P-8 ポセイドン
アメリカ海軍のP-8A
P-8は、アメリカ合衆国の航空機メーカー、ボーイング社が開発した哨戒機。同社の小型旅客機ボーイング737からの改造機である。愛称はポセイドン(Poseidon)。
アメリカ海軍は1961年以来、固定翼対潜哨戒機としてロッキードP-3オライオンとその改良型を使用してきた。潜水艦の能力向上に応じて、対潜機器の能力向上を図ってきたが、搭載できる機器の重量が限界に近づいたことから、1980年代の半ばから、P-3後継機の研究を始めた。海軍は、ロッキード社が提案したP-3Cの改良型P-3GをP-7と命名し、この提案をもとにP-7の開発を進め1989年に2機の原型航空機を製造する定価契約をロッキードと結んだ。しかし、 ロッキードの開発遅延と3億ドルの予算超過が見込まれることがわかり、P-7プロジェクトは1990年7月に中止された。
2000年から再度、P-3後継機の競争を行わせ、ボーイングとロッキード・マーティン、BAEシステムズが応募した。ロッキード・マーティンはP-3をアップデートした「オライオン21」を提案、ボーイングは737-800ERX旅客機の改修型である「737MMA(Multimission Maritime Aircraft-多用途海上航空機)」を応募した。ボーイングは既存の自社旅客機の軍事利用をたびたび提案し、E-767、KC-767を開発したが、本機もその一環であった。BAEは1969年以来のニムロッド洋上哨戒機の新バージョンで応募したが、米国での生産パートナーが決定しないことから2002年10月に提案を取り下げた。後にニムロッドの新バージョン案は中止され、イギリス軍もP-8を導入することとなった。
2004年6月14日に政治力に勝るボーイング案が選定され、海軍は737MMAをP-8Aとして採用を決定した。プロジェクト費用は少なくとも150億ドル、最大で450億ドルであると予想され、レイセオン、ノースロップ・グラマン、スミス・エアロスペース、およびCFMインターナショナルが下請け契約者として協力する。
海軍は2004年7月8日に5機のP-8Aを発注し、まず3機が試作機として納入され、パタクセント・リバー海軍航空基地で試験が行われた。開発は難航したものの、2012年3月4日に量産1号機が海軍に引き渡された。
2013年11月に初期作戦能力(IOC)を獲得した。
機体は737NGシリーズの1つ、737-800ERXをベースにするが、翼端には同シリーズのオプション装備であるブレンデッド・ウイングレットではなく、ボーイング社の旅客機767-400ERのようなレイクド・ウイングチップ(傾斜翼端)を備えるなど若干の変更を行っている。エンジンはターボプロップエンジンより出力は大きいが燃費が悪いターボファンエンジンの2発でターボプロップエンジン4発のP-3よりも巡航速度は向上したが戦闘行動半径は低下した。
操縦席はアナログ計器中心のP-3から一新され、737NG仕様をベースとしたヘッドアップディスプレイ搭載のグラスコックピットとなった。P-3では海面の監視を容易にするためTACCO(戦術航空士)席をバブルウインドウとしていたが、P-8では原型機と同じ四角の窓が採用された。
魚雷、機雷や爆雷を搭載する兵器倉(ウェポンベイ)はP-3では機首下部に存在したが、P-8は機体後部に設置された。主翼には左右2カ所にハードポイントが備えられ、各種ミサイルの搭載が可能。P-3では胴体下部に電子戦・カメラポッド用のハードポイントが複数存在し、アップデートIIからはターレット式のFLIRを追加装備したが、P-8では当初から前述の各種機器を標準装備しているため、胴体下部のハードポイントは1箇所に減っている。
ソノブイ発射口はP-3Cでは後部胴体下面に48箇所の発射口があり、内45箇所が飛行前に機外からのみ装填でき飛行中再装填できず、残り3箇所が機内から装填可能な発射口になっている。投下する時は機内のソノブイラックから手作業で運搬・装填されていた。P-8は機体内部のソノブイランチャーによる自動装填・投下が可能となり、発射口も兵器倉後方の右に4箇所、左に3箇所と大幅に削減されている。しかしソノブイ搭載数はP-3の84本に対しP-8は129本と増加した。また機内からアクセスできる位置に手動投下口が設けられており、海上に目印を付ける信号発煙照明筒(マリンマーカー)、海面染色マーカー(ボールマーカー)や折りたたみ式のラフトを投下できる。またラックには機内からアクセスが可能であり、ランチャー故障時にも手動投下口を使うことで任務の続行が可能である。
機首に搭載されたAN/APY-10レーダー(英語版)は、S-3BやP-3Cの対水上艦艇監視能力向上型に搭載されているAN/APS-137に改良を加えた発展型で、合成開口レーダー(SAR)や逆合成開口レーダー(ISAR)などのモードを備えている[1]。これらの哨戒機材などの機内アビオニクスに安定した電力を供給できるよう、発電機を737-800ERXの2倍の発電出力を持つ大型のものに変更したことでエンジンナセルの左側が膨らんでいる。
尾部はMAD(磁気探知機)ブームの搭載を考慮した設計であるが、海軍航空システム・コマンド(NAVAIR)は発展した音響センサーシステムによりMADがなくても探知能力影響はないとして耐久性を向上させる軽量化対策として装備要件を削除した[2]。
後に導入したインド海軍向けのP-8Iにはインド海軍の要求により搭載されている。
当初から空中給油(フライングブーム式)に対応しており、任務時間の延長が可能[2]。
乗員は操縦士(機長、副操縦士)2名とTACCO2名の士官4名と、下士官のオペレータ(航空士)5名の計9名となり、P-3の11人から削減されている。長時間任務の際はリリーフ(交代要員)の操縦士や機上整備員が加わることもある。各種機器の性能と信頼性向上、自動化などによりORD(機上武器員)、NAV/COM(航法・通信員)、IFT(機上電子整備員)は搭乗する必要がなくなったが、無人航空機と連携(後述)など新たな任務形態に備え機上対潜非音響員は「EWO(電子戦オペレータ)」と呼ばれる乗員となった。オペレータの内2名は観測員として配置され、染色マーカーや救難用ラフトの投下などは手の空いた乗員が行う。
機内にあるオペレータの席(現在は5席だが、6席目を追加する計画もある[3])は乗員各自が持つカードをスロットに挿入すれば任務に合わせた表示となる汎用タイプのコンソールとなっている。これらから得た情報はコックピットでも共有できる[4]。
前任のP-3やイギリス空軍のニムロッドはエンジンを4発搭載しているが、低速で長時間哨戒を行うために、現場空域上では1~2発停止してロイター飛行を行う。P-8ではプロペラピッチをフルフェザー(プロペラブレードの角度を機体と平行にする)にして抵抗を減らせるプロペラエンジンと異なり、停止したエンジンの空気抵抗を減らすことができないため、ロイター飛行を行えない。アメリカ海軍の運用構想では、P-3では試験のみにとどまった空中給油の本格実施や、監視を補完する約40機のMQ-4C トライトン海上無人航空機との連携が行われる[5]。また、ハワイ、ディエゴガルシア島、ジャクソンビルのジャクソンビル海軍航空基地、日本の嘉手納基地、イタリアのシゴネラにある5つのサイトで情報を補完し合う。ジャクソンビル海軍航空基地にはフライトシミュレータや搭乗員用の訓練施設を併設したP-8A統合訓練センター(P-8A Integrated Training Center)が設置されている。さらにボーイングが開発中の自律型無人潜水機「エコーボイジャー」との連携も予定されている[6]
アメリカ海軍での配備数は108機を予定している。P-8計画には当初からオーストラリアが参加しており、次いでイタリアとカナダが参加した。また、アメリカ国防総省は現在P-3を使用する15カ国での採用を見込んでいる。イタリアでは14機のP-8Aを採用する計画であったが、開発費が予想以上にかかったことから、人件費高騰による予算圧迫を理由に購入を数年間遅らせることとなった。
2012年からジャクソンビル海軍航空基地の第16哨戒飛行隊がP-3Cから機種転換に着手し、2013年11月に初期作戦能力(IOC)を獲得し、2013年10月3日に発表した日米安全保障協議委員会(2プラス2)に基づいて2013年11月29日西太平洋(嘉手納基地)派遣へ出発した。[7]
2013年12月2日にP-8Aが2機沖縄県嘉手納基地に到着。数日内に4機が到着し、計6機で東シナ海の監視に当たる[8]。
老朽化したP-3Cの置き換えを前提としたP-8は、更新時期が迫るP-3Cや派生型を導入する国だけでなく、イギリス[14] やフランスなど独自開発機を導入する国にも売り込みが図られており、同じくP-3Cの後継機として開発されたP-1や、 エアバスが提案するA319ベースの哨戒機『エアバス A319 MPA』、ATRがATR 72ベースの『ATR 72 ASW』を提案している[15] ため競合するが、2016年現在、ATR 72 ASWはイタリアとトルコ、P-1は日本のみ、A319 MPAはインドとオーストラリアに提案するもP-8が選ばれ不採用とセールス面ではP-8が大きく先行している。
P-8は高価であるため、ボーイングではより低コストなプランとしてボンバルディア・エアロスペースのチャレンジャー 600をボーイングが哨戒機に改造する『チャレンジャー MSA』も提案している[16]。機体が小型であるため搭載機材の制約が多くP-3Cの完全な代替は難しいとされるが、海洋監視機としては十分な性能を持つ[17]。
アメリカ政府はフルスペックのP-8の海外輸出を(NATO諸国も含めて)一切認めていない[10] ため、インド向けの機体はアビオニクスが簡素化されている。オーストラリアへ輸出される機体はフルスペックの仕様となる予定だが、これはオーストラリアがUKUSA協定に参加していることと無縁ではない。後に採用を決めたニュージーランドとイギリスもこの協定に参加しているため、フルスペックで輸出される可能性が高い[18]。一方で導入国が独自に開発した電子機器の追加搭載などは認めており、戦術データ・リンクなど既に導入したシステムを更新することなく導入が可能である。
MQ-4Cとの連携を想定した設計であるがP-8単独でも高価であるため、MQ-4Cを導入しない国もある。
アメリカ合衆国
インド
オーストラリア
イギリス
ノルウェー
ニュージーランド
韓国
ドイツ
カナダ
ブラジル
マレーシア
NATO
サウジアラビア
日本
イタリア
トルコ
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