1945年にヴァネヴァー・ブッシュの "As We May Think" を読んだことで[11]、知識を誰でも入手できるようにすることを目標と定めた。戦後になってコンピュータに関する記事などを読み、またレーダー技師としての経験から、情報を分析してスクリーンに表示できることを知っていた。彼は、知的労働者たちがディスプレイの前に座り、情報の空間を飛び回り、より強力な方法で重要な問題を解決する集合的知性のような能力を利用できると考えた。エンゲルバートはコンピュータが単なる数値を処理する機械と見なされていたころに、対話型コンピュータを活用して集団的知性の利用を実現することをライフワークと捉えていたのである。
そこで、カリフォルニア大学バークレー校大学院の電気工学科に進学し、1953年に修士号、1955年に博士号を取得[9]。バークレーの大学院生時代、CALDICというコンピュータの構築に参加した。大学院での研究からいくつか特許を取得することになった[12]。博士号取得後もバークレーに助教授として1年間留まったが、そこでは自身のビジョンを実現できないと感じて去ることにした。そしてベンチャー企業 Digital Techniques を創業し、博士課程での記憶装置に関する研究の一部を商業化しようとした。しかし、やはりライフワークと決めたビジョンの実現をあきらめられず、1年でその会社をたたんでいる。
SRI と ARC
1957年、スタンフォード大学と当時関わりが深かった SRIインターナショナル(当時はスタンフォード研究所)に雇われた[13]。当初はヒューイット・クレーンの磁気デバイスの研究と電子部品の小型化の研究を手伝った。SRIで徐々に1ダースほどの特許を取得し(バークレー時代の研究に基づいた特許も含まれる)、1962年には長年温めていたビジョンについて Augmenting Human Intellect: A Conceptual Framework(人類の知性の増強: 概念的フレームワーク)と題したレポートをまとめ、研究を提案した[14](翌1963年にはA conceptual Framework for the Augmentation of Man's Intellect(人間の知性の増幅のための概念的枠組み)を公表している[13])。
1967年、エンゲルバートはマウスの特許を申請し、1970年に取得した(アメリカ合衆国特許第 3,541,541号)。マウスが開発されたのはその数年前で、エンゲルバートのアイデアに基づいてビル・イングリッシュが設計・開発した。その特許では "X-Y position indicator for a display system"(表示システムのためのX-Y位置指示器)とされており、金属ホイールを2つ持つ木製のマウスであった。エンゲルバートによれば、「マウス」と名づけられたのはしっぽに相当するコードが後ろ(というか利用者から見て手前)にあったためだという。また、スクリーン上のポインタは「バグ」と呼んでいたが、この用語は定着しなかった[16]。
エンゲルバートはマウスの発明に関してロイヤルティーを受け取ったことはない。その第一の理由は、特許が1987年に失効したため、パーソナルコンピュータでマウスが必須のデバイスとなる前だった点が挙げられる。第二に実際に製品化されたマウスは彼の特許に記載されていたのとは異なる(改良された)機構を使用していた。インタビューで彼は「SRIはマウスの特許を取らせたが、その価値を理解していなかった。後で知ったことだが、SRIはアップルに4万ドルかそこらでライセンス提供したんだ」と証言している[17]。エンゲルバートは数々の発明品を統合して、1968年12月9日のコンピュータ会議 (Fall Joint Computer Conference) でデモンストレーションを行った。これはアメリカなどでは「すべてのデモの母(The Mother of All Demos)」と呼ばれている[18]。
エンゲルバートの哲学と研究の方向性は(自身がバイブルと呼んでいる)1962年の研究レポート "Augmenting Human Intellect: A Conceptual Framework"[14]に明確に記述されている。ネットワーク指向の知性という概念に基づいてエンゲルバートは先駆的な業績を残すこととなった。
1988年、娘クリスティーナ・エンゲルバートと共に Bootstrap Institute を創業。1989年から2000年までスタンフォード大学で彼のアイデアに基づいたマネジメントセミナーを開催していた。1990年代初めまではセミナー参加者も多く、エンゲルバートの哲学に賛同して協業を申し出る者もおり、非営利団体 Bootstrap Alliance も創設することになった。イラク侵攻とその後の景気後退でパートナー企業からの援助は減ったが、マネジメントセミナーやコンサルティングは小規模に続行された。1990年代中ごろにはDARPAから新たなユーザインタフェース開発 (Visual AugTerm) のための資金提供を獲得し、大規模なジョイント・タスクフォースに参加している。
Bootstrapping Strategy
Engage Your Innovators
Engage target customers and other key stakeholders in your innovation team and network.
Map your improvement activities into ABC – (A) business as usual, (B) innovating how A work gets done, (C) innovating how B work gets done – to reveal hidden opportunities for engagement.
Connect B and C activities in networked improvement communities for additional leverage.
Leverage Your Collective IQ
Establish how your team/network will leverage its collective ingenuity and follow-through, beginning with shared values, vision, process, and enabling tools that are open and evolvable – this establishes the foundation for your dynamic knowledge ecosystem, your group brain.
Drill down into "Collective IQ" as a capability to reveal additional points of leverage.
Focus on Capability
Revisit your focus/horizon in terms of capability, e.g. "are we in the telegraph business or communications business?" – it's about improving capability for your customer, and your teams/networks.
For each desired capability, drill down to reveal hidden opportunities in human and tool innovation.
Accelerate Co-Evolution
Be pro-active about co-evolving the human and tool sides of the equation, fostering a symbiotic relationship between the two with a build-and-try pioneering attitude.
Join with other networked improvement communities as partners in exploration and pilot trials.
Walk Your Talk to Bootstrap Results
For those whose products/services are intended to leverage customers' Collective IQ, walking your talk can yield a bonus multiplier effect like compounded interest. When you are your own best customer, every improvement you make to your work product will automatically increase your own Collective IQ – the essence of bootstrapping.
The more your products/services contribute to increasing Collective IQ, the greater your potential to increase Collective IQ exponentially.
In fact, placing special focus on innovating how people work collectively on important challenges is your point of greatest leverage.
2000年、ボランティアと資金提供者の協力を得てエンゲルバートは The Unfinished Revolution - II をスタンフォードで開催した。これは Engelbart Colloquium とも呼ばれ、エンゲルバートの業績とアイデアを多くの人に知らしめるべく文書化・オンライン化することを意図している[31][32][33]。
2008年、Bootstrap INstitute と Bootstrap Alliance は合併し Doug Engelbart Institute と改称。エンゲルバートは名誉創設者とされている。運営は娘のクリスティーナ・エンゲルバートが行っている。エンゲルバートの哲学である「集団的知性の増強」を広める活動を行っている[35]。
^ abEngelbart, Douglas C (October 1962). “Augmenting Human Intellect: A Conceptual Framework”. SRI Summary Report AFOSR-3223, Prepared for: Director of Information Sciences, Air Force Office of Scientific Research. SRI International, hosted by The Doug Engelbart Institute. 2011年4月14日閲覧。
^Engelbart, Douglas C.; et al (1968-12-09). “SRI-ARC. A technical session presentation at the Fall Joint Computer Conference in San Francisco”. NLS demo ’68: The computer mouse debut, 11 film reels and 6 video tapes (100 min.) (Menlo Park (CA): Engelbart Collection, Stanford University Library).
Bardini, Thierry (2000). Bootstrapping: Douglas Engelbart, Coevolution, and the Origins of Personal Computing. Stanford: Stanford University Press. ISBN0-8047-3723-1