『幼女戦記』(ようじょせんき、英語: The Saga of Tanya the Evil)は、カルロ・ゼンによるライトノベル。書籍版をベースに書籍付属のサウンドドラマ、漫画、アニメ、映画とメディアミックス展開が行われている。
原作は2011年から日本の小説投稿サイト「Arcadia」にてオンライン小説として連載された[3]。2013年10月からWeb版を改稿する形でエンターブレイン (KADOKAWA) より刊行されている。イラストは篠月しのぶ。また、コミカライズ版は東條チカによって『月刊コンプエース』 (KADOKAWA) に2016年6月号から連載されている。この他に、京一によるスピンオフ漫画も同誌にて連載される。
シリーズ累計発行部数はテレビアニメ化直前の2016年12月時点で100万部[4]、テレビアニメ放映後の2017年2月時点で160万部[5]、劇場版上映直前の2019年1月時点で400万部[6]、2021年12月時点で950万部を突破している[7]。『このライトノベルがすごい!』2018年版で単行本・ノベルス部門第3位[8]。
「第一次世界大戦」と「第二次世界大戦」が混ざったような状況のヨーロッパ(欧州)に似た、初めて世界大戦を経験する世界を舞台とし、その世界に女の子として生まれ変わった元日本人のサラリーマンが軍へ入隊、自分が所属する「帝国」の兵士として敵対国家群と戦っていく。
本作中では主要国に設定されている国名はあまり呼ばれず、主に「協商連合」「共和国」「連邦」などと呼称される。また「魔力」のある人間が貴重な戦力となることから、その資質があれば女性でも徴兵・前線に投入される世界になっており、そのために主人公が幼女であっても戦場に赴くという設定になっている。
21世紀初頭の日本。徹底的な合理主義者でエリートサラリーマンであった主人公は、同僚の逆恨みで命を落とす。死後の世界、創造主を名乗る存在Xは主人公のリアリストな言動と無信仰を咎め、戦乱の世界で苦労して反省し信仰を取り戻させるとし、孤児の少女であるターニャ・デグレチャフとして別世界に転生させる。
転生した世界は魔法技術が存在するものの、大まかに20世紀初頭の欧州に似た世界で、自身が生まれ育った「帝国」は技術大国だが経済が低迷しているうえに周囲諸国と外交的・軍事的問題を抱え、数年後には大戦に至る様相を呈していた。前世の記憶を維持したまま転生を果たしたターニャは、天性の魔導の才能から幼くして徴募されることとなり、それならばと士官学校へ進むことを選択する。前世の記憶を活かして軍人としてのキャリアを積み、安全な後方勤務で順風満帆な人生を送ろうと目論むターニャであったが、思惑は外れ、大戦の最前線に送り込まれ続けることとなる。
統一暦1923年。帝国を甘くてみていた北方に位置する小国・レガドニア協商連合は互いの係争地域であるノルデン地方へ突如越境侵攻を行い紛争が起こる。これを受けて帝国は、西方の歴史的大国・フランソワ共和国への抑えとしていた西方方面軍を北方に振り向けるが、これが共和国による帝国領への侵攻を誘発させてしまい、二正面作戦を強いられる危機に陥る。
将来のキャリアのために模範的帝国軍人として振る舞うターニャであったが、一連の出来事の中で期せずして戦場で活躍し、士官候補生の身で銀翼突撃章と二つ名「白銀」を賜り、前線向きと見られ始める。さらに士官として初の任地となった西方ライン戦線でも、その異様な戦闘能力で「ラインの悪魔」と怖れられるようになる。そして、その目覚ましい活躍と士官学校時代の成績から陸軍大学へ入ることが決まり、ターニャは順調に高級士官候補として後方勤務への道が開けたことを喜ぶ。
ところが、大学図書館で偶然出会った参謀本部のゼートゥーア准将に前世の知識から、将来的な世界大戦と総力戦の展望を話してしまい、さらにその時局に有効な手段として魔導大隊設立を意図せず提案してしまう。ターニャに関心を持ったゼートゥーアは、彼女の提案通り、魔導大隊の設立を決め、その編成も含めた指揮官として、大学を卒業したばかりのターニャに任せるという異例の人事を行なう。後方勤務に行きたいターニャは、編成期間を利用して遅延や計画の白紙化を目論むが、全て裏目に出る。候補者の脱落を目論んだ過酷な訓練は、かえって彼らを精鋭と化してしまい「第601編成部隊」、後の「第203魔導大隊」が結成される(第1巻)。
ゼートゥーアら参謀本部の手腕によって協商連合・共和国を相手に膠着状態が続く中、これらに呼応して南方のダキアが帝国に侵攻したり、名目上は中立の連合王国が暗躍を始めたりしていた。参謀本部直轄である第203魔導大隊は、機動部隊として、その設立目的通りの活躍を北方で収め、時に意図せず連合王国にも大きな損害を与えていた。しかし、兵站を軽視して協商連合を早期に降伏させたい北方司令部と、内線戦略を重視するターニャ及び参謀本部との溝は深く、修正計画で再度協商連合に大打撃を与えるものの、ターニャは西方戦線へ転属となり、再びライン戦線へと舞い戻る。
時にパルチザンによって兵站を脅かされつつも、速やかな第203魔導大隊の活躍によって確実に共和国へ損害を与える日々を送っていたターニャたちであったが、戦線は膠着していた。ゼートゥーアら参謀本部は「衝撃と畏怖」作戦を起草し、その作戦のためにさらにターニャらは酷使される。無茶苦茶な殿軍任務を完遂した直後、今度はロケット(V1)に括られて敵地司令部を叩くという異常な作戦に不満に思うターニャだったが、やがてこれが敵軍の包囲殲滅を狙った回転ドア戦術であることに気づく。ターニャの活躍によって共和国司令部は壊滅し、歴史的な包囲殲滅戦が展開され、ゼートゥーアの思惑通り、一瞬にして共和国は壊滅、帝国は勝利を収める。しかし、前世の知識からド・ルーゴ将軍を逃せば、後の禍根になると確信しているターニャは残存部隊の殲滅を主張するが、勝利に酔う帝国軍はゼートゥーアさえも彼女の危惧に気付かず却下する。
ターニャの危惧した通り、ド・ルーゴは南方植民地で決起し、戦争終結が遠のく。連合王国の出方に注意しつつ、帝国は南方にロメール将軍を送り込み、その補佐として第203魔導大隊も派兵する。ひとまずド・ルーゴの計画を打ち破り、本国へ帰還するターニャであったが、今後の世界情勢を考えると不安を高めるのだった(第2-3巻)。
統一暦1926年3月。目下、連合王国の参戦を苦慮していた帝国は突如、連邦の侵攻を受ける。この侵攻に対し、ターニャは連邦首都直撃を提案し、本国政府や参謀本部の思惑を超えて、壊滅的被害を与える。ターニャに対する聴聞会など紆余曲折を経て、これを機に後方勤務を狙ったターニャであったが、戦闘団結成の論文がまたもやゼートゥーアら参謀本部を勘違いさせ、その実地確認としてサラマンダー戦闘団の設立及び指揮官に任命されてしまう。第203魔導大隊を基幹とするものの新たに指揮下に入る部隊は、どれもほぼ頼りないという絶望的な状況の中で、ターニャは人海戦術を用いる連邦軍相手の最前線へと送り込まれる(第4巻)。
当初は数が多くとも、革命による内部粛清で軍組織が崩壊しつつあった連邦軍を相手に快勝を続けるものの、やがて広大で寒冷な連邦領が足かせとなっていく。一方の連邦は、迫害していた高級軍人や魔導師らを軍に復帰させ、さらには連合王国や合衆国の支援を受け巻き返しを図る。状況の悪化を受けて国や軍の方針に苦言を呈するゼートゥーアは、そのまま首脳部に疎まれ、東部戦線に左遷されてしまう。査閲官として名目的には権限のないゼートゥーアだったが、その手腕を発揮して事実上の東部戦線司令として振る舞い、ターニャの助言も取り入れ自治評議会を認めるなどの占領地域政策によって戦略的な安定状態を作り出す。しかし、長引く疲弊状態に、帝国内部から「解決策」を求める声が強まっていく(第5-6巻)。
帝国参謀本部は鉄槌作戦を起草し、連邦に大打撃を与えたうえで友好国イルドアの仲介での和平交渉に活路を見出す。ターニャ率いる戦闘団の活躍で見事に作戦は成功するも、あまりの大勝に気を大きくした帝国の政治の最高意思決定機関である最高統帥会議は、過大な講和条件を要求しはじめ参謀本部が望んだ和平工作は破綻してしまう。そして更なる大勝を狙った帝国のアンドロメダ作戦は迎撃態勢を整えた連邦軍を前に失敗し、物資も人員も不足する中でターニャら帝国軍は前線を支える(第7-8巻)。
統一暦1927年6月。再編・休暇のために久しぶりに帝都へ戻ってきたターニャは、疲弊した前線と戦意が高揚した後方の乖離に衝撃を受ける。首都すらも物資が滞る中、正しい現状認識ができない帝国最高統帥会議はただ「勝利」を望み、軍部の終戦工作は破綻してルーデルドルフら参謀本部を悩ます。軍部が政権を握る「予備計画」も検討しつつ、ルーデルドルフはロメールら南方派遣軍を本国へと引き戻す計画を立てる。ターニャは友好的な中立国イルドアで久しぶりの美食を堪能しつつ、連合王国海軍相手に南方軍撤兵の支援作戦に従事する。そしてターニャは想定していた以上に帝国の問題は深刻だと知り、もはや破滅は免れ得ないとして「転職」まで考え始める(第9巻)。
一方、東部戦線を預かるゼートゥーアは、それが戦略上は小事と理解しつつも、作戦屋として計略を張り巡らし、戦線後退に擬態して反攻及び戦線の押し上げを行う。一方、西部方面に着任したロメールは、劣勢状態にある防空体制見直しのために、連合王国本土の強襲という奇策を企てる。そしてターニャら第203大隊は、2人の将軍にとって使い勝手の良い駒として酷使され、東へ西へ奔走させられる。ところが、東部戦線は成功する一方で、西部方面については極秘作戦だったはずのターニャの連合王国急襲は、なぜか情報が漏れて待ち構えられており、死線から辛うじて撤退に成功する。そしてターニャとロメールは、帝国の暗号が既に連合王国に破られ、情報が筒抜けであると確信する(第10巻)。
切羽詰まったルーデルドルフは、もはや帝国が「勝利」するには、軍部クーデターによる政治権力の一元化と、外交の不安定要素であるイルドアを早期に軍事制圧する「予備計画」しかないと思い込み始める。逆に敗戦を覚悟し、綺麗な敗北のための「予備計画」が必要と考えるゼートゥーアは、古き親友ルーデルドルフの動きを危惧する。そして、ルーデルドルフの暗殺をターニャに命じ、彼女の助言も取り入れ、その死を利用した穏便な政治権力の掌握という策謀まで描く。果たして暗殺計画は、連合王国の介入という予定外のことが起こるものの成功し、ルーデルドルフは不幸な事故という形で死ぬ。
後世に「恐るべきゼートゥーア」と呼ばれることになるゼートゥーア大将は、速やかに参謀本部へと返り咲くと、ルーデルドルフの後釜として、作戦と戦務を兼ねて事実上の権力掌握を行い、穏便な形で国家の一元的な指導体制を築く。そんな中で帝国と敵国の仲介者であるイルドアが合州国と武装中立同盟を結んだという報が届く。この同盟により強大国である合州国の参入の可能性が無くなり喜ぶレルゲンであったが、逆にゼートゥーアは思い描いていたより良き敗北の計画に支障が出たと言い、イルドアへの即時侵攻を命じる。ゼートゥーアはルーデルドルフが残した作戦計画をより激的なものに書き換え、レルゲンを侵攻の主攻を担う師団の師団長補佐に命じ、ターニャ率いるサラマンダー戦闘団もその指揮下に付く。最序盤において侵攻軍の師団長が亡くなったことで、意図せずレルゲンが師団代行となって軍の指揮を取ることになり、ターニャの補佐もあって歴史的な電撃戦を展開し、容易くイルドアの首都占領に成功する。ついに合州国が帝国に宣戦布告し参戦してくるが、実は合州国の参戦こそがゼートゥーアの狙いであった。このままでは共産主義の連邦に国家をまるごと支配されてしまうことを最悪の破滅と考えたゼートゥーアは合州国を参戦させ、西側と東側の勢力を釣り合わせることで、敗戦後の帝国に最低限の裁量権や連邦の影響力を減らそうと計画していた(第11-12巻)。
そんなゼートゥーアの思惑など知らない周辺国家は合州国参戦を機に、戦後の自分たちの権益を増やすべく帝国を追い詰めようとする。ゼートゥーアは連邦の主攻は春先と予測した上で、イルドアでは首都を明け渡す代わりに相手の物資を浪費させる戦略撤退を敢行し、東部・南部双方の戦線を意図的に膠着させる。ところが1928年1月、連邦は密かに準備していた「黎明」と称する大規模な戦略攻勢計画を発動する。帝国とゼートゥーアは完全に虚を突かれ、このままでは滅亡確実な中、いち早く敵の動きと狙いに気づいた前線のターニャは、ゼートゥーアの作戦命令を偽って、一介の中佐が東部方面軍全体に命令を下すという一世一代の独断専行を行う。混乱の中でゼートゥーアはこれを追認し、後世に彼が前もって計画していたとされ、また彼の人知を超えた偉業の1つとされる「払暁」作戦によって「黎明」を完全に破綻せしめる。ゼートゥーアはターニャに深く感謝すると共に、戦後まで見据えた計画に付き合わせることを予告し、ターニャはこれを承諾する(第13-14巻)。
声の項はアニメ版 / サウンドドラマ版の声優の順。1人のみの場合はアニメ版の声優を示す。軍隊の階級・役職・肩書きは特に断りがない場合、登場時のもの。ここでは書籍版を基本として記す。
5巻から登場する戦闘団。第二〇三魔導大隊を基幹とする。以下に挙げるのは二度目の結成時の人員である(最初の戦闘団は臨時編成の実証部隊なので一度解体されているため)。
コミカライズは東條チカ。キャラクターデザインがアニメ版とは異なるが、まだアニメ版の設定がない時期に連載を開始する必要があったためにアニメ版とは異なるデザインになっている(コミカライズはアニメよりも先に始まっている)。紋章や背景のデザインについては連載開始前にアニメの設定をもらえたため漫画版にも反映されている[21]。ただしアニメ関連の特典として描かれる漫画に関しては、アニメ版のキャラクターデザインをベースにした絵に変えて描いている。
原作をわかりやすい形で再構成・最適化しており[21]、その一つとして解説シーンを始めとした随所でキャラクターを「擬人化した動物」(帝国は「狼」、協商連合は「ロバ」、共和国は「豚」、連合王国は「ライオン」)として表現しているが、これは漫画版の特徴ともなっている。
著者の漫画を描く量と単行本の発売ペースが合わず「連載に単行本化が追いつかない」[22]という事態になっている。2、3か月連続での単行本の新刊発売が何度か行われており、単行本発売ペースの平均は週刊誌連載の作品と遜色がない。
作画は京一。監修は野田浩資。ターニャの食事情を題材に、戦時下で贅沢できない食への一喜一憂を描いている[23]。
山崎健太郎と佐野愛による朗読で、2018年よりAudibleから、分冊で、第10巻までがデータ配信でオーディオブック化されている。
第1期はAT-X・TOKYO MXほかにて、2017年1月から3月まで放送された。第2期『幼女戦記II』は2021年6月19日にABEMAでの特番「『幼女戦記』生還記念座談会〜激闘を振り返って〜」で製作が発表された[24]。
2019年2月8日には完全新作アニメーション『劇場版 幼女戦記』が公開された[25]。
『幼女戦記 謎解きゲーム 第二〇三航空魔導大隊選抜試験』のタイトルで、ナゾメイトが催したWEBサイト上の謎解きゲームイベント。YouTubeではターニャ・デグレチャフ(声 - 悠木碧)の語るオープニングムービーがあった[26]。参加者は魔導大隊へ入隊を志願しているという設定で、魔導大隊の編成を命じられたターニャ・デグレチャフによりメンバーを選抜すべく課された試験をクリアするのが目的である。2017年3月24日から4月10日にかけて実施された[27]。
『幼女戦記 魔導師斯く戦えり』のタイトルで、スタジオハーベストが配信する予定のAndroid/iOS用アプリゲーム。2020年5月26日より事前登録が開始され[28]、2020年12月10日よりサービス開始。2022年1月17日17時サービス終了[29]。