ドックワイズ社 (英語版 ) の「BOKA バンガード(ヴァンガード) (英語版 ) 」[1] [2] (BOKA Vanguard . 2012年進水 。91,784 GT )は、半潜水式 重量物運搬船 (セミサブ型 ヘビーリフトシップ)であり、2012年以来現在(2020年時)における世界最大の重量物運搬船 である。2014年撮影。
フリゲート を輸送する半潜水艇 灰色一色の小さいほうがアメリカ海軍 のミサイル フリゲート「サミュエル・B・ロバーツ 」(4,100 L/T ) で、それを載せている大きな船がドックワイズ社の半潜水艇「マイティ・サーバント2 (英語版 ) 」(1983年竣工。29,193 GT )。画像は1988年 (イラン・イラク戦争 中)のもので、アーネスト・ウィル作戦 中にペルシャ湾 で機雷 攻撃を受けて損傷した前者を母国へ帰還させようとしているところ。撮影地はUAE のドバイ 沖。
半潜水艇 (はん せんすいてい)とは、船体をある程度まで水没させて航行することができる特殊な船舶 。英語 (事実上の国際共通語 )では "semi-submersible vessel " といい[1] 、略して "semi-submersible "ともいう。日本語 では、それらに由来する音写 形である「セミサブマーシブルヴェゼル [1] [3] 」や略称「セミサブ [3] 」が、少なくとも業界用語としては通用している。
軍事 作戦 とそれ以外の様々な民間 作業での使用が多いが、水中を観察できる観光 用などもある。本項では、こうした部分的な潜水能力がある船を全般に解説していく。
水面上にある部分がかなり小さいため、半潜水艇は通常の船より波 の影響を受けにくいが、常にバランスを取る必要がある。潜水艦 と異なり、完全に水面下に沈むことはない。
概要
半潜水艇は、軍事目的においては完全な潜水艦 ・潜水艇 の代用として使用されることが多い。一般に「潜水」の方式は、完全な潜水艦の場合と同様に、船内に設けられたタンクに注排水して浮力を調整することで行われる。ただし、浮力の調整能力がなく、最初から極端に低乾舷の設計となっている場合もある。
軍用船としては、完全な潜水艦と同等とは言えないまでも、発見可能性や被弾可能性の低減をある程度実現できる利点がある。また、完全な潜水艦を建造するのに比べれば、高水圧への対応や吸排水機構など技術的に高度な部分がないため容易かつ安価に建造できる。実例としては、後述する北朝鮮 の現用艇のほか、南北戦争 の南部連合 の港で北軍 の封鎖艦隊攻撃に使われたデイヴィッド型半潜水艇や太平洋戦争 末期に日本陸軍 が建造した五式半潜攻撃艇 などが挙げられる。
民間目的では、水面上にある部分が小さいことによる安定性を利用することを目的としたものが多い。また、船底に窓が設けられて海中を覗けるというだけの観光船の場合、通常の船舶と基本設計は何ら変わらず、もちろん前述のような浮力調整機構は設けられていない。
原理
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歴史
年表
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軍用
軍事史
アメリカ合衆国 の南北戦争 において用いられた装甲艦 の「モニター 」は、もっとも初期の半潜水艇であると考えられており、乾舷が非常に低く推進機関と燃料と乗員設備の全てを水面下に備えていた。小さな操舵席と円筒形の砲塔と煙突だけが甲板上に突き出していた。しかし、バラスト水を注排水することによって深さを調節することはできなかったため、モニターは真の半潜水艇とはいえない。
スピュイテン・デュイヴィル(USS Spuyten Duyvil )は、タンクに注水して潜水することで低い外形をもつ外から見えづらい攻撃艦となり、モニターと同じように指向・伸展可能で再装填できる外装水雷 を装備するなど多くの革新的な特徴を持った兵器システムとして、真の半潜水艇であった。
ウェルフレイターの模型
第二次世界大戦 において、イギリス はフロッグマン を輸送するための半潜水艇としてウェルフレイター(Welfreighter )を開発・設計した。大日本帝国陸軍 も五式半潜攻撃艇 を開発しているが、実戦には参加していない。
水面上に露出する断面積が小さいことは、艦の安定性向上に有効である。また、潜水艦は艦首で波を作らないので、水面下で活動するためには潜水艦が非常に効率的であると考えられた。この考えに基づき、2つの潜水艦のような水面下の構造物と、上部構造物を支える流線型のパイロンで構成された船が提案され、試作が行われた。半没水型双胴船と呼ばれるこの船は、荒れた海で船のサイズで規定される限界までの高い効率と安定した運用を可能にする。英語ではSmall Waterplane Area Twin Hull の略でSWATHと呼ばれる。
ロッキード はシー・シャドウ という多くの点で上述のSWATHに似た船を設計し建造した。ただし、パイロンの上に上部構造物を載せるのではなく、船体と上部構造物は連続的な構成になっており、側面を傾斜させることでレーダー に映りにくいステルス 構造となっている。
2024年、遠征前進基地作戦 構想の一環として、アメリカ海兵隊 が敵の支配地域の奥深くにいる小規模な部隊に物資を供給する方法として、「麻薬密輸用潜水艇 」からヒントを得た安価な無人半潜水艇の実験を開始した。[5]
北朝鮮の半潜水艇
北朝鮮の特殊機関は多数の半潜水艇を保有しているといわれる。この艇はイラン などへも輸出されている。
開発の経緯
1983年12月3日に多大浦への浸透に使用された半潜水艇
北朝鮮は朝鮮戦争停戦後から「対南工作 」「祖国統一事業」と称して韓国 に多数の工作員 を秘密裏に侵入させてきたが、年を追うごとに韓国もスパイ侵入を阻止する方策を次々に実行した。軍事境界線はもちろんのこと、韓国全土の沿岸部にある侵入の蓋然性が高い海岸には陸海軍の警備所を設置し、通報者への懸賞金 制度(工作船の第一発見者には韓国政府から5,000万ウォン が贈られる)の創設により、沿岸の監視を強化した。発見されたスパイ容疑の不審船に対しては、対艦ミサイル まで使用した徹底的な取り締まりを行い、漁船に偽装した北朝鮮の侵入用小型船舶を次々と捕捉、撃破していった。そのため、1980年代 頃から北朝鮮は沿岸警備の目をかいくぐる半潜水艇を開発、投入していった。
特徴
北朝鮮の半潜水艇には複数のタイプがあり、現在も生産と改良が進められていることがわかっているが、1998年 に韓国軍 に韓国南部海上で撃沈され、後日引き揚げられて韓国国家情報院 、米韓技術情報チームによって検証されたSP-10H型というタイプの半潜水艇(朝鮮労働党 作戦部所属)では、魚網切断装置や日本製のGPS とレーダー 、HF無線機の装備が初めて確認された。
このSP-10H型半潜水艇は全長約12m、全幅約3m、高さ約1.5m、排水量11tの大きさであり、喫水は約70cm。アメリカのマーキュリー社製とみられる375馬力エンジン3基を搭載して最高速力は半潜水時は6ノット、浮上時は45ノットである。定員は8名で、居住性は皆無。また、ごく短時間ではあるが、停止して水中に完全に船体を沈めて隠れられることも確認された。船体にはレーダーに映りにくくなる黒い特殊塗料が塗りつけられている。
標準武装は、各乗員の個人火器、二門のRPG-7発射機および17 - 30kgの自爆用高性能爆薬である。爆薬の信管 には、敵艦への体当たりの衝撃で起爆するものと自爆ボタンの操作で起爆するものが装備される。
半潜水艇の任務・侵入方法
この半潜水艇は、工作員を韓国に隠密裏に侵入させる任務、あるいは北朝鮮に帰還させる任務に使用される。侵入する目的地の海岸まで30海里の位置までは浮上して高速で接近する。それ以降は艇内のタンクへの注水で少し姿勢を下げ、12ノットで航行する。残りの距離が12海里を切った時点で半潜水状態に移行し、窓(水面上50cm)とシュノーケルのみを水上に出す低姿勢によって韓国側のレーダー探知を避けながら6ノットで侵入する。エンジンの騒音で韓国側に気づかれないよう、目的の海岸まで500mの位置まで到着するとエンジンを止めて停泊し、工作員と案内員を降ろす。彼らは泳いで海岸から密上陸していく。工作員の上陸後、戻ってきた案内員を回収して帰還する。案内員とは、上陸直後まで同行し工作員を護衛する役目の工作員。射撃 のプロであり、撃術 (キョクスル)と呼ばれるテコンドー 等から派生したとされる軍隊格闘術(CQC )に秀でた戦闘員である。
半潜水艇の航続距離は最大720kmとされ、単純に考えれば北朝鮮から韓国南部まで単独で往復できる計算であるが、韓国側の警備の目を盗むためには大きく遠回りする航海をしなくてはならない。また、長い航海に耐えうる居住性もない。そのため、北朝鮮から遠い韓国南部以遠への侵入の際には、母船を務める工作船 に格納されて目的地の近海(おおむね40海里)まで運ばれる必要がある。距離の短い韓国北部への侵入には母船を使わず、北朝鮮のヘジュ港などの前線基地から単独、最短距離で任務に向かう。
民生用
水中観光
半潜水式グラスボート は、「水中観光」が売りの比較的小規模な船による遊覧船 として運用されるのが通例となっている。
乗客は乗船すると水面下に設置されている席まで下り、水面下に設置された窓から水中を眺めることができる。これにより、潜水した船に乗っているかのような雰囲気を楽しめる。こうした船は世界中の景勝地 などで運航されている。
その地域で運用されている半潜水式グラスボートをなんと呼ぶかは、地域ごとに様々である。日本のものでいくつか例を挙げるなら、「半潜水艇[6] 」「半潜水式グラスボート[7] 」と船種名そのままのものを始め、多く見られる「グラスボート[8] 」「水中遊覧船[9] 」「水中観光船[10] [11] [12] [13] [14] 」「海中観光船[15] [16] [17] 」のほか、「遊覧船[18] 」「半潜水型展望船」「海中展望船[19] [20] 」「海底透視船[21] 」「海洋自然観察船[22] 」「マリンビューワー[13] [23] 」などといったものもある。
現代日本の半潜水式グラスボート
21世紀前期前半の日本では、沖縄県 で数多く運用されている。2020年時点では、那覇市 の「マリンスター[10] 」「ハーモニー[10] 」「オルカ[11] 」、恩納村 の万座ビーチ の「サブマリン Jr.II」[6] 、本部町 の「PIAZZA-1(ピアザワン)[22] 」、宮古島市 の「シースカイ博愛[12] 」などのほか、小さな船は把握しきれないほどの数に上る。鹿児島県 では奄美大島 の「せと」[13] が、宮崎県 では日南市 南郷町の「なんごう[23] 」が、長崎県 では五島市 にある福江海中公園の「シーガル[7] 」、佐賀県 では呼子港 の「ピンクジーラ[19] 」、愛媛県 では愛南町 の「ユメカイナ」と「ガイヤナ」[24] 、徳島県 では海陽町 の「ブルーマリン[15] 」、和歌山県 では串本町 の「ステラマリス[16] 」と白浜町 の「りんかい[8] 」(■右に画像あり 。cf. )、静岡県 では伊東市 の「はるひら丸イルカ号」「海賊船ゆーみんフック」[18] と熱海市 の「NOAH(ノア)」[20] 、神奈川県 では三浦市 の「にじいろさかな号[14] 」、千葉県 では館山市 の「たてやま号」[17] と南房総市 の「野島崎海底透視船」[21] [25] が運用されているほか、小舟のようなグラスボートを運用している地域もある。また、北海道 の支笏湖 では透明度の高さを生かした淡水湖 の水中観光が行われており、「サファイア」と「エメラルド」が運用されている[9] 。
海洋調査
スクリップス海洋研究所 が運用する外洋調査用フローティング・インストゥルメント・プラットフォーム「R/F FLIP」
世界で唯一のFLIPとして
1962年 から運用され続けている
[26] 。
左:通常の船と同じ姿勢(水平位)をとっている。全長は355
フィート (約108
メートル )
[26] 。2012年撮影。
右:調査ための姿勢(垂直位)をとっている。船首部を水面下に沈めており、船が大海原の真ん中で逆立ちをしているような、不思議な形になっている。撮影時期は不明(2007年よりは古い)。
フローティング・インストゥルメント・プラットフォーム (英語: FLoating Instrument Platform、頭字語 :FLIP )は、荒れた海で安定したプラットフォーム を形成するために設計されている特殊な船である。なお、「インストゥルメント」と「プラットフォーム」に日本語表記揺れ があり、「フローティング・インストルメント・プラットホーム」などの表記も考えられる。また、通称 としては、頭字語に由来して「FLIP Ship」、あるいは、そこから転じて「宙返り 船」「"ひっくり返り"船」を意味することになる「Flip Ship」の愛称 もある[27] 。
居住空間がある従来型の船尾 部と、細長い船首 部が主な構造物となっている[26] 。この船を真上から見れば、ちょうど「ブラシを上に向けて置いた歯ブラシ 」のような形状をしており、ブラシにあたる部分が船尾部、柄にあたる部分が船首部で、船首部は船尾部に近いところだけ(これも歯ブラシと同じように)最も細くなっている[28] 。
船首部はチューブ 構造になっている[26] [27] 。その、チューブ構造になっている部分のうち、船尾部に近い長さにして4分の1ほどはチューブ内が機械構造物で埋まっているが、それより先はフロート 構造(浮体構造)の空洞になっており、ここに注水することで重心 がフロート構造部に移り、船尾部が水面上に持ち上がる仕組みになっている[26] [27] 。
航行する際は普通の船と変わらない姿勢であるが、調査を行う際には、船首を水面下に沈め、水底に向けて船体がひっくり返っているかのような姿勢をとり、つまりは、水面に対して船体が垂直に立ち、船尾部だけを水面上に残した状態になる[26] [27] 。5階建てのビルに相当する長さ(垂直位では高さ)がある[26] [27] 船尾部の構造は、天地が90度回転した状態に対応しており、4階建ての建築物と同じようなパーティション が組まれているのを基礎として、甲板 ・扉 ・梯子 ・洗面台 ・便器 は水平位用と垂直位用の2通りが設置されているほか、棚 などそれ以外の設備も船の姿勢に合わせて回転する仕掛けになっている[26] [27] 。垂直位の時(水面に対して垂直になっている時)、水面に接しているのは細いチューブ状の部分だけであり、海のうねりや波が通り過ぎても非常に小さい力しか伝わらないため、通常の船に比べて非常に安定したプラットフォームを形成することができる[26] [27] 。
ミサイル駆逐艦「
フィッツジェラルド 」を甲板に載せて移送中の「トランスシェルフ」/ 2018年撮影。
重量物運搬船
半潜水式重量物運搬船 (英: semi-submersible heavy lift ship 、頭字語 :SSHL )は、半潜水艇(英: semi-submersible [vessel])の型式を備えた重量物運搬船 (英: heavy lift ship)である。
前部の操舵室と後部の機械室の間に長く低い凹甲板を持っている。表面的には、ばら積み貨物船 や石油タンカー にいくらか似ている。バラストタンクに注水して凹甲板を水面下に下げ、他の船舶や石油プラットフォーム 、その他の水に浮かぶ貨物を搭載位置に移動させる。その後バラストタンクから排水することで凹甲板を浮上させ、貨物を持ち上げる。貨物のバランスを取るため、バラストタンクは不均等に排水できるようになっている。
半潜水式重量物運搬船の最大の顧客は石油産業 である。半潜水式重量物運搬船により多くの石油プラットフォームが輸送されている。建造場所から掘削場所まで、自力で移動する場合に比べておよそ3倍から4倍の速さで移動できる。掘削場所まで石油プラットフォームを迅速に展開することにより、石油産業は多額の経費を節約できる。その他の大型の積み荷やヨット などの輸送にも用いられる。
アメリカ海軍 は過去に数回、艦体を損傷した戦闘艦艇を自国に回航修理するため重量物運搬船を借り受けたことがある。アメリカ船籍 の重量物運搬船は存在しないため、アメリカ海軍は世界の商業輸送市場からの借受に依存している。最初の例は1988年 4月14日 にペルシャ湾 中央で機雷 によって沈没寸前となったミサイル フリゲート 「サミュエル・B・ロバーツ 」であった。この艦はドバイ (UAE ) まで曳航され、そこでドックワイズ社 (英語版 ) の半潜水式重量物運搬船「マイティ・サーバント2 (英語版 ) 」(IMO : 8130875 ) [29] に載せられてニューポート 海軍基地(米国ロードアイランド州 )へ運ばれた[30] (■右列に画像あり )。その12年後、2000年 10月12日 に発生した爆破 テロ (米艦コール襲撃事件 )では米国のミサイル駆逐艦 「コール 」が被害を受け、アデン (イエメン )からパスカグーラ 海軍基地(米国ミシシッピ州 )まで、これもドックワイズ社の半潜水式重量物運搬船「ブルー・マーリン (英語版 ) 」(IMO: 9186338 ) [31] によって移送された(■右に画像あり )。さらに17年後の2017年 には、いずれも第7艦隊 横須賀基地 所属第15駆逐隊 BMD 対応アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦 である「フィッツジェラルド 」と「ジョン・S・マケイン 」が、前者は6月に日本の静岡県 下田 沖で、後者は8月にシンガポール 沖で、相次いで民間輸送船と衝突し、両艦いずれも損傷して浸水した。「ジョン・S・マケイン」は横須賀海軍基地 (日本)へ移送されたが、「フィッツジェラルド」のほうは艦体水密 修理後にイージスシステム までも損傷していたことが判明したため、これを修理できるアメリカ合衆国本土 への移送が必要となった。当初は、件の2艦をドックワイズ社の半潜水型重量物運搬船「トレジャー (Treasure )」(IMO: 8617940 ) [32] が積載し、チャンギ海軍基地 (シンガポール)-横須賀海軍基地(日本)-インガルス造船所 (米国パスカグーラ 海軍基地)と積み替え移送してゆく行程の予定であったが、今度は移送中の「ジョン・S・マケイン」の艦体に亀裂が発見されたうえに、台風 の接近で「トレジャー」のピストン移送が不可能となったため、スービック海軍基地 (フィリピン )への回航を余儀なくされた。ここに来てアメリカ海軍は「トレジャー」1隻のみに頼った積み替え移送を断念し、これもドックワイズ社の半潜水型重量物運搬船「トランスシェルフ (Transshelf )」(IMO: 8512279 ) [33] を追加で手配。同船は水密修理を終えた「フィッツジェラルド」をスービックからインガルス造船所へと移送した(■右に画像あり )。
先述したドックワイズ社の半潜水式重量物運搬船「ブルー・マーリン」(IMO: 9186338 ) は、2004年 、GVAコンサルタント (英語版 ) が設計した世界最大の半潜水式石油プラットフォーム でBP社 所有の「サンダーホースPDQ (英語版 ) 」(MMSI : 366047800 ) [34] を、韓国 の巨済市 にある大宇造船海洋 の造船所 から米国テキサス州 のコーパスクリスティ にある造船所まで移送している[35] 。
ここまで述べてきた事象でその名がいくつも見られることからも分かるように、半潜水式重量物運搬船で規模の大きなものの多くはオランダ 資本の企業ドックワイズ (英語版 ) が開発・建造・所有・運用に当たっており、この分野に特化した世界的企業である。同社は2004年 に「ブルー・マーリン」(IMO: 9186338 ) の甲板 幅を広げて世界最大の重量物運搬船に改造した [要出典 ] (51,821 GT )。姉妹船「ブラック・マーリン (英語版 ) 」(IMO: 9186326 ) [36] も当時世界最大級であった。2012年 に進水 した「BOKA バンガード(ヴァンガード) (英語版 ) 」(91,784 GT. IMO: 9618783 ) [2] は、前2者より遥かに大きく、2012年以来現在(2020年時)において「世界最大の重量物運搬船」である(■右列に画像あり )。同社の船には喪失船もあり、先述した「マイティ・サーバント2 (英語版 ) 」(IMO: 8130887 ) は1999年 11月にインドネシア 沖で海図 に載っていない水中障害物に衝突して転覆 した。また、姉妹船「マイティ・サーバント3 (英語版 ) 」(IMO: 8130899 ) は2006年 12月にアンゴラ 沖で石油プラットホーム 「アリューシャン・キー (GSF Aleutian Key )」(IMO: 8750091 ) [37] を降ろす際に設計限界以上に沈降させたために沈没 してしまったが、2007年 5月に浮揚され、その後には再び就役している。
プラットフォーム
掘削リグとしても海上プラットフォームとしても、石油掘削リグ「ブルー・ウォーター・リグ No. 1」は、世界初の半潜水式である。米国
ニューメキシコ州 の
サンタフェ 沖にて1961年撮影。
半潜水式プラットフォーム (英: semi-submersible platform 、頭字語 :SSP )とは、着底式とも呼ばれる固定式とは違った、半潜水式(英: semi-submersible)の、海上プラットフォーム /海洋プラットフォーム (英: offshore platform)のことで[39] 、全ての形式を名称に載せたならば「半潜水式海上プラットフォーム(semi-submersible offshore platform)」となる。また、多くはリグ /掘削リグであり、そのようなものは、半潜水式リグ (英: semi-submersible rig;セミサブマーシブル・リグ )、半潜水式掘削リグ (英: semi-submersible drilling rig)などとも呼ばれる。日本語ではさらに「セミサブリグ」「セミサブマーシブル[3] 」「セミサブ」とまで略す[注 1] 。また、一部の例外を除いて、半潜水式プラットフォームのほとんどは石油プラットフォーム (英: oil platform)であり、すなわちそれは半潜水式石油プラットフォーム (英: semi-submersible oil platform)などと呼ばれるものである。なお、海上掘削リグの浮遊式リグには、半潜水式のほかにジャッキアップ・リグ (英語版 ) とドリルシップ(掘削船) がある[43] 。
石油プラットフォームの発明者は、ロイヤル・ダッチ・シェル のブルース・G・コリップ (Bruce G. Collipp) と見做されている[44] 。海底油田 の掘削 深度 が100フィート (約30.5メートル )程度になるまでは固定式プラットフォームが建造されていたが、次第に深海 へ移動してメキシコ湾 で100から400フィート(約30.5から約122メートル)程度の深さでの掘削設備が必要とされるようになると、ENSCOインターナショナル (英語版 ) のような専門の海契約業者が甲板 昇降式プラットフォームを投入するようになった。
史上初の半潜水式プラットフォームについては、米国 のインガルス造船所 で1957年 に竣工してメキシコ湾で運用されていた固定式プラットフォーム「ブルー・ウォーター・リグ No. 1 (オランダ語版 ) (Blue Water Rig No. 1)」が、潜水しきらない状態(半潜水状態)になり(■右に画像あり )、そのままの状態で曳航 されたことで、偶然にも「半潜水状態」の有用性が見いだされたという話である[注 2] 。1961年 のこと、ブルー・ウォーター・ドリリング社 (英語版 ) がメキシコ湾でロイヤル・ダッチ・シェル のために保有・運用していた「ブルー・ウォーター・リグ No.1」は、ポンツーン の浮力 がリグ とその消耗品の重量を支えるためには不十分であったため、ポンツーンの上部から甲板の下側の中間くらいまで沈んだ状態で曳航された。その際、この喫水 では動揺が非常に小さいことが観察されたため、両社はこのリグを浮いた状態で運用することにした。それ以来、石油産業専用(石油元売 専用)に設計された半潜水式プラットフォームが用いられるようになった。
半潜水式プラットフォームは、海底油田の石油 や天然ガス を探索し掘削するための安定したプラットフォームを形成する。タグボート によって所定の位置まで牽引・固定され、また独自のアジポッド という推進装置によって動的な位置保持を行う。
これに関連して、「アンクル・ジョン (SSSV Uncle John )」(1977年竣工。IMO : 7529902 )[46] などの潜水作業支援船 も建造されている。
クレーン船
SSCVスレイプニルを間近から見上げる。手前の白く見える施設は居住棟で、そこから突き出ているのは
ヘリコプター甲板 [47] 。2基の起重機は居住棟の反対側に設置されている。
総トン数 82,000の
石油タンカー (手前|
IMO: 9832248 )
[48] と、その奥に控えたSSCVスレイプニル。ブームを高く掲げた10,000トン起重機が
タンデム で聳え立っている。この角度では居住棟は起重機に隠れてほとんど見えない。
沖合での建設工事における半潜水式の利点は、石油産業に続いてすぐに認識され、半潜水式の起重機船 (きじゅうきせん 、クレーン船)の導入が急がれた。オランダ 資本のマリコン 「ヘーレマ・マリンコントラクターズ (英語版 ) (HMC)」が、1978年 に世界で最初の大水深海域建設船 (英: deepwater construction vessel、頭字語 :DCV ) として「DCVボールダー (英語版 ) (DCV Balder )」(IMO : 7710226 )
[49] と、世界で最初の半潜水式クレーンヴェゼル /半潜水式起重機船 /半潜水式クレーン船 (英: Semi-submersible crane vessel、頭字語 :SSCV )として前者の姉妹船「SSCVハーモッド (英語版 ) (SSCV Hermod )」(IMO: 7710214 ) [50] を導入している(2隻とも造船したのは日本の三井造船 )。これら2隻は、2つの低い位置の船体(ポンツーン )と、それぞれのポンツーンに3つの柱と、上部の船体で構成されている。また、同じ年には、J・レイ・マクダーモットの会社(J. Ray McDermott & Co., Inc.. アメリカ 資本の多国籍企業 である現マクダーモット・インターナショナル (英語版 ) の中核的前身)も、DCVボールダーの約半分の規模の半潜水式起重機船「DB 101」(IMO: 7709069 ) [51] を導入している(同船の運用は今では廃止もしくは中止されている[51] )。
半潜水式起重機船は1980年代後半に巨大化し、マクダーモット・インターナショナルは14,200トン吊起重機船「SSCVティアルフ (英語版 ) (SSCV Thialf )」(7,100トン起重機タンデム 。IMO: 8757740 )を1985年 に完成させた[52] [53] 。同船は1997年 以降、ヘーレマ・マリンコントラクターズが所有・運用している。サイペム (イタリア の多国籍油田サービス会社)はパイプレイ船 (英語版 ) でもある14,000トン吊起重機船「サイペム7000 (英語版 ) (Saipem 7000 )」(7,000トン起重機タンデム。IMO: 8501567 )を1987年 に完成させ、現在も同社が所有・運用している[54] 。2019年 にはヘーレマ・マリンコントラクターズが20,000トン吊起重機船「SSCVスレイプニル (英語版 ) (SSCV Sleipnir )」(IMO: 9781425|■右に画像あり )を建造し(2015年発注、2019年進水・竣工。造船はシンガポール の企業セムコープ・マリン (英語版 ) による。最大吊り上げ荷重 (maximum lifting load ):20,000トン〈10,000トン起重機タンデム〉)、運用し始めた[55] [56] [47] [57] [58] [59] 。それ以来、現在(2020年時点)は同船が世界最大の半潜水式クレーンヴェゼル である[55] 。SSCVスレイプニルは、クレーン船としては初めて低硫黄油 (MGO) と液化天然ガス (LNG) によるデュアルフューエルエンジン (dual fuel engine) を搭載し、世界的な環境規制の強化にも対応している[60] 。また、この船には収容人数400の居住棟(白く塗装されている施設)があり、ヘリコプター甲板 とスイミングプール が附属している[47] 。4対8本の脚を備えている当船の名は、北欧神話 の主神オーディン が騎乗する八本脚の神馬「スレイプニル 」にちなんでいる[47] 。
歴代大きさランキング:クレーンヴェゼル(クレーンを搭載したヴェゼル、起重機を搭載した乗り物 )
歴代大きさランキング:半潜水式クレーンヴェゼル(2020年時点|数は一つ目が完成年、2つ目は最大吊り上げ荷重)
第1位:SSCV Sleipnir (2019年|20,000t)[56]
第2位:SSCV Thialf (1985年|14,200t)[52]
第3位:Saipem 7000 (1987年|14,000t)[54]
第4位:SSCV Hermod (1978年|8,100t)[50]
第5位:DCV Balder (1978年|6,300t)[49]
第6位:DB 101(1978年|3,200t)[51] - 唯一、今では稼働していない[51] 。
移動中に半潜水式起重機船は、バラスト水 を排水しており、下部船体の一部のみが水中にある。吊り上げ作業を行う時は、バラスト水を注水して船体を沈み込ませ、下部船体を深く潜水させる。これにより、波やうねりの影響が軽減される。また、柱を遠く離して配置することにより、高い安定性が得られる。この安定性によって非常に重い貨物を吊り上げることができる。
左:4基のFDを写した
空中写真 。手前に大きな3基、右上のほうに小さな1基があり、手前のFDには中型船が2隻、小さなFDには小型船が入渠している。
ポーランド は
グディニャ の港にて2007年撮影。
右:
黒海 に面した
セヴァストポリ の港にて2008年撮影。
乾ドック
船の修理や保守に用いられる乾ドック (ドライドック、英: dry dock, drydock)には、半潜水式として入出渠を容易にしたものがある。これを発展させ、ドック自体に航海能力を持たせたものを、フローティング・ドライドック (英: floating dry dock, floating drydock. cf. en:Dry dock#Floating )、あるいは、略してフローティングドック [61] [62] (英: floating dock、頭字語 :FD [61] [62] )と呼ぶ。
船体(船底)と両舷の壁面から構成された凹字 型をしていて、船橋は壁面上に備えられている。航行困難に陥った船に半潜水状態で接近し、入渠させてから浮上することで修理や保守を行える。ただし、船体は比較的短いため、小型船以外は船首と船尾がはみ出すことが多く、港へ曳航 するための応急修理目的が多い。
日本では主に、大規模な防波堤 の築造に用いるケーソン (英: caisson)製作等に使われることが多いため、ケーソンドック (和製英語 的用法: caisson dock)の別名が定着している。港に停泊して船台に型枠を組み、ミキサー車 でレディーミクストコンクリート 用のセメント (日本語通称: レミコンセメント)を運び込み、ビル を建てるようにケーソンを建造することができる。
完成・養生 後に波が穏やかな日を選んで出航し、目的地で潜行してケーソンを海に浮かせ、自らは離脱して浮上する。後はケーソンの空気抜き管を慎重に開閉して沈着させる。これを繰り返すことで巨大な堤防 を比較的安全に築造することができる。設置する港は建造する港から近いことが望ましいが、離れている場合でも現地施工よりも遙かに容易・安価で済むことから広く普及した。
ロケット発射台
左:半潜水式ロケット発射台「オデッセイ」/
カナダ の
バンクーバー島 にて2007年撮影。
右:司令船「シーローンチ・コマンダー」(手前)と発射台「オデッセイ」(奥)/ 母港(ロングビーチ港)にて2019年撮影。
ペルー海軍 が2019年に押収した、麻薬密売人の半潜水艇
スペースローンチプラットフォーム (英: space launch platform )とは、ロケット などを宇宙 へ向けて打ち上げるための発射台 (ローンチプラットフォーム 、ローンチパッド 〈launch pad 〉)のことであるが、半潜水式のスペースローンチプラットフォーム というものがある。
多国籍企業 シーローンチ は、1988年 製の半潜水式石油プラットフォーム「オーシャン・オデッセイ (Semi-submersible Ocean Odyssey )」を改造した半潜水式ロケット発射台「オデッセイ (英語版 ) (Launch Platform Odyssey )」を1997年 に完成させ、オデッセイに合わせて開発されたロケット「ゼニット3SL 」の発射台として用いられている。オデッセイは打ち上げ海域へのロケットの運搬にも使用されている。船舶としては、ロケット発射台サポート用の特殊船舶(英: Rocket Launch Support Ship)「シーローンチ・コマンダー 」を司令船として2隻一組の「オデッセイ」(LP Odyssey . IMO : 8753196、MMSI : 636010468 ) である。同船の母港 は米国ロサンゼルス のロングビーチ港 (英語版 ) 。
その他の使用
密輸
コロンビア の麻薬カルテル などがコカイン 密輸 用に建造しており、レーダー 反射が小さいことから取り締まりが困難になっている。
脚注
注釈
^ ただし、「リグ」を欠いた「セミサブマーシブル」「セミサブ」まで行くと、省略がすぎて本来の語意を全く残していない。
^ ただし、そうではなくて、大陸棚 が少なく急に水深を増すメキシコ湾の海底の特殊性や自然環境および景観 への配慮が盛んに叫ばれ始めていたことから開発を希求されていた半潜水式の最初の1基として「ブルー・ウォーター・リグ No. 1」が建造・運用されたと解説する資料もある。
出典
参考文献
ISBN 0-8517-7891-7 , ISBN 978-0-8517-7891-4 , OCLC 59545951 .
外部リンク