未解決事件(みかいけつじけん)とは、容疑者が検挙、または判明・発覚などが一切できていない刑事事件のことである。
捜査または捜索等が行き詰まった場合、または公訴時効が成立して未解決となった事件は、完全犯罪が成立することを意味し、また「迷宮入り」とも言われる。なお英語では通称コールド・ケースともいう。
社会との関わりとして、長期間に逃走した犯人が逮捕された後に身柄が判っているものも原則、「犯人がわかっている未解決事件」として表現される場合もある。
警察庁はこの他、令和改元(2019年5月1日)以降にも、未解決の殺人・(児童の)失踪・窃盗などの事件が多く相次いで発生していることから、長期捜査中も含めた該当する未解決事件の謝礼金および懸賞金または報奨金等を用意して、事件の解決、または解明に向けての有力な情報に提供を呼び掛けている(後述)。
概要
未解決事件が存在することは犯人が社会的に裁かれるのを不当に免れることになり、被害者と遺族の苦しみが続き、また、罪を犯した者を法によって裁き、罪を償わせるという刑事法の目的を達成することができない。また犯人による再犯の恐れもあり、社会への重大な不利益となる。また、犯罪捜査を責務とする捜査当局(警察)にしても、犯人を取り逃がすことで公訴時効を迎えてしまう場合もままあるため、警察の信用も損ねることになる。
広義では捜査当局によってある程度犯人を特定され、指名手配されている場合があるものの、国外へ逃亡している場合も多いため刑事裁判が開けない事件も未解決事件として扱われる場合がある。また首謀者など事件の全容を知る人物の死亡により、全貌を解明できなくなった事件[注 1]や、別に真犯人がいるとする説がある事件[注 2]も未解決事件として扱われる場合がある。
足利事件のように、民間の調査機関やジャーナリストの手で真相が捜査され、真犯人を特定したと主張して警察へもその捜査の要請がなされているケースも、対象者の実名を報道しないことで社会的に真犯人の特定とされない場合は未解決事件と認識されてしまう事がある。
一部には人間の故意による事件ではなく、事故に過ぎないものが未解決事件として扱われることもある。また、公訴時効が過ぎた未解決事件について、自ら犯人を名乗り出る者もいる。
一度は犯人と特定された被疑者が裁判や再審で無罪となり、冤罪事件となって真犯人が逮捕されていない事件も未解決事件として扱われる。冤罪事件の場合、被疑者が長期裁判や再審無罪になった時には長い年月が経っており、公訴時効を迎えている、証拠が集められなくなるなどの理由で未解決事件となりやすい。
未解決事件に対する取り組み
警視庁の取り組み
警視庁では2007年に捜査特別報奨金制度を導入し、未解決事件の情報提供の増加に力を入れている。また、これまでにも世田谷一家殺害事件や柴又上智大学女子大生放火殺人事件、八王子スーパー強盗殺人事件など長期の専属捜査が行われている例はあったが、進展のない未解決事件の多くは新しく発生した事件に捜査員を割り振るなどの理由で、警視庁刑事部内の捜査本部が事件からほどなくして閉鎖されることも少なくなかった[注 3]。そこで、2009年11月には警視庁捜査一課内に未解決の殺人事件などを専門に扱う、4個係を擁する特別捜査部署「特命捜査対策室」を作り、捜査に当たっている。過去の捜査を再検証し、DNA型鑑定など科学捜査で被疑者逮捕を目指す。なお、捜査が現在も継続している事件はこのチームでは扱わないとしている。
2010年8月、警察庁は未解決事件の捜査専従班を警視庁と各道府県警察に設置する方針を決めた。凶悪事件の公訴時効の廃止・延長に伴い、未解決事件の捜査体制強化のため、地方警察官833人の増員を来年度予算の概算要求に盛り込んだ。内訳は専従捜査員329人、見当たり捜査員(指名手配被疑者の顔を覚え見分ける)34人、サイバー犯罪対策350人、検視専門の刑事調査官(検視官)・補助者120人[1]。
公訴時効廃止までの動き
2004年に殺人罪・強盗殺人罪など死刑にあたる罪の公訴時効の期間は15年から25年に改正されたが、殺人事件被害者遺族の会(宙の会)や全国犯罪被害者の会(あすの会)などが公訴時効停止・廃止を訴えるなど殺人事件被害者の遺族らによる公訴時効見直しの声が高まった。
一方で刑事訴訟法改正による、時効の延長・廃止の時効進行中の事件に対する適用が、近代刑法の原則および日本国憲法第39条で規定されている法の不遡及に違反する可能性が指摘されている。犯罪被害者家族の会(ポエナの会)などは、この見地から公訴時効の廃止を要望するも、過去の事件に対しての遡及による適用には反対の意を示していた。
2010年4月27日、殺人罪・強盗殺人罪など公訴時効廃止や故意に死に至らしめた罪の公訴時効延長などが盛り込まれた刑事訴訟法並びに刑法の改正案が成立し、即日施行された。施行時に公訴時効を迎えていない過去の未解決事件にも適用される。一方で施行前に時効を迎えた事件に遡っての適用はされない。
100歳送致について
ただし、公訴時効が廃止された事件についても、被疑者(容疑者)が100歳以上の高齢者の場合、すでに死亡している可能性が高いとして書類送検し捜査を終了する「100歳送致」の制度が採られることとなり、事実上の公訴時効制度が存続されることとなった。この制度が初めて適用されたのは、1995年に下関市で発生した死体損壊遺棄事件で、事件当時74歳の男性が指名手配されたが、それから26年が経過した2021年9月に(生きていれば)被疑者が100歳になっても逮捕できなかったことで死亡している可能性が高いとして書類送検・捜査終了となった[2]。なお、「未解決事件の一覧」節に記載されているような被疑者が特定されていない事件については、事件当時の被疑者の年齢を20歳とみなし、事件発生から80年経過後に被疑者が100歳に達したとして捜査終了となる[3]。
アメリカ合衆国
受刑者らが未解決事件についての情報を知っていることが多いことから、アメリカの刑務所では未解決事件の短い記述や犠牲者の顔写真などが印刷されたトランプのカードを頒布している[4]。
オランダ
オランダの警察当局は、研修のために訪れたアメリカの刑務所で、未解決事件の短い記述や犠牲者の顔写真などが印刷されたカードで遊ぶ服役者の姿を見て、カレンダーを発案[4]。毎週1件の未解決事件を取り上げたカレンダーを製作して刑務所で受刑者らに配布している[5]。
未解決事件の一覧
- 被疑者が指名手配もしくは国際指名手配されている事件は「日本における指名手配」を参照。
- ただし、捜査機関が被疑者を特定しているものの、被疑者が逃亡しているために裁判が進行できない事件や、近代法制における警察捜査が全くない国の事件は除く。
- 捜査機関が事件性がないものと断定しているが、殺害されたという有意な主張が存在する事件についても取り上げる。
- 失踪事件や変死体は件数が多いため、警察が事件を視野に捜査しているものを取り上げる。
19世紀
1801年(寛政13年)- 1900年(明治33年)
20世紀
1901年(明治34年)- 1940年(昭和15年)
1941年(昭和16年)- 1950年(昭和25年)
1951年(昭和26年)- 1960年(昭和35年)
1961年(昭和36年)- 1970年(昭和45年)
1971年(昭和46年)- 1980年(昭和55年)
1981年(昭和56年)- 1990年(平成2年)
1991年(平成3年)- 2000年(平成12年)
21世紀
2001年(平成13年)- 2010年(平成22年)
2011年(平成23年)- 2020年(令和2年)
2021年(令和3年)- 現在
関連書籍
- 歴史の謎研究会編『世界史の謎と暗号 ダ・ヴィンチ、ジャンヌ・ダルク、始皇帝、モーツァルト…歴史を変えた37人の奇妙な「痕跡」』(青春出版社、2006)
- 日本博学倶楽部『世界史未解決事件ファイル「モナリザ贋作疑惑」から「アポロ11号着陸捏造疑惑」まで』(PHP研究所、2006)
- 歴史の謎研究会編『未解決事件の謎と暗号 歴史の闇に消えた…』(青春出版社、2007)
- 日本博学倶楽部『日本史未解決事件ファイル「聖徳太子架空人物説」から「西郷隆盛生存説」まで』(PHP研究所、2005)
- 松本清張『日本の黒い霧(全)』(文芸春秋、1973)
- 矢田喜美雄『謀殺 下山事件』(講談社、1973)
- 柴田哲孝『下山事件 最後の証言』(祥伝社、2005)
- 大野達三『松川事件の犯人を追って』(新日本出版社、1991)
- 朝日新聞社116号事件取材班『新聞社襲撃 テロリズムと対峙した15年』(岩波書店、2002)
- エスエル出版会編『謀略としての朝日新聞襲撃事件 赤報隊の幻とマスメディアの現在』(エスエル出版会、1988)
- 谷川葉『警察が狙撃された日 国松長官狙撃事件の闇」』(講談社プラスアルファ文庫、2002)
- 柳川喜郎『襲われて 産廃の闇、自治の光』(岩波書店、2009)
- 森下香枝『グリコ・森永事件「最終報告」真犯人』(朝日新聞社、2007)
- 『日本の「未解決事件」100(別冊宝島)』(宝島社、2011)
- 『【昭和・平成】9大未解決事件の真犯人』(宝島社、2009)
- 週刊朝日ムック『未解決事件ファイル 真犯人に告ぐ』(朝日新聞出版、2010)
- 清水潔『殺人犯はそこにいる〜隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(新潮社2013)
未解決事件の捜査を描く作品
脚注
注釈
出典
関連項目