公営バス(こうえいバス、英語:public bus)は、地方自治体が経営するバスである。公営交通の一つ。
都営・県営バス、市営バス(平成の大合併により生じた新市を除く)のような大規模事業者の場合は公営企業管理者を置き、その下に管轄部局(つまり交通局・交通部など)を配して経営する形態を取っている。
一般社団法人公営交通事業協会の会員であるのはこういった事業者であり、労働者側も全日本自治団体労働組合(自治労)に加盟し、その中で都市公共交通評議会を結成している。
これに対し、町村および平成の大合併による新市の場合、規模が小さいため管理者を置かず、首長が直接経営する方式をとっているところが多い(地方公営企業法では職員数200人未満または車両数150両未満)。
また、複数自治体による一部事務組合が公営企業法を適用されたケース、つまり企業団による経営も存在する。
地方公営企業であるため、収支は一般会計から切り離され、企業会計(独立採算)によって処理される。
道路運送法第80条に「自家用自動車は、有償で運送の用に供してはならない。ただし、災害のため緊急を要するとき、又は公共の福祉を確保するためやむを得ない場合であつて国土交通大臣の許可を受けたときは、この限りでない。」とある。この但し書きの規定に準拠して運行されるものを自主運行バス(または「80条バス」)という。その大半を自治体が運営している。
また自治体が貸切バスを借り、それを路線バスとして運行する貸切代替バス(いわゆる「21条バス」)も、同様に多数存在していた。
このほか、自治体主体で運営するバスにコミュニティバスがあり大半は自治体が民営会社に運行委託する形態をとっている。
これらのバス事業の収支は行政サービスの一種として地方公共団体の一般会計で処理される。故に、従来の地方公営企業法に準拠する「公営バス」とは別個のものとして扱われる。
なお、80条バスと21条バスについては廃止代替バスを、コミュニティバスについてはそちらを参照。
近年、公営バスの経営悪化が取りざたされている。背景には大都市では新規地下鉄路線の開業による利用者の移行や交通渋滞による定時運行の困難、地方都市ではモータリゼーション(自家用車利用)の拡大により利用者が減少しており、2000年以降、この改善の動きが加速している。
まず、事業を管理委託するケースが増えている。これは車両・施設・路線などは自治体保有のまま、運営だけを他者に委託するものである。従って、車両や施設などの外見はそれまでの公営バスと変わらないが、働く人(運転手など)は公務員でないということになる。
先鞭をつけたのが京都市交通局である。従来から一部路線の民間移管が行われていたが、2000年3月に横大路営業所の一部路線を阪急バスに管理委託したのを皮切りに、京阪バス、近鉄バス、京都バス、エムケイの各社に委託路線を順次拡大、現在では市営バスの約半数がこの形態となっている。
一方で、大阪市交通局は管理部局の外郭団体をバス運行事業者にした上で、路線の管理委託をする方法を2002年に開始し、神戸市交通局、尼崎市交通局などでも同様のケースが生じている。これは、民間事業者での子会社移管・管理委託に近いケースといえる。
なお、現在ではこれらの事業者も民間事業者に対しても管理委託が行われており、例えば大阪市交通局は南海バスに、神戸市交通局は阪急バスおよび神姫バスにそれぞれ一部営業所を管理委託している。
東京都交通局の場合、2003年から一部営業所の運行をはとバスに委託している。はとバスは都内の定期観光バスや首都圏の大手貸切事業者として有名だが、東京都は同社創業以来の大口出資者でもある。上記2例の中間であるといえよう。
現在、管理委託を行っている公営バス事業者は次のとおりである。(事業者名、管理委託開始年月日、委託先事業者名)
従来から、地下鉄の開業に伴うドル箱路線喪失に対する経営保障や競合路線の整理といった形で民間への路線移管が行われたケースはあった。しかし特に2000年以降は縮小均衡を図ることが主目的に変化しており、前述の一部路線の管理委託から一歩踏み込んで、路線そのものを民間に移管して公営バス事業から全面的に撤退するケースも増えている。
しかし、受け入れる民間事業者にも路線と車両(中古なので安価)だけ譲受する場合は出費は少なくて済むものの、路線規模が大きくなると営業所用地の買取に多額の出費が伴うことや、職員(嘱託・非常勤)を積極的に採用することが必要とされるため、譲渡先の民間事業者の支出が増加してしまい、経営基盤の低い民間事業者は譲受出来なくなり、民間移管が進まなくなる。このため、移管元の自治体から補助金を受けたり、日本政策投資銀行の公営企業民営化支援融資を受けたりして、民間への移管を進めるケースもある。このほか、函館バスのように民間移管に際して自治体が民間事業者に出資する例、受け皿会社を設立して移管する例(熊本都市バスなど)もある。 2000年以降に一部、または全部の路線で民間事業者への移管が実施されたのは以下のとおりである。 以下で※印(※印が付いていないものも含む)は移管された事業者の会社名である。
(以下、移管元事業者名:移管先事業者名)
このうち、札幌市、苫小牧市、函館市、秋田市、岐阜市、大阪市、尼崎市、明石市、姫路市、三原市、呉市、鳴門市、小松島市、熊本市、荒尾市、佐世保市は全路線の移管が実施された(※印の事業者)。
町村営については従来から80条バス化のケースがあったほか、「平成の大合併」の影響を受けて事業主体が変更されるケースが発生している。
「平成の大合併」により合併後の自治体に事業が引き継がれたのは以下の事業者である。ただし、移管後にコミュニティバスバスや民間事業者に移管されたケースも少なくない。
一方、合併協議の中で廃止が決定したケースもあり、これは以下の事業者である。
2023年4月1日現在、下記の自治体で公営バスが運行されている。(括弧内は管轄部局名称)
東京市と東京府が合併した東京都の場合、主に旧東京市域の市内路線を運行している。これに対し観光輸送を目的に設立した長崎県は県内外の中長距離路線を多数保有(本州方面への路線を運行していたこともあった)し、貸切バス事業の規模も大きく(県下最大 福岡県にも営業所を設置)するなど性格は大きく異なる。
交通専門の部局が存在する(した)ものに限る
下記はバス事業を廃止、もしくは地方公共団体自体の解散により消滅した公営バス事業者の一覧。(括弧内は廃止時の部局名)
ただし下記に示す地方公共団体でも地方公営企業以外の市町村営バス(コミュニティバス・自家用有償旅客運送・廃止代替バス)を運行している例はあるが、これは目的や法律上の位置づけが異なるため、公営バスとしては扱われない。
フランスには3万以上の「コミューン」と呼ばれる基礎自治体が存在するが、その約9割が2,000人以下の規模であるなど、交通など広域の行政事務を担うには規模や非効率性の問題が存在するといわれている[4]。そのため、コミューン共同体や都市圏共同体、大都市共同体、混成事務組合など広域行政組織制度がある[4]。多くの広域行政組織は都市交通圏(Périmètrede Transport Urbain: PTU)の母体となっており都市圏交通局が設けられている[4]。
フランスの都市交通では上下分離の原則がとられ、「下」の部分のインフラ設備や車両の調達・維持管理は都市圏交通局が行い、「上」の部分の運営は都市圏交通局が直接行うこともあるが、多くの場合は都市圏交通局が選定した民間企業に委託されている[4]。2010年時点のフランスにおける都市交通の運営事業者は民営企業が75.9%、公共部門が資本の半分以上の第三セクターが12.8%、公営が11.2%である[4]。
イングランドでは1985年交通法で国有バス会社の分割・売却・民営化及び地方自治体所有会社への移譲などが進められ、ロンドン以外の地域においてバス路線の運行が免許制から登録制に変更され、バス事業者の路線への参入・撤退が自由化された[4]。