外見
銀白色
一般特性
名称 , 記号 , 番号
ニッケル, Ni, 28
分類
遷移金属
族 , 周期 , ブロック
10 , 4 , d
原子量
58.6934(4) (2)
電子配置
[Ar ] 3d8 4s2
電子殻
2, 8, 16,2(画像 )
物理特性
相
固体
密度 (室温 付近)
8.908 g/cm3
融点 での液体密度
7.81 g/cm3
融点
1728 K , 1455 °C , 2651 °F
沸点
3186 K , 2913 °C , 5275 °F
融解熱
17.48 kJ/mol
蒸発熱
377.5 kJ/mol
熱容量
(25 °C ) 26.07 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa)
1
10
100
1 k
10 k
100 k
温度 (K)
1783
1950
2154
2410
2741
3184
原子特性
酸化数
4[ 1] , 3, 2 , 1[ 2] , −1 (弱塩基性酸化物 )
電気陰性度
1.91(ポーリングの値)
イオン化エネルギー
第1: 737.1 kJ/mol
第2: 1753.0 kJ/mol
第3: 3395 kJ/mol
原子半径
124 pm
共有結合半径
124±4 pm
ファンデルワールス半径
163 pm
その他
結晶構造
面心立方
磁性
強磁性
電気抵抗率
(20 °C ) 69.3 nΩ⋅m
熱伝導率
(300 K) 90.9 W/(m⋅K)
熱膨張率
(25 °C ) 13.4 μm/(m⋅K)
音の伝わる速さ (微細ロッド)
(r.t. ) 4900 m/s
ヤング率
200 GPa
剛性率
76 GPa
体積弾性率
180 GPa
ポアソン比
0.31
モース硬度
4.0
ビッカース硬度
638 MPa
ブリネル硬度
700 MPa
CAS登録番号
7440-02-0
主な同位体
詳細はニッケルの同位体 を参照
ニッケル (蘭 : nikkel , 英 : nickel , 羅 : niccolum , 中 : 鎳 )は、原子番号 28の金属元素 である。元素記号 はNi 。
名称
名称はドイツ語 の Kupfernickel (悪魔の銅 )に由来する[ 3] 。これは、ニッケル鉱石である紅砒ニッケル鉱 (NiAs)が銅鉱石に似ているにもかかわらず銅を遊離できなかったために、坑夫たちがこう呼んだものと言われている。
存在
地殻 中の存在比は約 105× 10−6 と推定され、それほど多いわけではないが、鉄隕石 中には数 %含まれる。特に62 Niの1核子 あたりの結合エネルギー が全原子中で最大であるなどの点から、鉄 とともにもっとも安定な元素である。岩石惑星 を構成する元素として比較的多量に存在し、地球 中心部の核 にも数 %が含まれると推定されている。
性質
銀白色の金属で、鉄族 に分類される。原子量 は約58.69である。常温で安定な結晶格子 は、面心立方格子 (FCC)である。また、鉄 よりは弱いが強磁性体 で、キュリー点 は 350 °C であり、鉄族元素 としてはもっとも低い。
銀白色の光沢ある金属であり、乾燥した空気中では錆びにくいが、微粒子状のものは空気 中で自然発火 することもあり、細いニッケル線は酸素 中で火花を出して燃焼 する。水素よりイオン化傾向 がやや大きく、塩酸 および希硫酸 に徐々に溶解し、緑色の水和 ニッケルイオンを生成するが、その反応はきわめて遅い。酸化作用を持つ希硝酸 には速やかに溶解し、濃硝酸では不動態 を形成する。アルカリ に対しては比較的強い耐食性を示す。
Ni
+
2
H
+
(
aq
)
⟶ ⟶ -->
Ni
+
(
aq
)
+
H
2
{\displaystyle {\ce {Ni + 2H^+(aq) -> Ni^+(aq) + H2}}}
3
Ni
+
8
HNO
3
⟶ ⟶ -->
3
Ni
(
NO
3
)
2
+
2
NO
+
4
H
2
O
{\displaystyle {\ce {3Ni + 8HNO3 -> 3Ni(NO3)2 + 2NO + 4H2O}}}
微粒子状の金属粉末は水素 および窒素 ガスなどを吸蔵し、水素付加反応 を活性化させる作用を持ち、融解状態でもこれらの気体を吸収し、凝固時にその大部分を放出するため表面が巣穴になりやすい。また、鉄と同様、融解 状態では炭素 を6.25 %まで溶解し、凝固するとグラファイト を析出する。
50–60 °Cで微粉末状のニッケルに一酸化炭素 を反応させるとテトラカルボニルニッケル を生成し、これを200 °Cに加熱すると分解してニッケルを生じる。この反応は、モンド法 と称し、ニッケルの精製に用いられる。
Ni
+
4
CO
↽ ↽ -->
− − -->
− − -->
⇀ ⇀ -->
Ni
(
CO
)
4
{\displaystyle {\ce {Ni + 4CO <=> Ni(CO)4}}}
用途
光沢があり耐食性 が高いため、装飾用のめっき に用いられる(単純な耐食用途ならクロメート めっき等、より安価で効果的な方法がある)ほか、導電性も高い(鉄 、クロム より優れるが銅 には及ばない)ため電気接点のめっきにも好んで使われる。ステンレス鋼 や硬貨 の原料などにも使用される。
硬貨の原料
日本 で2022年現在発行されている五十円硬貨 や百円硬貨 は、銅 とニッケルの合金(白銅 )である。アメリカ合衆国 の5セント硬貨 も白銅だが、通称「ニッケル」と呼ばれている。純ニッケルも硬貨の材料として用いられたことがある。これはニッケルが特殊鋼 や薬莢 の材料である白銅の原料として重要であるため、国家が備蓄 し、平時は硬貨として流通させ、有事に際してはほかの素材の硬貨や紙幣 で代替して回収するためである[ 4] 。日本でも第二次世界大戦 直前の1933年 (昭和 8年)から1937年 (昭和12年)にかけて、5銭 と10銭 のニッケル硬貨が発行されており、その名目で軍需物資であるニッケルを輸入した。ただし、戦後もニッケル硬貨は発行されており、1955年 (昭和30年)から1966年 (昭和41年)まで発行されていた五十円硬貨(1959年 (昭和34年)に無孔から有孔に変更)がニッケル硬貨である。
高張力鋼
軍艦 の装甲 の素材として、鋼 に質量比で6%のニッケルを添加して、砲弾 を跳ね返すだけの強度を持たせる技術が1887年 にイギリス で開発された[ 5] 。この合金を基礎として、各種の高張力鋼 が開発されているが、多くの場合にニッケルが含まれる[ 5] 。
磁性材
ニッケルと鉄にモリブデン やクロム を加えた合金 をパーマロイ と呼ぶ。優れた軟磁性 材料であることから、変圧器 の鉄心 や磁気ヘッド に用いられている。
耐熱材
ニッケル36 %、鉄64 %の合金を「インバー 」、ニッケル36 %、鉄52 %、クロム 12 %の合金を「エリンバー 」と呼ぶ。インバー合金は熱膨張率が非常に小さく、エリンバー合金は温度による弾性率 の変化が非常に小さいという特徴があり[ 6] 、機械式時計 の発条などの精密機械に用いられている。ニッケルベースの合金である各種のインコネル は、その耐熱性からタービン 用コンプレッサ の材料などに用いられる。
形状記憶合金
チタン とニッケルの1:1の合金はもっとも一般的な形状記憶合金 となる。
触媒
ニッケルは不飽和炭素結合 に対する水素付加 の不均一系触媒 としてラネー合金 などに加工され工業的に用いられる。
電極材
水酸化ニッケルはニッケル・水素蓄電池 やニッケル・カドミウム蓄電池 などの二次電池 の正極に使われる。
水素貯蔵合金
水素を取り込む性質を利用し、水素貯蔵合金 のAB5 型、Mg型。
電気自動車用電池
近年では電気自動車 の電池にも使われる[ 7] 。2022年 11月17日にはゼネラル・モータース の幹部がヴァーレ のカナダ法人と長期契約を結びケベックの工場からEV用電池に使用できるニッケルの供給を2026年 に始めると発表した[ 7] 。
歴史
アクセル・クロンステット (Axel Frederik Cronstedt)が1751年に単体分離[ 3] 。
産地
ニッケル鉱石の生産は世界全体で134万トン(2009年現在)である。その内訳はロシア が19 %、オーストラリア 14 %、インドネシア 12 %、カナダ 10 %、ニューカレドニア 7 %となっている[ 8] 。全世界での埋蔵量に占めるニューカレドニアの割合は25%と推定されている[ 9] 。
鉱石としては、おもに蛇紋岩 中に産出する珪ニッケル鉱 (Garnierite 、(Ni,Mg)3 Si2 O5 (OH)4 とされるが、組成が一定しないので独立種とは認められていない)、磁硫鉄鉱 などと共産するペントランド鉱 (Pentlandite 、(Fe,Ni)9 S8 )がおもに採掘されている。
精錬
かつては、オ-フォード法、モンド法、ヒビネット法[ 4] 、徐冷選鉱法などが利用された。2000年代以降は電気精錬法が用いられる[ 10] 。
国別の産出量
2011年における国別の産出量は以下の通りである[ 11] 。
日本のニッケル鉱山と産出
日本では第二次世界大戦 中、京都府与謝郡 の大江山 で開発されたニッケル鉱山で日本冶金工業 が採鉱し、近くの製錬所でフェロニッケル に製錬、さらに川崎市の同社工場でニッケル合金として軍用に提供していた。また山口県においても、山口県周南市から岩国市にかけて断続的に蛇紋岩帯があり、昭和15年から20年にかけて金峰鉱山などで採掘が行われた。このほか千葉県の房総半島など、蛇紋岩帯の存在する地域で採掘が行われた。しかし、これは戦時体制 による商業コストを度外視したものであり、ほとんどが終戦とともに閉山・廃鉱となった。
この金属は、日本国内において産業上重要性が高いものの、産出地に偏りがあり[ 注釈 1] 供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入 で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障 策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄 すると定められている。
2015年(平成27年)現在、ニッケルを日本国内で製錬しているのは、大平洋金属 八戸製造所、日本冶金工業 大江山製造所、住友金属鉱山 日向製錬所 である。
生物との関わり
ウレアーゼ (尿素 分解酵素 )やいくつかのヒドロゲナーゼ (分子 型水素 の酸化還元 酵素)などは、その機能を発現するためにニッケルを取り込んでいる[ 12] 。しかしながら、ニッケルは金属アレルギー を引き起こしやすい金属のひとつであり、WHO の下部組織IARC はニッケル化合物を「Group1:ヒトに対する発癌性 が認められる化学物質」としている[ 注釈 2] 。
おもな合金
ニッケルの化合物
化合物中の原子価 は2価がもっとも安定であるが、3価および4価のニッケル原子を含む錯体 も存在し、−1、0、+1といった低原子価の錯体も存在する。強酸 の陰イオン よりなる塩 類は一般的に水に可溶であるが、カルコゲン などとの化合物は難溶または不溶である。
脚注
注釈
^ ロシア、カナダ、インドネシア、豪州、ニューカレドニアで約3分の2を占める。
^ ただし、IARC の報告は疫学的リスク評価であり、ニッケルおよびニッケル化合物に人に対して発癌するリスクが存在するという意味であり、どのぐらいの量をどのくらい長期間接触したら発癌するといった量的評価ではない。
出典
^ M. Carnes et al. (2009). “A Stable Tetraalkyl Complex of Nickel(IV)”. Angewandte Chemie International Edition 48 : 3384. doi :10.1002/anie.200804435 .
^ S. Pfirrmann et al. (2009). “A Dinuclear Nickel(I) Dinitrogen Complex and its Reduction in Single-Electron Steps”. Angewandte Chemie International Edition 48 : 3357. doi :10.1002/anie.200805862 .
^ a b 桜井弘 『元素111の新知識』講談社 、1998年、155頁。ISBN 4-06-257192-7 。
^ a b 藤原唯義、「ニッケル及モネルメタルの採鑛と製錬 」 『日本鑛業會誌』 1933年 49巻 575号 p.165-169, doi :10.11508/shigentosozai1885.49.165 , 資源・素材学会
^ a b 藤井 2013 , pp. 130–182, 第4章 金属工業のビタミン「レアメタル」
^ 深道和明, 斎藤英夫、「不感磁性インバー合金, エリンバー合金Cr基合金を中心にして 」 『日本金属学会会報』 1976年 15巻 9号 p.553-562, 日本金属学会
^ a b 「GM、バーレとニッケル供給契約 EV電池コスト低減へ 」『Reuters』2022年11月18日。2022年12月8日 閲覧。
^ 外務省 国際ニッケル研究会の概要
^ “楽園の暴動とニッケル市場”. ニューズウィーク 日本版(2024年6月4日号) . CCCメディアハウス. (2024-05-28). p. 30.
^ 黒川晴正、高石和幸、「住友金属鉱山ニッケル工場におけるニッケル・コバルト精錬 」 『Journal of MMIJ.」 2007年 123巻 12号 p.678-681, doi :10.2473/journalofmmij.123.678 , 資源・素材学会
^ 地理 統計要覧 2014年版 ISBN 978-4-8176-0382-1 P,96
^ 一島英治、『酵素の化学』 p.45
参考文献
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
ニッケル に関連するカテゴリがあります。
外部リンク