一体型の「ピックアップ」(日産・サニートラック )
分離型の「ボンネット」(トヨタ・ハイラックス )
アメリカのフルサイズピックアップトラック(フォード・F-150 )
ピックアップトラック (pickup truck )は、キャビン以降に開放式の荷台を有する小型貨物自動車 の一種。日本 では車体前方にセダン やクーペ と同様のボンネット を持つトラック とされ、車検証 の「車体の形状 」欄は、キャビンと荷台が一体のものは「ピックアップ」、別体のものは「ボンネット」と記載される。
雨 や雪 が多く燃料価格が高価で、1台あたりの輸送効率が重視される日本やヨーロッパ での需要は少ない一方、北米 をはじめ、タイ を中心とした東南アジア 、アフリカ 、南米 、中東 、オセアニア などでは個人・商用問わず高い需要がある。アメリカでは税制でも優遇されており、自動車販売台数の上位をピックアップトラックが占めている[ 1] [ 2] 。
名称
ピックアップ(Pickup)という名称の由来ははっきりしないが、1913年 にアメリカのスチュードベーカー が使い始め、1930年代 にはpick-upとハイフン で区切る表記が一般化した。
日本では、キャブオーバー 形は、小型のものでもピックアップには含まず、単にトラックと呼ばれることが多い。
南アフリカ とオランダ では「バッキー」(Bakkie)とも通称 され、オセアニア では荷箱一体型(Coupé utility )の人気が特に高く、その影響で現在の一般的なピックアップトラックも「ユート」(Ute )と呼ばれている。
車体
開発費抑制のため、多くはスポーツ・ユーティリティ・ビークル (SUV)と車台 を共用しており、より大型のトラックと同様にはしごフレーム を持つものがほとんどである。乗用車 ベースに見えるものには、はしごフレームに乗用車のモノコック 前部を流用して載せたものと、完全なモノコックボディー(ユニボディ)のものとがあり、中にはFF式 のものもある。
アメリカ合衆国 製の車両では、荷台後方の扉(テールゲート、アオリ)を通常の水平位置ではなく、ロックやチェーン を外して下まで降ろして使う(ドロップゲートとする、ゲートを落とす、アオリを切る)際、重いゲートと排気管 (テールパイプ)の接触(衝突)を避けるため、テールパイプを荷台後方側面から出している。
一般的な商用 トラックに見られるような、前車軸とエンジンを運転席の下に配置するキャブオーバー 型に比べると、ボンネットトラックは、衝突安全性、操縦安定性、運転姿勢、乗り心地、静粛性、遮熱、遮音などの面でメリットがあり、それゆえ、個人が乗用車的な使用目的(パーソナルユース)で購入することも多い。
利用
北米
1913年にオハイオ州 のコーチビルダー であった、ガリヨン・グッドウィン・トラックボディ 社がフォード・モデルT を改造して、後部にトレイを載せた物が発祥とされる。これが農場 等で好評だったため、1924年にはダッジ も3/4トントラックのウッドボディ・ピックアップを登場させ、さらに翌1925年にはフォードも自らピックアップの生産を開始することになる。1931年にはシボレーも参入。1950年代になると各社はよりスタイリッシュなモデルを続々と登場させ、貨物用途車というよりファッション性で選ぶ消費者が増えてきた。さらにピックアップトラックの自動車税が州によって無税か割安になるため所得 の少ない若者 達がこぞって乗り始めたため急速に普及した[要出典 ] 。また中西部 や南部 では、その武骨で力強いスタイルが西部開拓時代 のシンボル である馬 を彷彿させ、ピックアップトラックに乗ることが一種のステータス のようにとらえられている。これに迎合し、ピックアップトラックのテレビCM の大半にカントリー・ミュージック が使われている。そのステータス性は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー 』で主人公マーティーが憧れる車として描かれたことでも窺える。これらの人気要素に着目した米国の旧ビッグスリー と、現地のトヨタ 、日産 、ホンダ がフルサイズ ピックアップを生産をしている。ほとんどの車種が自社のSUV と共通のはしご形フレーム を有しているが、ホンダ・リッジライン はUSアコード やレジェンド の派生車であるため独立したフレームを持たず、ライトデューティーとなっている。
アメリカにおいては道路 や駐車場 /車庫 が広く、車格 が大きな車でも扱いやすい。このためフルサイズ ピックアップに人気が集中している。そのV8エンジン 独特の太い音 に愛好家が多く、マフラー や排気管の改造も盛んに行われている。さらに費用の面でも他国と比べて石油 の価格 が安く、自動車税 (車両登録税)[ 3] や自動車保険 料が乗用車よりも安く設定されている事や、自動車メーカーが購入者に対して多額の奨励金(キャッシュバック)を出している事も普及が進んできた理由である。
アメリカでの使われ方は発展途上国 のように荷物や人を満載するような使い方ではなく、パーソナルカーとして普段は空荷で走らせることが多い。そして引越し やレジャー などにだけ荷物を載せ、あるいは後ろにトレーラー を繋げて走らせたりする。商用よりはむしろ通勤 ・通学 用、レジャー 用、家庭 用として使用されることが圧倒的に多い。2002年 の調査によれば、販売されたピックアップトラックのうち商用としては約19 %しか使用されていないのに対し、約77 %が個人用として使われているという結果であった[ 4] 。アメリカでのピックアップトラックの人気の高さは、全米で最も売れている車がフォード・Fシリーズ (年間90万台以上)、2番目に売れている車がシボレー・シルバラード であるということからも分かる。中でもテキサス州 では非常に人気が高く、全米のピックアップトラックのおよそ14 %が売れており[ 5] 、全米最大の市場 となっている。堅調なセールスを受け2006年 にはトヨタがフルサイズピックアップトラックタンドラ の生産 工場 をテキサス州サンアントニオ で稼動させている。
オセアニア
オーストラリア、ニュージーランドなどではピックアップトラックではなく「ユート」(クーペ・ユーティリティ/coupe utility が語源)と呼ばれ、その発祥は1932年にオーストラリア・ビクトリア州 のある農場夫の妻が、フォード・オーストラリア 社に送った「貨客どちらにも都合良く使える車はできないのものか?」という要望に応える形で1934年に製作された「クーペ・ユーティリティ」が最初である。ライバル社であるホールデン も1951年に同じようなコンセプトの車を登場させており、以来この2社が乗用車をベースとしたタイプを歴代ラインナップしてきた。アメリカ同様、若者達がファッションとして乗るのをはじめ、警察車両、農場、建設業など幅広い用途で高い人気を誇っていたが、2016年にフォード・オーストラリアが、2017年にホールデンが生産工場を閉鎖したため、それと同時にオーストラリア製のユートは消滅し、主流はホールデン、フォード・オーストラリアや日系メーカーがタイから輸入するフレーム付ユートに移行した。
日本
日本では、1940年代から1970年代にかけては1t積み程度のものを中心に、すべてのメーカーがピックアップトラックを生産、販売していた。個人商店 では配送業務に、農家 では農機具 や農作物 の運搬などに利用され、休日にはセダン やクーペ 代わりのレジャー用として家族のドライブにも活躍していた[要出典 ] 。セダンやクーペ、ステーションワゴン などの乗用車が高嶺の花であった時代、トラックの「時々、乗用車 」という用途には、運転姿勢が立ち気味で、騒音や熱気の侵入が多いキャブオーバー 型は適しておらず、ボンネット型の伸びやかなスタイルと、ゆとりある着座姿勢が大きなアドバンテージとなっていた。総排気量の上限が500cc以下までの頃(1976年 以前)に生産された軽トラックは現在よりも相当小型・窮屈で、積載時の走行性能も満足の行くものではなかったことも、小型ピックアップを選択する要因の一つであった。また1980年代のRV ブームではその恩恵を受け、人気を集めた。
その後日本の小型トラックの多くは、前述の騒音と熱気の問題が改善されたことからスペース効率の高いキャブオーバータイプへ移行し、ボンネット型は主流ではなくなった。天候による荷傷みの心配や荷造りが面倒なことから配送業務はライトバン に移行するようになり、キャブオーバートラックすらもまた軽自動車の規格改定による大型化によって軽トラック への買い替えが進み、小型トラックの販売台数は急激に減少していった。
2000年代以降、NOx規制 やPM 条例、加えてエコカー減税 などの影響もあってピックアップトラックの国内販売終了が相次ぎ、2011年 夏に三菱・トライトン (タイ生産)が、同年10月にフォード・エクスプローラー スポーツトラックがそれぞれ販売終了となり、日本国内で新車購入可能なピックアップトラックはこの時点で消滅した。
その後、2014年にトヨタ自動車がランドクルーザー70 を1年間の期間限定で販売し、2017年9月からはハイラックス の通年発売を再開した。ハイラックスの購入層の60%が20代 - 30代の若年層 で、レジャーでの実用性やファッション性が高く評価されており、その点ではSUV やクーペ のようなスペシャルティカー に近い趣がある[ 6] 。2021年11月にはFCAジャパン(現:Stellantisジャパン )がジープ・グラディエーター の販売を開始し、2024年には三菱自動車工業 がトライトンの販売を再開した。
また、日本の自動車メーカー の日本国内でのピックアップトラック生産は、輸出向けとして生産が続いていた日産・ダットサントラック が2012年 3月に国内生産を終了したことで[ 7] 、トヨタ・ランドクルーザー70(トヨタ車体 吉原工場[ 8] )と日産・パトロール (日産車体 湘南工場[ 9] )のみとなっており、他は全て海外工場への移管(そのほとんどがタイ または北米 )が完了している。
欧州
ヨーロッパ圏においても一定の需要があり、日系メーカーが継続的にラインナップしているほか、フォード・ヨーロッパ、VW、ルノー、メルセデス・ベンツなどが参入している。
その他
アジア 、中南米 、南アフリカ などで生産されているものは、以前の日本製ピックアップに近い、小型から中型サイズのものばかりである。中でもタイ は販売台数・生産台数共に多く、タイでの販売のみならず世界各地へ輸出されており、今日ではピックアップトラックの主要生産・輸出国となっている。タイでのピックアップトラックの販売シェアは、トヨタ 、いすゞ 、三菱 の3社が多くを占める。
軍事
機関銃を備えたトヨタ・ハイラックス (シリアのクルド人勢力、2012年)
発展途上国 や独立武装勢力を中心に大量のピックアップトラックがほとんどそのままの形で、人員や物資の輸送に使用されている。
加えて荷台に重機関銃 や対戦車火器(無反動砲 や対戦車ミサイル )、長距離ロケット砲 や対空砲 を搭載して車上射撃を可能にした「テクニカル 」と呼ばれる車両が広く使われており、紛争の趨勢を決める存在にすらなっている。
1987年のチャド で行われた内戦 では両陣営でトヨタ自動車 のピックアップが多用されていたため、「トヨタ戦争 」(Toyota War)という別名がある。
モータースポーツ
北米オフロードレースのトロフィー・トラック。これはシボレーのピックアップトラックを模しているとするが、実際はベース車両の原型をほぼ留めていない。
オフロード レースやラリーレイド におけるピックアップトラックは、SUV と並び最高峰クラスを争う車両として採用される。ただしそうしたピックアップトラックの大部分は、鋼管フレーム で競技専用に設計されたもので、市販車のピックアップトラックとはかなり異なった形状となっていることが多い。
2001年から鋼管フレームによるワンオフボディが認可されているダカール・ラリー の四輪部門では、メーカー系チームは販促の都合もあってSUVがベースであることが多いが、アフリカ開催時代に日産自動車 が南アフリカ 法人を主体としたワークスチームを結成し、ナバラ で参戦していたことがある。2010年代以降は南アフリカ法人主体のTOYOTA GAZOO Racing がハイラックス で参戦し続けており、2019年にトヨタ初の総合優勝を挙げている。
市販車の改造であるアジアクロスカントリーラリー (AXCR)のトップクラスはピックアップトラックが主流で、いすゞ・D-MAX や三菱・トライトン 、ハイラックスなどが争っている。
全日本ラリー選手権 では0カー・00カーとしてしばしハイラックスが用いられている他、オープンクラスでの参戦例もある。
北米のオフロードレースでは、サーキット・ダートのショートコース・オフロード耐久問わず、鋼管フレームで設計された、ピックアップトラックの形状を保ったマシンがバギーカー に並んで人気を集めている。外観の形状はいずれも似通っているが、名称はカテゴリによって差異があり、バハ1000 はじめとするSCOREインターナショナルではトロフィー・トラック 、BITD(Best In The Desert)ではトリック・トラック 、スタジアム・スーパー・トラック ではスタジアム・トラック などと呼ばれる。また長距離オフロードレースで下見を行うために、競技に近い形で改造されたピックアップトラックやSUVをプレランナー と呼ぶが、これを模したカスタムが一部で人気がある。
超巨大マシンに超巨大なタイヤを履かせて、破壊をも競技の中に組み込んだモンスタートラック もピックアップトラックの形状のマシンで行われる。
路面がダートであった頃のパイクスピーク・ヒルクライム では、当時最強だったロッド・ミレンが鋼管フレームのトヨタ・タコマ を選択。直列4気筒ターボの3S-GTE と四輪駆動 システムで武装したこのマシンは、1998年・1999年に総合優勝を記録している[ 10] 。また全面舗装化後の2024年大会はフォード・F150のデザインのEVが制覇した。
舗装路でのサーキットレースも行われており、NASCAR のキャンピング・ワールド・トラック・シリーズ がよく知られる。またオーストラリア では2001年からV8スーパーカー のサポートカテゴリとして、市販ピックアップのフレームを用いる「V8ユート」が開催されていた。現在はV8スーパーカーがV8の冠を外したのに伴い、2017年に「スーパーユートシリーズ 」として再出発している[ 11] 。この他タイ王国 でもタイランド・スーパー・シリーズ の一部門として、タイランド・スーパー・ピックアップ がサーキットで行われている[ 12] 。
日産・ナバラのワークス車両
デザートレースのトヨタ・ハイラックス
バハ1000のRPMトロフィー・トラック
CORRのフォード・F-150
モンスタートラック
パイクスピーク・ヒルクライムのトヨタ・タコマ
スタジアム・スーパー・トラックス
豪V8ユートのフォード・ファルコンユート
日本メーカーのピックアップトラック(国内生産)
日本メーカーのピックアップトラック(国外生産)
一覧
トヨタ自動車
トヨタ・タンドラ
日産自動車
日産・タイタン
本田技研工業
ホンダ・リッジライン
三菱自動車
マツダ
マツダ・BT-50
BT-50 - 3代目はいすゞ・D-MAXのOEM
スバル
スバル・バハ
いすゞ自動車
いすゞ・D-MAX
スズキ
各メーカーのピックアップトラック
脚注
注釈
出典
関連項目
外部リンク