都道府県民歌(とどうふけんみんか)は、日本の都道府県が制定し、各都道府県内において歌い継がれている歌の総称である。都道府県歌、もしくは都道府県民の歌と呼ばれる場合もある。
概要
日本では2022年(令和4年)現在、44の都道府県に公式な都道府県民の歌が存在する[注 1]。東京都のように1945年(昭和20年)の終戦を経て連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)の奨励を受けて作られた歌もあるが[1]、明治中期の地理唱歌を起源とする歌や1980年代以降に作られた歌など、GHQの奨励とは無関係に作られた事例もある[2]。最も多いのは、富山県や愛知県を始め都道府県旗と同様に国体の開催に合わせて制定された楽曲である。
長野県の「信濃の国」のように「県民なら歌えて当然」という曲もあるが[3]、逆に神奈川県では県民歌「光あらたに」よりも森鷗外(森林太郎名義)が作詞した「横浜市歌」の方が圧倒的に広く知られている。演奏の機会は都道府県が主催する行事や国民体育大会が主で、他に都道府県庁の始業時間と終業時間を知らせる庁内放送や電話の保留音・着信メロディに使われる事例も見られる。住民にさえ余り知られていないことが多い一方で、21世紀に入ってからはスポーツチームの応援に県民歌を活用する事例も見られるようになった[1]。
市町村歌や校歌にも共通する事情だが、大半の楽曲は制定から50年以上を経過しているため、高知県を始め一般公募により選定されたプロではない作詞者の多くが(東京都や石川県など一部は作曲者も)長い年月の間に消息不明となる問題が発生している。読売新聞が2021年に行った調査では、県民歌を制定している内の21県において作詞者本人もしくは遺族と連絡が取れない状態であることが判明した[1][注 2]。
県民歌と県民愛唱歌の違い
主として都道府県の告示により制定され、都道府県主催の行事において都道府県旗の掲揚と一対で演奏されるものを都道府県歌ないし都道府県民歌と称し、それ以外のキャンペーンソングやイメージソングを愛唱歌と呼んで区別することが多い。ただし、両者の間に明確な区別はなく行事で演奏される正式な県民歌以外のキャンペーンソングやイメージソングが「県民歌」や「県民の歌」と呼ばれることも珍しくない。「佐賀県民の歌」に対する準県歌(イメージソング)「風はみらい色」と愛唱歌(さが・ふるさとの歌)「栄の国から」や「熊本県民の歌」に対する「火の国旅情」などがこれに該当する。
この他、当然ながら非公式だが兵庫県・大阪府における「阪神タイガースの歌(六甲おろし)」や福岡県における「いざゆけ若鷹軍団」のように地元のスポーツチームの応援歌などが「県民歌的存在」「準県民歌」と称される場合がある。
複数の歌を持つ都道県
富山県や山梨県、静岡県、山口県、佐賀県などは複数の曲を制定もしくは指定している。その多くは制定・指定された時期が異なっており、宮城県のように戦前の県民歌を封印せず「愛唱歌」扱いとして戦後に新県民歌を制定した事例や、山梨県や岡山県のように正式な県民歌の制定後に新しく愛唱歌やイメージソングを作成した事例などがこれに該当する。特異な例は3曲を同時に「北海道民のうた」として制定した北海道と、戦前の「秋田県民歌」・戦後の「秋田県民の歌」2曲を現在も正式な県民歌として並立させている秋田県である(秋田県の場合は両方とも演奏頻度が高い。北海道は専ら光あふれてのみが演奏され、ほかの2曲はほとんど演奏されない)。
また、山形県の「スポーツ県民歌」のようにスポーツに限定した曲(体育歌)を別に制定したり、大分県の「大分県民体育の歌」のように県民歌は未制定でスポーツ限定の曲のみが指定されている場合もある。この他、埼玉県・千葉県・奈良県・福岡県・長崎県などで県民音頭が制定されている。
都道府県民歌を制定していない府県
2012年(平成24年)現在、大阪府・広島県・大分県は都道府県民歌を制定していない[4]。ただし、大分県には2004年(平成16年)まで県民歌に準じた扱いで県民手帳に紹介されていた非公式の楽曲「大分県行進曲」が存在する[5][6]。
大阪府と広島県はそれぞれ1996年(平成18年)のひろしま国体、1997年(平成19年)のなみはや国体開催に合わせて体育歌や府旗掲揚場面演奏歌を制作しているが、いずれも認知度は低いか無いに等しいのが実情である。
兵庫県は長年にわたり「未制定」とするのが通説であったが[4]、実際は1947年(昭和22年)に「兵庫県民歌」が制定されていたことが神戸新聞社の取材で明らかになった[7]。県は2014年(平成26年)までこの県民歌の存在を否定し続けていたが[8]、廃止の事実は確認されていない[7]。
旧外地の州歌
旧外地のうち台湾では、台北州・台中州・台南州など一部の州が内地(日本本土)の県民歌に相当する州歌を制定していた。朝鮮の13道および関東州では道歌・州歌の制定は確認されていない。
1943年(昭和18年)に内地へ編入された樺太では、樺太庁が「樺太島歌」を制定していた[1]。
都道府県民歌の一覧
- 正規の県民歌以外の県民愛唱歌、その他の県民歌に準じた扱いで紹介されている非公式の曲や体育歌に関しては都道府県関連の楽曲一覧も参照のこと。
廃止された県民歌
- 都道府県以外の内地の歌
都道府県民歌を流す放送局
民放によっては、放送開始・終了時などに都道府県民歌を流す局がある。その多くは都道府県が主要株主として名を連ねるケースだが、福島県が半数の株を有する福島テレビは流していない。
社名
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都道府県
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出資比率
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流すタイミング
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山形放送
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山形県
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14.4%(2021年)
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テレビ・オープニング後
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LuckyFM茨城放送
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茨城県
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6.14%
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オープニング後
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栃木放送
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栃木県
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【間接:18.3%】[注 5]
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オープニング後
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とちぎテレビ
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20.7%
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オープニング後、クロージング前
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群馬テレビ
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群馬県
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15.1%
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オープニング後、クロージング前
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信越放送
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長野県
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2.54%
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ラジオ[注 6]・オープニング、同クロージング
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岐阜放送
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岐阜県
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17%
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ラジオ・オープニング
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テレビ和歌山
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和歌山県
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14.4%
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オープニング、クロージング
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過去に都道府県民歌を流していた放送局
- 静岡放送(静岡県)…テレビ・オープニング
- 熊本放送(熊本県)…テレビ・オープニング、同クロージング
参考文献、脚注
出典
注釈
- ^ ただし、兵庫県が1947年(昭和22年)に発表した「兵庫県民歌」の存在を否定しているのと熊本県が1960年(昭和35年)に発表した「熊本県民の歌」について県ではなく第15回熊本国体実行委員会を制定主体としていることから「42」ないし「43」と紹介される場合が多い。
- ^ 応募規約により主催者(都道府県)への著作権の譲渡が定められている場合は原著作者が消息不明もしくは没年不詳でも直ちに使用が不可能となる訳ではないが、著作権の保護期間がいつまで存続するのか不明瞭となる問題が発生する(鳥取県や長崎県のように作詞が団体名義の場合こうした問題は生じない)。
- ^ 例規集に掲載されているが中山(2012)では完全に無視されている。
- ^ a b 作詞部門の公募で2曲が入選となり、同時に制定された。
- ^ とちぎテレビが大半の株式を保有しており、県がとちぎテレビの筆頭大株主となっていることによる間接支配。
- ^ 過去にはテレビでも使われていた。
関連項目
外部リンク