グラマン G-21 グース
米海軍のJRF-5(1942年)
用途 :輸送・哨戒用 水陸両用飛行艇
製造者 :グラマン
運用者
初飛行 :1937年
生産数 :345機
ユニットコスト :62,180 US$(JRF-6B,1942年)
グラマン G-21 グース (英語 : Grumman G-21 Goose )は、グラマン 社によって設計・製造された水陸両用 飛行艇 である。グースは英語で雁 を指す。
当初はロングアイランド からマンハッタン に通勤する富豪のための8座飛行艇として設計された。本機はグラマン社最初の単葉機 であり、また最初の双発機 でもあり、さらに最初に民間用にも設計された航空機だった。
第二次世界大戦 の間、本機は米軍 や米沿岸警備隊 だけではなく、ほかの連合国 にも提供され、輸送任務などで活用された。大戦の間、本機は多くの戦闘と訓練の役割を引き受けた。戦後も使い勝手の良い輸送機として使用され続けている。
設計・開発
米海軍JRF-1の塗装をされた、元英海軍JRF-6B。
1936年 、E・ローランド・ハリマンを含むロングアイランド の富豪グループは、自分たちがニューヨーク へ飛ぶための飛行機の開発をグラマン に依頼した[ 1] 。グラマンは、軽量な水陸両用の輸送 飛行艇 としてG-21 を設計した。グラマンの無骨な設計陣は、フラップ などの一部を除いてほぼ全金属製の高翼単葉機を作った。双発のプラット・アンド・ホイットニー R-985 エンジン(450馬力 (340 kW)、空冷 9気筒星型 )は、主翼前縁に取り付けられた。深い胴体は船体としても機能し、手動引き込み式の着陸装置が装備されていた。
1937年 5月29日に試作機の初飛行が行われた[ 2] 。
機体内部のスペースには余裕があり、輸送や旅客用途に適していた。水陸両用機であったため、多くの場所へ飛ぶことが可能だった。G-21は水陸両用旅客機として製造販売された[ 3] 。
改良
マッキノン G-21G ターボ グース
マッキノン
本機には多くの改良型が作られたが、最も多く作ったのはオレゴン州 サンディのマッキノン・エンタープライゼス社だった。マッキノンはG-21シリーズ改良のため、21の補足認定証明 (英語版 ) (STCs)を取得、4か所の変更を施し、FAA 型式認証(TC no. 4A24)の再認証を受けた[ 4] 。マッキノン最初の型式G-21C は、エンジンを旧型のR-985から4発のライコミングGSO-480-B2D6に換装した。G-21Cは1958年 11月7日、TC no. 4A24として承認され、翌1959年 にかけて2機の試作機が作られた。
2番目のマッキノンの改良機モデルG-21D の、G-21Cからの変更点は、機首部分の36インチ (91cm)、および水平尾翼と昇降舵の12インチ(30cm)の拡大だった。G-21Dの拡張された機首部分には両側に2つの窓が設けられ、4つの補助席が収容可能だった。1機だけのG-21DがG-21Cからの改造で作られ、のちにタービンエンジンを搭載し、「ターボプロップ・グース」の愛称で呼ばれた。
G-21Dのタービン換装の後に、マッキノンは、TC No.654として認定されていた、オリジナルのグラマンG-21Aに、同じ550shpのプラット&ホイットニーPT6A-20エンジンを取り付けるために、STC(SA1589WE)を開発した。1967年 2機のG-21Aが「ハイブリッド」タービン搭載に変更された。この2機は他にも多くのマッキノン改良機同様の改良を施されたので、後に作られたマキノン・タービン換装型のG-21Eと混同されたが、公式にはマッキノンTC 4A24として再認定されることは無く、形式名TC No.654の「グラマンG-21A」のままだった。
2機の「ハイブリッド」G-21Aのタービン変換を終えた1968年 に、マッキノンは他の2機のG-21Aを、再認定されたG-21C(TC 4A24)同様のタービン構成でSTC SA1320WEタービンを採用して改良した。
しかし、G-21C設計の一部である、4台のライコニングGSO-480シリーズピストン・エンジンからのタービン・エンジン移植に関係なかったいくつかの構造的な内部の補強を欠いていたようで、その結果最大総重量10,500ポンド(4769kg)まで動くことは公認された。マッキノンはこれらのG-21Cを「ハイブリッド」と呼んだ。しかし1年後にそれらはFAAによって TC 4A24 の新しい型式として認定された。
マッキノンの3番目のモデル、G-21E は、前のG-21C「ハイブリッド」の改良を基にした。当初はG-21Dに使用したのと同じ改良タービン、双発550shp PT6A-20ターボプロップ機で認定された。その後G-21Gの承認後、680shpプラット&ホイットニー・カナダPT6A-27エンジンをG-21Eのオプションとして承認した。実際に制作・再認定された唯一の例として、より強力なPT6A-27エンジンを搭載したG-21Eがあった。
マッキノンの最終モデル、G-21G は、1969年 8月29日にTC no.4A24のセクション4としてFAAに認定された。
G-21Gは、総重量12,500ポンドの前モデルG-21C,Dを全面的に構造強化し、レーダーノーズ、巻きこみ式フロントガラス、翼内に格納する可動式フロート、見やすいキャビンの窓などの特徴を備え、より強力なPT6A-27タービンエンジンや他の細部変更を施し、究極のマッキノングース改良型を制作した。
新しい計画
2007年 11月、ノースカロライナ州 ギブソンヴィラの「アンティルズ・シープレーンズ」社が、マッキノンG-21Gターボグースの改良型を、アンティルズG-21Gスーパーグースとして再生産すると発表した[ 1] 。G-21GのPT6A-27エンジンを、定格680hspのプラット&ホイトニー カナダ PT6A-34ターボプロップに置き換え[ 1] 、機体システムや最新式の電子機器を装備し、新しいパネル、計装、コックピットディスプレイに更新され、最初の試作機は現在組み立て中であるとされた[ 1] 。
しかし2009年 アンティルズ・シープレーンズ社の生産工場は差し押さえられ、競売にかけられた。新しいグース生産計画の運命は不明である[ 5] 。
運用歴
イギリス空軍 のグース
アラスカ・アイランド航空のG-21A(1989)
当初は、マンハッタンの企業や富豪のための「空飛ぶヨット」としてバーや小さなトイレを備え、通常は2-3人の乗客を運ぶ事を想定されており、また小さな航空会社に販売されていた。1938年 、G-21は米陸軍航空 にOA-9 として採用された。後に民間機から転用された機体はOA-13 となった。最も多く軍用機となったのは、米海軍 用にデザインされたJRF だった。
本機は第二次大戦中、アメリカ沿岸警備隊 にも採用され、またカナダ空軍 にも輸送、偵察、救助、練習用として採用された。イギリス空軍 は海上救助のためにG-21を使用した。イギリス空軍は本機を共通の命名規則によってグース とした。
戦後は民間航空機として、アラスカ州 やサンタカタリナ島 など僻地への商業航空に利用された。
合計345機の機体が生産され、そのうち約30機が現役である。その多くが個人所有機で、その内いくつかの機体は改良されている[ 6] 。
日本での運用
海上自衛隊で使用されたJRF-5
1939年 、日本海軍 は1機のG-21をグラマン社から輸入し、グラマン水陸両用飛行艇 (略符号LXG1)と称して水陸両用飛行艇の実験に使用した[ 7] 。また、太平洋戦争 緒戦において、オランダ領東インド で軍用輸送機として用いられていたG-21A 1機がジャワ島 で日本軍 に鹵獲され、日本本土に空輸された後に陸軍航空技術研究所 で性能調査を受けている[ 8] 。
戦後の1955年 には10機のJRF-5が米海軍から海上自衛隊 に供与され、うち4機が整備後に大村航空隊 に配備されて対潜哨戒機 や救難機として使用された後、UF-2 などに代替される形で退役した[ 9] [ 10] [ 11] [ 12] 。機体の老朽化に加えて、耐波性の悪さなどの小型機故の運用上の難点から、現場からの評価は芳しいものではなかった[ 12] 。1960年 には、中日本航空 も名古屋 - 志摩 および串本 間の観光路線用に1機のG-21Aを導入し、1965年 まで使用している[ 13] 。
派生型
G-21
最初に生産された機種。プラット&ホイットニー・ワスプ・ジュニアSB エンジン(450hps)を2基搭載し、総重量3,400kg(7,500ポンド)、6つの乗客用座席。12機生産され、のちに全ての機体がG-21A規格に変更された[ 14] 。
G-21A
総重量が3,636kg(8,000ポンド)に増えた。30機生産[ 14] 。
G-21B
輸出用沿岸哨戒飛行艇。0.3インチ機関銃が機首と上部ハッチに装備され、45kg(100ポンド)爆弾を翼下に懸架できた。12機がポルトガル海軍 航空隊用に生産された[ 14] 。
G-21C
マッキノン社による改良型。ライカミング GSO-480-B2D6 (英語版 ) 空冷ギアードスーパーチャージャー フラット6エンジン(340hp)4発に乗せ換え、翼に格納される可変式フロート、ガラス繊維のレーダーノーズ、一体形型のフロントグラス、見やすいキャビンの窓が装備された。内部構造を補強した結果、総重量は5,669kg(12,499ポンド)に増加した。1958年 から1959年 に、2機がピストン駆動のG-21C(シリアルナンバー1201および1202)に変換された。他の2機は、双発550shpのプラット・アンド・ホイットニー・カナダPT6A-20ターボプロップを搭載し、STC SA1320WE G-21C「ハイブリッド」として(シリアルナンバー1203および1204)認定された。2機のG-21C「ハイブリッド」は、その後1968年に変換された10,500ポンドモデルのG-21Eと実際に同一であったが、そのように認定されなかった[ 15] 。
G-21D
1機のG-21Cがマッキノンによって、機首部分を拡張し、左右両側に2つずつの窓とさらに4人分の席増設の改良を受けた。(シリアルナンバー1201から1251。1960年6月にG-21Dとして再認定。)1966年 には、プラット・アンド・ホイットニー・カナダ PT6A-20 ターボプロップエンジン (550shp)双発に積み替え、アルバレス・カルデロン電気フラップを装備しSTC SA1320WEタービン搭載の改良を受けてG-21Dとして承認された機体が、その後マッキノン「ターボプロップ グース」として認識された[ 16] 。
G-21E
簡易な改良タービン搭載のマッキノンG-21Cを基に、PT6A-20エンジン(オプションとしてPT6A-27ターボプロップエンジン(680shp)も装備可能)を搭載し、燃料タンクを大型化して完全に認定された新型式。12,499ポンドのG-21Cから構造補強材の全てを取り除き、総重量10,500ポンド(4,763kg)。1機が変換された(シリアルナンバー1211)[ 4] 。
G-21F
マッキノンの技術データを使用して、アラスカ の合衆国魚類野生生物局 (FWS)が改良した、ギャレット TPE331-2UA-203D (715shp)を装備したターボプロップ機。1機が改良されたが、FWS G-21FはFAAによって承認されず、制作された1機はマッキノン製ではないが、G-21G型の設計に適合しているとしてマッキノンG-21Gの修正型として再認定された[ 17] [ 18] 。
G-21G
マッキノンにより完全に認証された最終モデル。PT6A-27エンジンを搭載、燃料タンクは586USガロン、総重量12,500ポンド。2機が改良された(シリアルナンバー1205と1226)[ 15] [ 19] 。
XJ3F-1
米海軍 用の試作機。8座水陸両用飛行艇。1938年に1機作られた[ 14] [ 20] 。
JRF-1
XJ3F-1の生産バージョン。米海軍のために5機生産された[ 14] 。
JRF-1A
JRF-1に似ているが、牽引用ギアと偵察カメラ用ハッチが追加された。米海軍用に5機生産[ 14] 。
JRF-2
米沿岸警備隊 のために作られたバージョン。担架積載機能が有る。7機生産された[ 14] 。
JRF-3
JRF-2に似ているが、寒冷地での行動支援のために、自動操縦装置や翼端前部に除氷ブーツが追加された。3機生産[ 14] [ 21] 。
JRF-4
JRF-1Aに似ているが、翼下に2つの爆弾を懸架できる。米海軍用に10機生産[ 14] 。
JRF-5
JRF-5
最も多く生産された型式。JRF-4の爆弾懸架装置、JRF-1Aの偵察カメラと牽引ギア、JRF-3の除氷装置を装備した。184機生産[ 14] 。1953年に1機のJRF-5が米海軍によって油圧スキーを取りつけられ、離着陸のテストに使用された[ 22] 。
JRF-5G
24機のJRF-5が米沿岸警備隊に転用された[ 14] [ 21] 。
JRF-6B
レンドリース法 により、航法訓練のために50機が生産された[ 14] 。
OA-9
アメリカ陸軍航空軍 のための、輸送・洋上救助水陸両用飛行艇。1938年に26機が生産され、5機の同型のJRF-6Bが補充された[ 14] [ 21] 。
OA-13A
軍用機(アメリカ陸軍航空軍)に転用された3機のG-21Aの名称[ 14] [ 23] 。
OA-13B
2機のJRF-5がアメリカ陸軍航空軍に転用された[ 14] [ 23] 。
K-16 (英語版 )
カマン 社がJRF-5をベースに製作した垂直離着陸 飛行艇の試作機。主翼がゼネラル・エレクトリック T58 ターボプロップエンジン(1,024hp)2基を有するティルトウイング に換装されている。1960年に1機が製作されるも、地上試験段階で計画中止[ 24] 。
グース Mk I
英国海軍航空隊に供給された3機のJRF-5の名称[ 25] 。
グース Mk IA
44機のJRF-6Bがレンドリース法により英海軍に供給され、トリニダード の749海軍航空隊で航法訓練に使用された[ 25] 。
グース Mk II
2機のJRF-5が英国航空委員会によって、アメリカやカナダで人員輸送に使用された[ 25] 。
運用
軍用
アルゼンチン
オーストラリア
ボリビア
ブラジル
カナダ
キューバ
フランス
ホンジュラス
日本
パラグアイ
ペルー
ポルトガル
スウェーデン
イギリス
アメリカ
政府機関
アメリカ
カナダ
民間
ブリティッシュギアナ航空のグース、トリニダード ピアルコ空港、1955年
オーストラリア
イギリス領ギアナ
カナダ
Air BC
Almon Landair Ltd
European Coastal Airways
H.J. O'Connell Supplies
Oakley Air Ltd Canada
Pacific Coastal Airlines
Sioux Narrows Airways
West Coast Air Services
オランダ領東インド
フィジー
アイスランド
日本
ニュージーランド
ノルウェー
1942年製グラマン・グース。アラスカ、アクタンのPenAir機。
アメリカ
アラスカ航空
Alaska Coastal Airlines
Alaska Coastal-Ellis Airlines
Alaska Island Air
Alaska Fish and Game
Amphib. Inc.
Antilles Air Boats
Avalon Air Transport
Catalina Air
Catalina Channel Airlines
Chevron of California
Devcon Construction
Flight Data Inc.
フォード・モーター
ガルフ・オイル
Kodiak Airways
Kodiak Western
North Coast Aero
Ozark Management
Pan Air
PenAir
Reeve Aleutian Airways
SouthEast Skyways
Superior Oil
Sun Oil Co. (Sunoco)
Teufel Nurseries
テキサコ
Tuthill Corporation
Virgin Islands Seaplane Shuttle
Webber Airlines
性能(JRF-5)
JRF-6B
出典: United States Navy Aircraft since 1911 [ 28]
諸元
乗員: 1-3
定員: 5-7
全長: 11.74m (38ft 6in)
全高: 4.93m (16ft 2in)
翼幅 : 14.94m(49ft 0in)
翼面積: 34.9m2 (375ft2 )
翼型 : Root: NACA 23015, Tip: NACA 23009
空虚重量 : 2,466kg (5,425lb)
運用時重量: 3,636kg (8,000lb)
有効搭載量: 1,170kg (2,575lb)
最大離陸重量 : 3,636kg (8,000lb)
動力: R-985 AN-6 エンジン 9気筒空冷、350kW (450hp) × 2
性能
最大速度: 324km/h (175kt) 201 mph at 5,000 ft (1,520 m), M0.26
巡航速度: 308km/h (166kt) 191mph at 5,000ft (1,520 m), M0.25
フェリー飛行時航続距離: km (海里)
航続距離: 1,030km (557海里) 640mi
実用上昇限度: 6,494m (21,300ft)
上昇率: 5.6m/s (1,100ft/min)
離陸滑走距離: m (ft)
着陸滑走距離: m (ft)
翼面荷重 : 104kg/m2 (21.3lb/ft2 )
馬力荷重 (プロペラ): 0.19kW/kg (0.11hp/lb)
武装
爆弾 : 325ポンド爆雷x2 または 250ポンド爆弾x2
登場作品
映画
『コマンドー 』
アリアス一味の飛行艇 として登場。これを主人公のジョン・メイトリックスとヒロインのシンディが奪取し、一味のアジト がある小島への移動手段として使用する。シンディからは、「羽の付いたカヌー 」と呼ばれる。撮影に供されたのは製造番号1153号(当時の登録番号はN848HP)の機体で、1942年に製造。アメリカ海軍で使用された後に民間に放出され、一時期日本の中日本航空で使用されていた(日本での登録番号はJA5063)。1999年1月に格納庫火災で焼失。
脚注
出典
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外部リンク
陸軍航空部陸軍航空隊 陸軍航空軍 空軍 1925 - 1962 海軍 ・海兵隊 1927 - 1962
輸送機 (T) 輸送機 (R) 汎用輸送機 (JR) 単発輸送機 (G)
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輸送機 (C) 無人輸送機 (CQ) 輸送練習機 (CT) STOL輸送機 (CV)
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海軍 海兵隊 1931 - 1962
汎用機 (J) 1931 - 1955 汎用機 (U) 1955 - 1962
空軍 (命名法改正 ) 1955 -
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観測機 (O) 1924 - 1942 水陸両用観測機 (OA) 1925 - 1948 連絡機 (L) 1942 - 1962
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