『元禄太平記』(げんろくたいへいき)は、1975年1月5日から12月28日まで放送されたNHK大河ドラマ第13作。主演は石坂浩二。
忠臣蔵をテーマにした大河ドラマとしては、『赤穂浪士』(1964年)に続き2作目にあたる。
元禄赤穂事件を5代将軍徳川綱吉の側用人・柳沢吉保の側から描くという、当時としては斬新な切り口の作品となっている[1][2]。
原作は南條範夫による書き下ろし小説で、放送同年の1975年に日本放送出版協会から刊行されたが、後に角川書店、徳間書店より文庫版が刊行された。なお、南條作品の大河化は本作が唯一である。柳沢を主軸に元禄赤穂事件を描くというスタイルは、南条の「脚光を浴びていない人物を主人公にして見方を変える」という狙いによるものだった[2]。
本作における松の廊下事件の原因は、塩田経営の成功を試みる柳沢に取り入るため、吉良が浅野に領地替えを勧めたのを浅野が拒否したことから、吉良が浅野に嫌がらせをしたことになっている。浅野には「エキセントリックで神経質な人物」という設定が与えられ、片岡孝夫(現・十五代目片岡仁左衛門)が演じた[2]。
山鹿流陣太鼓というものは実在しないという史実に基づき(原作者の南條範夫は史料に全く記述が無いことから、大石良雄と山鹿素行は無関係としている[3])、本作品の討ち入りシーンでは陣太鼓が使われていない。赤穂浪士による討ち入りを描いた第50回「満願の雪」は、実際に討ち入りがあった元禄15年旧暦12月14日にちなんで12月14日に放送された。忠臣蔵を題材にした大河ドラマの他の作品では、いずれも討ち入りの回は赤穂四十七士に掛けた第47回目に放送されている。
1975年5月8日、本作の撮影現場に、放送期間中に来日したイギリス女王エリザベス2世が見学に訪れた[4][5][6]。本編の映像はVTRで撮影が行われたが、この見学映像はフィルムで残されており、2015年2月23日放送の『NHKニュースおはよう日本』で公開された(この中では石坂のインタビューも公開されている)。
主演の石坂は、1969年の『天と地と』で主役の上杉謙信を演じて以来、大河ドラマ2度目の主役となった。大河ドラマの主役を2度務めるのは、平幹二朗以来2人目となる。石坂の起用について、サードディレクターを務めた大原誠は、討ち入りを否定する柳沢には彼なりの論理があり、そうした人物を演じるのに「非常に端正な顔をした、ハンサムな男が悪をやって、初めて悪の怖さが出る」と述べている[2][注釈 1]。石坂自身も、柳沢が大石内蔵助と面識があったという設定に加え、「ただの悪役にしたくない」という制作側の意向を知って、役を受けたいと思ったと回想している[6]。
最高視聴率41.8%、平均視聴率24.7%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)[7]。
大石内蔵助および柳沢兵庫のほうが主役の柳沢吉保よりも人気があったという[要出典]。
各登場人物の歴史的事項・史実との違い等については当該記事を参照[注釈 2]。
特記が無い限りNHKクロニクルのNHK番組表ヒストリーで確認。
本放送回は第2回「大奥の女たち」、第3回「世嗣暗闘」、第7回「光圀乱心」、第18回「刃傷松の廊下」が現存しているが、その後当ドラマの出演者が録画したビデオテープが、NHKに提供されており現存数は増えつつある。また総集編は前後編が共に現存し、NHKアーカイブスで視聴可能となっている他、VHS・DVDも販売されている。
1978年に東京12チャンネルで総集編が再放送され、2009年に第18回「刃傷松の廊下」が時代劇専門チャンネルにて再放送された。1995年の大河ドラマ『八代将軍吉宗』では本ドラマの吉良邸討ち入りの場面が使用された(吉良義央は紀州徳川家と縁続きだったため登場。吉良役を柳生博が演じた)。「元禄赤穂事件が描かれてないので興をそがれた」という視聴者の手紙に近松門左衛門役の江守徹をして「予算不如意ゆえに『元禄太平記』の映像を拝借仕った。大石は拙者を演じている江守徹ゆえ、ごちゃまぜになるので登場させなかったのでござる」と説明させている(もっとも、これは演出であり、現実には本作で古谷一行が演じた間部の役を本作の主演である石坂が演じ、石坂が演じた柳沢の役を榎木孝明が演じている)。
なお、NHKBS2で本作の総集編が再放送された際、ゲストとして登場した江守徹が「うちには全話録画してある」とコメントしていた。この江守が保存していた映像は、2011年1月2日にNHK衛星ハイビジョンで放送された『大河ドラマ50~見せます! 大河のすべて~』、および同月8日に総合テレビで放送された『カウントダウン「江」~大河ドラマ50作すべて見せます~』にて紹介されたが、NHKにビデオテープは提供されていない。
2016年1月には、岡田茉莉子が自宅に保存していたUマチックテープから第9回「昼行灯出陣」が見つかり、NHKに提供された。岡田の夫である映画監督の吉田喜重がビデオの録画収集癖があり、その関係で録画されたものではないかと思われるという[8]。
2019年12月には、三善英史が自宅に保存していた本作のUマチックテープ41本をNHKに提供した[9]。その結果、未発掘回が残り11回となり、欠落などで不完全だった3回分のうち2回分が補完されることとなった。三善は2020年に「ひるまえほっと」のゲストとして出演した際に「本当は全部録画したんですが何本かが行方不明」「引っ越しをした時に、ちょっと預けたりしたもので分からなくなっていて、引き続き探したいと思います。」とコメントした。
NHKではマスターテープが失われた過去の放送番組の収集(制作関係者や一般視聴者らへのビデオテープ提供の呼びかけなど)を進めている[10]。