気管支喘息(きかんしぜんそく、英語: bronchial asthma)または喘息(ぜんそく、英語: asthma)は、慢性の気道炎症を特徴とする異質性のある疾患である。喘息は、変動性を示す呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴[1]、胸部圧迫感、咳)と、時間的・程度的に変動する呼気気流制限によって定義される[2]。気道過敏性(airway hyper-responsiveness)や 2 型炎症は多くの症例で認められるが、診断に必須ではない。なお、末梢気道病変の喘息で聴かれる喘鳴は主として呼気性喘鳴(Wheezing)である[3]。
喘息は東洋医学では哮喘と称される(哮は発作性の喘鳴を伴う呼吸疾患で、喘は保迫するが喘鳴は伴わない呼吸疾患である。双方は同時に見られることが多いため、はっきりと区別することは難しい。虚証・実証に区別はされるが、気機〈昇降出入〉の失調で起こる)。
なお、鬱血性心不全により喘鳴、呼吸困難といった喘息類似の症状がみられることがあるが、喘息とは異なる病態である。
喘息をはじめとするアレルギーが関与する疾患の治療に関して、欧米の医師と日本の医師との認識の違いの大きさを指摘し、改善可能な点が多々残されていると主張する医師もいる。
喘息を指す英単語 asthma はギリシャ語の「aazein」という"鋭い咳"を意味する言葉に由来する[4]。この言葉は紀元前8世紀のイーリアスに登場するのが最初とされている。紀元前4世紀にヒポクラテスはこの病気が仕立て屋、漁師、金細工師に多いこと、気候と関係していること、遺伝的要因がある可能性があることを記載した。2世紀にガレノスは喘息が気管支の狭窄・閉塞によるものであることを記し、基本病態についての考察が始まった[5]。
その後喘息についてさまざまな考察、文献が発表されたが、このころまで喘息という言葉は今日でいう喘息のみならず呼吸困難をきたすさまざまな病気が含まれていた。今日でいう喘息についての病態にせまるには17世紀まで待たねばならない。17世紀にイタリアのベルナルディーノ・ラマツィーニは喘息と有機塵との関連を指摘し、またイングランドの医師ジョン・フロイヤー(英語版)は1698年、A Treatise of the Asthmaにおいて気道閉塞の可逆性について記載した。1860年にはイギリスのソルターは著書On asthma:its pathology and treatmentの中で気道閉塞の可逆性と気道過敏性について述べ、またその後19世紀末から20世紀初頭にはアドレナリンやエフェドリンが開発され、気管支拡張薬が喘息の治療として使用されるようになった。この頃まで喘息の基本病態は可逆性のある気管支収縮であると考えられていた。
1960年代に入り喘息の基本病態が気道の慢性炎症であることが指摘され始め、1990年にイギリス胸部疾患学会(BTS)の発表した喘息ガイドライン、および1991年にアメリカ国立衛生研究所 (NIH) の発表した喘息ガイドラインにおいて「喘息は慢性の気道炎症である」ことにコンセンサスが得られた。これによりステロイド吸入により気道の炎症を抑え、発作を予防するという喘息の治療戦略が完成し、治療成績が改善した。しかし、吸入ステロイドの普及率は、国・地域によって差があり、殊に、日本は欧米先進諸国に比し、吸入ステロイドの普及率は低い。
煙、排気ガスなどの刺激物、アレルゲン、気道感染、急激な寒暖差、運動、ストレスなどの種々の刺激が引き金となり、気管支平滑筋、気道粘膜の浮腫、気道分泌亢進などにより気道の狭窄・閉塞が起こる。気道狭窄によって、喘鳴(ぜんめい:喉のゼーゼー、ヒューヒューという音)、息切れ、咳、痰(たん)などの症状を認める。喘息発作時にはこれらの症状が激しく発現し、呼吸困難や過呼吸、酸欠、体力の激しい消耗などを伴い、時には死に至ることもある。
煙(粒子状物質)への曝露は強い発症因子であることが判明している。
ヨーロッパにおいては、大気汚染と新生児アレルギー感作の増大の関連は結論されていない[11]。
野菜と果物の摂取はそれぞれ、喘息のリスクと重症度を下げるようである[12]。小児の野菜と果物の消費量に応じて、喘息のリスクが下がる関係が見られ、妊娠期の母親の消費量はその子のリスクに無関係であった[13]。一方、妊娠初期にアブラナ科の野菜(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、クレソンなど)を摂取すると幼児の喘息症状の発生率軽減するというデータもある[14]。22研究中17が野菜と果物は喘息やアレルギーの予後を良好にしているという関係が見られた[15]。20か国29施設が参加した国際研究でも、野菜と果物の消費量が発症率に関係することが見いだされた[16]。 牛乳の消費と喘息の増加には関連があるが、単純な因果関係では説明できず、一部の喘息の人々では粘液産生を促している可能性がある[17]。
猫への曝露は、喘息のリスクに対してわずかに予防的、逆に、犬への曝露はリスクをわずかに増加させており、追加の研究が必要だとされた[18]。BCGワクチンの予防接種による喘息の予防効果は一時的である[19]。
緑化については研究の条件が違いすぎて評価できなかったため、標準化された基準が必要だと結論している[20]。
分類法も複数存在するが、代表的なものの一つに、幼児期に発症することの多いアトピー型と40歳以上の成人発症に多くみられる非アトピー型の2型の表現型に分類する方法がある。喘息はIgE型の免疫不全症であるため、アトピー性皮膚炎などと合併してくることが多くみられる。
吸入アレルゲンに対して遅発性喘息反応が起こることがある。曝露後、数時間から数日間気道過敏性が亢進するのだが、詳細な機序は不明である。過敏性肺炎とは異なりI型アレルギーである。
小児喘息は成長とともに寛解する場合が多いが、成人喘息に移行する場合もある。小児期に喘鳴が認められる場合はウイルス感染、アレルギー、異物の可能性がある。重要な鑑別疾患としてはRSウイルスによる細気管支炎があるが、細気管支炎では一日中喘鳴が聴取されるが、気管支喘息はヒューヒュー、あるいはゼイゼイとした喘鳴が夜間に多い。小児喘息の診断には、他疾患の除外が必要である。2歳から3歳のころ頻繁に喘鳴を繰り返す 幼児は小児喘息に移行するリスクが高いと考えられている。
major criteriaひとつまたはminor criteria2つで小児喘息の確率は76%である。逆に満たさなければ5%の確率となる。
小児喘息のガイドラインとしてはJPGL2005が知られている。春先や秋口などが発作の好発時期である。3歳から5歳の発症が多い。β2刺激薬の吸入とステロイドの全身投与が基本となる。アミノフィリンは嘔吐といった副作用をはじめ、血中濃度の調整が難しく、安全性、簡便性を考慮すると消極的になる。吸入は吸入器(定量噴露吸入器とドライパウダー吸入器)とネブライザーによる吸入が知られている。吸入薬の量は小児であろうが成人であろうが変化がないのが一般的である。これは成長するほど上手に吸入できる傾向があるため、末梢気道に達する薬物量が増えるためである。ネブライザー治療に影響を与える因子としては呼吸パターン、口呼吸か鼻呼吸か、気道狭窄病変の程度、人工気道の存在などがあげられている。
小児喘息の治療の目標とは軽いスポーツを含め、日常生活を普通に行うこと、昼夜を通じて症状がないこと、β2刺激薬の頓用の減少、学校の欠席の防止、肺機能障害の予防、PEFの安定化とされている。
小児分野では年齢により薬剤の選択も異なり専門性の高い分野であるがJPGLにてかつてよりは簡略化されている。大まかに述べると2歳未満の乳児喘息、2歳から5歳、6歳から15歳という区分で分けられている。アトピー性が多いためDSCGを積極的に使うこと、吸入技術の問題で吸入ステロイドの適応が若干異なる。ラーメンやうどんが食べられるようならば、原理的には吸入は可能であり、吸入をサポートするスペーサーも各種販売されている。
乳児喘息では中等度でも専門医の下で治療を行うこと、2歳から5歳では軽症持続型の段階ではICSは考慮に過ぎない、6歳以上では軽症持続型以上ならばICSが原則となるといった差がある。
日本で増加する小児喘息に関しても、安全かつ有効な標準化ダニアレルゲンを用いた減感作療法をすることで、小児喘息患者の肺機能の改善,成長,維持を助けて健康な成人を育てることが厚生医療行政の急務であると主張している医師もいる。
咳喘息は厳密には喘息とは異なる疾患として扱われる。喘息と同様気道に炎症が起こり、気道が狭くなることで咳が出る。主な特徴は[21][22]、
一般的な風邪薬や咳止めは効果が無く、気管支喘息で用いる気管支拡張薬、吸入ステロイド薬の吸入(後述)が有効とされる。 症状は、慢性(8週間以上)に発作性の咳が持続することが特徴的である。交感神経β2受容体作動薬(β2刺激剤)の吸入により臨床症状が改善するため、治療的診断として有用である。典型的な喘息と異なり、通常、胸部聴診にて狭窄音は聴取されず、閉塞性換気障害や気道可逆性等、異常所見が認められないため、確定診断に難渋し、ドクターショッピングを引き起こすことも多い。 喘息と同様の病態(慢性の気道炎症、気道過敏性の亢進等)が基盤にあることが判明しており、これらの評価が可能な専門医療機関等を受診することが望まれる。通常、咳喘息における気道炎症や気道過敏性亢進の程度は、喘息に比し軽微であることから、喘息の前段階として認識されることもあり、軽症喘息におけるコントローラーに準じた定期的薬物療法が導入されることが多いが、重症の咳喘息症例も存在し、重症喘息と同等の治療を要することもある。咳喘息を無治療で放置すると、約3割が典型的な喘息に移行するとされる。
気管支喘息治療薬は「長期管理薬」(コントローラー)と「発作治療薬」(リリーバー)に大別される。発作が起きないように予防的に長期管理薬を使用し、急性発作が起きた時に発作治療薬で発作を止める。発作治療薬を使う頻度が多いほど喘息の状態は悪いと考えられ、長期管理薬をいかに用いて発作治療薬の使用量を抑えるかということが治療の一つの目標となる。
長期管理薬では吸入ステロイド薬が最も重要な基本薬剤であり、これにより気管支喘息の本体である気道の炎症を抑えることが気管支喘息治療の根幹である。重症度に応じて吸入ステロイドの増量、経口ステロイド、長時間作動型β2刺激薬(吸入薬・貼り薬)、抗アレルギー薬、抗コリン剤などを併用する。長期管理薬を使用しても発作が起こった場合は、発作治療薬を使用する。発作治療薬には短時間作動型β2刺激薬、ステロイド剤の点滴などが使われる。
1997年、β2刺激薬であるベロテックエロゾル(臭化水素酸フェノテロール)の乱用による死亡者増加が日本において大きな問題となった。これはβ2刺激薬の副作用によるものとは言えず、β2刺激薬の吸入により一時的に症状が改善するために大発作に至る発作でも病院の受診が遅れたことが主因と考えられている。
喘息患者の何割かが獲得するアセチルサリチル酸(アスピリン)などの非ステロイド系抗炎症薬 (NSAIDs)、特にシクロオキシゲナーゼ阻害薬(主にCOX1阻害薬)に対する過敏体質であり、アレルギーによるものではない。NSAIDsの服用から数分から1時間後に鼻汁過多、鼻閉、喘息発作が起こる。このように症状が、上気道、下気道に及ぶことから、近年、non-steroidal anti-inflammatory drugs exacerbated respiratory disease (NERD) と呼称されるようになった。成人女性に好発し、小児では稀である。
アトピー型、非アトピー型喘息患者のいずれにおいても認められ、中等症以上の症例が多く、急性増悪時には、しばしば、重度の呼吸器症状をきたす。病歴から診断可能な例もあるが、確定診断のためにアスピリン負荷試験を要することが少なくない。成人喘息患者の約21%は誘発試験でアスピリン喘息を起こしたとの報告がある[23]。
COX1阻害によるプロスタグランジンの阻害とそれに伴うロイコトリエン (LT) 代謝経路に傾くことによる代謝異常が病態の基盤にあるため、COX2阻害薬投与においては発生率が低下する。しかし、COX2阻害薬も他のNSAIDsと同様、添付文書上、喘息患者には禁忌とされている。
病態の特徴の一つにロイコトリエンの過剰産生があり、そのためロイコトリエン拮抗薬が用いられることが多い。好酸球性副鼻腔炎の合併率が極めて高く、鼻茸や嗅覚低下を合併することが多い。他臓器の好酸球性疾患の合併もみられる。
アスピリン喘息の急性増悪ではコハク酸エステル型ステロイド(コハク酸ヒドロコルチゾン(ソル・コーテフTM)(英語版)、ソル・メドロール、水溶性プレドニンなど)の急速静注は喘息の増悪を誘発することがある(ステロイド自体やコハク酸残基が誘因になった報告があり、リン酸塩は安全とされる。溶解液中安定剤パラベンはしばしば誘因になる)。1時間以上かけて点滴を行えば比較的安全とされている。リン酸エステル型ステロイド薬(デカドロン、リンデロン、ハイドロコートンなど)を1時間以上かけて点滴投与する。
おおよそ気管支喘息の10%がアスピリン喘息(アスピリン不耐症)とも言われ、総ての酸性NSAIDsは原則禁である。アセトアミノフェンやCOX2阻害剤は比較的安心とも言うが原則禁で基本は冷罨法である。アセトアミノフェンは少量ならば使用可能とする意見もある。塩基性NSAIDs(ソランタール®等)葛根湯、地竜は使用可能とされる。症状発現の程度は様々で数分でショック状態に陥る強い発作もあれば風邪がダラダラ長引いて治らないと訴える場合もある。またその使用時に常に症状発現するとは限らないことが診断を難しくしている。NSAIDsやβブロッカーの点眼液でも発作が出現することもある。
健常者では運動によって気道の径が変化することはないが、喘息患者の場合は運動によって気管収縮が誘発される。特に、運動によって臨床的な症状が出現する場合を運動誘発性喘息という。運動が刺激因子となり、肥満細胞からのロイコトリエン産生が増加する病態が基盤にあるため、ロイコトリエン拮抗薬が効果的である。インタール吸入にもその誘発予防効果がある。
臨床医にとっては、いくつかの呼吸器症状が喘息と診断するための情報となるが、これらの臨床症状は必ずしも喘息のみに特異的ではない。発作性の喘鳴、咳、息切れ、胸部の圧迫感(時間により程度が変化し、気管支拡張薬にて改善する)などが喘息を疑う所見としている。
病理学者は組織学的に定義を行っており、好酸球の浸潤や気道壁の肥厚、リモデリングによって特徴づけられる持続性の炎症と喘鳴としている。
生理学者は機序によってその都度定義を行っており、多くの異なる刺激に反応して、過剰な気管支平滑筋収縮を引き起こす気道過敏性の状態を気管支喘息と定めている。生理学的な定義のうち特に重要なのが、運動誘発性喘息や吸入アレルゲンによる喘息、アスピリン喘息である。上記、歴史の項に述べられているようにいずれの定義でも再発性の気道過敏性と慢性炎症といった病態生理学に統合されると考えられている。慢性気道炎症によって気道過敏症となり、増悪因子により気道狭窄がおこり喘息症状が起こるとされている。
喘息患者にβ1受容体選択性の高くないβブロッカーを用いる場合、重篤な気管支収縮が起こる可能性がある。
2004年の試算で全世界に3億人の喘息患者がおり、年間255,000人が喘息で死亡している[24]。また喘息死の80%以上は低所得国から中低所得国で発生しており、今後10年間で喘息死はさらに20%増えるだろうと予測されている。喘息の有症率は1% - 18%程度と国によって報告にばらつきがあるが、多少強引にまとめると先進国で5% - 10%程度、発展途上国では1% - 4%程度である。
日本では1996年の統計で喘息の累積有症率(現症と既往の合計)は乳幼児5.1%、小児6.4%、成人3.0%(16歳から30歳では6.2%)である[25]。1960年代は小児、成人とも有症率は1%程度であったものが近年増加の傾向にあり、10年の経過で1.5倍から2倍程度増加している[26]。日本における喘息による死亡者数と人口10万人あたりの死亡率は1995年には7,253人 (5.8%)、2000年には4,473人 (3.6%)、2001年には4,014人 (3.2%)、2002年には3,771人 (3.0%)、2003年には3,701人 (2.9%)、2004年には3,283人 (2.6%) と、年々低下傾向にある(厚生労働省人口動態統計より)。死亡者の約半数は、重度の発作を軽発作だと思い適切な治療が遅れたあるいはされなかった事が原因であるといわれている。
日本アレルギー学会の喘息治療ステップガイドラインには、以下の生物学的製剤は、いずれも、治療ステップ4における長期管理薬基本治療のオプションとして記載されており、全身性ステロイドの副作用に対する懸念から、近年、経口ステロイドよりも優先して推奨される傾向にある。
これらの生物学的製剤の内、デュピルマブのみが、日本アレルギー学会の喘息治療ステップガイドラインに、治療ステップ3における長期管理薬基本治療のオプションとしても記載されている。
気管拡張剤エフェドリンは、麻杏甘石湯、小青竜湯などに配合される生薬の麻黄から1885年(明治18年)長井長義によって単離抽出された。
中程度あるいは他の方法で喘息が制御できない場合はアレルゲンを繰り返し注射するアレルゲン免疫療法(減感作療法)を行う場合もある。90%以上がダニアレルゲンが原因である小児喘息の場合はアレルゲン免疫療法は有効性が高いという意見もある[28]。
WHOの見解書では、アレルゲン免疫療法(減感作療法)が喘息の自然経過を変える唯一の根本的治療法として記述されている[29]。
野菜と果物の摂取は、喘息のリスクと重症度を下げる[12]。ブロッコリー、モロヘイヤ、クレソンなどにはヒアルロニダーゼ抑制作用がある。ヒアルロニダーゼはアレルギーを引き起こす原因物質ヒスタミンの放出に関係しており、その働きを抑えることでアレルギー症状の軽減が期待される。また、キュウリ、野沢菜、クレソンなどにはヒスタミンの放出に関係する脱顆粒抑制作用がある。特にクレソンは高いレベルでヒアルロニダーゼと脱顆粒の両方を抑制する作用がある[30]。
18歳~65歳の中等度喘息患者48名対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験では1日1,000㎎のクレソンエキスを4週間摂取した結果、クレソン摂取群はプラセボと比較して抗酸化能を高めることで喘息患者の酸化ストレスマーカーを改善すること、炎症マーカーのインターロイキン-1レベルを増加させることが示された[31][32]。 動物試験では、喘息発症モデルラットの肺の炎症と酸化ストレスを軽減することが報告されている[33]。
妊娠初期にアブラナ科の野菜(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、クレソンなど)を摂取すると幼児の喘息症状の発生率軽減に寄与する可能性が示唆されている[14]。
古くから水泳によって改善するといったことも言われているが、呼吸筋を鍛えたことにより病状が良くなったと感じるため(ピークフロー値の上昇)で、炎症が治まったわけではない。場合によってはプールの塩素によってさらに悪化することもあり注意が必要である。水泳による疲労、塩素で喘息を発病した患者もいる。
直接の治療行為には該当しないが、ピークフローメーターにより日頃のピークフロー値の記録をしておくことで自覚症状のない軽い発作を発見できたり、発作がおきやすい時期、時間帯等を把握しやすくなるため、喘息の管理に有効である。ピークフローは症状の変化に先行し変化することが知られている。また重篤な患者ほど自覚症状が出現しにくいためピークフローによって客観的な評価が必要である。ピークフローは3回測定を行い、最高値を記録する。
慢性呼吸不全の患者には在宅酸素療法を行う。
喘息のガイドラインとして、国際的に最も信頼されているのは、WHOによるThe Global Initiative for Asthma (GINA) である。Evidence-levelの高い優れた最新の文献を基に、数年毎にアップデートされている。世界中の国・地域において、各々のローカルな喘息ガイドラインが存在するが、多くは、このGINAを参考に作成されている。他に、国際的に知られている喘息のガイドラインとして、米国喘息管理・治療ガイドライン (EPR3) がある。日本では、主に、日本アレルギー学会が作成する喘息予防・管理ガイドライン2021(JGL2021)および日本小児アレルギー学会が作成する小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023 (JPGL2023) が用いられる。
これらによって気管支喘息と診断をしたら、長期管理を開始する。なお、発作中であったら発作の治療を優先する。長期管理の方法はガイドラインによってわずかな差異があるものの基本はほとんど同じであるためGINA2006に基づいて説明する。なおICSは吸入ステロイド、LABAは長期作用型β2刺激薬、LTRAはロイコトリエン受容体拮抗薬である。
GINA2006では治療目標である良好なコントロールに関して問診によって評価できるとしている。
上記の6項目のうち3項目以上に該当したらコントロール不良であり、ひとつでも該当すればコントロール不十分、また喘息増悪発作が最近認められたらそれだけでコントロール不十分とする。3ヶ月ごとに治療効果判定を行い、コントロール良好群であれば、ステップダウンし、コントロール不良群であればステップアップする。コントロール不十分が持続する場合もステップアップを検討する。
JGL2006ではステップ1が症状によって規定されており、その症状にコントロールするようにコントローラーを決定する。ステップ2のコントローラーでステップ2の症状が認められればコントロール不良でありステップ3にステップアップする。
喘息とアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎がよく合併することはよく知られており、これらは独立した危険因子であるが関連が深く「one airway one disease」[注 1]として知られ[34]、同時に治療することで治療効果が高まると考えられている。特に、アレルギー性鼻炎や花粉症の合併は多い。アレルギー性鼻炎の治療は症状に合わせて選択される。
初期治療としては酸素投与とリリーバー投与となるが、呼吸困難、喘鳴の原因が心疾患など喘息発作以外の可能性もある。
喘息発作の程度は小発作(呼吸困難はあるが横になれ動ける)、中発作(呼吸困難で横になれないが動ける)、大発作(呼吸困難で動けない)に分類される。
これらのリスクファクターがある患者はより慎重な治療が求められる。
過換気