『人狼 JIN-ROH』(じんろう)は、2000年6月3日に公開された日本のアニメーション映画[1][2]。原作と脚本を押井守、監督とキャラクターデザインを沖浦啓之、制作をProduction I.Gが担当した[3]。押井が原作を担当した漫画『犬狼伝説』を元に脚本を執筆したオリジナル作品[4][5]。
国内外の映画賞・映画祭で高い評価を得て、多くの賞を受賞した[6][7][8]。
本作は沖浦啓之の監督デビュー作[4]。1995年公開の劇場アニメ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』で知られる押井守監督が原作・脚本を手がけ、当時のProduction I.Gの精鋭が参加した作品で、反政府組織に重武装で立ち向かう特機隊隊員と彼に差し向けられた公安の女スパイ(元テロリスト)との恋と裏切りを描いたアニメ映画である[3][4][9]。
押井が様々なメディアで展開している架空の戦後史「ケルベロス・サーガ」に連なる一作で、サーガの中には漫画『犬狼伝説』や押井自身がメガホンを取った『紅い眼鏡/The Red Spectacles』『ケルベロス-地獄の番犬』などの実写映画も存在する[6][7]。主人公・伏一貴役は前作『ケルベロス-地獄の番犬』に主演した藤木義勝が演じ、『紅い眼鏡』や押井の他のアニメ作品『御先祖様万々歳』にも登場し、玄田哲章が演じていたキャラクター・室戸文明は、本作では廣田行生が声を担当している。
古典童話『赤ずきん』をモチーフに、「赤ずきん」を左翼反体制の「アカ」、「狼」を帝国主義的体制を指すスラング「狼」として対置させた寓話的作品で、劇中にも『赤ずきん』をアレンジした童話が挿入される[10]。
残虐描写により、日本での映画公開時には映倫のPG-12指定にされた。
完成から公開までに2年かかっている[11]。また日本での公開に先立ち、1999年11月よりフランスで先行ロードショーされ、1週間で約3万人を動員するヒットを記録した[8][11]。
Production I.Gの最後のセル撮影による長編アニメーション作品として知られている[6][7][12]。またバンダイビジュアルが発売する最後のLDメディア作品となった[11]。
「あの決定的な敗戦から十数年」--第二次世界大戦の敗戦国・日本。戦勝国ドイツによる占領統治下の混迷からようやく抜け出し、国際社会への復帰のために強行された経済政策は、失業者と凶悪犯罪の増加、またセクトと呼ばれる過激派集団の形成を促していた。そして本来それらに対応するはずの自治体警察の能力を超えた武装闘争が、深刻な社会問題と化していた。政府は、国家警察への昇格を目論む自治警を牽制し、同時に自衛隊の治安出動を回避するため、高い戦闘力を持つ警察機関として「首都圏治安警察機構」通称「首都警」を組織した。
そんな情勢下での東京。街頭では学生らのデモが行われており、警視庁の機動隊がこれと対峙している。共同警備という名目で出動した首都警の部隊は、後方配置に甘んじていた。また、首都警の戦闘部隊である「特機隊」の副長の半田は、学生が特殊な火炎瓶を用いている事からデモ隊にセクトの人間が紛れ込んでいることを察していた。しかしながら、「この場の指揮権は自治警にある」と傍観を続けていた。一方セクトの面々は、このデモに乗じて機動隊を攻撃しようと、地下水路を活用し、火炎瓶などの物資を輸送。セクトが「赤ずきん」と呼ぶ物資運搬係を務める阿川七生は、鞄に偽装した投擲爆弾を人ごみに紛れ実行役に渡した。野次馬とデモ隊に紛れた実行役はデモの前線に走り出ると、投擲爆弾を機動隊に向けて投げつけた。大きな炎と爆音に包まれる街路。機動隊員は吹き飛ばされ、負傷者が続出。ついに機動隊の指揮官は全員検挙の号令を出し、機動隊は催涙ガス弾を発砲しデモ隊に突入する。
地上の混乱をよそに、地下水路ではセクトのメンバーが移動していた。しかし、その前に特機隊が立ちふさがる。無表情なマスクと鎧のような装甲服を身に纏い、汎用機関銃(MG42)を構えた異様な姿の特機隊員たち。特機隊は武器を捨て投降するよう指示するが、セクトのメンバーは半狂乱の様相で特機隊に短機関銃を乱射し始める。これに特機隊も直ちに応戦。セクト側は蜂の巣にされてしまう。
この音を、阿川は地下水路の別の場所で聞いていた。特機隊によって仲間がやられたことを悟って逃走を試みるが、彼女も間もなく特機隊に包囲されてしまう。包囲した隊員の一人、伏一貴巡査は投降を呼びかけるが、少女は投擲爆弾での自爆を試みる。「なぜだ」伏は戸惑いのあまり、仲間からの射撃指示も耳に入らない。阿川は意を決し、信管を作動させる紐を引き抜いた。伏を庇って覆いかぶさる仲間の特機隊員。間髪入れず、地下水道は爆音に包まれた。この爆発の影響で地上は停電に見舞われ、機動隊と対立していたデモ隊はその闇に乗じて逃走してしまう。
数日後、首都警幹部らが今後の対応策について話し合っていた。元々特機隊の攻撃的姿勢が世論に指弾されていた上に、爆発による停電で機動隊がデモ隊の検挙に失敗しており、警視庁からの批判がより強くなっていたのだ。警視庁と首都警の縄張り問題で思うように動けないことに不満を持っていた特機隊長・巽は、自治警との共同警備体制を破棄するよう主張する。だが警備部長の安仁屋や、警視庁と独自のパイプを持ちつつある思惑を内に隠している公安部長の室戸は慎重論を唱える。結局、適切な行動を取らなかった伏に何らかの処分を下すことのみ決定し、話し合いは終了した。後日、査問会にて責任を問われた伏は、首都警特機隊養成学校での再訓練を命じられる。
伏は養成学校の同期で友人でもある公安部の辺見に頼み、自爆した少女のことを調べてもらった。辺見に教えられた、阿川の遺骨が納められている共同墓地を訪れる伏。阿川家の墓の所へ着くと、その前に一人の少女が立っていた。彼女は圭と名乗り、死んだ阿川の姉だと言う。その出会いをきっかけに交流を始めた2人は、徐々にその関係を深めていく。だがそれは室戸と、彼の下で働く辺見が企てた罠だった。やがて事態は、特機隊が警視庁公安部と、その背後にある首都警公安部と銃火を交える警察の「内戦」へと発展していく。
押井守の『ケルベロス・サーガ』の中の1作で、第二次世界大戦後のドイツ占領下(第二次ワイマール体制)の日本を舞台としたアナザーストーリー。「ケルベロス・サーガ」は、一部のシリーズを除き、第二次世界大戦がドイツ・イタリア枢軸国と日本・イギリス同盟の戦い(アメリカは第一次世界大戦以前からモンロー主義を貫き不参戦)で、敗戦国となった日本はドイツ軍に占領された、という架空の設定に基づいており、本作の舞台はその世界の昭和37年にあたる。
本作は当初、押井が脚本・絵コンテまで手掛け、若手スタッフが演出を行う全6巻ほどのOVAシリーズになる予定だった[13]。沖浦もその演出候補の1人だったが、演出自体に興味がなく、原作漫画を読んでも藤原カムイの作画はともかく押井のやりたい世界が全く心の琴線に触れなかったので拒否していた[4][14][15]。その内に企画が劇場作品に発展し、押井から監督するように言われた。そこで沖浦は、漫画のような群像劇ではなくキャラクターを立てて主人公を1人にしたい、ヒロインを出して男と女の話にして欲しいなどの要望を出したところ、押井がそれを丸呑みした脚本を書いてきたため[注 1]、引き受けざるを得なくなった[4]。そして作品を自分がやりたいもの、自分が見たいものに変えようとしている内に、押井のやろうとしている事の良さや、押井色を殺しつつ自分で味つけする事でやりたい事もやれることがわかって行ったという[14]。
シナリオの段階は接吻するシーンは無く、デートは「プラネタリウムで伏が圭に犬の星座についての薀蓄を語る」内容だったが、完成版では接吻がラスト直前で行われ、デートも「公園やデパートの屋上等で普通に行う」様に改変された[13]。
CGを極力排して手描きセル画でのアニメーション表現にこだわっている[12]。しかし、沖浦自身は「単にCGが使いたくても使えなかった」「本当はもっとデジタルでいろいろできると思っていたが、当時のI.Gの中にまだCG部門がなかったので、諦めてそれまでどおりのやり方で作ることになった」と言っている[16]
西尾鉄也がキャラクターデザインと劇場長編としては初の作画監督を務めている[5][17]。それまでI.Gと仕事をしたこともなければ沖浦との面識もなかったが、「ぜひ作画監督で」と言われて参加することになった[4]。
キャラクターデザインについては、沖浦がクリンナップまでやったデザインがあったのは伏一貴、雨宮圭、阿川七生、プロテクト・ギアの4点、沖浦のラフデザインがあったのが幹部たち4人ほどで、西尾はそのラフを元に沖浦と相談しながらデザインを進めていった[5]。その他のキャラクターは全て西尾のオリジナル[5]。
作画作業は沖浦がまずレイアウト用紙を作り直させたり、セルに塗る絵の具の会社に人を送ってふだん使っていない色を探させたりするところから始めた[4]。沖浦は、「I.Gのレイアウト用紙はフレームの対比がちょっとおかしい」と言って、スタジオジブリの用紙を名前を消してベースとした[5]。
音楽については、リュック・ベッソンの映画が好きな沖浦が、ベッソン作品を数多く担当しているエリック・セラのような日本的でもハリウッド的でもないイメージで行きたいと相談したところ、溝口肇を薦められた。そして作ってもらったデモがイメージにピッタリだったので採用した[4]。
西尾の作業は、沖浦が描いたラフを元に、絵をクリンナップしてクオリティ的に持ち上げていくというものだった[5]。絵が描ける監督のほかに作監がいるので、作業としては監督の沖浦が絵を直す方向性を示したラフを描き、作監の西尾がそれをもとにして修正原画を作成するというものだった[5]。西尾曰く、「やり方としては宮崎駿さんに近いのかな」とのこと[5]。
2018年、キム・ジウン監督により、近未来の朝鮮半島を舞台にした韓国映画『人狼』として実写リメイクされた。ラストシーン以外はほぼアニメ映画を踏襲している[18]。
紅い眼鏡/The Red Spectacles - 犬狼伝説 / Kerberos Panzer Cop - ケルベロス-地獄の番犬 - 人狼 JIN-ROH - KERBEROS SAGA RAINY DOGS / 犬狼伝説 紅い足痕 - ケルベロス 鋼鉄の猟犬 / Kerberos Panzer Jäger - ケルベロス×立喰師 腹腹時計の少女 - ケルベロス 東京市街戦 首都警特機隊全記録 - ケルベロス 鋼鉄の猟犬 - エルの乱 鏖殺の島 - 人狼 (2018年の映画)
押井守
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