『RIDE ON TIME』(ライド・オン・タイム)は、1980年9月19日 (1980-09-19)に発売された山下達郎通算5作目のスタジオ・アルバム。
アルバム『MOONGLOW』[注釈 1]のレコーディング中の1979年 (1979)夏、山下はオルガン・プレイヤー、ドン・ルイスの来日公演に参加した吉田美奈子から、同じく参加メンバーだった当時まだ22歳のドラマー青山純を紹介された[1]。青山は、佐藤博のグループ“ハイタイムス”[2]で共にメンバーだったベーシスト伊藤広規と、山下のバンドメンバー・オーディションを兼ねたセッションに参加することになった。青山によれば“とにかくじゃあまずこの曲をやってみよう”と山下から渡された譜面には「ついておいで」とタイトルが書かれていたという。青山は“この曲ならちょっとは知っているし、好きなドラム・パターンだし”と思いその曲に始まりその後、数曲のセッションを終えてもう終わりかと思う頃、山下はその後も次々と譜面を出してきたが、それでも伊藤と共に演奏できない曲はほとんど無かったので助かったという。そんな中、曲名は忘れたというが6/8拍子のおよそロックしかやっていないドラマーだと叩けないようなバラード曲の譜面を出してきた。後に青山は“きっと若造だった我々にはおそらく無かったであろう渋さを試してみようと、達郎氏も期待はそんなにしていなかっただろうと思っていた”というが、当時からその手の音楽が好きだったがゆえ、演奏経験の乏しさは否めないが二人とも何の抵抗も無く、青山は“気持ちいいなぁ”と思いながら演奏を終えた。その直後、山下からかなり怖い顔つきで“ねぇ君、青山君だっけ? あのさぁ、歳いくつなんだっけ?”との問いに“22歳ですけど、何か? まずいッスかねぇ?”と返すと、“何で今やったような曲のドラムも叩けんのよ、おかしいよ、その歳で!”と言われたという[3]。
雑多なパターンの曲を演奏したいという作家志向の強い山下は、それまでは多くのミュージシャンと演奏して来て、曲調に合わせてメンバーを使い分けてきた。スタジオではそれで十分でもライブ・ステージとなるとメンバーの選定によっては演奏できない曲調がどうしても出てしまったが、その点でどんなスタイルも自身の満足するグレードで演奏できるはじめてのコンビが青山純・伊藤広規だった。彼らとの出会いによって、ライブでの演奏レパートリーが飛躍的に増え、シュガー・ベイブ以来、自身の思い描いていたライブの理想パターンが初めて現実化する見込みが出てきた。結局その日のオーディションのようなセッションが一回行われた後、次回からはステージで演奏するためのリハーサルに突入した。彼等は1979年の暮れからライブの正式メンバーとなり、さらに年が明けてからはレコーディングのメンバーにもなっていった。こうして青山・伊藤の2人が、『GO AHEAD!』[注釈 2]からのメンバーである難波弘之と椎名和夫に合流し、ようやくレコーディングとライブを共通の固定メンバーで行えるようになった。練習スタジオでパターンを練り上げ、スタジオに持って行ってレコーディングを行うという作業もメンバーが固定したこの頃から始まり、様々なリズム・パターンを実践的に試みて曲作りに反映させる方法は、家で一人で考えるそれまでのやり方からは思いつかない多くのアイデアを生み出した。
同じ頃、『MOONGLOW』[注釈 1]のロング・セラーに気を良くしていたディレクター小杉理宇造はいよいよ勝負に出る時だと、山下自身がテレビ・コマーシャルに出るという企画のタイアップを取ってきた。CM作曲家としてはすでにある程度のキャリアがあった山下にとって、小杉が持ってきたそのプロジェクトのコピーライター・演出家・広告代理店のプロデューサーたちいずれともずっと以前から面識があり、そこをうまく突かれてオファーを承諾してしまった。そこから生まれたシングル「RIDE ON TIME」[注釈 3]は、山下にとって初のヒット曲となった。
シングル・ヒットを受けて制作が開始された本作は、音楽的な路線は前作『MOONGLOW』[注釈 1]の延長であるものの、一番の違いは制作予算だったとし、ヒットが出たことで売り上げが見込め、スタジオ代を気にせずに違うテイクやアレンジがトライできることが長年の夢で、それがこのときようやく実現できたという。それによってこの時期、数年前とは見違えるように曲が作れるようになったのだともしている。その反面、「RIDE ON TIME」[注釈 3]のヒット後に芸能メディアの酷悪さを垣間見たことから、その反動でこのアルバムは浮き足立ったりせず玄人受けする内容にするのだという意思が強く働いたという。その結果、出来上がった作品に対して当時近しい関係者からさえも“地味だ”などとずいぶん言われたが、今となればこの制作方針で正解だったとつくづく感じるという。山下のミュージシャン人生にとっての幸運は、もっとも大きな音楽的・商業的な転換時期に上り調子のミュージシャンとの出会いと彼らとの最良のコミュニケーションの中でレコーディングとライブを構築できたことだと思えるとしている。
初回盤LPはCM撮影時のスチール写真に、マクセルのロゴマークと「いい音しか残れない」のコピーが印刷された被せオビ仕様で発売された。
1990年 (1990)、山下自身によるリマスタリングで再発されたが2002年 (2002)、“山下達郎 RCA/AIRイヤーズ 1976-1982”として、『CIRCUS TOWN』[注釈 11]から『FOR YOU』[注釈 12]までの7タイトルが山下監修によるデジタル・リマスタリング、および、自身によるライナーノーツと曲解説。CDには各タイトル毎に未発表音源を含むボーナス・トラック収録にて再度リイシューされた。本作には「RIDE ON TIME」[注釈 3]のシングル・ヴァージョンのほか、未発表曲を含む4曲をボーナス・トラックとして収録。また、本作を含むRCA/AIRイヤーズ対象商品7タイトル購入者に応募者全員への特典として、リマスター盤『COME ALONG』がプレゼントされた。また、2003年2月 (2003-02)下旬から3月末まで鈴木英人書き下ろしイラストをあしらった、三方背ボックス仕様の期間限定スペシャル・パッケージで発売された。
2023年1月6日 (2023-01-06)、山下達郎が1976年 (1976)から1982年 (1982)にRCA/AIR YEARSから発売したアナログ盤とカセット、全8アイテムに最新リマスターを施した“TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection”が5月から5カ月連続リリースが決定したことが発表された[7]。
アナログ盤とカセットの同時発売で、アナログ盤はすべて180g重量盤。完全生産限定盤。5月3日に6thアルバム『FOR YOU』[注釈 13]、6月7日に5thアルバム『RIDE ON TIME』、7月5日に4thアルバム『MOONGLOW』[注釈 14]と3rdアルバム『GO AHEAD!』[注釈 15]、8月2日に2ndアルバム『SPACY』[注釈 16]とソロデビューアルバム『CIRCUS TOWN』[注釈 17]、9月6日にライブ・アルバム『IT'S A POPPIN' TIME』[注釈 18]とベスト・アルバム『GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』[注釈 19]が発売された[7]。
オリジナル・アナログ盤に封入されていた、歌詞が掲載されたレコード中袋を同封。裏の歌詞掲載面は、オリジナルをもとにリデザインされたものとなっている。その他、2002年 (2002)に“TATSURO YAMASHITA THE RCA/AIR YEARS 1976-1982”の一枚にてリイシューされたリマスター盤『RIDE ON TIME』に収載された書き下ろしの解説と曲目解説を補筆改定にて再掲のほか、“曲目解説 付記 in 2023”を新たに加えたライナーノーツを新規封入。リマスタリング・エンジニアはワーナーミュージック・マスタリングの菊地功、カッティングは同じくワーナーミュージック・マスタリングの北村勝敏がそれぞれ担当。
5月24日、最新リマスター&ヴァイナル・カッティング8タイトルが、多くの予約を得たことでCDショップ/オンラインショップでは売切れが多数発生。また、発売元であるソニー・ミュージックの設定販売価格よりも大きく逸脱し、高価格の転売商品が多数出回っている状態は本意ではないとのことから当面の間、商品の追加プレスを行うことが発表された[8]。
5月3日から5カ月連続でリリースされる山下達郎のリマスターシリーズ“TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection”のティザー映像がYouTubeで公開された。山下達郎自らがノンストップミックスで編集したマスターエディット使用した本シリーズのティザーでは8ビットのドライブゲーム風の映像に乗せて、収録曲がダイジェストで楽しめる内容となっており[9][10]、本作『RIDE ON TIME』からは「RIDE ON TIME [シングル・ヴァージョン]」が選ばれている。
6月19日付「オリコン週間アルバムランキング」で5位(初週売上1.8万枚)にランクイン。第1弾『FOR YOU』[注釈 13]は、5月15日付「オリコン週間アルバムランキング」で4位となり、1982年6月14日 (1982-06-14)付以来40年11か月ぶりにTOP10入りしたことから、邦楽アーティストの「同一作品による週間アルバムランキングTOP10入りインターバル最長記録」を樹立した[6]。
しかし、『RIDE ON TIME』(1980年9月 (1980-09))は『FOR YOU』(1982年1月 (1982-01))の前作となる通算5枚目のアルバムで、TOP10入りは1980年10月27日 (1980-10-27)付の4位(当時のLPランキング)を記録して以来42年8か月ぶりのTOP10入りとなったため、その記録は本作によって、わずか1か月で自己更新となった[6]。
Let It Be Me (山下達郎&竹内まりや)
14日(合算週: 2週分)・21日・28日 夢がたり(久保田早紀)