東諸国 を訪問した[58] 。安倍晋三 のパレスチナ 訪問は二度目で、マフムード・アッバース との首脳会談 ではパレスチナ問題 や中東和平についてが話し合われ[59] 、また「平和と繁栄の回廊」構想の旗艦事業である「ジェリコ農産加工団地(JAIP)」の視察も行われた[60] 。
2019年 12月 、外務副大臣 の鈴木馨祐 がパレスチナ を訪問し、「ジェリコ農産加工団地(JAIP)」を視察した[61] 。
2021年 8月 、外務大臣 の茂木敏充 がパレスチナ を含む中東諸国 を訪問[62] 。パレスチナ外務庁長官のリアード・アル・マーリキー (英語版 ) と外相会談を実施したほか[63] 、パレスチナ首相のムハンマド・シュタイン (英語版 ) との会談[64] 、パレスチナ大統領 のマフムード・アッバース への表敬も実施した[65] 。また日本 が推進する「平和と繁栄の回廊」構想の旗艦事業である「ジェリコ農産加工団地(JAIP)」に建設されたパレスチナ・ビジネス繁栄センターの開所式にも出席した[66] 。
パレスチナ要人の訪日
パレスチナ にとって日本 は主要な援助国であり、正式な国交は結ばれていないながら大統領、首相、各長官といった要人がたびたび訪日を実施している。近年の主要なものは以下の通り[3] 。
2012年 4月 、マフムード・アッバース がパレスチナ大統領 として三度目の訪日を実施[67] 。当時総理大臣 の野田佳彦 と会談を実施して一年前の東日本大震災 についてお見舞いと意見交換が実施された[68] 。
2013年 2月 にはパレスチナ首相 のサラーム・ファイヤード が訪日を実施し、安倍晋三 との首脳会談を実施して「平和と繁栄の回廊」構想について意見交換が実施された[69] 。
2015年 2月 、パレスチナ外務庁長官のリヤード・アル=マーリキー (英語版 ) が訪日を実施[70] 。当時外務大臣 だった岸田文雄 と外相会談を実施してパレスチナ支援について意見交換した[71] 。
2016年 2月 にはパレスチナ財務・計画庁長官のシュクリ・ビシャーラ (アラビア語版 ) が東アジア協力促進会合(CEAPAD)のために訪日し、山田美樹 外務大臣政務官 と会談を実施[72] 。またほぼ同時期には大統領のマフムード・アッバース が親善関係深化のため訪日し[73] 、当時天皇 だった明仁 と初めての懇談を実施している[74] 。
2017年 4月 、パレスチナ経済庁長官アビール・オウデ (英語版 ) が訪日し、外務大臣政務官 の滝沢求 を表敬[75] 。
2019年 7月 にはパレスチナ観光・遺跡庁長官のルーラ・マアーヤ が訪日を実施。河野太郎 と会談を行って、平和と繁栄の回廊の主要事業の一つでありパレスチナの観光産業の振興を目指す「観光回廊」について意見交換などを行った[76] 。
2019年 10月 、即位礼正殿の儀 に参列するためマフムード・アッバース が訪日を実施し、それに伴って安倍晋三 との会談も実施された[77] 。
経済関係
2020年 のパレスチナ の対日貿易は輸入額3億5479万円、輸出額4499万円となっている。対日輸入の主要品目は医療機器 や建設機械 などで、対日輸出の主要品目はオリーブオイル や石鹸 など。日本が正式な国交を結んでいない国としては、台湾 に次いで盛んな貿易が行われている[3] 。
日本は主要なパレスチナ支援国であり、経済や社会の自立化を促進することで平和を構築するべく様々な事業が実施されている。例としては「平和と繁栄の回廊 」構想やパレスチナ開発のための東アジア協力促進会合 (CEAPAD)といったパレスチナ支援を目的とする多国間の枠組みを立ち上げたほか、平和構築やインフラ支援のためのODA および食糧支援も多数実施されている[78] [79] 。近年のものは以下が挙げられる
「理数科教育質の改善プロジェクト (2019年3月‐2022年8月)」‐技術協力。理数科教員が効果的な生徒中心型授業を行えるよう知見・技術を支援[80] 。
「ジェニン市水道事業実施能力強化プロジェクト (2017年9月‐2021年9月)」‐技術協力。無収水(水道料金の請求対象にならない水)の比率削減に向けた事業運営計画の策定と水道料金徴収にかかる能力強化を支援[81] 。
「難民キャンプ改善プロジェクト (2016年12月‐2019年12月)」‐技術協力。難民キャンプ改善計画(CIP)を作るためのマニュアルを作り、研修・ワークショップなどを実施[82] 。
「難民キャンプ改善プロジェクトフェーズ2 (2020年9月‐2024年9月)」‐技術協力。前計画に引き続きヨルダン川西岸地区の3キャンプにおいて、住民のニーズに基づくキャンプ改善計画(CIP)を策定するとともに、同計画の実施メカニズムを構築[83] 。
「産業振興プロジェクト (2019年3月‐2022年3月)」‐技術協力。「平和と繁栄の回廊」の旗艦事業であるジェリコ農産加工団地に関する法的な枠組みの見直し、JAIPの開発・運営事業者によるビジネスプランの見直しと実施の促進、零細中小企業向けのビジネス・アドバイザリー・サービス制度の整備を支援[84] 。
「市場志向型農業のための農業普及改善プロジェクト (2016年7月‐2021年7月)」‐技術協力。パレスチナ農業庁、県農業局関係者の普及実施体制・能力強化及び「EVAP 普及パッケージ」の改良を通じて、効果的な農業普及活動の実践を支援[85] 。
「教育の質及び環境改善のための学校建設計画 (2020年10月、24.64億円)」‐無償資金協力。パレスチナのヨルダン川西岸地区及びガザ地区において、就学前教室を含む初等・中等学校の建設及び教育機材の整備を実施することにより、初等・中等教育における学習環境の改善を図り、教育の質の向上に寄与[86] [87] 。
「医療機材整備計画 (2020年2月、19.55億円)」‐無償資金協力。ヨルダン川西岸地区(1病院)及びガザ地区(3病院)の4拠点病院において、循環器疾患や癌等の非感染性疾患の診療用医療機材を整備[88] [89] 。
「ジェリコ・ヒシャム宮殿遺跡大浴場保護シェルター建設及び展示計画 (2016年9月、12.35億円)」‐無償資金協力。パレスチナのジェリコ にあるヒシャム宮殿遺跡は、ウマイヤ朝 時代(8世紀 )の初期イスラム建築 の代表的な文化遺産 で、単体では中東最大の大浴場のモザイク床が存在する。この協力では、大浴場モザイク床の保護、展示施設の整備を支援[90] [91] 。
「廃棄物管理に関する収集及び運搬の改善計画 (2019年2月、17.85億円)」‐無償資金協力。14か所の広域行政組合に対し、収集・運搬機材を整備することにより、廃棄物管理サービスの拡大を図る[92] [93] 。
文化交流
2016年 には平和構築事業の一環としてイスラエル・パレスチナ青少年計8名が揃って日本を訪問。日本の文化に触れるとともに安倍晋三 にも表敬訪問している[94] 。
2018年 にはパレスチナのラマッラー で文化交流イベントが開かれ、日本からはロックバンド 「LUNA SEA 」や「X JAPAN 」のギタリストSUGIZO が参加した[95] 。
2018年 には日本とパレスチナの人々の相互理解と友好親善を深め、文化、スポーツ、学術、経済、技術、市民交流等の分野における交流と協力を進める活動を行うことを目的として日本パレスチナ友好協会 が設立された[96] 。
外交使節
在パレスチナ日本大使館
国交が成立していないためイスラエルの領事事務所 としての在ラマッラ領事事務所 が事実上の大使館 (英語版 ) の機能を有している。
駐日大使館
国交が成立していないため、日本国内にパレスチナの大使館は設置されていない。ただし常駐総代表部が設置されており、それが事実上の大使館 (英語版 ) の機能を有している。
脚注
注釈
出典
関連文献
関連項目
外部リンク
アジア
東アジア 東南アジア 南アジア 中央アジア コーカサス 中東
アフリカ アメリカ オセアニア ヨーロッパ
領土なし 多国間 歴史上 領土紛争
関連項目
二国間関係の各項目内は五十音順。
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