叡王戦(えいおうせん)は、不二家および日本将棋連盟主催[注 1]の将棋の棋戦で、タイトル戦のひとつ。2015年度にドワンゴ主催で一般棋戦として第1期が開始され、2017年度の第3期からタイトル戦に昇格した一番新しいタイトル戦である。番勝負の勝者は叡王のタイトルを得る。2024年7月時点でのタイトル棋戦序列は第3位。
本棋戦発足以前、プロ棋士対コンピュータ将棋ソフトウェアの棋戦である将棋電王戦が開催されていたが、2015年の電王戦FINALをもって団体戦としての電王戦は一つの区切りとされた[1]。
電王戦に類する棋戦の存続を希望したドワンゴが日本将棋連盟と協議した[要出典]結果、ドワンゴと日本将棋連盟の主催による新たな一般棋戦を創設すること[2]、そして新棋戦の優勝者が、装いを新たにした「第1期電王戦」[注 2]において、第3回電王トーナメントで優勝したコンピュータ将棋ソフトウェアと二番勝負で対局を行う事を、2015年6月にドワンゴ・日本将棋連盟の両社が公表した[2]。
新棋戦の名称は一般公募を行い[2]、公募案から主催者が9つに絞り込んだ上で[注 3]、公式サイトから一般投票[注 4]を行い、「叡王戦」に決定した[3]。優勝者は「叡王」の称号を得る。対局の模様は、約50 - 60局がニコニコ生放送で生中継された。
電王戦FINALまではタイトル保持者は出場しなかったが、本棋戦の第1期には糸谷哲郎竜王、郷田真隆王将が出場した[注 5]。なお、本棋戦とその関連イベントでは、タイトル保持者であっても段位で呼称した[注 6]。
平成28年度の第2期までは日本将棋連盟のタイトル戦以外の公式棋戦では最上位に位置付けられていた(第2期叡王戦の契約金は1億2500万円[4]。優勝賞金は非公表)。
「第2期叡王戦」のあと実施された「第2期電王戦」第2局(2017年5月20日実施)終了後に、電王戦が第2期限りで終了すること、および叡王戦が次期(第3期)から全棋士参加のタイトル戦に昇格することが発表された[5]。「タイトル戦の創設」および「一般棋戦からタイトル戦への昇格」は王座戦以来34年ぶりとなる[5]。これにより、初めてタイトル戦は8つになり、棋聖戦が年2回開催の1994年度以来、23年ぶりにタイトル戦が年8回開催されることになった。電王戦の終了に伴ってエントリー制から全棋士強制参加に変更され、タイトル保持者の段位呼称も廃止された。主催が新聞社・通信社以外のタイトル戦は史上初。契約金の額による序列は竜王戦・名人戦に次ぐ第3位とされた。また、決勝七番勝負においては、過去に例がない変則持ち時間制の導入のほか、タイトル戦としては初の一日制七番勝負・事前振り駒・チェスクロック方式で行われた(#方式の遍歴)。
第5期では運営費などを募るクラウドファンディングを「CAMPFIRE」にて実施。高額出資者には振り駒役や本戦トーナメントの抽選カード引きなど、将棋タイトル戦における重要な役割の体験が提供される[6]。また、ドワンゴとの動画配信協業により、AbemaTVでも同時生放送が開始された[7]。こちらではオリジナル編集として解説・聞き手は登場せず、評価値と対局の様子に限定して放送された。
2020年10月20日、ドワンゴが叡王戦の主催契約を解除することが発表された[8]。10月29日、第6期から不二家と日本将棋連盟の共同主催となることが発表された[9]。同時に、商標は日本将棋連盟に譲渡、タイトル戦は五番勝負、契約金の額による序列は第6位となった。第6期以降はABEMA 将棋チャンネルでのみ生中継され、解説・聞き手が登場する対局もある。第8期からは棋戦序列が第6位から第4位となり、第10期からはタイトル戦昇格時と同じ序列3位になっている。
永世称号である永世叡王は、叡王を通算5期以上保持した棋士に与えられる。棋戦創設以降、永世称号については長らく未定であったが、「永世叡王」の条件が2023年5月までに制定された[10]。2023年5月時点で該当者はいない。
第6期以降の現行方式は以下の要領で進行する。
叡王戦は現存する棋戦の中では予選を段位別で行う唯一の棋戦である。
全棋士(叡王保持者・後述のシード者除く)が出場し、各段位別に勝ち残りトーナメントを行う。
段位別予選の組合せは、基準日または予選抽選時の段位によって行われる(第7期は2021年6月9日、第8期は2022年4月1日時点)。
持ち時間は1時間(チェスクロック方式)、切れたら秒読み60秒。
対局開始は10時/14時/19時であり、1日に2局指す場合もある。
本戦トーナメント出場者は、段位別予選通過者12名に、前期叡王戦ベスト4以上(前期番勝負の敗者を含む)のシード権者4名を加えた計16名となる。
持ち時間は各3時間(チェスクロック方式、切れたら1手60秒未満)。挑戦者決定戦は決勝進出者2名による一番勝負で行われる。
本戦トーナメントの組み合わせは抽選で決定される[注 7]。 段位別予選からの通過枠が複数の段位(九段戦-六段戦)の本戦進出者は、1回戦では異なる段位者又はシード者との対局が組まれる。
前期叡王と挑戦者による五番勝負を行い、3勝した方が叡王の称号を得る[注 8]。
持ち時間は4時間(1日制、チェスクロック方式)、切れたら秒読み60秒。
一般棋戦として開催された。
段位別予選
棋士の戦う棋戦としては史上初となる[注 10]、現役プロ棋士のエントリー制(出場するか否かは棋士の任意)で、予選はかつての天王戦と同様に段位別に勝ち残り式トーナメントを行い本戦出場者を決める、「段位別予選[注 11]」の方式を採用している。年度途中で引退が確定しエントリー資格のない棋士を除き、第1期は159名中154名[注 12]、第2期は162名中158名が出場した[注 13]。
各段位予選からの本戦進出枠は、「九段4名・八〜五段各2名ずつ・四段1名」の基本13枠に、タイトル保持者数を勘案して割り振った追加3枠の、計16枠[11]。したがって年度によって各段位の本戦進出枠は変動する。第1期は「九段6名、八段3名」[3]、第2期は第1期の優勝者(叡王)が本戦シードとなり、予選からの出場枠は「九段5名・八段3名」となった[12]。
各段位の出場枠に応じて分けられたブロック[注 14]ごとに行われる、勝ち残り式トーナメントの勝者が本戦への出場権を得る。段位やブロックの順を問わず、ランダムで数日おきに消化する。ニコニコ生放送で中継される時は、1日につき2局または3局が配信される。持ち時間は各1時間(チェスクロック方式)で、切れたら1手1分未満。
本戦トーナメント
予選勝者(第2期は第1期優勝者(叡王)を含む)16枠の配置を再抽選した後、勝ち残り式トーナメントにより決勝進出者2名を決定する。準決勝までの持ち時間は各1時間(チェスクロック方式)で、切れたら1手1分未満。
決勝三番勝負
決勝進出者2名の三番勝負で優勝者を決定する。持ち時間各5時間(チェスクロック方式)で、切れたら1手1分未満。昼と夕方にそれぞれ1時間ずつの休憩を挟む。
タイトル戦昇格にともない、ルールの変更が行われた。以下、現行と違うものについて記載する。
アマチュア選手・女流棋士の参加(3 - 5期)
第3期からは他の棋戦同様全ての現役棋士に出場義務が課される。また、四段予選には主催者推薦により女流棋士[注 15]1名、アマチュア選手1名へ出場権が与えられる。持ち時間は従来通り各1時間(チェスクロック方式、切れたら1手60秒未満)。
女流・アマチュア代表決定戦(5期)
第5期のみ実施。段位別予選開幕に先立ち、3月下旬に「女流代表決定戦」「アマチュア代表決定戦」を実施し、当期の四段予選から出場する女流棋士(女性奨励会員も含む)およびアマチュアをそれぞれ1名ずつ選出する。
いずれも非公式戦扱いであり、参加者は各棋界のタイトルホルダーなどから主催者により選定される。女流王座戦のアマチュア予選などとは違い、公募制ではない。定員4名による1日制トーナメント方式で争われ、優勝者1名が四段予選に出場できる。
各対局のルールは段位別予選と同様。持ち時間は1時間(チェスクロック方式)、切れたら秒読み60秒。1回戦を10時・14時より行い、決勝戦を19時より行う。どの対局もニコニコ生放送での映像配信が行われる。
第5期女流代表決定戦には女流6大タイトルホルダー全員(里見香奈女流四冠、西山朋佳女王[注 16]、渡部愛女流王位)に加え、清水市代女流六段が登場[13]。第5期アマチュア代表決定戦には直近の主要アマ大会優勝者(アマ竜王・アマ名人・アマ王将・赤旗名人)が参加した[14]。
第3期・第4期には代表決定戦が行われず、段位別予選には女流棋界・アマチュア棋界のタイトル保持者から主催者推薦で選ばれた者が出場していた。女流は第3期が加藤桃子女王[注 17]、第4期が里見香奈女流五冠。アマチュアは第3期が赤旗名人、第4期はアマ名人・朝日アマ名人の二冠保持者(いずれも抽選時点)であった。
第3期の本戦トーナメント出場者は、段位別予選通過者15名(九段5名・八段3名・七段2名・六段2名・五段2名・四段1名)と第2期優勝者(叡王)1名の計16名であった。
叡王が本戦トーナメントより出場となったため、決勝戦は後述の七番勝負となった。また、準決勝も一番勝負で実施された。
挑戦者決定三番勝負(4 - 5期)
挑戦者決定戦が三番勝負で行われた。
七番勝負(3 - 5期)
決勝進出者2名により七番勝負で実施。「変則持ち時間制」を採用し、第6局までは手番(先手/後手)と3種類の持ち時間(1時間/3時間/5時間)から第1-2局/第3-4局/第5-6局ごとに第1局に先がけ予め決定し[注 9]、第7局の持ち時間は6時間。その他はこれまでと同様のルールで実施され、勝者がタイトル戦としての叡王となった。
番勝負の開催時期
3 - 4期は翌年4 - 6月に開催。5期は新型コロナウイルス感染症の感染状況により開催が遅れ6 - 8月に開催。6期から主催者交代により日程が見直され現行の4 - 6月開催となった。
タイトル戦昇格後(第3期以降)における番勝負は、日本将棋連盟が示す当該期の開催年度の「次年度」の日程で実施されている。
(例:第3期<2017年度>の七番勝負は2018年4-6月<2018年度>の日程で実施)
そのため、以下の表においては「開催年度」と「番勝負実施年月」を併記している。
主催者変更に伴い、棋戦内容と番勝負の一部変更あり(五番勝負、持ち時間4時間)
一般棋戦時代
タイトル戦時代
棋士別成績
主催がドワンゴのため、第4期まではニコニコ生放送が独占でネット配信を行っていた。メインコンテンツとなる対局のほか、段位予選組み合わせ発表会、本戦トーナメント抽選会、番勝負開催地発表会および振り駒式、番勝負前夜祭(第3期のみ)、そして叡王就位式の配信が行われている。
その対局の配信であるが、予選は八段以下の一部と九段予選の全局、本戦以降は全局が生中継対象となる。また、日本将棋連盟公式の棋譜中継アプリでも配信されている(生中継の対象とならなかった対局でも配信されることがある)。対局においては、上座・下座の別は叡王が登場する七番勝負を除く生中継の対象対局では存在せず、先手番が配信画面の右側、後手番が左側に着座する。これは、同じく上座・下座の別がないNHK杯テレビ将棋トーナメントとは反対の配置である。
2018年8月からは、生中継が行われなかった対局の中から数局をピックアップ解説したり、または本戦の振り返り解説をするといった内容の「叡王戦パラダイス」も月1回配信される。MCは観戦記者の内田晶・君島俊介。第3期叡王戦の終了後には、スポンサーであるキリンビバレッジの主催で「茶王戦」と称した記念対局が第3期叡王の高見泰地と谷川浩司によって指され、対局中および対局後に、茶道遠州流の師範・貫庵大柴宗徹による点前が行われた。
第5期からはABEMA 将棋チャンネルでも配信が行われる[43]。第5期はニコ生で解説・評価値付き中継、ABEMAで解説なし中継を配信するといった棲み分けが行われたが、ドワンゴの撤退により第6期以降はABEMAのみの配信となっている。これに伴い第6期では、予選の一部および本戦の対局がABEMAの本拠地であるChateau Amebaにて行われている。
通常のプロ(棋士・女流棋士)公式戦では通常の盛上駒が使用されている[44]。しかし、初期の叡王戦では、動画配信の対象となる対局については、段位別予選から番勝負に至るほぼ全ての対局で一字の彫埋駒が使用されているのが特徴だった[注 48]。一字駒は文字が大きく見やすいのと、彫埋駒はライトの照明による反射が少なく、盤面の撮影に最適であるため、テレビ棋戦(2018年現在は、NHK杯・銀河戦・女流王将戦の3棋戦)では古くから使用されているが、それ以外のプロ公式戦で一字駒が使用されるのは叡王戦が初の事例である。
棋譜の配信は、公式サイトにて段位別予選・本戦・番勝負の全局で行われている[注 49]。
棋譜表示にFlashではなく、HTML5が採用された初のタイトル戦である。このため、※ Internet Explorer10以下のブラウザをご利用の方は、ご覧になることができません。と記されている[45]。ただし、叡王戦中継サイト (決勝七番勝負)では2018年時点でFlashが[46]用いられていた。
第4期より実施している制度で、五番勝負と本戦トーナメントの各対局で実施している[47]。各対局1名で複数名の応募があった場合には抽選となる。料金は五番勝負が250万円(税込)[48]、本戦トーナメントで30 - 50万円(税込)。特典は、対局開始時や終了後の立会い、棋士・女流棋士による解説・指導、将棋めしの選択、対局者の直筆色紙のプレゼントがある[47]。五番勝負では、他に対局会場や近隣ホテルにおける宿泊(2泊)、前日検分、対局で使用された駒のプレゼントなどが用意される。
第6期から主催者が不二家へ変更されたことにより、対局場に不二家の菓子商品がおやつとして提供されることになった。ペコちゃんの意匠が描かれた叡王戦専用の箱「ペコちゃんお菓子BOX」[注 50]が対局者の傍らに用意されている様子が対局中継などで紹介されている[50]。提供菓子商品は対局ごとに複数用意され、持ち帰りもできる[51]。「ペコちゃんお菓子BOX」のデザインは期ごとに異なり、箱は使い回しのための持ち帰りできない。五番勝負では「ペコちゃんお菓子BOX」の菓子商品のほかにも、午前と午後のおやつに不二家のケーキやお菓子が提供される。