テーレウス(古希: Τηρεύς, Tēreus)は、ギリシア神話の人物である。長母音を省略してテレウスとも表記される。
トラーキア王でアレースの息子とされる。妻のプロクネー、その姉妹ピロメーラーとともに鳥に姿を変えられた。
神話
原典によって物語に異同がある。以下はアポロドーロス『ビブリオテーケー』(日本語訳『ギリシア神話』。3巻XIV, 8)に基づく。
アテーナイ王パンディーオーンとテーバイ王ラブダコスとの間で国境をめぐって紛争が起こったとき、テーレウスはパンディーオーンに味方をして戦に勝利した。パンディーオーンは娘のプロクネーをテーレウスに妻として与え、二人の間に息子のイテュスが生まれた。
しかし、テーレウスはプロクネーの姉妹ピロメーラーを恋するようになり、プロクネーを田舎に隠し、妻が死んだと偽ってピロメーラーを犯した。ピロメーラーはテーレウスに舌を切られて口をきけないようにされたため、自分の長衣に文字を織り込んでプロクネーに送った。
プロクネーはピロメーラーを探し出すと、報復の手段を考えた。プロクネーはテーレウスとの息子であるイテュスを殺し、釜で煮て、テーレウスの食膳に供したうえ、ピロメーラーとともに逃亡した。自分が何を食べたかを知ったテーレウスは斧を持って二人を追った。ポーキスのダウリアでテーレウスが追いついたとき、姉妹は鳥に姿を変えてくれるよう神に祈った。プロクネーはナイチンゲールに、ピロメーラーはツバメに、またテーレウスもヤツガシラとなった。
異説
オウィディウスの『変身物語』(第6巻。第412-674行)では、テーレウスがピロメーラーを恋するようになったのは、プロクネーとの結婚後5年目の秋、プロクネーが妹に会いたがったために、テーレウスがアテーナイにピロメーラーを迎えに出向いたときとする。テーレウスはピロメーラーを犯して舌を切り取り、プロクネーにはピロメーラーが死んだと作り話をした。死んだことにされたのがピロメーラーである点はアポロドーロスと異なる。プロクネーは息子のイテュスを殺して料理に出し、ピロメーラーはイテュスの首をテーレウスに投げつけたとする。また、テーレウスがヤツガシラに姿を変えられた点ではアポロドーロスと共通するが、姉妹がツバメとナイチンゲールのいずれにされたかは言及していない。
ヒュギーヌスの『物語集』(日本語訳『ギリシャ神話集』。第45話「ピロメーラ」)によれば、パンディーオーンはテーレウスにピロメーラーを乞われたとき、護衛の兵を付けて送り出したが、テーレウスは護衛たちを海に投げ込んで殺し、山中でピロメーラーを犯したとする。トラーキアに戻ったテーレウスはピロメーラーをリュンケウスに譲った。リュンケウスの妻ラエトゥーサはプロクネーと仲が良かったため、ピロメーラーをプロクネーのもとに連れてゆき、テーレウスの所行が露見したとする。舌を切り取った話には言及しない。また、神託によってイテュスが親族の手で殺されると告げられたテーレウスは、弟のドリュアースを疑って殺した。変身については、ヒュギーヌスはプロクネーがツバメに、ピロメーラーがナイチンゲールに、テーレウスはハイタカに姿を変えられたとしている。
解釈
イギリスの詩人ロバート・グレーヴスは、この神話について、「このような途方もないロマンス」はポーキス人がダウリスに侵入したとき、トラーキア(ペラスゴイ)人が神殿に残した一連の壁画を解釈したもので、壁画には、この地域で行われていた様々な予言の方法が描かれていたとする。
例えば、舌を切られたというのは、巫女が月桂樹の葉を噛んで恍惚状態となっている場景を誤って解釈したものとする。テーレウスとは「観察者」の意であり、ヤツガシラに姿を変えられたというのは、おそらく男の占い師が鳥占いしている場面があったのだろうとする。
グレーヴスはまた、当初の物語では、舌を切られたのはプロクネーでツバメとなり、ピロメーラーがナイチンゲールになったというものだったが、神話作者が間違ってピロメーラーの舌が切られたと述べたために、話のつじつまを合わせるためにプロクネーとピロメーラーの変身が入れ替わるなど、混同が起こったとする。一般的には、プロクネーがツバメになり、舌を切られたピロメーラーは口がきけなくなった償いとして鳴き声の美しいナイチンゲールになったという結末をとるものが多い。
系図
参考図書
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