公序良俗(こうじょりょうぞく)とは、公の秩序又は善良の風俗の略であり、これに反する法律行為は無効とされる。
「善良の風俗」という言葉の響きから、「風紀紊乱」の意味で誤用される場合も多い。例えばカラオケボックスの個室内に、「公序良俗に反する使用をしないでください」などと書かれていたりする。これは「個室内で風紀を乱す行為をしないでください」という意味で「公序良俗」を使用しているとみられるが、本来は誤った使い方である。
ローマ法以来、すべての法制の認めるところであるが、個人意思の絶対を尊重する法制の下においては、個人意思を制限する例外としての地位を与えられたにすぎない。現在においては、すべての法律関係は、公序良俗によって支配されるべきであり、公序良俗は、法律の全体系を支配する理念と考えられる[1]。
民法第90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」としている。公序良俗は、契約の有効性を論じるときに、その社会的妥当性を判断する基準となる。
公の秩序は国家および社会の一般的利益を、善良の風俗は社会の一般的倫理をそれぞれ意味する。しかし両者は一体的に扱われるべきであり、両者を厳密に区別する実益はないとされている。裁判にあたっても、公序に反するか良俗に反するか、そのいずれであるかを決定する必要はない。
なお、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正前の民法90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」という条文だった[2]。しかし、公序良俗に反するか否かを判断するときは、法律行為の内容に限らず、法律行為のプロセスも考慮に入れる必要があるとの運用がなされてきたことが反映され、「事項を目的とする」の文言が削られた[2]。
90条のような解釈の余地の大きい漠然とした要件を持った規定は、非常に柔軟で妥当な解決を可能にするが、他方、要件が抽象的になればなるほど、その適用の際に裁判官の主観的な判断によって結論が左右される危険性が大きくなる。しかし90条に関しては、今日では判例の蓄積により公序良俗の内容も相当に固まってきている。大きく分けると、当事者の不利益よりも社会規範への抵触(反社会性)に着目する類型(1~4)と、一方当事者に生ずる被害や権利侵害を問題とする類型(5~7)、これらと視点を異にする問題(8)がある[3]。
公序良俗は英米法ではパブリック・ポリシーの原則(public policyまたはpolicy of the law)がこれに相当する[4]。パブリック・ポリシーとは、何人も公共の利益や公共の福祉に反するような他者に危害を与えうる行為を行うことは認められず無効とするという法原理である[4]。英米法の法原理ではこれに反する契約や私的取引等の行為(againsts public policy)は無効とされる[4]。