水郡線(すいぐんせん)は、茨城県水戸市の水戸駅から福島県郡山市の安積永盛駅[1][2]までと、茨城県那珂市の上菅谷駅で分岐して同県常陸太田市の常陸太田駅[1][2]までを結ぶ、東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道路線(地方交通線)である。奥久慈清流ラインという愛称が付けられている[4]。
水戸と郡山を結ぶことから両者の頭文字をとって水郡線と名付けられている。線路名称上は安積永盛駅が終点だが、同駅で折り返す列車はなく、福島県側の全列車が東北本線経由で郡山駅まで直通運転している。
2014年(平成26年)4月1日から、水戸駅 - 常陸大子駅間・上菅谷駅 - 常陸太田駅間が旅客営業規則の定める大都市近郊区間の「東京近郊区間」に含まれている。また、水戸駅・上菅谷駅・常陸大宮駅・常陸大子駅・常陸太田駅がIC乗車カード「Suica」(相互利用可能なICカードを含む)一部利用可能駅となっており、これらの駅の相互間、またはこれらの駅と水戸駅以遠のSuicaエリアの駅との相互間で利用できる[報道 1]。ただし線内区間を含むSuica定期券の発売は行っておらず、また安積永盛駅方面へのエリアを跨ぐ利用もできない。
安積永盛駅を除き東日本旅客鉄道水戸支社の管轄である。安積永盛駅は同社東北本部の管轄であり、磐城守山駅 - 安積永盛駅間(水戸駅起点135 km地点。阿武隈川を挟んで東側)に支社境界がある。
水戸駅と安積永盛駅、それに直通運転先の郡山駅を除く線内全駅にトレインロケーションシステム「おしらせくん」が設置されている。
2024年3月16日改正時点のダイヤでは、水戸駅 - 郡山駅間を全線通しで運行される列車は1日に5往復のみである(季節列車を除く。他に常陸大子駅で乗り換えとなる列車が下りに1本・上りに2本ある)[34]。支線の常陸太田駅発着列車は朝夕を中心に水戸駅発着が設定されているが、日中や夜間は上菅谷駅 - 常陸太田駅間の支線内の往復運行となっており、1 - 2時間に1本ほどの運行である。早朝と深夜に上菅谷駅 - 常陸太田駅間に回送列車が設定されている。
全体的にはおよそ1 - 2時間に1本程度の運行であるが、水戸駅 - 上菅谷駅・常陸大宮駅間は1時間に1 - 2本運行されている。水戸駅 - 常陸大宮駅・常陸大子駅間と上菅谷駅 - 常陸太田駅間の区間運転の列車も多い。常陸大子駅 - 郡山駅間の本数は水郡線の中でも最も少なく、3 - 4時間ほど運行されない時間帯がある。2017年10月14日のダイヤ改正により、日中は水戸駅 - 常陸大宮駅間が1時間に1本、常陸大宮駅 - 常陸大子駅間が2時間に1本となった。
水戸駅 - 上菅谷駅間は、水戸駅 - 郡山方面の本線筋の列車のほかに、水戸駅 - 常陸太田駅間の支線方面の列車も走行するため、水郡線において列車密度が一番高い区間で、1時間に朝ラッシュ時は3本、日中は1本運行されている。
福島県の郡山側では、前述の全区間運行列車のほかに常陸大子駅 - 郡山駅間の区間列車が下り3本、上り2本(水戸行きに連絡)と途中の磐城石川駅で翌朝まで留置される磐城石川駅 - 郡山駅間の列車1往復がある。また、上りは夜21時台の郡山発磐城棚倉行きでそのまま留置され、翌朝6時過ぎに磐城棚倉発常陸大子行きとなる運用がある。日中時間帯に常陸大子駅 - 郡山駅間で1往復増発される日(土休日および沿線学校の変則時間割の日など)がある。
長らく土曜日も平日ダイヤでの運転であったが、2019年(平成31年)3月16日のダイヤ改正で土曜日は休日ダイヤに準ずるようになった。ただし、平日ダイヤは、夕方の水戸発常陸大宮行き列車が1本多いのみで、他の列車の時刻は全日共通である。これ以前は休日運休の常陸大宮駅発着列車が夕方に上下各1本(2019年のダイヤ改正で平日下りのみの運転となり土休日は廃止)あったほか、早朝の常陸大子発水戸行き列車が休日運休だった(2007年より毎日運転化)。
列車は1 - 4両編成で運行されており、ラッシュ時は3 - 4両編成が多い。また、列車によっては平日と土曜・休日で編成が異なる場合がある。水戸駅 - 常陸大子駅・常陸太田駅間は主に2 - 4両編成、常陸大子駅 - 郡山駅間は1 - 3両編成で運行されている。かつては5両編成も存在していた。
最終列車は周辺路線と比べると早く、水戸発の下りは水戸線(22時半の下館行き)を除く路線が23時台に設定されている中、常陸大子行き(上菅谷駅で常陸太田行きに接続)の22時半であったが、2017年10月14日のダイヤ改正で45分ほど繰り下げられ、23時台に常陸大宮行き列車が設定された[報道 10]。上り列車の水戸着は21時台で変わっていない。
全区間でワンマン運転を実施しており、ワンマン列車は1両または2両編成で運行されるが、休日を中心に増結があり、時刻表に「ワンマン」と書かれていても実際はワンマンではなく車掌が乗務していることがある(ツーマン運転)。また、ワンマン列車でも車掌のネームプレートを付けた乗務員が乗車することがあるが、この場合、車掌は切符の販売、安全確認、乗り換え案内放送などを行い、ドアの開閉は運転士が担当する。車掌乗務のワンマン列車の場合、車両がワンマン運転が困難なぐらい混雑するとワンマン運転を取り止めることがある(旧来の車両はドアが片面に2つしかなく、そのドア付近に乗客が溜まりやすいのも一因であった)。この場合、取り止めた駅からは通常の列車と同じになりドア扱いを車掌が行うため、無人駅でもホーム側の全ドアが開くようになる。なお、中央のドアは、無人駅では乗降扱いを行わない。
春の行楽シーズンや秋の大子の紅葉シーズンには、臨時快速「ぶらり奥久慈号」やトロッコ列車の「風っこ」号などが運行される。
また、1990年代には常磐線松戸駅・我孫子駅から常陸大子駅までキハ40系やキハ58系を利用したホリデー快速が運転されたこともある。
以下の各急行列車が運行されていた。いずれも1966年まで準急列車。
蒸気機関車時代は水戸機関区の8700形や8620形が客貨列車牽引に使用されていたが、1960年にDD13形ディーゼル機関車が投入された。しかし同形式は客車暖房用の蒸気発生装置を持っていないため、大正末年製造の古参暖房車 ホヌ30形も水戸に配属され、冬季は機関車の次位に連結されていた。これでは無煙化の意味がなくなるため、1971年頃にDE10形へ代替され、暖房車も廃車された。
水戸駅を出ると、すぐに常磐線から分岐して北上する。この直後、台地を抜ける切り通しは水戸城の空堀を利用したものである。
この区間は水戸市のベッドタウンであり、住宅地と農地が混在する平地を走行する。比較的こまめに駅が設置されており、駅間距離は1-2kmと短めの区間が続く。ほぼ国道349号と並行している。ただし、水郡線は旧道に沿って建設されたため、後から開通したバイパス道路からは離れており、バイパス沿線に多いロードサイド店等の利用には難がある(これは常陸大宮市の国道118号バイパスについても同様のことが言える)。このため、折からの利用者減も相まって水郡線沿線周辺の空洞化が課題となっている。また、当区間以北も含め駅に通ずる道路が狭いところも多い。なお、国道6号および常磐線まで5km強程度と比較的近くを走る地域もある。
水戸駅と上菅谷駅以外の駅はすべて無人駅である[注 1]。かつてはこの区間の駅すべてに簡易自動券売機が設置されていた[注 2]。しかし、後にすべて乗車駅証明書発行機に置き換えられている。
上菅谷駅は水郡線の途中駅において乗車人員が3位(2010年度)となっており、本数が減る常陸太田駅や常陸大宮駅より少ない。
水戸駅 - 常陸青柳駅間の那珂川橋梁は過去の堤防が低い時代に架橋されたため、堤防を掘り下げた構造となっている。大雨の影響で那珂川が増水した場合は防水門で橋梁が封鎖され運休になりやすい。また那珂川橋梁が増水した河川の流れを阻害しているため、洪水・老朽化対策として隣接する水府橋と共に2011年4月10日完成予定で架け替え工事が行われていた[36]。しかし、同年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の影響で水郡線も不通となり、旧橋梁・新橋梁共に損壊を受けたために予定が変更され[37]、線路を新橋梁経由に切り替えて同年4月15日[新聞 15]に復旧した。
上菅谷駅で郡山方面と常陸太田方面に分岐する。常陸太田方面は太田支線・太田線などとも呼ばれているが、歴史的にはこちらの方が古く、上菅谷駅からは直進するルートとなっており、引き続き国道349号とほぼ並走する。
主に朝夕の通勤・通学時間帯は水戸駅 - 常陸太田駅間の直通列車が運行されるが、それ以外の時間帯は上菅谷駅 - 常陸太田駅間の運行となり、水戸駅へ向かう際は上菅谷駅で乗り換える必要がある。
上菅谷駅 - 常陸太田駅間は、上下列車が行き違いできる交換設備を持つ駅がなく、終着の常陸太田駅も1面1線の構造であり、この区間には上下列車合わせて1本の列車しか入線できない。そのため朝夕の通勤・通学時間帯を含めて、1時間に1本の本数に留まる(昼間は約2時間空く時間帯もある)。この区間は主に農地が目立ち、駅周辺に小さな集落が広がるのみで、途中駅の利用者は多くない。ほとんどの利用者は常陸太田駅に集中しているが、常陸太田駅は水郡線のみが発着する駅としては乗車人員が1位(2010年度)であるため、水戸駅 - 常陸太田駅間の旅客輸送は水郡線の営業収入において大きな位置を占めている。特に日立電鉄が廃止された後は、常陸太田市街への唯一の鉄道路線となっている。
上菅谷駅 - 常陸大宮駅間は水戸の近郊区間としての特色が強く、1時間に1本程度の本数が設定されている。農地が目立つが、駅周辺は住宅地が集積している。上菅谷駅から西方に分岐し、茨城県道31号瓜連馬渡線に沿うように旧瓜連町方面に進み、瓜連駅付近からは国道118号と並行する。常陸大宮駅は水郡線における水戸近郊圏の北限で、途中駅において乗車人員が2位(2010年度)である。
常陸大宮駅より先は、久慈川と並行して八溝山地に分け入るように進み、勾配・カーブの連続で山岳路線の雰囲気が色濃くなる。沿線の至る所で久慈川と交差する箇所があり、車窓に川面が映る場面が多い。沿線人口も希薄となるため、各駅の乗車人員はかなり少なくなる。
沿線、特に大子町には日本三名瀑の一つである「袋田の滝」や、奥久慈温泉郷、八溝山などの観光スポットが多くあり、沿線住民の利用者に加えて観光での利用者も多い。そのため常陸大宮駅 - 常陸大子駅間も1-2時間に1本ほどの列車が設定されており、水戸市への通勤・通学が可能な圏内の北限とされる。
八溝山地と阿武隈高地の間を走行する。山地を走行するが、一般的な山岳鉄道とは異なり、トンネルは少ない。山間部を縫う様に走行するため、制限速度55km/h - 70km/h程の曲線が多く存在する。磐城石川駅より先は東北本線と2 - 5kmほどの距離を置いて並走する形態となるが、両線の間に流れる阿武隈川によって利用者の棲み分けができている。沿線の途中に福島空港があるが、最寄り駅から空港への路線バスが設定されていないことや、空港の利用者数が極端に少ないこと、この区間の水郡線の本数が少ないこともあって、水郡線は福島空港へのアクセス路線の機能は担っていない。水郡線の終点は安積永盛駅であるが、すべての列車が東北本線に直通し郡山駅まで運行される。
便宜上、安積永盛側の全列車が直通する東北本線郡山駅までの区間を記載。なお、東北本線内の貨物駅は省略。
2022年度の時点で、JR東日本自社による乗車人員集計[38]の対象駅は、水戸駅・上菅谷駅・瓜連駅・常陸大宮駅・玉川村駅・山方宿駅・上小川駅・袋田駅・常陸大子駅・東館駅・磐城塙駅・磐城浅川駅・磐城石川駅・安積永盛駅・郡山駅である。それ以外の駅は完全な無人駅(年度途中で無人となった駅を含む)のため集計対象から外されている。
2022年度の時点で、JR東日本自社による乗車人員集計[38]の対象駅は、上菅谷駅と常陸太田駅である。途中駅は完全な無人駅のため集計対象から外されている。
括弧内は起点(水戸駅)からの営業キロ。
各年度の平均通過人員は以下のとおりである。
2019年度(令和元年度)の平均通過人員が2,000人/日未満の線区(常陸大宮駅 - 常陸大子駅間、常陸大子駅 - 磐城塙駅間、磐城塙駅 - 安積永盛駅間)の各年度の収支(運輸収入、営業費用)、営業係数、収支率は以下のとおりである。▲はマイナスを意味する。