食品ロス(しょくひんロス)、食料ロス(しょくりょうロス)、またはフードロス(Food loss)とは、食品が売れ残りや食べ残し、賞味期限切れなどで、食べられず又は食べきれないまま廃棄されること[1]。その原因は多様で、生産、加工、小売、消費の各段階で発生する。
本来は食べられたはずのものを食べずに捨てるのは「もったいない」とみなされるうえ、ごみ問題や環境問題を深刻化させるため、食品ロスの発生量抑制、廃棄以外の有効利用が進められている[1]。
「食品ロス」とは、本来は食べられる状態であるにもかかわらず食品が廃棄されること、「食品のムダ(Food waste)」のことを言う。廃棄される食品そのもの、あるいは廃棄食品総量を意味することもある[2]。製造過程で発生する規格外品、加工食品の売れ残り、家庭や飲食店で発生する食べ残し(残飯)、期限(賞味期限、消費期限、品質保持期限)切れの食品、食材の余りや調理くずなどを含む[3]。
国際連合食糧農業機関(FAO)によると、世界の食料の喪失と浪費は、生産される全食料の3分の1〜2分の1になると言われる[4][5]。サプライチェーンやバリューチェーンの全ての段階で損失と浪費が発生する。低所得国では、生産中にほとんどの損失が発生するが、先進国にあっては1人あたり年間約100キログラムの食料が消費段階で無駄に捨てられる[6]。
「食品ロス」とは、一般的に、廃棄されてしまった、もしくは食べられていない食品である。 とはいえ、その正確な定義は議論の対象となっており、しばしば状況に基づいて定義される。国際組織や政府機関、およびその事務局を含む職能団体は、それぞれ独自の定義を用いているのが見受けられる[7]。その定義は、「食品ロス」が何から構成されるか、どのように生み出されるのか、どこで廃棄され、何によって生成されたのかなどによって変わる[8][9]。また、その用途によっては、「食品ロス」が必ずしも「捨てられたもの」とはみなされないこともある[10][11] 。いくつかの「食品ロス」は、農業廃棄物など他の廃棄物と同様の定義に基づいており、その定義は廃棄される食品がどのような物質であるかを問わない[12]。
日本語の「食品ロス」と英語の「Food loss」は同義ではないため注意が必要である。
国際連合は、食品ロス削減に向けた地球規模のイニシアティブ("Save Food Initiative")を推進しており、その下で国連食糧農業機関(FAO)、国際連合環境計画(UNEP)およびそのステークホルダー(利害関係者)らによって、食品ロスと「食糧浪費」について以下のような定義に従うことが合意されている[13][14]。
この定義の重要な要素には以下のものが含まれる。
食品のために生産された植物および動物には、食品ロスや食糧浪費には含まれない「不可食部分」が含まれる(これらの食べられない部分は「不可避の食品廃棄物」と呼ばれることがある)[16]。
欧州連合(EU)およびその前身の国際機関では、1975年から2000年まで、食糧浪費(Food waste)を「廃棄された、あるいは廃棄を意図され、要請された、ナマもしくは調理された食材・食品」と定義していた。これは加盟国に対する古い指令によるものであったが、2008年の欧州委員会(EC)指令98号(2008/98/EC)によって破棄された。それ以来、明確な食品ロスにかかわる定義はない[17][18]。1975年の欧州経済共同体(EEC)指令442号に基づく定義は、1991年の指令156号において「廃棄物の諸分類」中「付属書I」が追加されたうえで引き続き使用され、それに伴い加盟国の国内法もそれぞれ改正された[18][19]。
アメリカ合衆国環境保護庁では、国内の食品浪費を「自宅および食料雑貨店、レストラン、産地直売所、カフェテリアやキッチンなどの商業施設、ならびに従業員向けの食堂などから出た、食べられなかった食品・食材で廃棄処分されたもの」と定義している[8] 。各州はそれぞれ自由に食品ロスにかかわる定義をそれぞれの目的に応じて定めることができるものの[10][20] 、実際にはほとんどの州でそのような独自定義は採用していない[12]。「天然資源防衛会議」によれば、アメリカ人は食べても安全な食糧の40パーセントを捨てている[21]。
「食品ロス」は第一に食糧資源のムダ使いである。飢餓や栄養不足に苦しむ発展途上国があり、先進国でも十分な食料が購入できない貧困層がいる一方で、多くの食料が廃棄されることは、効率性の観点のみならず人道的見地からも問題がある。日本の場合は、食料自給率が先進国中最低水準にあり,世界最大の食料輸入国でありながら、膨大な量の食品ロスが存在しており、食品ロスを減らすことは間接的には食料自給率を上げることにつながる[22][23][24]
第二に、家計にとっても企業にとっても経済的な損失となる。食品製造や流通に使用された資源・エネルギーもムダとなる[25]。食品ロスの発生は企業の利益率を著しく低下させ、一方では小売価格を引き上げる[23]。仕入量に比較して販売量が少なければ、残りは廃棄処分となるが、その割合が高くなれば廃棄のための費用は販売価格に転嫁されるからである[23]
第三に、環境問題がある。国際連合の持続可能な開発目標(SDGs)に関する報告書によれば、最終的に廃棄される食品の生産に使用されるエネルギーは、それ自体で温室効果ガス排出の要因の一つとなっている[26]。廃棄に関しては、生ごみは有機質であるとはいえ、その大量廃棄はその処理段階において自然環境に多大な負荷を与える[22]。焼却に際しては二酸化炭素を発生させるとともに、食品ゴミは水分が多いことから、焼却炉の発電効率を低下させ、エネルギー資源のムダにつながっている[25]。
世界的な人口増加やアジア各国の経済成長により、世界の食料需要は増大しており、地球温暖化などによる世界の食料需給の不安定化が進展するなか、日本をふくむ各国はとくに食料の安定供給を確保する必要がある[22]。また、食品廃棄物の最終処分スペースについては厳しい状況にあり、今後、循環型社会を構築していくためにも、大量の食品ロスの発生を抑えることが望まれている[22]。
先進国、発展途上国を問わず、商業的農業、食品産業のあらゆる段階で目立った額の食品ロスが発生する可能性がある[27]。自給自足的な農業では廃棄物の量は不明ではあるもの、その発生はごく限られた段階においてであり、生じたとしても食べられなかった食品は再び栽培に回されるので、グローバル市場の需要とは対照的に、総じて微々たるものである可能性が高い[28][29]。それでも、発展途上国、特にアフリカ諸国では、食品ロスの正確な性質について議論されているにもかかわらず、農場で保管中に生ずる食品ロスが多い可能性がある[30]。
世界で最も多様かつ豊かな食料供給を誇るアメリカ合衆国の食品産業を調査した結果、食品ロスは食料生産のごく最初の段階で発生していることが判明した[27]。植栽の段階で既に害虫の蔓延や厳しい気候等に晒されて、収穫以前に多くの食料が損なわれている[31][32]。気温や降水といった自然の力が作物成長の主要因である限りは、これらによる損失もまたあらゆる形態の屋外農業が経験しうることなのである[27][33]。
また、収穫段階における農業機械の使用も、食品ロスを生み出す原因となっている[27]。熟した作物とそうでない作物を識別することができず、あるいは作物の一部だけを集めるということができないためである。経済的要因としては、品質や見た目などの規制や基準が食品ロスを生み出す元となっている[34] 。農家は選択的に収穫を行い、農場には標準化されていない食糧を残すことを好む(それが肥料や飼料として利用可能な場合)。そうしなければ、それらはのちに廃棄されるだけだからである[27]。都市部においては、果実やナッツのなる木は、それが食用でないとみなされるか、汚染されたものであるというおそれがあるためなのか、いずれかの理由でしばしば収穫されずに捨て置かれる[35]。都市部における果実が消費者にとって安全であるという調査結果が示されているにもかかわらず、である[35]。
食品ロスは、収穫後の段階でも引き続き発生するが、その損失の量は不明な点が多く、推定も困難である[36]。それは、生物的・環境的要因ないし社会経済的な要因によって発生するのであるが、そのいずれにあっても、廃棄にかかわる一般的な数値の有用性・信頼性には限界があるとみなければならない[36][37]。貯蔵においては、その量的な喪失は、かなりの場合は害虫や微生物に起因する[38]。これは、摂氏30度の熱と70〜90パーセントの湿度との複合を経験するような国々では特に重要な問題となる[39] 。こうした条件は害虫や微生物の生殖を促すからである。極端な温度や湿り気、微生物の作用によって損なわれる作物の栄養価、カロリー、食用性は食品ロスの原因ともなる[40][41][42] が、こうした「定質的な損失」は定量的なそれよりも評価が難しい[43] 。食料の取り扱い、あるいは重量・体積の収縮によっては、さらなる損失が発生する[27][44]。
加工によって生まれる食品ロスの一部は、最終製品の品質に影響を与えることなく減らすのが難しい場合もある[45] 。食品安全規制は、市場に出る前に基準に合わない食品について苦情を言い立てることができ[46]、これはたとえば家畜飼料などにみられるような、廃棄食品を再利用する努力と矛盾することがある[47]。しかしながら、これは消費者の健康をより確実なものとするために設けられる。このことは、特に畜肉や乳製品といった動物起源の食品の加工においては極めて重要であり、これらの供給源から微生物によって、あるいは化学変化によって汚染食品を生み出す危険を伴う[48][49]。
包装は、農場や工場からの輸送中に食品が損傷するのを防ぎ、倉庫から小売段階、さらに消費者の手に届くまで鮮度を保つことができる[50]。それゆえ、食品ロスをある程度まで避けることができる[50][51]。しかし包装は、たとえば飼料として使用される可能性のある食べ物のクズを(動物が食べられない包装資材で)汚染してしまうなど、廃棄食品を他の方法で減らす努力を減退させてしまう可能性がある[52]。
小売店もまた大量の食品を廃棄している。これらは通常、それぞれの賞味期限の過ぎた商品によって構成されている。賞味期限の過ぎた食品であっても処分時にはまだ食べられるものがあり、店舗には余分な食糧を扱うための幅広い方策がないわけではない。貧しい人びとやホームレスの顧客を避けようとして努力を傾ける商店もあれば、慈善団体と協力して食糧を配給する店舗もある。小売業者はまた食品供給側との売買契約の結果として廃棄に貢献する。合意された量が販売できなれば、農家や加工業者は契約を解消する可能性もあり、 結果として、彼らは実際に契約を満たすために必要以上のものを生産し、その誤差を利益に組み入れようと企図する。こうして過剰に生産された分は、しばしば単純に処分されてしまうということである。[53]。
小売業者は、通常、果物や野菜などといった農産物の形がいびつであったり、表面に傷がついたりしている場合には、それを店頭には置かない。アメリカ合衆国では、そのために毎年60億ポンド(約270万トン)もの農産物が浪費されている[54] 。2009年に行われた調査によれば、イギリスでは、果物と野菜のほぼ2割から4割に相当する量が、見た目の高い基準の結果として小売業者に渡る前に拒否されてしまっていると推定されている[55]。
水産業においても、魚介類の見た目の良さを維持するため、毎年、相当量の食品ロスが発生する。北大西洋と北海だけでその量は230万トンに及ぶといわれる。「ヨーロッパで捕獲されたすべての魚の約40パーセントから60パーセントは、サイズや魚種が違っているというだけで捨てられる」[53]。この問題に対処するため、外観に関する特定の基準を満たさない食品に関する小売業者および消費者の意識向上に焦点を合わせた数多くのキャンペーンがある。
経験の語るところによれば、消費段階で食品ロスを生み出すケースは、低中所得者にあっても、
などが含まれる。過度の購買や過度の準備、また、食べ残しを放置して消費しないことは、食品ロスの主な要因となっている[56]。ポルピーノは「食品ロスは、おもてなし、良妻賢母のアイデンティティー、豊かさの象徴としての多彩な味付けや有り余るほどの食材など、いずれも文化的営為のなかに組み込まれている」と指摘している[57]。
消費者によって直接的および間接的に多くの食糧が浪費されている。消費者が、奇妙な形や変色などといった感覚的にすぎない食べものの属性を克服し、賞味期限の近づいた、あるいは期限は過ぎたが食べるのにはうってつけであるという「次善の食品」(SOF)を喜んで受け入れるならば、大部分の食品ロスは防ぐことができる[58]。COSUS(COnsumers in a SUStainable food supply chain、「持続可能な食品供給連鎖における顧客」)は、「持続可能な食糧選択を促すための消費者行動の理解」というトピックのもとでのSUSFOOD ERA-netの研究プロジェクトである[59]。
環境省がまとめた『我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和3年度)の公表について』によれば、日本国内で2021年度で1年間に発生する「食品ロス」は、およそ523万トンに及ぶと考えられている[60]。これは毎日大型トラックで約1430台分の量を廃棄していることになる。2023 年における日本全国のコメの年間収量の716.6万トン[61]、2022年における国際連合世界食糧計画(WFP)による食料援助量は約480万トンと比較すると、日本の食品ロスは、コメの年間収量に及ばないものの、食料援助量の約1.1倍にも達しており、極めて膨大である[62]。国民1人当たりに換算すると、おにぎり1個分(約114グラム)の食べ物が毎日廃棄されている計算となる。また、年間にすると国民1人当たり約42キログラムとなり、 年間1人当たりの米の消費量(約50.8キログラム、2020年度)の約83%に相当する[63][64]。
「食品ロス」は、外食産業や食品加工業などの「事業系」と家庭より生じる「家庭系」に大別されるが、学校給食における「食べ残し」も決して少なくない[2]。詳細な統計は困難であるものの、2021年で「事業系」食品ロスがおよそ約279万トン、「家庭系」のロスが244万トンと推定される[65]。
事業系の場合、発生量279万トンの内、食品製造業が45%(約125万トン)、外食産業が29%(約80万トン)を占めており、この2産業で4分の3近くを示す[65]。前者は、製造の過程で発生する規格外品などによるものであり、後者は、主に作りすぎ、食べ残しによる発生である[62]。なお、新型コロナ感染症流行による外出自粛や飲食店の一時休業・営業時間制限の影響か外食産業の食品ロスが2019年(103万トン)に比べ、約2割減少している。
家庭系の場合、多い要因順に、賞味期限切れなどによる直接廃棄と食べ残しがそれぞれ約105万トン(43%)、次に調理時に皮を厚くむきすぎるなどの過剰除去が34万トン(14%)となっている[62]。
外食産業においては、提供される食品のうち食べ残しの割合が高い方から順に、宿泊施設(14.8パーセント)、結婚披露宴(13.7パーセント)、一般の宴会(10.7パーセント)、食堂・レストラン(3.2パーセント)などとなっている[66]。前述のように、食品加工業や小売業における食品ロスのおもな原因は、規格変更に伴う商品の撤去や返品、在庫過剰や期限切れ、印刷ミスなどの規格外品である[62]。「家庭系」ロスは、過剰除去による食品ロス率が2.0パーセント、食べ残しが1.0パーセント、直接廃棄が0.7パーセントとなっており[67]、過剰除去(文部科学省『日本食品標準成分表』の廃棄率を上回る除去)の中では果実や野菜、魚介類に対する除去が大きい[67]。
鮮度を重視する消費行動に対応しての商慣習もまた、食品ロスを増加させる大きな原因ともなっている[2]。家庭から出る食品ロスについては、消費者庁が2017年に徳島県で実施した食品ロス削減に関する実証事業の結果では、まだ食べられるのに捨てた理由の多い順に、「食べ残し」57%、「傷んでいた」23%、「期限切れ」11%(賞味期限切れ:6%、消費期限切れ:5%)であった[24]。
賞味期限や消費期限が必要以上に短いと、大量の食品廃棄の一因になるという指摘がある[23]。日本の食品業界には、流通段階において賞味期限までの期間を区切った「3分の1ルール」と呼ばれる独特の商慣習がある[23][68][69]。「3分の1ルール」とは賞味期限までの期間を3分の1ずつに区切り、最初の3分の1の期間内に小売店に納品し、次の3分の1(最初からは3分の2)の期間を過ぎると返品しなければならないとするルールである[69]。返品期限が設定されていることにより、販売期間が短くなり、商品が賞味期限前であっても小売店に並ばずにメーカーに返品される物が多くなる[23][24][68]。返品された物は賞味期限内であってもどのように保管されていたか不明なため、多くは廃棄される[69]。公益財団法人流通経済研究所の調べでは、2010年の卸売から製造に返品された商品金額は1,139億円にのぼったといわれる[70]。「3分の1ルール」は少しでも新鮮な商品をという消費者のニーズに応えたものであったが、大量の食品ロスが生じやすい商慣習である。近年では食品ロスを削減する試みとして改める動きもあるが、流通形態が「3分の1ルール」に合わせた設計となっているため、1社のみでは対応が難しい[69]。
「3分の1ルール」は見直しが進んでいる[23]。食品ロス削減のため、商品を店舗に納める期限の延長実験が行なわれた[23]。従来、日本では賞味期限に関して明確な基準はなく、それぞれの事業所にまかせ切りであったが、消費者庁は食品ごとの賞味期限設定方法について、統一ガイドラインを設ける方針を定め、2011年(平成23年)9月、同庁食品表示課が各食品メーカーや有識者を交えた検討会を立ち上げることを発表した[71]。同月末から翌年(2012年)にわたり、食品業界において「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」が立ち上がり、農林水産省の支援の下、従来の商慣習の見直しが進み,食品表示一元化検討会が何回か開かれた[24][72]。
2014年(平成26年)、カップ麺では5か月から6か月へ、袋麺では6か月から8か月へと期限を延長し、その他飲料などでも、安全面を再検証した上で、賞味期限を延長する各メーカーの動きがみられた[73]。この他、製造から賞味期限までが3ヶ月間を超える食品については、賞味期限を「年月日」表示から「年月」表示に変更するといった取り組みも存在する[74]。例えば、賞味期限が「2000年1月19日」までだった物を「2000年1月」とした場合、1月下旬でも販売に支障がなくなる。食品ロス削減が期待されるフードシェアリングのサービスとして、TABETE[75]、Otameshiなどがある[76]。
賞味期限の表示が「日」まであると無駄な廃棄を招きやすいくので、「年月」だけにする取り組みが飲料や加工食品に広がり始めている[77]。
小売店においては賞味期限や消費期限が近い商品が手前に置かれる傾向にあるが、期限切れまでの期間がより長い商品を奥から取り出す買い物客もいる。こうした行為は売れ残りとその廃棄を増やす原因になる。このため手前の商品から取って購入するよう呼び掛ける運動が2010年代から民間で始まり、農林水産省が企業、消費者団体、地方自治体と連携して「てまえどり」運動を展開している[78]。
2011年に国連食糧農業機関(FAO)が発表した試算によれば、世界中で人が消費するために生産されている食料の3割以上に及ぶおよそ13億トンが、毎年、失われるか廃棄されている[2][79]。これは世界の飢餓人口10億人を充分に養えるほどの量に相当するものであると指摘されている[26]。下の表に示すように、先進国と発展途上国とでは実態に大きな差があり、途上国では1人あたり1日あたり400ないし500カロリーが浪費され、先進国では1日あたり1,500カロリーが浪費されると推定されている[80] 。発展途上国では、収穫後および処理段階で損失の4割以上が発生するのに対し、先進国では小売および消費者レベルで損失の4割以上が発生する。 先進工業国の消費者による食品廃棄物の総量(2.30億トン)は、サハラ以南のアフリカの食糧生産(2.22億トン)にほぼ匹敵する[79]。
特に先進国では食生活が多様化しており、肉類や乳製品、果物、水産物などが世界各地から輸入される一方、食料が日常的に大量に廃棄される現実がある。また、全世界で展開される各スーパーマーケットチェーンの販売規格が食品ロスに拍車をかけているという指摘がある[26]。すなわち、食品の外見上の見栄えをよくするために大量の食品ロスが発生していること、そして、「販売期限」「消費期限」「賞味期限」などのシールがパッケージに貼られることによって、実際には安全な食品が廃棄されてしまうことである[26]。
国際社会においても、食糧不足や穀物相場価格の高騰などの懸念が広がっており、食品ロスをいかに減らしていくかは大きな課題となっている[2][26]。
フランスでは、法律によってスーパーマーケットが売れ残り食品を廃棄することが禁止されており、この取り組みは世界的にも評価されている[26]。一般家庭で出る生ごみについては、各家庭でニワトリを飼い、野菜の皮などの生ごみを餌として再利用するプロジェクトが進んでいる[26]。このプロジェクトの参加者には採卵鶏が提供されるので、新鮮な鶏卵を毎日手に入れることができる[26]。
スペインでは、相互扶助の精神に基づき、地域のボランティア団体が屋外に「連帯冷蔵庫」を設置し、近隣住民やレストランが食べ残しや賞味期限切れ間近の食品を提供する仕組みがある[26]。貧困者への食糧援助とともに食品ロスの解消を目的としており、冷蔵庫の中身のチェックもボランティアが行っている[26]。
2017年4月、オーストラリアのシドニー南部で、賞味期限前でも処分されてしまうような食品を、大手スーパーマーケットなどから譲り受けて提供する「すべて無料」のスーパーが登場した[114]。オーストリアの市民団体オズハーベストが運営する「オズハーベストマーケット」がそれで、果物、野菜、パン、コーンフレーク、ビスケットなどを扱い、店内に値札やレジスターがなく、顧客は品物を自由に選んで買い物かご1つ分を無料で受け取ることができる[114]。ボランティア・スタッフが一人一人の客に対応し、説明しながら選んでもらうシステムで、開店時間は午前10時から午後2時までである[114]。閉店時には品物の大部分がなくなるが、客には代金ではなく寄付をお願いしている[114]。食品ロスを解消する目的で「無料スーパー」を開業させた事例は世界でも初めての試みで、大きな反響を呼んでいる[114]。
2016年8月19日法律第166号「社会的連帯と廃棄物の制限を目的とした食品及び医薬品の寄附と配布に関する規定」(イタリア語:LEGGE 19 agosto 2016, n. 166 - Disposizioni concernenti la donazione e la distribuzione di prodotti alimentari e farmaceutici a fini di solidarieta' sociale e per la limitazione degli sprechi)[115]にて、食品ロスの制限と寄付の促進が図られた[116]。
2016年2月11日、食品廃棄物削減に関する法律(LOI n°2016-138 du 11 février 2016 relative à la lutte contre le gaspillage alimentaire)が施行された。これは、大型スーパーを対象として寄付や堆肥化などをしないと罰金が科される内容となっており、路上生活者が食べないよう食品に塩酸をかけて破壊して廃棄といった過去の方法にかかる費用より、寄付した方がよいように誘導する内容となっている[116]。