バイトテロとは、アルバイト・従業員が職場で適切ではない行為、またその様子をスマートフォンなどで撮影し、TwitterやYouTubeなどのSNS・動画共有サイトに投稿して炎上する不祥事のことだ[1][2]。典型的には、飲食店や小売店の従業員が、勤務先の商品(特に食品)や什器その他の備品を使用していたずら・悪ふざけを行い、SNS上で炎上することをいう。スマートフォンの普及により、SNSへの動画投稿が容易になったことで事案は年々増加している[3]。
発生した企業・店舗(およびグループ会社・同業者全体)に対する社会的なイメージダウンを引き起こすのみならず、返金や商品の返品・交換および消毒、最悪の場合は発生したフランチャイズ店舗の契約解除・閉店や巨額の損害賠償請求も発生することから「アルバイトによるテロ行為」として「バイトテロ」と呼ばれる[4]。
当時はまだ「バイトテロ」の名はなかったものの「バイトテロ」に当たる行為は、2007年(平成19年)11月30日、日本の動画配信関連サービス「ニコニコ動画」に『【吉野家で】メガ牛丼に対抗して、テラ豚丼をやってみた【フリーダム】』という動画が投稿されたテラ豚丼事件がインターネットを介した初のバイトテロ事例とされる[5]。
2013年(平成25年)の夏に日本国内各地で頻発して「バカッター」が社会問題化した際、ニュースサイト秒刊SUNDAYが「バイトによるテロ行為」と表現し、略して「バイトテロ」と報道した[6]。その後Twitterを中心に「バイトテロ」と呼ばれるようになり、J-CASTなどのニュースサイトも「バイトテロ」の語を使用し始める[7]。
同年9月8日には『スーパーJチャンネル』で「若者に急増中! “バイトテロ”の実態とは?」と題する特集が放送された[8]。『スーパーJチャンネル』の特集以降は、読売新聞[4]・産経新聞などの新聞でも「バイトテロ」の呼称が使われるようになった[9]。
2015年5月『警視庁捜査一課9係season10』第4話では、バイトテロが題材として描かれた[10]。
「バイトテロ」という呼称は、ドイツ語由来の「アルバイト」(ドイツ語: Arbeit)の日本語省略形「バイト」と英語由来の「テロリズム」(英語: terrorism)ないし「テロリスト」(英語: terrorist)の日本語省略形「テロ」を組み合わせた和製外来語だが、従業員が就業中に悪ふざけを行って、その様子をSNSやYouTubeなどの動画共有サイトにアップロードする行為は日本だけの社会問題ではない。一例を挙げると、2008年にアメリカ合衆国のオハイオ州でバーガーキングの店員が、厨房の流し台で入浴する様子をMyspaceにアップロードして炎上する騒動が起きている[11]。
個人のブログやTwitter、TikTokを始めとするSNSにおける不適切な発言や写真投稿に対して批判が殺到する「炎上」の一類型であるとされ、また、問題の投稿に対して批判する側が集団でエスカレートして行く状況について「祭り」の一種と見る向きもある[12]。Instagramに追加されたストーリーズ(ストーリー)機能では、投稿した写真や動画・ライブ配信が24時間以内に削除される仕様になっているため、投稿してから消去されるまでの間にダウンロードされ、Twitterなどで再投稿されることでより拡散(複製)される事例も発生している[13]。
「バイトテロ」と呼ばれる行為の多くはアルバイト店員が商品や什器を使用して悪ふざけを行う様子を撮影し、写真や動画をSNSに投稿する行為のことを指す(廃棄する予定の食品や什器を使用した悪ふざけも含む)。大半は悪ふざけの実行者と撮影者の2名以上が関与しているが、単独でも不可能ではない。また、監視カメラに記録されていた有名人のプライベートな映像や写真を無断でSNSに公開するなどの行為も含まれる。
実行者が店員でなく、一般客の場合は「バイトテロ」には該当しない[注釈 1]。こうした事例は、2013年8月19日に群馬県内のカスミで来客がアイスケースに入り商品の上に寝そべる写真をTwitterに投稿した事件や[14]、2016年12月に愛知県常滑市のコンビニ店で来客がおでんを突く様子を動画共有サイトに投稿した事件[15]などがある。後者の客は「おでんツンツン男」として話題になった[16]。
バイトテロや一般客の悪ふざけ、未成年者の飲酒・喫煙、児童虐待、飲酒運転、無銭飲食、脱法ハーブ、盗撮、キセル乗車、万引きなどの問題行為を、Twitterで自慢する行為を総称した「バカッター」という造語もあり、この「バカッター」は自由国民社が主催するユーキャン新語・流行語大賞および未来検索ブラジル他が開催するネット流行語大賞にノミネートされた[17][18]。このうち後者「ネット流行語大賞」の一般投票では4位にランクインしており[18]、結果の発表後にJ-CASTでは、2013年にアクセス数の多かった記事についての回顧特集で
と、バイトテロを含む「バカッター」に関する話題が年間アクセス数で上位を占めた結果について論評している[19]。
刑事においては信用毀損罪・業務妨害罪[注釈 2]などに該当する[20]。また、商品や什器を破壊した場合は器物損壊罪[注釈 3]、不衛生な状態に置かれた食品を販売・提供した場合は食品衛生法違反にもなる。
民事では什器のクリーニングや顧客に対する返金、商品の返品・交換、また営業休止や閉店に追い込まれた場合、契約解除に対する取引先への違約金や、バイトテロと無関係な従業員を解雇する際の給与の補償、テナント立ち退き料などが発生する。実際にバイトテロを直接の動機として閉店に追い込まれた、後述のブロンコビリーやそば屋「泰尚」の事件では元店員に対する巨額の損害賠償請求が見込まれていたが[20]、泰尚の事件では2015年(平成27年)3月に元アルバイト店員らが連帯して200万円を店側に支払うことで和解が成立した[21]。
また、バイトテロの現場を撮影してSNSにアップロードした撮影者も、実行者と同様の法的な責任を問われる。客として不法行為を成したケースも、その客自身が法的な責任を問われる[20]。
不法な撮影を防止するため、デジタルカメラ・カメラ付き携帯電話やスマートフォン・タブレット、スマートウォッチなどのデジタル端末を職場内(店舗内)への持ち込みや、就業時間内の使用を禁止にすることも方法の1つだが、現代の携帯電話やスマートフォンの普及状況と、デジタル端末に頼らない連絡の不便さを考えると、単純な持参や休憩時間の使用まで規制することは難しい[注釈 4]。
NTTアイティは2013年、SNSで問題投稿が行われた際に運営者へ自動通知するサービス「評Ban」の監視対象に「バイトテロ」を含めるバージョンアップ(Ver.3.1)を実施した[22]。
神奈川県は2013年11月、バイトテロを含む悪ふざけの様子を撮影してSNSで共有する行為の法的リスクに対する啓発用のポスターを作成し、県内の高校や大学、駅に掲示した[23]。
また中華人民共和国ではバイトテロ対策として、厨房の内部を店内放送で顧客に公開して監視させることで、従業員による不適切行動の予防を図っている例も確認されている[24]。
一般的にバイトテロは「良識に欠けた若年の日本人従業員による悪ふざけ行為」として捉えられることが多いが、その裏面で、バイトテロの発生した業種(主に飲食店や小売店)や従業員に共通することとして以下のことが遠因であると指摘する声も一部にある。
今野晴貴や藤田孝典らは、これまでにバイトテロが発生してきた業態や企業が、いわゆる「ブラック企業」や「ブラックバイト」に分類される職種や企業に極度に集中していることを指摘しており、バイトテロの再発防止は当事者に対する厳罰化だけでは不十分で、全ての労働者がその労働に対する意識や愛着が高まるよう、賃金等の待遇や労働環境自体を改善していかなければ根絶は難しいだろうとしている[25][26][27]。
窪田順生は、少子高齢化や、中学生(中卒者)の就職率・採用率の低下に伴う生産年齢人口の減少と人手不足から、中卒者の代わりに外国人労働者(技能実習生)をアルバイトに従事させる際、奴隷労働的な現状の労働環境を国際水準から見て適切なものとしなければ、単なる「悪ふざけ」ではない「雇用元企業に対する反撃」を目的とした、顧客の生命や財産に直接危害を及ぼすような本物のテロリズムの要素を孕んだバイトテロを誘発しかねず、単なる一企業の株価や企業イメージの毀損のみならず、雇用元・就業者双方の政府を巻き込んだ国際的な人権問題にまで発展しうる危険性を指摘している[28]。
特に大きく報道された事例には以下のようなものがある。