造船所(ぞうせんじょ、英:shipyard)は、船を建造したり、修理や整備する施設(場所)である。
造船所は海に面して、あるいは干満のある川に面して作られる。 造船所には船台方式のものとドック方式のものがあり、船台は主に最初の建造に使われるのに対して、ドックは修理に使われることが多い。
船舶には小型船舶、漁船、セーリングクルーザー(ヨット)、クルーズ客船、貨物船、軍艦などさまざまな種類があるが、造船所ごとに得意としている船舶の種類がある。
大きな造船所は、鋼鉄製の船を造り、クレーン、乾ドック(ドライドック)、船台、ほこり対策の施された倉庫、塗装施設や船舶組み立て用の広大なスペースなどを備える。一方、小さな造船所の中には、もっぱら木造船(木製の船)を造り、主に木材加工用の機械を備えることで済ませているところもある。
小型船舶、漁船、セーリングクルーザー(ヨット)、クルーズ客船、貨物船などは民間の造船所が造る。一方、軍艦は海軍や国家が所有する造船所が建造することが多い。
アメリカ合衆国でも、民間の船舶は民間の造船所が造っている。アメリカ海軍の艦船の修理と補給をアメリカ海軍所有の造船所が行っているが、アメリカ最大の造船所は軍需企業であるノースロップ・グラマンである。
歴史的にはヨーロッパには比較的大きな造船所が多く(→#歴史)、幕末や明治の日本も欧州の造船所で建造された船を購入した[注釈 1]が、その後に世界の造船所が大型化し、現在では欧州の造船業は比較的小規模の会社(小規模の造船所)が沢山ある傾向にある、と考えられるようになった。一方、アジアでは少数の大企業(大規模な造船所)が造船を行っている。2025年現在、造船産業の大きな国は、中華人民共和国(世界市場の市場占有率(シェア) 43 %)、韓国(シェア 31 %)、日本(シェア 19 %)[1]の他、アメリカ合衆国、ドイツ、トルコ、ポーランド、クロアチアなどである。なお、船舶がその寿命を終えると、主に南アジアなどにある船舶解体場へ送られる。歴史的には船舶解体も先進国にある乾ドックで行われてきたが、コストの問題や環境規制の関係から発展途上国へと移ることになった。
世界でもっとも初期の造船所は、インダス文明において紀元前2400年頃、現在のインド、グジャラート州にあった港町であるロータルに建設された。ロータルの造船所は、シンド州のハラッパーの都市群と当時周辺のカッチ砂漠がまだアラビア海の一部であったカチャワル半島を結ぶ交易路上にあるサバルマティ川(Sabarmati River)に面していた。ロータルの技術者は高い精度で造船所と交易用の倉庫を建設した。造船所は町の東側に沿って建設され、考古学者によって技術上の偉業であると評価されている。土砂で埋まってしまうことを防ぐために川の本流からは離されているが、潮が満ちた時には船が出入りできるようになっていた。
中世のヴェネツィア共和国で、はじめて工場で船舶が量産されるようになった。ヴェネツィア共和国の造船所、アルセナーレ・ディ・ヴェネツィアではあらかじめ製造されていた部品と組み立てラインを使い、最盛期には16,000人の人を使って、ほぼ毎日1隻のペースで船が大量生産されていた。
イギリスでは1512年にヘンリー8世がテムズ川でウーリッジ造船所(Woolwich Dockyard)、1513年にデプトフォード造船所(Deptford)を造った。そのほかマージー川、ティーズ川(River Tees)、タイン川(River Tyne)、ウィア川(River Wear)、クライド川などにも造船所が作られ、特に後者はかつての世界でも有名な造船センターへと成長した。アルフレッド・ヤーロー卿(Alfred Yarrow)も、19世紀末にロンドン、ドックランズのテムズ川沿いに造船所を構え、後に北へクライド川沿いのスコッツタウン(Scotstoun)に移転した。他のイギリスの有名な造船所としては、北アイルランド、ベルファストのタイタニック号を建造したハーランド・アンド・ウルフや、ケントのチャタム(Chatham)にある海軍の造船所がある。
船舶は定期的に造船所のドックに入って、普段は水面下で見えない船底部分も含めた検査と補修を受ける。これらもまた造船所の仕事となる。
ドック入りの時には、船級協会や船籍国政府の検査を受けて合格しないと、「船級」が維持できずに、船体保険や貨物保険が掛けられなくなる。稀に船級を持たないまま運航する船があり、これらは「サブスタンダード船」と呼ばれ、海難リスクの高い船として注意が払われる[2][3]。
何年も自然の水面に浮かんでいる船の船底には、フジツボなどの水生生物が付着したり腐蝕したりして凸凹が生じる[注 1]。この度合いを「表面粗度」(ひょうめんそど)と呼んで、この抵抗の増加は船速を遅くして航海日数を増やし燃費も悪くするため、定期的な清掃作業が必要となる。船体表面の付着物は高圧水流によって取り除かれ、船底部は特に「船底塗料」と呼ばれる専用の塗料で再塗装される[4]。大型船の船底を清掃するにはドック入りが必要となりコストがかかることから、汚れや生物の付着を防ぐ効果を持つ塗料が研究されてきた。
以前から使用されてきた自己研磨型塗料のうち有機スズ化合物(トリブチルスズなど)を含む物は、その毒性[注 2]の高さから環境破壊の原因として国際的に使用が禁止され、現在では塗料の成分が溶け出すことで表面への付着を阻害する自己研磨型(自己消耗型)塗料[注 3]が使われている。船は2-3年ごとに主に船底部の再塗装の為にドック入りして塗り替えが行なわれ、多くの場合、船底部と同時に喫水より上も含めた船体全体が清掃されて必要ならば再塗装される[2][3]。またスクリューの掃除と再塗装も同時に行われる[注 4]。