「アンド・アイ・ラヴ・ハー 」(And I Love Her )は、ビートルズ の楽曲である。1964年に発売された3作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム発売『ハード・デイズ・ナイト 』に収録された。レノン=マッカートニー 名義となっているが、主にポール・マッカートニー によって書かれた楽曲。アメリカでは1964年7月20日にキャピトル・レコード より「恋におちたら 」とともにシングル・カットされ、Billboard Hot 100 で最高位12位を記録した。
1964年7月14日には、BBCラジオの番組『Top Gear』用にレコーディングが行われ、2日後に放送された。
曲の構成
曲の大部分のキーは、Eメジャー とC#マイナー で、ソロ の直前でF に転調し、Dメジャー のコードで終わる[ 2] 。
「アンド・アイ・ラヴ・ハー」は、主にマッカートニーによって書かれた楽曲[ 3] だが、1980年の『プレイボーイ 』誌のインタビューでジョン・レノン は、「ミドルエイトは僕が手伝った」と主張している。ビートルズの音楽出版者であるディック・ジェームズ (英語版 ) は、レノンの主張を支持していて、レコーディング中にプロデューサーのジョージ・マーティン の提案によってミドルエイトが追加されたとし、「30分以内に2人は、とても商業的な曲にとても建設的な中間部を加えた」と語っている。一方でマッカートニーは「ミドルエイトは僕…この曲は僕が書いた。ジョンはたぶんミドルエイトを手伝ってくれたと思うけど、彼は『僕の曲だ』とは言えないよ」と語っている。
本作について、マッカートニーは「ラブソングだよ。特定の誰かに向けて書いたわけじゃない。タイトルは文節の途中から抜き出した。これは我ながら賢明だと思ったよ」と語っている。マッカートニーは、ジョージ・ハリスン がギターリフを書いたことを明かしていて、「この曲に見事な変化をもたらした」と賞賛している[ 7] 。
ジョージ・マーティン によるオーケストラ・アレンジ版が存在しており、1964年7月18日にB面に「リンゴのテーマ 」を収録したシングル盤として発売された。いずれもユナイテッド・アーティスツ・レコード から発売されたサウンドトラック・アルバム『A Hard Day's Night (United Artists) 』にも収録された。
レコーディング
「アンド・アイ・ラヴ・ハー」のレコーディングは、EMIレコーディング・スタジオ のスタジオ2で3日をかけて行なわれた。プロデュース はジョージ・マーティン が手がけ、レコーディング・エンジニア はノーマン・スミス 、セカンド・エンジニアはリチャード・ラングハムが務めた。
1日目
1964年2月25日の午後2時30分に、映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! 』のサウンドトラックのためのセッションが開始された。同日に本作が2テイク録音され、最後まで演奏されたのはテイク2のみであった。しかし、ビートルズは「より軽いタッチにする」と判断。1995年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー1 』にテイク2が収録された。
1日目のセッションでの担当楽器は、以下のようになっている。
2日目・3日目
1964年2月26日の午後7時から午後10までのセッションで、17テイク録音された。このセッションの途中で、スターの担当楽器がドラムからボンゴ とクラベス に変更されたが、メンバーは演奏に満足しなかった。セッションが中断され、休憩に入った際にミドルエイトが書き加えられた。ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ・アンソロジー 』のエピソード8にテイク11の短い断片が収録されており、演奏が止まる前にマッカートニーが「And if you saw my love, I'd love her [too]...」と歌っている。
1964年2月27日の午前10時からのセッションで新たに2テイク録音された。テイク20でベーシック・トラックが作成され、テイク21でマッカートニーのダブルトラッキング されたリード・ボーカルがオーバー・ダビング された。
2日目と3日目のセッションでの担当楽器は、以下のようになっている。
ポール・マッカートニー - リード・ボーカル、ヴォックスのベースアンプAC 100に繋いだヘフナー・500-1(1962年製)
ジョン・レノン - ヴォックスのギターアンプAC-50に繋いだギブソン・J-160E (1964年製)
ジョージ・ハリスン - ホセ・ラミレス (英語版 ) 社のクラシックギター
リンゴ・スター - ラディック社のドラムセット、ボンゴ、クラベス
ミキシングとリリース
「アンド・アイ・ラヴ・ハー」のモノラル・ミックスとステレオ・ミックスは、それぞれ2種類存在しており、いずれもテイク21から作成された。
モノラル・ミックス(3月3日作成)
3月3日にEMIレコーディング・スタジオのスタジオ1のコントロール・ルームで作成されたモノラル・ミックスで、プロデュースをマーティンが手がけ、レコーディング・エンジニアをスミス、セカンド・エンジニアをA.B.リンカーンが務めた。
このミックスにおいて、マッカートニーのボーカルは基本的にシングルトラックとなっているが、一部フレーズではダブルトラックになっている。
このミックスは、6月9日にキャピトル・レコード とユナイテッド・アーティスツ に送られ、6月26日にアメリカで発売されたサウンドトラック・アルバム『A Hard Day's Night (United Artists) 』(モノラル盤)に収録され[ 注釈 1] 、7月20日に発売されたキャピトル編集盤『サムシング・ニュー 』(モノラル盤)にも収録された。映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』では、半音キーが下げられた音源が使用された。
モノラル・ミックス(6月22日作成)
6月22日にEMIレコーディング・スタジオのスタジオ1のコントロール・ルームで2つ目のモノラル・ミックスが作成された。プロデュースとレコーディング・エンジニアは1つ目のモノラル・ミックスと同じくマーティンとスミスだが、セカンド・エンジニアはジェフ・エメリック が務めた。
このミックスでは、マッカートニーのボーカルが3番目のヴァースの冒頭の2行を除いてダブルトラックになっている。
このミックスは、7月10日にイギリスで発売された『ハード・デイズ・ナイト 』(モノラル盤)に収録された。
ステレオ・ミックス
「アンド・アイ・ラヴ・ハー」のステレオ・ミックスは、2つ目のモノラル・ミックスと同じ6月22日に作成された。2つ目のモノラル・ミックスと同じく、マッカートニーのボーカルが3番のヴァースの冒頭の2行を除いてダブルトラックになっている。
このミックスは、7月10日に発売された『ハード・デイズ・ナイト』(ステレオ盤)や、7月20日に発売されたキャピトル編集盤『サムシング・ニュー』(ステレオ盤)に収録された。
なお、ドイツで発売された『サムシング・ニュー』には編集が加えられたステレオ・ミックスが収録されており、こちらではギターのリフが6回繰り返されている。このミックスは、1980年にアメリカで発売された『レアリティーズ Vol.2 』にも収録されたが、CD作品には未収録となっている。
クレジット
※出典
チャート成績(ビートルズ版)
月間チャート
チャート (1964年)
最高位
日本 (ミュージック・マンスリー洋楽チャート)[ 23]
10
カバー・バージョン
カート・コバーンによるカバー
カート・コバーン によるカバー・バージョンは、2015年に公開されたドキュメンタリー映画『COBAIN: モンタージュ・オブ・ヘック 』で初公開となった。同年11月6日に発売された同作のサウンドトラック・アルバム『COBAIN: モンタージュ・オブ・ヘック〜ザ・ホーム・レコーディングス 』に収録された後、同月20日にB面に「サッピー」を収録した7インチシングル盤としてリカットされた[ 24] [ 25] 。
イギリスのVinyl Singles Chartでは第1位を獲得[ 26] し、アメリカの『ビルボード 』誌が発表したHot Singles Salesでは最高位2位を記録した[ 27] 。
チャート成績(カート・コバーン版)
その他のアーティストによるカバー
脚注
注釈
出典
^ “So, what music do you listen to?” . Billboard : 33. (28 April 2001). https://books.google.com/books?id=oxMEAAAAMBAJ&pg=PA33&lpg=PA33&dq=And+I+Love+Her+latin&source=bl&ots=ODhdVcN99f&sig=ACfU3U3MRxTJ1766cgWPB1XIvRRb_3YRRw&hl=el&sa=X .
^ Pollack, Alan W.. “Alan W. Pollack's Notes on "And I Love Her" ”. www.icce.rug.nl . 2021年5月4日 閲覧。
^ Unterberger, Richie . “And I Love Her - The Beatles | Song Info ”. AllMusic . All Media Group. 2021年5月4日 閲覧。
^ Simmons, Michael (November 2011). “Macca on George: "He Had An Eye Out For The Fakes"”. Mojo .
^ "Ultratop.be – The Beatles – And I Love Her" (in Dutch). Ultratop 50 . 2021年5月4日 閲覧。
^ "Ultratop.be – The Beatles – And I Love Her" (in French). Ultratop 50 . 2021年5月4日 閲覧。
^ “The Hot 100 Chart ”. Billboard (1964年9月5日). 2021年4月29日 閲覧。
^ Hoffmann, Frank (1983). The Cash Box Singles Charts, 1950-1981 . Metuchen, NJ & London: The Scarecrow Press, Inc. pp. 32-34
^ 『日経BPムック 大人のロック!特別編集 ザ・ビートルズ 世界制覇50年』日経BP、2015年、97頁。ISBN 978-4-8222-7834-2 。
^ Joyce, Colin (2015年9月23日). “Kurt Cobain Seven-Inch Featuring Beatles Cover Will Come Out This November” . SPIN (Next Management Partners). https://www.spin.com/2015/09/kurt-cobain-seven-inch-and-i-love-her-sappy/ 2021年5月4日 閲覧。
^ “カート・コバーン、11月にビートルズのカヴァーを収録した7インチがリリースされることに” . NME Japan (BandLab UK Limited). (2015年9月24日). https://nme-jp.com/news/5457/ 2021年5月4日 閲覧。
^ a b “Official Vinyl Singles Chart Top 40 ”. Official Charts Company (2015年12月11日). 2021年5月4日 閲覧。
^ a b “Hot Singles Sales : Dec 12, 2015 ”. Billboard (2015年12月12日). 2016年10月6日時点のオリジナル よりアーカイブ。2021年5月4日 閲覧。
^ “Official Physical Singles Chart Top 100 ”. Official Charts Company (2015年12月11日). 2021年5月4日 閲覧。
^ Bush, John. And I Love Him! | Songs, Reviews, Credits - オールミュージック . 2021年5月4日 閲覧。
^ Shapiro, Nat; Pollock, Bruce (1985). Popular Music, 1920-1979: A Revised Cumulation . 1 . Gale Research Company. p. 126. ISBN 0-8103-0847-9
^ “The Hot 100 Chart ”. Billboard (1965年6月26日). 2021年5月4日 閲覧。
^ Soft Samba - Gary McFarland | Songs, Reviews, Credits - オールミュージック . 2021年5月4日 閲覧。
^ Unterberger, Richie . “Feliciano! | José Feliciano | Songs, Reviews, Credits ”. オールミュージック . 2021年5月4日 閲覧。
^ 宇田和弘『アコースティック・ギター・ミュージック名鑑350』音楽出版社 、2007年、48頁。ISBN 4-8617-1028-6 。
^ Collar, Matt. Blues and Ballads - Brad Mehldau Trio, Brad Mehldau | Songs, Reviews, Credits - オールミュージック . 2021年5月4日 閲覧。
参考文献
外部リンク
UK盤・US盤共通
1963年 1964年 1965年 1966年 1967年 1968年 1969年 1970年 1978年 1982年 1995年 1996年 2023年
UK盤 (パーロフォン /アップル )
US盤 (ヴィージェイ /スワン /トリー /キャピトル /アップル )
1963年 1964年 1965年 1966年 1970年 1976年
その他 (オデオン /パーロフォン /アップル )
1963年 1964年 1965年 1966年 1968年 1969年 1970年 1972年 1978年 1981年