懲戒解雇(ちょうかいかいこ)とは、民間企業において、就業規則に基づく懲戒の一つとして行う解雇のことで、懲戒処分の中では最も重く、労働者にとっての「死刑宣告」とも言われる[1][2]。実際には、予告手当も退職金も支払われず即時に解雇される上に、社会的信用も失うため、懲戒解雇処分を受けた後の再就職はかなり難しくなる。懲戒解雇処分を受けた場合、離職票には懲戒解雇を示す離職理由の番号が必ず記載され、併せて「重責解雇」[注 1]と記載[注 2]されることも殆どで、再就職後の雇用保険の切り替え時には離職票を会社に提出する必要があるため、懲戒解雇の事実隠蔽は殆ど不可能である[1]。履歴書に明記する義務はないが、明記しない場合は再就職先で重大な経歴詐称と見なされ懲戒解雇処分を受ける可能性がある[3]。
ほとんどの会社では懲戒解雇処分を受けた事実を重要視するため、履歴書の経歴欄に「〇年〇月 (会社名) 懲戒解雇処分」と記載しなければならない。懲戒解雇の事実を隠した場合には経歴詐称の扱いになる可能性がある[注 3]。事実を隠して再就職できたとしても、多くの場合、発覚して懲戒解雇処分を受けることになる[1][4]。なお、公務員の場合は懲戒解雇ではなく、懲戒免職(ちょうかいめんしょく)と呼ばれる、また軍人の場合は懲戒解雇ではなく、不名誉除隊(ふめいよじょたい)と呼ばれる。犯罪やその他社会的な影響が大きい不正行為を理由として懲戒解雇となる場合はマスメディアでも報道される[1]。
懲戒解雇の法律上の定義はなく、習慣的な名称である。法文上は「労働者の責に帰すべき事由」に基づく解雇と称される。もっとも「労働者の責に帰すべき事由」に基づく解雇は労働基準法等に定める行政手続上の言葉であり、就業規則に基づく民事的な手続きである懲戒解雇とは区別される。
他の種類の解雇である普通解雇や整理解雇は懲戒の意味を含まない。この場合は転職活動で特段に不利になることはない。
労働契約法上の概念である懲戒解雇は会社の懲戒処分の内で最も重いため、行為と処罰との均衡、社会通念上の相当性が認められなければならない。さらに実際の解雇に当たっては事前弁明の機会の付与等、手続きの適正が求められる。雇用保険法上の概念である重責解雇とは別の概念である[5]。
懲戒解雇は罪刑法定主義に類似した諸原則の適用を受ける。使用者が懲戒を適正に行うためには、就業規則に「その理由となる事由」と、これに対する「懲戒の種類・程度」「懲戒の手続き」が明記されて(労働基準法第89条)、さらに「当該就業規則が周知されている」必要がある(労働基準法第106条)。これらの手続きに瑕疵があると、たとえ労働者側に懲戒解雇に相当するような重大な落度があっても、懲戒解雇そのものが無効となる可能性がある(労働契約法第16条)[注 4][注 5]。また労働基準法第19条に定める解雇制限に該当する労働者については、制限期間中は懲戒解雇は行えない。
懲戒解雇は、他の解雇とは異なり即時解雇となる場合が多く、社会的信用を失うため再就職も極めて困難となり[注 6]、労働者が会社に与えた損害についても厳しく追及される等、非常に重い処分である。処分の重さは、労働者にとっての死刑に例えられる[6]。俗語で「クビ(になる)」とも言われる。
このように、懲戒解雇は本人の責に帰すべき事由がなければ通常行われないが、使用者がリストラをスムーズに行うため、退職強要の一手段として、労働者のミスや職務態度を理由に懲戒解雇をほのめかす、架空の事由を捏造して懲戒解雇に追い込むなどのケースも存在する。また、会社側が内部告発を行った者への報復措置として懲戒解雇を行うことがあり、会社都合退職を求める労働者側との争いになることがある。普通解雇(会社都合退職)とすると、雇用保険法上の各種の助成金を会社は受け取れなくなるので、会社としてはなるべく解雇よりも自己都合退職にしたいと考えるのが通常である。
具体的にどのような行為が労働者にあれば懲戒解雇となるかは各会社の就業規則の定めによる。
労働基準法上の「労働者の責に帰すべき事由」の例としては以下のように示されているが、具体的には個別に判断される(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)。実際の就業規則においても、これらに準じた構成となっていることが多い。
具体的な事例としては以下がある。
多くの企業の就業規則では、懲戒解雇により退職する場合には退職金を支給しない旨を規定している。もっとも、就業規則に規定があれば常に全額不支給となるわけではなく、退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される[7]。
どのような行為が労働者にあれば「永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為」と判断されるかは個別の事情による。
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