『平成風俗』(へいせいふうぞく 英題: japanese manners)は、2007年2月21日[注 1] に東芝EMIより発売された日本のシンガーソングライター・椎名林檎とヴァイオリニストで編曲家の斎藤ネコによるスタジオ・アルバム。同年4月25日にはアナログ盤とDVD-Audio『平成風俗 大吟醸』を同時発売した。
本項では、DVD『平成風俗 大吟醸』についてもあわせて記述する。
本作は、椎名林檎の個人名義としては前作『加爾基 精液 栗ノ花』以来、約4年ぶりのリリースとなるアルバム。ただし単独名義ではなく、椎名作品でヴァイオリン演奏や指揮、オーケストラ・アレンジなどを手掛けてきた斎藤ネコとの共同名義によるコラボレーション・アルバムとなっている[1]。
音楽監督を担当した映画「さくらん」のサウンドトラック制作から発展し、斎藤ネコとのコラボレーションにより生まれた歌謡アルバム。椎名林檎の歌声を軸に、総勢70名のオーケストラをはじめ曲ごとに変わるミュージシャンの編成によってさまざまな楽器の音を用いた多彩なサウンドアプローチがとられている[1][2]。
『加爾基 精液 栗ノ花』収録曲を中心とした既発曲をビッグバンドやオーケストラでリアレンジした楽曲8曲[注 2] と5曲の新曲[注 3] を収録している[2][3]。
映画「さくらん」においては通常のサウンドトラックは発売されていないため、映画をイメージして制作された本作がその代替を務める形になっている。劇中使用曲の他、それらの楽曲の別アレンジや別バージョンも収録されており、サウンドトラックの発展形として位置づけられている[3]。
斎藤ネコとの打ち合わせで「J-POPではなく邦楽で、なるべく使い捨てられない半永久的なもので、それでいてちゃんと“風俗”のもの」というテーマが出ていたので、タイトルを『平成風俗』とした。椎名にとって“風俗”とは、「高尚なものではなく生活に根差している必要不可欠なもの」「音楽的に言うなら歌モノであったり旋律や和声を難しくしないということ」で、自分ではそういう作品を作ったつもりだと語っている[2]。
ディスクジャケットのデザインはアートディレクターの木村豊が手掛けている。ジャケット写真はバスタブの中にギターやピアノなどが詰め込まれたものだが、それらの楽器とともに椎名林檎を模した「林檎」、斎藤ネコを模した「猫」、そして本作のレコーディングとミキシング(プロデュース)を担当している井上雨迩を模した「ウニ」も登場している。
本作は初回限定盤と通常盤の2形態での発売となり、初回盤は十字開き特殊デジパック仕様のパッケージでステッカー3点とコースターが封入された。
2007年4月25日には、ボーナストラックとして配信限定でリリースされた「カリソメ乙女 DEATH JAZZ ver.」を収録したアナログ盤と、96kHz/24bitの高音質で録音したアナログ盤の収録曲に加え、特典音源としてDTS 5.1chサラウンド リニアPCMの超高音質で「錯乱 TERRA ver.」「花魁」「la salle de bain[注 4]」を追加収録したDVD-Audio盤『平成風俗 大吟醸』の大吟醸仕様(アートブック・ポストカード風ブロマイド入り特殊パッケージ)が完全初回生産限定で同時発売された。
プライベートでも親交のあるカメラマン・蜷川実花から彼女の初監督作品となる映画「さくらん」の音楽制作を依頼されたことをきっかけに誕生したアルバム。椎名にとっても、音楽監督を担当するのは初めてのことだった[4]。
本人は当初、この仕事を当時の自身の活動の主軸であったバンド東京事変として受けることを考えていた。しかし同バンドのドラマー・刄田綴色が骨折による治療や療養で参加が難しかったこと、また映画音楽として求められているサウンドと東京事変としてのサウンドが一致しなかったことなどから、"椎名林檎"個人として引き受けることに決めた。代わりに制作上のパートナーに選んだのは、アレンジと指揮を担当する斎藤ネコと、東京事変も含む椎名作品を長年手掛けているレコーディング&ミキシング・エンジニアの井上雨迩だった[3]。
オファーを受けた時、椎名はまずこの平成風俗のようなアルバムを作った上で、そこから取り出した音色をさらに機械で構築していくというかなりテクノロジーに寄った音楽を納品しようと思っていた。また、この映画のために自身の念願だったインストゥルメンタル曲を書き下ろし、それを劇中曲として使用するつもりだった。しかし、監督サイドからは全くそのようなものは求められていないことがわかり、アルバムの楽曲をほぼそのまま提供するという形になった。また『さくらん』の世界観を考えた時に、技巧として最新のテクノロジーは使っても楽器は全て古典音楽に使われているものが良いのだろうと考え、最終的にどの曲にも斎藤ネコによる緻密なオーケストラ・アレンジを施した[1][5]。
選曲に関しては、曲のサイズも含め、映像対応で考えていった。既存の曲が多い理由は、音楽制作に入る前に渡された撮影済みの映像に「こういう新曲を書いて欲しい」という意味で過去の曲が貼り付けてあったため。自身の中ではすでに終わっている表現と同じ方向で作品を焼き直すということは椎名にとって質の低下を意味する。そこでそれをさけながら監督の意向に従うため、新曲に限定せずに自分が一番合うと思う楽曲を提供することにした[5]。
斎藤ネコと仕事をすることにしたのは、時間が限られていたので以前から自身の楽曲のライブのオーケストラ・アレンジ用の譜面を数多く書いてもらっていた彼なら作業を進めやすいという理由から。またそれらの楽曲にはスタジオ音源がなかったので、いずれきちんとレコーディングしなければという思いもあった。そこでこの話を機にそれをアルバムとしてまとめようと決め、それが結果的に「さくらん」に楽曲を提供するためのアルバムになった[1][5]。
新曲について、椎名は最初からあとで編集してつなぐことを前提に複数の曲を同時進行で書くというパズルのような曲作りを行った。アレンジについては、斎藤ネコと1曲1曲を解体して曲の核になる部分は何なのかを2人でよく吟味してから斎藤がオーケストラ用の譜面を書いた。曲によっては椎名とエンジニアの井上雨迩とが綿密に打ち合わせを行い、打ち込みとミックスしている。また当初はインストゥルメンタルとして作っていたが、あとで歌を乗せて欲しいと言われた時のために歌詞も書いた。その作業に一番時間がかかり、それを含めて制作期間は1ヶ月ほどかかった[3][6]。
歌詞については、既発曲は熟考を重ねて選曲し、新曲に関しては映画を観ていないリスナーにも伝わるようなソングライティングを行った[3]。
演奏では、斎藤ネコ率いる総勢70名にも上るマタタビオーケストラほか複数のオーケストラが作品に参加しており、全体的に"オーケストラ"を前面に押し出したアルバムとなっている。また東京事変からも、骨折で療養中だった刄田を除く3人のメンバーが作品に参加している。伊澤一葉は「ギャンブル」でピアノを担当。浮雲は同じく「ギャンブル」でエレクトリック・ギターを担当した他、楽曲(「花魁」)も提供している。また亀田誠治は「浴室」のリミックスに使用された同曲の2ndアルバム『勝訴ストリップ』収録バージョンの音源でベース演奏と編曲(2000年)を担当している。
全作詞・作曲:椎名林檎 全編曲:斎藤ネコ (注記を除く)
『平成風俗 大吟醸』(へいせいふうぞく だいぎんじょう 英題: Japanese Manners Premium)は、2007年4月25日に東芝EMIより発売された椎名林檎が斎藤ネコと共同名義で発売したアルバム『平成風俗』の音源を収録した完全初回生産限定DVD VIDEO[10]。
フォーマットをCDからDVDにすることでより高音質で音楽を届けることを目的に企画され、DVDビデオの音声トラックにCDアルバムを超える96k/24bitの高音質[注 5] ですべてのCD収録曲およびボーナストラックとして「カリソメ乙女 DEATH JAZZ ver.」を収録した映像作品[10][11][12]。映像トラックには先行シングル「この世の限り」のミュージック・ビデオのほか、気鋭のクリエイターたちがアルバム曲のイメージをアニメやコラージュを駆使して表現したモーション・グラフィックスを収録[10][11][12]。また特典コンテンツとして打ち上げの音声や「錯乱 TERRA ver.」「花魁」「la salle de bain」の3曲をDTS 5.1chサラウンドで収録している[10][11][12]。
2014年11月5日には、本作のハイレゾ音源の配信が開始された。
短篇キネマ 百色眼鏡
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