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「侮辱 」はこの項目へ転送 されています。日本における侮辱罪については「侮辱罪 」をご覧ください。
侮蔑 (ぶべつ、英語 : Insult )は、他者を侮り、蔑み、馬鹿にしたり[1] 、罵ったり[1] 、ないがしろにすること。侮蔑に使われる語句を侮蔑語という[2] 。侮蔑は、言葉や態度に現れるものに限らず、「彼の表現には侮蔑の意図があったのか」などの用法に見られるように、侮蔑感情を含めて考察・記述されなければならない。
意義
侮蔑の類義語や現象形態は多数あり、侮蔑の類義語としては、悪態、悪口、罵倒、卑罵、憎まれ口、雑言、そしり、ののしり、皮肉、あだ名、侮辱語、蔑視語、毒舌、罵詈、罵倒、揶揄、非難、皮肉、風刺、陰口 などがある[3] 。
学術研究では卑罵表現 という言葉も用いられる[3] [4] 。
浜田1989[誰? ] は、言語行動としての罵りを「対象の持つマイナス面に言及するか、あるいは、マイナスの評価を付し、対象を攻撃する言語行動」と定義している[3] 。
金田一春彦 は「日本語百科大事典」で「喧嘩、口論、もしくは制裁などの場で、悪行を暴露して非難を浴びせ、あるいは弱点を指摘して畏縮させるなど、相手をおとしめ、自己の優位を確立しようとする攻撃的ないいまわし」として、悪口、悪態、皮肉、あてつけ、あてこすり、厭味、陰口、諷刺などを列挙した[3] 。
他方で、堀内1978[誰? ] は、「罵倒には敵意や悪意のあるものと、親しみを裏返しに表すものがある」と指摘している[3] 。
敵対というより一歩距離をおいて哀れんで見下げている場合は軽蔑 と呼ばれることが多い。軽蔑の意図が薄く敵対的意図が強い場合は侮辱 と呼ばれることが多い。風刺 の意図が強い場合揶揄 とも呼ばれる。
強い侮蔑を罵詈(ばり)といい、罵詈雑言 (ばりぞうごん)を浴びせるなどと表現があり[5] 、侮蔑よりも誹謗中傷 の意が強まる。場合によっては暴言 と見なされたりする。
侮蔑対象のいないところで侮蔑する場合、陰口 、かげごと と呼ばれる[5] 。
侮蔑に使われる言葉(侮蔑語)
侮蔑や人種差別 に使われる語を侮蔑語、蔑視語、憎悪語、不快語 [2] 、罵語、悪態語 という。
中国語では「罵人話」「下流話」、罵詈語、罵詈、罵話などと表わす[3] 。
英語ではpejorative [7] またはスラー (slur)[8] (陰でこそこそと言う中傷の意味)と言う[2] 。ロシア語圏ではマット (mat) という罵倒語がある[9] 。
侮蔑語はしばしば公の場所からは排除され、俗語 となっている。
また、卑語 (Swear Words) 、卑罵語 (profanity) などもあり、卑罵語は宗教的な冒涜 語としても使用される。
特定の人物や、特定の特徴をもつ人や物事を蔑んで(馬鹿にして、見下して)呼ぶ言葉、特に正式名称のある場合の別名を蔑称 (べっしょう)といい、英語では差別的な蔑称をネーム・スラー (name slur) 、また人種差別的な蔑称はエスニック・スラー (ethnic slur) という[2] 。
代表的な日本の侮蔑語に馬鹿 ・阿呆 ・間抜け、古語の「たわけ」などがある。英語 ではビッチ (bitch) 、マザーファッカー (motherfucker)〔臆病者〕、アスホール (asshole) など、韓国語 ではセッキ (새끼 、ガキ)、ケーセッキ (개새끼 、犬ころ)、シッパル (씨팔 、性器)などの侮蔑語彙がある。
法と侮蔑
日本の刑法 では、侮辱罪 、名誉毀損罪 などで規定されている。言語による侮辱表現は悪口 とも呼ばれ、古くは武家法 や御成敗式目 第12条などで犯罪とされた[10] 。
ロシア 、ソ連 では罵倒語(マット)への検閲は厳しく、小説 や学術研究も禁止されて、使用した場合は名誉毀損罪に問われた[9] 。ロシア刑法では「屈辱的な発言」が使用した場合を禁止し、インターネット でも禁止されている[9] 。
ロシアでは、信者の感情を侮辱する(ロシア連邦刑法の148)、裁判官を侮辱する(ロシア連邦の刑法の297)、当局の代表者(ロシア連邦の刑法の319)および公務を遂行する軍人(ロシア連邦刑法336)、残りは2012年12月8日からの行政犯罪(ロシア連邦行政犯罪法第5.61条)(45項を参照) 2011年12月7日の連邦法第1条のN420-FZ「ロシア連邦の刑法およびロシア連邦の特定の立法法の改正について」)。
宗教と侮蔑
日本では、神道 や仏教 に関連した「穢れ 」という概念があり、宗教的・精神的な意味で嫌悪を表現する場合、「けがらわしい 」(汚らわしい、穢らわしい)という表現が使われる場合がある。
侮蔑、卑罵表現は反社会的に、タブー とされていることを破るのではないかともいわれる[3] 。
キリスト教 圏などで侮蔑する場合は罪 の概念を用いることが多い。
宗教戦争 では相手の宗教を冒涜 し、罵倒することが行われる。
ロシア正教 では罵倒語(マット)の根絶を目指している[9] 。
社会における侮蔑
卑罵表現の機能
二重機能
李紋瑜によれば、卑罵表現は直接(顕在)的機能、間接(潜在)的機能の二重機能があるとされる[3] 。直接(顕在)的機能では、敵意、憎悪、嫌悪などの感情を直接表出し、カタルシス を得る[3] 。間接(潜在)的機能では親愛の表出がある[3] 。例えば、親しいものに「アホ」と呼ぶことなど。このように、卑罵表現は人間を互いに敵対させる機能がある一方で、連帯や愛を生む面もあるとされる[3] 。
また、ロシア での罵倒語研究では、V・ジェルビスが『罵倒の戦場 社会問題としての悪態』(2001年) において、儀礼、抑圧、悪態の三項から説明し、抑圧された気持ちが表現されたものとした[9] 。またモキエンコは「悪態をつく人は昔ながらの伝統的な方法で自分のロシア的な心を吐いて、人生、人々、そして政府に対する不満を表している」とのべた[9] 。
冗談関係における卑罵表現
世界各地でみられる冗談 をいいあう冗談関係 においては、卑罵表現が使われ、どのような悪態でからかわれても、それに腹をたてないものとされる[11] [12] 。
北部カメルーン のフルベ族 とカヌリ族は冗談関係にあるが、通常の冗談だけでなく、悪態、罵倒などもふくみ、「こいつはわたしの奴隷」「無用者」「犬の子」「ハイエナの化け物」「偽善者」「目も見えないくせに」といった言葉も使われ、さらには殴ったり、たたいたり、盗み、服を破ることなどの儀礼的な暴力もおこなわれる[11] 。
また、ポライトネス理論によれば、同じ言語行動でも、相手との関係によって言語行動の心地よさは変化していくので、攻撃的な冗談であっても許容される[12] 。普通の友人であれば侮辱と取られる行動も、親友であれば互いに楽しみうる冗談とみなされる[12] 。
葉山大地、櫻井茂男によれば、「冗談関係の認知」という関係スキーマ(相互の関係についての知識の枠組み)によって、こうした冗談関係は変化していく[12] 。
差別と侮蔑
侮蔑は差別 、いじめ 、家庭内暴力 においても行われる。
社会的立場が弱い人に対する差別 に使われる蔑称や侮蔑語は差別用語 や放送問題用語 ・放送禁止用語 とされ、公の場所での使用が禁止されたり、排除の対象になることがある。しかし、差別語の排除が過剰である場合、言葉狩り として批判されることもある。社会的立場が平均的ないし強い人に対して使われる蔑称は揶揄 として取り扱われる場合が多い。近年は差別的な侮蔑発言をヘイトスピーチ (憎悪表現)として制限する動きがある。
コミュニケーションの暴力
社会学 者の中村正は、家族 などの親密な関係における暴力 には「心理的、言語的、感情的な暴力」やネグレクト 行為などがあり、これらは「個人の尊厳を傷つけるようにした卑下、降格、侮蔑、罵倒、無視、つまりコミュニケーションの暴力としてある。人の尊厳を傷つけるような儀式のようにして機能するいじめ 、罵り、辱め行為がある」と指摘し、侮蔑、罵倒、卑下といった行為を「コミュニケーションの暴力」として論じた[13] 。
動物行動学、人間行動学から見た侮蔑
ダーウィン は『人及び動物の表情について』において軽蔑・侮蔑は嫌悪 の感情、味覚 や嗅覚 との連合があるとしている[14] 。
また、動物行動学 と人間行動学 者のデズモンド・モリス によれば、言語行動は不適切な状況、時と場所で行われると侮蔑表現になりうると指摘している[15] 。
侮蔑表現の言語的特徴
セマンティック・チェンジ
侮蔑語、侮辱語と捉えるか否かは所属する社会集団 によって変化する。例えばハッカー はマスメディアなどで報じられることにより一般社会ではコンピュータ を破壊する者、コンピュータ社会の秩序の乱す者を指す言葉として用いられるため侮辱語といえるが、元のハッカー・コミュニティー内部ではコンピュータのエキスパートという捉え方をするため決して侮辱語ではない(コンピュータ社会の秩序紊乱者を表す侮蔑語としてクラッカー と使い分けをしている)。また逆に、ある社会集団では侮蔑語であったものが、別の社会集団に取り入れられる、もしくは社会集団を超えて広く一般社会全体で使用されるようになると侮蔑語ではなくなる場合もある(例: 元は「チンピラ」を意味する「パンク 」)[16] 。この現象は言語学 における意味変化 (意味変質、セマンティック・チェンジ)の一つである。
同音異義語
日本語では、漢字 を輸入した際に同音異義語 が多く生じたが、文字 表記においてこの特性を生かし、ダブルミーニングによる同音異義語・語呂合わせ が蔑称としてよく用いられている。古くは奈良時代 や平安時代 に和歌 や落首 で、掛詞 という修辞技法を侮辱に応用したものがある。江戸時代 のものは多く記録に残っており、最も代表的なものは鳥居耀蔵 甲斐 守の耀甲斐と妖怪をかけたものがある。現代では新聞 の一コマ漫画 などの風刺 やインターネットスラング で多く用いられる。
風刺的綴り違い
英語ではスペル入れ替えや、同じ発音でも単語の境目を変える、などの方法で同音異義語の侮辱や風刺を行うことがあり、風刺的スペル違い (風刺的綴り違い、英語Satiric misspelling)という。
長い単語の中の一部分を切り出すと別の単語になる場合 (Hidden puns)。無能な大統領 に対しpResident(Resident=ただの住人)と揶揄したり、愛国者法 はpatRiot Act(Riot Act=暴力 法)にすぎないと批判したり、セラピスト をthe/rapistと表記し(セラピストは強姦 犯)と皮肉る、というように使われる。
アルファベット の一部を見た目が似た記号 に置き換えることがある。最も典型的なものは、対象が金 に汚いという意味を込めて、S→$ 、E→€ 、L→£ 、Y→¥ など通貨記号 で置き換えるもので、マイクロソフト 社 (Microsoft,MS) をMicro$oftないしM$と表記する例は世界中で用いられる。日本国内で見られるものとしては日本音楽著作権協会 (JASRAC) をJA$RA¢などと表記する例がある。
黒人差別 などの人種差別 への批判として、CやKをKKK に置き換える場合がある。具体的には、アパルトヘイト 時代の南アフリカ共和国 に対するSouth Afrikkkaという表記例などがある。現在のアメリカ合衆国 についても、Amerikkkaとの表記が使われる。
接辞の付加
日本語での侮蔑呼称には、罵倒を示す接辞 をつけて表現するものがある[17] 。罵倒を示す接辞 には、「くそ…」「…すけ」「くされ…」などがある[17] 。前置される「糞」「腐れ」などは、排泄 や腐敗を意味し、ネガティブな意味を付加する。
侮辱語の前に接頭語 として「ど」または「どん」をつける事によって侮辱の意味を強めることがある。ど下手 、ど田舎 、どん百姓 など。ほか、「二級」「下等」「三流」「平」などの接頭辞を付けて、程度や価値が低いことを表現したり(二級国家 、下等人種 、三流商社 、平社員 など)、「万年」を付けて、いつまでも地位や技能が向上しないことを表現することもある(万年係長 、万年補欠 、万年バイエル [注 1] 、万年ヒラ など)。技術が劣ることを意味する下手 を下手糞 、下手っぴ と接尾辞を加えることもある。
ロシア語圏では、男性性器(フイ)、女性性器(ピズダ)、性交(イェバチ)を表す単語に接頭辞 や接尾辞 をつけたマットという罵倒語が作られ、悪態、侮蔑が行われる[9] 。たとえば、性交(イェバチ)に接頭辞ポドを付加した「ポドイェバチ」は「からかう」という意味になる[9] 。罵倒語マットは、動詞 、名詞 、形容詞 、副詞 、感嘆詞 など多くの品詞にわたって表現がなされる[9] 。
比喩による侮蔑
ゴミ ・クズ ・カス ・クソ・糞・ウンコ などは、それぞれ一般的に価値が低いとされるもので、それを他の人や物に対する代名詞として使うことで、それらへの侮蔑表現として通用する。日本語以外でもほぼ同様である。例えば、英語Shit (糞)は侮蔑的要素が強い卑語 である。
動物名に因んで、動物に喩えて、性格的特徴や身体的特徴を表現する侮蔑語がある[17] 。英語圏 (特に米国 )に於いては、ニワトリ (チキン )は臆病者を表し、相手をチキンと呼ぶことは臆病者とののしる意味がある。中南米 に於けるヤギ も同様である。
日本語では、野菜の名前が侮蔑表現として機能することがある。たとえば足が太い人に対しての大根 (もともと色白の足を褒める言葉だったが、後に太い足を侮辱する言葉になったとされる)・侮辱語の一つであるおたんこなす (「オタンコナス」で1つの言葉、江戸時代の花魁の符牒 で「お短小茄子(=小さな男性器 )」という侮辱から発生した、という説がある)・色白や細身の男へのモヤシ (っ子)[5] などがある。
存在を疎ましく感じる者、または見下すときに、有害なもの、病気を引き起こしたり汚染 や公害 の原因となるものに例えることがある。2003年、水戸家裁下妻支部での裁判 で、裁判官が「犬のうんこも肥料として使えるのに、暴走族 はリサイクルできない産業廃棄物 以下」という発言があった[18] 。
敬語と侮蔑語
敬語 と侮蔑語は対立関係にあるが、佐久間鼎 らは敬語研究は侮蔑表現も視野に入れる必要があるとした[3] 。
また、尊大語を用いたり、場面にそぐわない大げさな敬語を使うことで暗に相手を侮蔑することもある。
造語
俗語 、スラング としての侮蔑語のなかには新たに作られた造語 もある。漫画 やアニメ のファンを指す蔑称のオタク は、中森明夫 の造語である[19] 。しかし、アニメや漫画が日本の文化として一定の地位を築いている現在では「オタク」が蔑称としての用法は薄れつつある。
侮蔑表現の分類と種類
分類方法
侮蔑表現の分類は非常に難しいが重要な作業であると李紋瑜は指摘している[3] 。作家の筒井康隆 も悪口の分類は必要だが、とてもむずかしい、と指摘している[3] 。
筒井康隆の分類
筒井康隆 の分類では、動機による分類、目的 による分類があり、積極的悪口(面罵)と消極的悪口(陰口)などをあげている[3] 。また、形容詞の分類として、架空の動物(悪魔 、鬼 、魔女 、おばけ など)、人間 (野郎、デカ、チビ、小人など)、職業 (ピエロ 、坊主 、芸人 など)、身体 (老体、ミイラ 、太鼓腹、デブ、へっぴり腰など)、動物 (野獣、ゴリラ、猿、こうもりなど)、鳥、魚、虫 、植物 、鉱物 、加工品、自然現象、生死、病気 、精神障害 、身体障害 などの項目をあげている[3] 。
星野命の分類
星野命 は、品詞 別、文体 、文型 による分類をあげている[3] 。
品詞別分類[3] 。
名詞 :馬鹿、カバ、ブタ、雑魚、タコ
形容詞 :チビ、デブ、ケチ
形容名詞 :(お前のとうさん)ナナイロ出べそ
副詞 :むかつく、おちこぼれ、けっこうけだらけ
動詞 :死ね、くたばれ
形容動詞 :あまったれ、なめくさって
文体、文型による分類[3] 。
命令文:出て行け、くたばれ
否定文:ばかにするな、ひっこめ
多語文:馬鹿、あほ、ドジ、おたんこなすかぼちゃ
名詞止め:なんてへたくそ、こんちくしょう、さいてー
接頭辞をつけた動詞名詞:ぼろ学校、くそまじめ、おっ死ね、バカチョンカメラ
接尾辞をつけた表現:いっちまった、いきやがった
また星野命は、場面と対象による分類をあげている[3] 。場面は個人的につくもの、集団のなかで第三者を意識しながらつくもの。対象では自分自身、相手、その場にいないひと、相手集団などをあげている[3] 。
大石初太郎の分類
また大石初太郎 は、相手の人格への侮蔑、暴力誇示、返し言葉、捨て台詞、相手の行動への侮蔑、外見などをあげている[3] 。
堀内克明の分類
堀内克明 は、死、血、排泄物、のろい言葉、肛門と性器、親、あだ名、悪口ごっこなどをあげている[3] 。
李紋瑜の分類
李紋瑜の分類では、直接相手を対象としたものと直接相手を対象としないものをあげ、身体的欠陥、外観、動物の比喩、性格と行為、国民と人種、精神障害、年齢、職業、死と血、排泄物などをあげた[3] 。
また、李紋瑜によれば、アメリカの表現の特徴はキリストに関するもの、性行為、排泄物に関するものである[3] 。中国の表現の特徴は親、祖先に関するものである[3] 。李紋瑜は、これらの背景にはタブー文化の違いがあると指摘している[3] 。
職業や社会的地位に対する蔑称
社会的地位や職業に対する蔑称には、その属性そのものが侮蔑の対象となるものと、個人や職業を貶める目的で用いられるものに大別される。また、本来は蔑視の意図のない言葉でも、旧称を用いることで侮蔑と取られる場合もあるので注意が必要である。
特に本来「屋」がつかない名称の職業を「**屋」と呼ぶことがあり、特定の職業を安っぽく軽んじて呼ぶ場合と、私利私欲のために行っているとの非難を込めて呼ぶ場合がある。
「政治屋 」は政治家 の蔑称[20] で、特に金権政治 に対する揶揄として用いられる。英語でもstatesman(大政治家)と、その場かぎりの駆引きに終始するポリティシャンpolitician(政治屋)を区別されることがあるが、この区別自体が政治的、党派的、主観的であるともいわれる[21] 。「選挙屋 」は選挙活動家の蔑称。
「ブン屋 」は新聞記者 などに対する蔑称である[注 2] 。ほかにマスコミ の蔑称として「マスゴミ 」がある[22] 。また、週刊誌のトップニュースを仕事にしている記者をトップ屋 という[20] 。
このほか、診察や治療の質が低い医者を藪医者 (ヤブ医者 、筍医者[20] )、売れない役者を大根役者 (英語でHam actor)、歌舞伎 俳優 を河原乞食 [20] 、
タクシー運転手や運送業者に対する蔑称に雲助 (蜘蛛助)[20] 、弁護士 の蔑称に三百代言 [20] [注 3] 、公務員 を「木っ端役人」(中国では小官吏、胥吏[23] 、英語でa petty official[24] )、税金泥棒[25] 、パワーハラスメント などで使われる業績の低いサラリーマン に対する給料泥棒 [26] という蔑称などがある。戒律を守らない僧を生臭坊主とする表現もある[20] 。
欧米圏では、白人貧困層に対しホワイト・トラッシュという侮蔑表現がある。
特定の集団、嗜好に対する蔑称
ギャル
快活な女の子の意であるが、1990年代以降はどちらかというと尻軽女、または遊び癖のある女子の意へと変化していった。
ヤンキー
もとはアメリカ 東北部にすむ人、ないしアメリカ人全体の自称または他称であるが、日本では不良少年 ・不良青年・暴走族 の蔑称として用いられることが多い。
現在ではネット上を中心にDQN という単語もある。
地域に対する蔑称
「部落 」は元々集落を意味する単語だが、被差別地域に関する部落問題 において蔑称とされたことがある。
また、裏日本 は日本海 側の地方を指す地理学 用語であったが、蔑称とされることもある[27]
欧米圏では南部出身者に対して「レッドネック 」という侮蔑語がある。
人種や民族に対する蔑称
以下は人種差別 に関する代表的な語彙であり、ヘイトスピーチ とみなされ公共の場での発言は著しく忌み嫌われる。戦争中にはプロパガンダ で敵国を侮蔑する表現が多く使われる[2] 。
欧米
英語圏ではアフリカ系アメリカ人 に対する侮蔑語としてニガー 、ニグロ、カラードがある[2] 。また、ユダヤ人 に対する蔑称にジュー (Jew)、カイク (Kike)、Heebがある[2] 。日本人を指すJapがユダヤ人の金持ちのどら息子(Jewish American Prince) を指すこともある[2] 。ドイツ人への蔑称は「クラウツ (ザワークラウト から)」「ボッシュ [注 4] 」「フリッツ 」「フン (フン族 )」[2] があり、フランス人に対しては「サレンダーモンキー 」「フロッグ」[28] 、イタリア人 に対しては「ウォップ 」がある[2] 。北米 におけるヨーロッパ 人を指す蔑称にはユーロトラッシュ がある(トラッシュはゴミの意味)。ヒスパニック の蔑称としてグリースボール (Greaseball) またはグリーザー (Greaser) がある。またこれはイタリア 人やギリシャ 人の蔑称でもあり、主にアメリカ内で使用される。アラブ人 への蔑称はムハンマド 、その略称のモ (Mo) などがある[2] 。日本人 の蔑称としてはジャップ 、あるいはニップ 、「トージョー」がある[2] 。ただしこれはもともとはジャパニーズの省略形で蔑称ではなかった[2] 。ほか、日本人が経済的な利益ばかりを追い求める姿を皮肉った語としてエコノミックアニマル がある。中国人 への侮蔑語はチンク [29] 、韓国人・朝鮮人 の蔑称にはグック がある[30] 。
中南米
グリンゴ は主に中南米 でアメリカ人を蔑むときに用いられる。チン 、チャン 、チョン は、中南米 において東洋人 全般を蔑むときに用いられる。チーノ は、ラテン系言語で中国人 を意味する一般語彙であるが、中南米では中国人の蔑称として使用されている。
中国
中国語圏(中国 ・台湾 ・香港 ・シンガポール など)では日本・日本人への最大の蔑称として「日本鬼子 」(リーベンクイズ 日本軍 が“日本鬼 (リーベンクイ)”と呼ばれていた事から)がある[31] 。イギリス人に対して「英国鬼子」とも呼んだ[31] 。「美帝鬼子」はアメリカを指す。ほか「小日本 」(シャオリーベン)、「倭冦 」などがある[31] 。韓国・朝鮮人の蔑称として高麗棒子 がある[32] 。広東語 では黒人に対する侮蔑語として「黒鬼 」(ハッグワイ)がある。また、モンゴル人 が蒙古 は「無知で古臭い」という意味を持つ漢民族 による蔑称であると主張した[33] 。ロシア人に対する蔑称として「ホッキョクグマ 」がある。
韓国
韓国 ・北朝鮮 では「チョッパリ 」(쪽발이 、豚足 野郎の意。足袋を豚の蹄に見立てた表現)や「ウェノム 」(왜놈 、倭奴)[34] が使われる。
日本
日本語における欧米人に対する蔑称としては「毛唐 」(毛深い唐人が語源[35] )がある。
このほか、アメリカ人に対する蔑称としてアメ公 がある。戦争中の日本では「鬼畜英米 」が使われた[36] 。黒人 を「クロンボ (黒ん坊 )」[37] 、ロシア人に対するロスケ [37] といったものがある。
朝鮮民族 への蔑称としてチョン (チョン公・チョンコ )がある[38] 。戦前には「不逞鮮人 」などの使い方もあった。
中国人 への蔑称としては明治時代 の日清戦争 前後に出たチャンチャン坊主 、豚尾 (とんび)などがあり、1918年 ごろにはチャンコロ という侮蔑語が使われた[39] 。ほか兵隊シナ語 にポコペン などがある。このほか、太平洋戦争 後、蔣介石 が「支那 」を侮蔑語として使用禁止を申し出たが、英語Chinaと同源であるとする説もあり、蔑称かどうか日本国内で意見が分かれている。また、GHQ が朝鮮 、台湾 など日本の旧植民地 人を「Third Nations(敗戦国でも戦勝国でもないもない第3の国)」と呼んだことから生まれた呼称三国人 (第三国人)を蔑称とする主張もある。
近年では、韓国・北朝鮮・中国をひとまとめに表現する語として「特定アジア (特ア、特亜) 」がある[40] 。
特定個人・組織から派生した侮蔑表現
当時の有名人にちなんで蔑称が付けられる事もある。英語圏では覗き行為の代名詞 としてピーピング・トム 、日本では出歯亀 (池田亀太郎 が語源)などがあり、江戸時代の力士「成瀬川土左衛門 」の体格が水死体 のようであったことが語源とされる土左衛門 などがある[41] 。
立ち居振る舞いや身体的・精神的な変化をして侮蔑語が作られることもある。
人気女優の宮沢りえ が貴ノ花 (当時)との破局後、心労のため著しく体重が減少したことを女性週刊誌 がりえ痩せ と称し[注 5] 、これが他の女性有名人の激ヤセにも用いられた。
朝日新聞 上でコラムニスト の石原壮一郎 が、2007年 の安倍晋三 首相辞任表明から「仕事も責任も放り投げてしまいたい心情」を表す流行語 として「アベする」という言葉を取り上げた[42] 。しかし、当時インターネット検索しても件数が少なく流行語とは言えないのではないかとされた[43] 。そこでその記事を掲載した朝日新聞の「流行を捏造してまでも貶める行為」などに対して、アサヒる という言葉がつくられた(アサヒる問題 )[44] 。
動物に例える
犬(科)に関するもの
犬 は、誰かの忠実な従者であるような人、または他者の秘密をかぎつけようとする人間を蔑むときに、比喩的に用いられる蔑称である。
英語dogは「嫌なやつ、裏切り者、信用ならないやつ」という意味になる[45] 。他方で、親愛の情をこめて、お互いが自然児、悪だと認めた上で「裸のつきあい」における「同僚的な用法 (hearty use)」で使われることもある[45] 。また、物が対象であると、失敗作、商品価値がないという意味になり、複合語 では「偽物」という意味になる[45] 。また雌犬bitchは「いやな女、淫らな女」、猟犬houndは「卑劣漢」を意味する[45] 。
日本では警察官 を「権力の犬」とする表現もある[45] 。接頭辞 として犬が付加されると「無用の」という意味になり、「犬侍」「犬死」「犬医者(薮医者のこと)」などがあり、犬の接頭辞は有用性を示すとされる[45] [46] 。敗者や未婚者のことを意味する負け犬 という表現もある[47] 。他に「誰かについて回る」という意味では、スパイ 、探偵 に対しても使われる[45] 。罵倒表現としては「犬畜生」、臆病者を意味する「犬の遠吠え」という表現もある[45] 。犬のメタファー表現は「役に立たず、劣っていて、それでいて自分の利益のために権力者にすりよる臆病者」という意味を持つ[45] 。
聖書 でも犬に例えて罵倒表現をする発言が記録されており、詩編22-16ではダビデが敵を指して「犬どもが私を取り巻き、悪者どもの群れが、私を取り巻き、私の手足を引き裂きました」とある[45] 。
類似表現としてコバンザメ 、腰巾着 、寄生虫 と言う場合もある。
身体的特徴・風貌を指摘する
身体の著しい特徴が侮蔑の対象となることがある。障害者 に関連するものは差別 であり放送禁止用語 として使用されなくなっている。
家族(家族構成)に関する表現
本人を直接侮辱するのではなく、家族(特に母親)を侮辱することによって強い侮蔑の意を示すことがある。日本では「おまえの母ちゃんデベソ」が子供の喧嘩 の常套句とされる。
英語 ではマザーファッカー 、"you bastard"(私生児野郎)、"son of a bitch"(売女の子供)がある。
こぶ(瘤)付き - 子供を同伴していることに対する侮蔑[48] 。
かつては未婚の男性を朝鮮語から借用して「チョンガー」と云った[49] 。
女性が未婚のままであることを侮辱する事がある。近年、『負け犬の遠吠え 』のヒットにより、平均的な結婚年齢(いわゆる“適齢期”)を過ぎてなお未婚である女性を負け犬 と呼ぶようになった。
価値観・言動などを否定する
相手の感性や価値観、言動などを否定したり嘲笑することにより侮蔑することがある。
恥に関するものでは「恥知らず」がある[5] 。英語でShame on you。
忘八蛋
北京語 。忠・孝・礼・信・義・廉・悌・智の八徳目を忘れた者、“馬鹿野郎”の意。
その他、学歴に関するものとしては、
大宅壮一 は戦後の新制大学 を駅弁大学 と侮蔑・揶揄したことがある[50] 。
人称・尊称
尊敬する気持ちが無いことが明らかなのにあえて尊称を使うこと(いわゆる「慇懃無礼 」)により侮蔑の意を示すことがある。しかし、対象の面の皮があまりにも分厚い場合、侮蔑としての役をなさないという難点がある。
貴様 - 元は武家の書簡で使われていた敬称 (あなた様と同等の意)であるが、江戸時代ごろから口語でも用いられるようになるにつれて尊敬の意味が薄まり、近世後期ごろから蔑称語になった。旧日本軍 において上官が部下を呼び捨てるために用いたことで、現代では相手を罵って呼ぶ蔑称語となった。なお、旧日本軍での用法も元は天皇の子である兵(国民) を預かるという名目上、兵に対して尊称を用いる必要があったことに由来する。ただし、大正 ・昭和 期においても貴様は同輩に対する敬称としての意味を持ち、その様子は映画や軍歌においても描写されている。
御前 (おまえ、ごぜん) - 元は「御前におわす方」、つまり自分より位の高い人物に対する尊称であったが、現代では相手を蔑んだり、親しみの意を込めて呼ぶ際に用いられる[51] 。「おめえ」「てめえ」(手前がなまったものとも)は、自分を遜って呼ぶ言葉である「手前」がなまった相手を罵る罵詈雑言 。これに匹敵する呼び言葉として「われ」もある(主に関西などでつかわれる)。『宇治拾遺物語 』では「おのれ(ら)」としてあずま人が犬や猿への卑罵語として、ほか「おれ」「わたう(我党)」などが卑罵表現として使われている[4] 。
幼児言葉を使う
幼児に対する言葉遣い(「でちゅね」など)を大人にする事で、相手の無分別を嘲笑する事がある。例外として、カナダ のヌートカ人の間では、背の低い人に対して幼児言葉を使う場合、「あなたは背が低いが、それは恥ずべきことではない」という意味の一種の敬意表現だという[52] 。
インターネットにおける侮蔑語
ネット では文字ベースの通信が盛んになったため、ネット内のコミュニティ で通用するスラングをインターネットスラング において、#同音異義語を使った侮辱 などが数多く出ては消えている。2ちゃんねる用語 の辞典2典Plus では、集団、企業、学校などに対する多数の侮蔑語が掲載されている[53] 。例えば、女性オタク に対して使われる腐女子 [54] 、幼稚なものを意味する蔑称として厨房 、引きこもり を意味する自宅警備員 [55] などがある。
動作による侮蔑表現
日本 国内において(特に子供の間で)行われる動作に、あかんべえ (あっかんべー)がある。これは、舌 を相手に向かって出すことで相手を侮蔑する表現である。また片方の目 の下まぶたを手 の指 で引き下げる動作が加わることもある。やや子供 っぽい印象を与える。
手の甲を相手に向けて手を握り、中指のみを突き出して見せる(男性性器の意)という方法は代表的侮蔑表現である。英語圏においてはファックサイン とみなされ、The Finger,The Birdともよぶ[56] 。米国 文化が世界に広く知られているため、世界の多くの場所で通用する。敵対的で、周囲にも極めて不愉快な感情を与える表現である。
笑い が侮蔑の表現手段となることもあり、この笑いは嘲笑(する) 、せせら笑う 、あざける などとも呼ばれる。笑いが侮蔑的意味を含むかどうかは多くの場合は前後の文脈などに依存する。嘲笑を文章で表現する場合、中立的な笑いの表現を流用することが多い。日本語では文末に(笑) をつけるなどの方法で表現する。より直接的に(苦笑)(嘲笑)などと書く場合もある。日本のインターネットスラング では(笑)の代わりにw を用いることもある[57] 。英語ではインターネットスラング としてlol (laughing out loud) が用いられ、lolololol..と続けて書くことで表現する。
侮蔑と文学
侮蔑表現は古今の文学や格言などでも記載されている。
格言
古来から言い伝えられている諺 や格言、故事にも、侮蔑または差別と捉えられたり、侮蔑を物語るものもある。
西洋文学
北欧神話古エッダ ではロキの口論 というエピソードがあり、ロキ が神々と侮蔑合戦・毒舌合戦を行う。
5世紀から16世紀にかけては儀式的、文学的に侮蔑合戦を行うフライティング (英語版 ) が行われた。
ほか、口論詩 という種類もある。
日本文学
『宇治拾遺物語 』[4] 、『枕草子 』、『東海道中膝栗毛 』、『浮世風呂 』などは罵倒語が豊富であるとされる[58] 。『宇治拾遺物語 』では卑罵語として「かたい・かつたい(乞食 )」「痴(し)れ物(白物)」「くさりおんな(腐女)」などが使われている[4] 。
近代の小説では夏目漱石 『坊っちゃん 』に「ハイカラ野郎の、ペテン師の、イカサマ師の、猫被(ねこっかぶ)りの、香具師(やし)の、モモンガーの、岡っ引きの、わんわん鳴けば犬も同然な奴とでも云うがいい」とある。
中国文学
脚注
注釈
出典
参考文献
出典 は列挙するだけでなく、脚注 などを用いてどの記述の情報源であるかを明記 してください。記事の信頼性向上 にご協力をお願いいたします。(2017年2月 )
大石初太郎「悪いことば、いいことば」言語生活140号、1963
オットー・イェスペルセン『人類と言語』(改訂増補; Mankind, nation and individual from a linguistic point of view) 須貝清一・眞鍋義雄訳、荻原星文館、1944年
佐久間鼎 『現代日本語の表現と語法』恒星社厚生閣, 1951
真田 信治 , 友定 賢治 『県別 罵詈雑言辞典』東京堂出版 2011
筒井康隆「悪口雑言罵詈讒謗」ことばの宇宙8月号、1967
長野伸江『賞賛語(ほめことば)・罵倒語(けなしことば)辞典』小学館 2005
長野伸江『この甲斐性なし! と言われるとツラい 日本語は悪態・罵倒語が面白い』光文社新書2012
星野命 「現代悪口論」言語生活321号、1978
堀内克明「罵倒語の比較文化」言語生活321.p50-59,1978年。
松本修 『全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 』新潮文庫 1996
養老孟司 『バカの壁 』新潮新書 、2003年
米川明彦「卑罵表現もかわりゆく」言語11号、1999
関連文献
関連項目