労働条件(ろうどうじょうけん)とは、労働者が契約を結んで使用者の下で働く際、労働者と使用者の間で取り決められた就労に関する条件である[1]。
使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。うち絶対的明示事項については、書面の交付(労働条件通知書)によらなければならない。
なお求人においても労働条件の明示が必要とされるが[2]、その明示は賃金については「見込額」でよい。採用面接時にその見込額をそのまま実際の初任給額とする旨の合意がなされたと認められる状況がなければ、見込額を初任給額とする雇用契約が成立したとはいえない。
日本国憲法第27条第2項では、「賃金、労働時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」と規定している。具体的には、労働基準法(昭和22年4月7日法律第49号)のほか、最低賃金法(昭和34年4月15日法律第137号)・賃金の支払の確保等に関する法律(昭和51年5月27日法律第34号)・雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年7月1日法律第113号)などの法律が制定されている。なお、船員(船員法第1条に規定する船員)には労働基準法上の労働条件の規定は適用されず(第116条)、船員の労働条件については船員法によって定めている。
日本国憲法第25条第1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定し、これを受けて労働基準法では、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」(第1条1項)、「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」(第1条2項)、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」(第2条1項)と定められている[注 1]。そして「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならない。」(第3条)として、差別的取扱いをしてはならない理由を限定列挙している。
第1条~第3条でいう「労働条件」とは、賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における一切の待遇をいう。なお、労働契約締結前の雇入れにおける条件は労働条件の内容にあたらない[注 2]。
国際労働機関(ILO)は「人道的な労働条件」「社会正義の実現」を求め、労働者が「人間らしいまともな労働(ディーセント・ワーク)」を得られることを目標に、労働条件に関する多くの条約を制定している。日本も常任理事国としてILOに加盟しているが、日本は労働条件に関する条約の多くを批准していない[注 3]。
(労働条件の明示) 第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
(労働条件の明示)
第15条
使用者の労働条件の明示は書面又は口頭によるが、明示事項のうち絶対的明示事項(昇給に関する事項を除く)については労働者に対する書面の交付が必要となる(いわゆる「労働条件通知書」。第15条1項後段、施行規則第5条3項)。これは労働者に対して労働条件の内容を明らかにし、紛争発生の防止をその趣旨とするものである。もっとも、明示がなされなかったからといって労働契約が成立しないわけではない。書面の様式は自由である(平成11年1月29日基発45号)[3]。さらに、労働条件通知書は絶対的明示事項のみならず相対的明示事項も併せて記載し労働者に交付するよう、強く行政指導が行われている(平成11年2月19日基発81号)。なお、日雇労働者の場合は、同一条件で労働契約が更新される場合には、最初の雇い入れの際に書面を交付することで足り、その都度当該書面を交付しなくても差し支えない(昭和51年9月28日基発690号)。
平成31年4月の改正法施行により、使用者は、第15条1項の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない[注 4]、と条文に明記された(施行規則第5条2項)。また労働者が希望した場合には、ファクシミリや電子メール等(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)で労働条件を明示することができるようになった(施行規則第5条4項)。
使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合(第106条)には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとなり(労働契約法第7条)、実際には労働者個々に定める事項以外は就業規則を労働者に交付することで一律の労働条件を定めることになる。
労働条件の明示事項については、施行規則第5条1項の各号に列挙されている。
使用者から明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる(第15条2項)。いわゆる会社が労働者に予告なしに行う「懲戒解雇」に対する、労働者が会社に予告なしに退職できる「懲戒退職」のことである。なお、第15条1項は労働者が自己の労働条件の具体的内容を承知せずして雇い入れられることのないよう使用者に労働条件の明示を義務付けたものであるから、他の労働者の労働条件が事実と相違していたとしても即時解除はできない(昭和23年11月27日基収3514号)。
この場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない(3項)。 この「旅費」には、住居変更前までの旅費にとどまらず、親族の保護を受ける場合にはその者の住所までの実費を含み、また就業のために移転した家族(労働者により生計を維持されている同居の親族をいう(昭和23年7月20日基収2483号))の旅費も含まれる(昭和22年9月13日発基17号)。
また、この場合における離職は、雇用保険における基本手当の受給において「特定受給資格者」(倒産・解雇等により離職した者)として扱われ、一般の受給資格者よりも所定給付日数が多くなる(雇用保険法第23条、雇用保険法施行規則第36条2号)。
船舶所有者は、雇入契約を締結しようとするときは、あらかじめ、当該雇入契約の相手方となろうとする者に対し、次に掲げる事項について書面を交付して説明しなければならない(船員法第32条1項、同施行規則第16条)。この場合において、当該雇入契約に係る航海が海上運送法第26条1項の規定による命令によるものであるときは、船舶所有者は、あらかじめ、相手方に対し、その旨を書面を交付して説明しなければならない(船員法第32条2項)。
船舶所有者は、雇入契約が成立したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を2通作成し、うち1通を船員に交付し、他の1通を船員の死亡又は雇入契約の終了の日から3年を経過する日までの間、主たる船員の労務管理の事務を行う事務所に備え置かなければならない(船員法第36条、同施行規則第16条の4)。
船長は、雇入契約の成立、終了、更新又は変更があったときは、国土交通省令で定めるところにより、遅滞なく、国土交通大臣に届け出なければならない。この場合において船長が届け出ることができないときは、船舶所有者は、船長に代わって届け出なければならない(船員法第37条)。国土交通大臣は、雇入契約の成立等の届出があったたときは、その雇入契約が航海の安全又は船員の労働関係に関する法令の規定に違反するようなことがないかどうか及び当事者の合意が充分であったかどうかを確認するものとする。この場合において、国土交通大臣は、必要があると認めるときは、船員法第101条1項の規定による命令その他必要な措置を講ずるものとする(船員法第38条)。
船員は、以下のいずれかに該当する場合には、雇入契約を解除することができる(船員法第41条)。
派遣労働者については、派遣元の使用者が労働条件について明示しなければならない。労働契約の締結と派遣が同時である場合には労働条件の明示と労働者派遣法に定める派遣先の就業規則の明示を併せて行って差し支えない(昭和61年6月6日基発333号)。出向(在籍型、移籍型とも)の場合、出向先の使用者が労働条件の明示をしなければならない。
事業主は、短時間労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間労働者に対して、上記の明示事項に加え、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口に関する事項」について文書の交付等により明示しなければならない。これら以外の事項についても文書の交付等により明示するように努めるものとされる(パートタイム労働法第6条)。 事業主は、その雇用する短時間労働者から求めがあったときは、労働条件に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間労働者に説明しなければならない(パートタイム労働法第14条)。
専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法に定める特定有期雇用労働者については、上記の明示事項に加え、以下の事項を文書の交付等により明示しなければならない(平成27年厚生労働省令第36号)。
その契約期間内に無期転換申込権(労働者が労働契約法第18条1項の適用を受ける期間の定めのない労働契約の締結の申込み)が発生する有期労働契約の締結の場合においては、使用者は、規則第5条3項に規定するもののほか、無期転換申込みに関する事項並びに無期転換後の労働条件のうち絶対的明示事項を書面の交付等の方法により明示しなければならない(規則第5条5項、令和5年3月30日基発0330第1号)。2024年(令和6年)の改正法施行により追加された規定で、2022年(令和4年)12月に労働政策審議会労働条件分科会がとりまとめた報告書「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」[4]において「無期転換ルールに関する労使の認知状況を踏まえ、無期転換ルールの趣旨や内容、活用事例について、一層の周知徹底に取り組むことが適当である。」と指摘されたことを踏まえて追加されたものである。
建設労働者の雇用の改善等に関する法律に定める建設労働者については、上記の明示事項に加え、以下の事項を文書の交付により明示しなければならない(建設労働者の雇用の改善等に関する法律第7条)。林業労働力の確保の促進に関する法律に定める林業労働者については、上記の明示事項に加え、以下の事項を文書の交付により明示するように努めなければならない(林業労働力の確保の促進に関する法律第31条)。建設労働者・林業労働者については、各条及び労働基準法第15条1項の両規定が相まって、雇用関係の明確化の実効を期することとしているものである。この規定の主眼は、とかく雇用関係の不明確な有期雇用労働者の雇用関係の明確化を図ることにあるので、指導に当たっては、特に、有期雇用労働者についてその趣旨が徹底するよう配慮するものとする(昭和51年9月7日職発409号、平成8年5月24日職発371号)。
事業主は、外国人労働者との労働契約の締結に際し、賃金、労働時間等主要な労働条件について、当該外国人労働者が理解できるようその内容を明らかにした書面を交付すること。また、事業主は、賃金について明示する際には、賃金の決定、計算及び支払の方法等はもとより、これに関連する事項として税金、労働・社会保険料、労使協定に基づく賃金の一部控除の取扱いについても外国人労働者が理解できるよう説明し、当該外国人労働者に実際に支給する額が明らかとなるよう努めること、とされる[5]。
第15条は使用者が労働者に対して明示すべき労働条件の範囲を定めているのであって、労働基準法にいう労働条件の定義を定めたものではない(昭和29年6月29日基発355号)。したがって上記列挙の事項以外にも、労使が合意すれば任意の事項を労働条件に定めることができるが、公序良俗に反してはならない(民法第90条)ほか、労働基準法上、以下の制限がある。
(この法律違反の契約) 第13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
(この法律違反の契約)
第13条
労働契約が就業規則や労働協約で定める基準に達しない場合はその部分が無効となり、当該基準によることとなる(第93条、労働組合法第16条、労働契約法第12条)。たとえば、個々の労働者を「月給16万円」との条件で雇い入れた場合でも、就業規則に月額賃金を18万円以上とする旨定めている場合は18万円を支給しなければならず、さらに賃金を月19万円以上とする旨の労働協約を締結した場合には、19万円を支給しなければならないのである。最低賃金法等の強行規定に違反する場合も同様である。船員にも同趣旨の規定がある(船員法第31条)。
労働契約、就業規則、労働協約、法令の効力関係については、上位から順に、法令、労働協約、就業規則、労働契約の順となる(ただし、就業規則よりも労働者に有利な労働契約は無効とはならない(有利原則))。
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができるが(労働契約法第8条)、使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできず(労働契約法第9条)、原則として使用者による一方的な労働条件の不利益変更は行えない。
しかし、使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、「労働者の受ける不利益の程度」「労働条件の変更の必要性」「変更後の就業規則の内容の相当性」「労働組合等との交渉の状況」その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとされ(労働契約法第10条)、労働者との合意がなくても、就業規則の変更により労働者の不利益に労働条件を変更できる[注 5]。
(契約期間等) 第14条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、5年)を超える期間について締結してはならない。 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第41条の2第1項第1号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
(契約期間等)
第14条
労働基準法施行時は、有期労働契約の期間の上限は一律「1年」であったが、平成11年の改正法施行により高度の専門的能力を有し、企業の枠を超えて柔軟な働き方を求める労働者が、その能力を存分に発揮するための環境を整備し、企業がこのような労働者を活用して積極的な事業を展開することや、高齢者の経験や能力を生かせる雇用の場を確保することを可能とすることを目的として、「専門的知識等」「満60歳以上」の労働契約については上限が「3年」に延長された。さらに平成16年の改正法施行により有期契約労働者の多くが契約更新を繰り返すことにより、一定期間継続して雇用されている現状等を踏まえ、有期労働契約が労使双方から良好な雇用形態の一つとして活用されるようにすることを目的として、一般の労働契約は「3年」、「専門的知識等」「満60歳以上」の労働契約については「5年」に上限がそれぞれ延長された。
第1号の「厚生労働大臣が定める基準」(平成28年10月19日厚生労働省告示376号)に該当するとは、次のいずれかに該当する者である。これらの者は専門的な知識、技術及び経験を有しており、自らの労働条件を決めるに当たり、交渉上、劣位に立つことのない労働者であると考えられるためである。また労働者がこれらの資格等を有しているだけでは足りず、当該資格等に関係する業務を行うことが労働契約上認められている等が必要である(平成15年10月22日基発1022001号)。
第2号の「満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約」とは、契約締結時に満60歳以上である労働者との間に締結されるものであることを要する(平成11年1月29日基発第45号、平成15年10月22日基発1022001号)。
建設工事等の有期的な事業であれば、3年(5年)を超えその完了までの期間の労働契約を締結できる。なお、上記各号の労働契約及び一定の事業の完了に必要な期間の労働契約を除き、1年を超える期間の定めのある労働契約を締結した労働者であっても、当該契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも(やむをえない事由がなくても)退職できる(第137条)。
職業能力開発促進法第24条1項に基づく都道府県知事の認定を受けて行う職業訓練を受ける労働者について必要がある場合においては、その必要の限度で、契約期間について、厚生労働省令で別段の定めをすることができる(第70条)とされ、職業能力開発促進法施行規則に定める訓練期間の範囲内で3年(5年)を超える契約期間を定めることができる。この場合、当該事業場において定められた訓練期間を超えてはならない(施行規則第34条の2の2)。
3年(5年)を超える定めの労働契約はその定めが無効となり、第13条によりその期間は3年(5年)に短縮される(平成11年1月29日基発第45号、平成15年10月22日基発1022001号)。
第14条 2. 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。 3. 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
2. 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。
3. 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
2004年(平成16年)の改正法施行により第14条に2項、3項が追加された。第14条2項に基づき、厚生労働大臣は有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(いわゆる「雇い止め基準」、平成24年10月26日厚生労働省告示第551号、最終改正令和5年3月30日厚生労働省告示第114号)を定めている。この基準に法的拘束力はないが、近年労働契約法等により有期労働契約に関する規制が強化されており、労働契約の更新に関する解釈として参考になる。
第1条と第5条は2023年(令和5年)の改正(施行は2024年(令和6年)4月)により追加されたものである。2022年(令和4年)12月に労働政策審議会労働条件分科会がとりまとめた報告書「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」において、使用者が有期雇用契約の締結より後に更新上限を新たに設ける場合には、その上限設定の理由を説明すべきこと、また、使用者から個々の労働者に対して、無期転換後の労働条件に関して均衡を考慮した事項について説明するよう促すべきこととされた。これを踏まえて追加されたものである。
雇い止め基準第1条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)の締結後、当該有期労働契約の変更又は更新に際して、通算契約期間(労働契約法第18条1項に規定する通算契約期間をいう。)又は有期労働契約の更新回数について、上限を定め、又はこれを引き下げようとするときは、あらかじめ、その理由を労働者に説明しなければならない。 雇い止め基準第2条 使用者は、有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第2項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。 雇い止め基準第3条 前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。 有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。 雇い止め基準第4条 使用者は、有期労働契約(当該契約を1回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。 雇い止め基準第5条 使用者は、労働基準法第15条1項の規定により、労働者に対して労働基準法施行規則第5条5項に規定する事項を明示する場合においては、当該事項(同条第1項各号に掲げるものを除く。)に関する定めをするに当たって労働契約法第3条2項の規定の趣旨を踏まえて就業の実態に応じて均衡を考慮した事項について、当該労働者に説明するよう努めなければならない。
雇い止め基準第1条
雇い止め基準第2条
雇い止め基準第3条
雇い止め基準第4条
雇い止め基準第5条
(賠償予定の禁止) 第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
(賠償予定の禁止)
第16条
契約の相手方は、労働者のみならず、親権者や身元保証人なども含まれる。なお、あらかじめ定めておくことが禁止されているのであって、現実に徴収しなくても定めておくだけで違反となる。もっとも現実に生じた損害について損害賠償することまで禁止されているのではない(昭和22年9月13日発基17号)。船員にも同趣旨の規定がある(船員法第33条)。
使用者が費用を出して被用者に海外留学をさせる場合に、留学の費用を使用者が労働者に貸与する形式をとり、ただ帰国後一定期間勤続した場合にその返還を免除するという契約を締結した場合は、そのような契約が、労働契約とは別個の免除特約付金銭消費貸借契約にあたるとみなされれば、第16条違反とはならない。ただしその場合も、返還免除基準が不明確であったり、返還額が過度に高額である等の事情がある場合には、当該費用返還規定は労働者の退職を過度に抑制するものとして違法となりうる(長谷工コーポレーション事件、東京地判平9.5.26)。
なお、減給の制裁(第91条)は第16条違反とはならない。
(前借金相殺の禁止) 第17条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
(前借金相殺の禁止)
第17条
「前借金」とは、労働することを条件として使用者からお金を借り、将来、賃金により弁済することを約束した金銭をいう。金銭貸借関係と労働関係とを完全に分離し、金銭貸借関係に基づく身分的拘束を防止することが第17条の趣旨である。従って、労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融、弁済期の繰上げ等で明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働することを条件とする債権には含まれない(昭和22年9月13日発基17号)。なお、第17条が禁止したのは、「前借金についての使用者の債権(前貸債権)で賃金に対する労働者の債権(賃金債権)を相殺すること」であるから、前借金を渡すこと自体が禁じられているわけではない(東京高判昭48.11.21)。
使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸し付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においては、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、第17条は適用されない(昭和23年10月15日基発1510号)。労使合意による相殺の具体例としては、住宅ローンに関してなされた合意相殺につき、労働者の自由意思に基づくものと認められるような場合には、適法であると判断した最高裁判決がある(日新製鋼事件、最判平2.11.26)。
事業主が育児休業期間中に社会保険料の被保険者負担分を立替え、復職後に賃金から控除する制度は、著しい高金利が付される等により、その貸付が労働することを条件としている場合を除いて、一般的には第17条違反とはならない。ただし、この場合は、第24条1条但書(賃金控除協定、賃金の全額払いの原則とその例外)に基づき、労使協定が必要となる。また一定年限労働すれば、当該債務を免除する旨の取り扱いも第17条違反とはしない(平成3年12月20日基発712号)。
(相殺の制限) 船員法第35条 船舶所有者は、船員に対する債権と給料の支払の債務とを相殺してはならない。但し、相殺の額が給料の額の3分の1を超えないとき及び船員の犯罪行為に因る損害賠償の請求権を以てするときは、この限りでない。
(相殺の制限)
船員法第35条
船員法においては労働基準法とは趣旨の異なる規定が置かれている。
使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約(強制貯蓄)をしてはならない(第18条1項)。戦前においては強制貯蓄が労働者の足留め策として利用され、また貯蓄金を使用者が事業資金に流用して労働者が払い戻しを受けることが困難又は不可能となる事態が起きることがあった。そのため、労働基準法では強制貯蓄を全面的に禁止している。
いっぽう、労働者の委託を受けて社内預金をするようなこと(任意貯蓄)は禁止されていない。船員にも同趣旨の規定がある(船員法第34条)。具体的には、使用者自身が預金を受け入れて直接管理する「社内預金」と、使用者が受け入れた預金を労働者の名義で金融機関等に預入し、その通帳や印鑑を使用者が保管する「通帳保管」とがある。いずれの場合においても、使用者は以下の措置(共通措置)を取らなければならない。
労働者が派遣労働者の場合は、貯蓄金の管理は派遣元の使用者が行う。派遣先の使用者が貯蓄金の管理をすることはできない(昭和61年6月6日基発333号)。
労働者が貯蓄金の返還を請求したにもかかわらず、使用者がこれを返還しない場合において、当該貯蓄金の管理を継続することが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、所轄労働基準監督署長は、使用者に対して、その必要な限度の範囲内で、当該貯蓄金の管理を中止すべきことを命ずることができる(第18条6項)[注 6]。この規定により貯蓄金の管理を中止すべきことを命ぜられた使用者は、遅滞なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に返還しなければならない(第18条7項)。「その必要な限度の範囲内」とは、貯蓄金管理を委託している労働者の全部または一部について中止させるとの意であり、個々の労働者の貯蓄金の一部についてその管理を中止させるとの意ではない(昭和27年9月20日基発675号)。
社内預金の場合は共通措置に加え、以下の措置を取らなければならない。
通帳保管の場合は、共通措置に加え、貯蓄金管理規程に預金先の金融機関名、預金の種類、通帳の保管方法及び預金の出し入れの取次方法を定めなければならない(昭和63年3月14日基発150号)。
第15条第1項もしくは第3項に違反した者は、30万円以下の罰金に処せられる(第120条)。なお同条は、労働条件の明示をしなかったことや、帰郷旅費の負担をしなかったという使用者に対する罰則であり、明示した労働条件が実際の労働条件と相違することについての罰則は規定していない。
第16条、第17条、第18条1項に違反した者は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる(第119条)。
第14条、第18条7項に違反した者は、30万円以下の罰金に処せられる(第120条)。なお第14条は使用者とも労働者とも規定していないが、同条の立法趣旨に鑑み、同条の罰則は使用者のみに適用がある(昭和22年12月15日基発502号、昭和23年4月5日基発535号)。第18条2項違反については労働基準法上の罰則は規定されていないが、単に協定の締結・届出を怠ったのみでは罰則の問題は生じない。なお同条の要件を満たさずこれに違反して預金の受け入れを行った場合は、出資法第2条違反となり、3年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科することができるとされる(昭和23年6月16日基収1935号)。
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