フォード・302エンジン の4.9L V8シリンダーヘッド。ハート型燃焼室 を持つOHV ヘッドである
シリンダーヘッド とは一般的な往復動 内燃機関 において、シリンダーブロック とともにエンジンを構成する最も基礎的な部品である。
シリンダーヘッドは往復動内燃機関の性能を左右する重要な部品であり、燃焼室 の形状、インテークマニホールド 、エキゾーストマニホールド 、吸排気ポートの形状 などの設計により、エンジンの燃焼効率や体積効率 、圧縮比 が決定される要因となる。
歴史
サイドバルブ
サイドバルブ の時代にはバルブトレーンの部品は全てシリンダーブロック の内部に納められており、シリンダーヘッドは文字通りシリンダーブロック (V型エンジン の場合はシリンダーバンク )にヘッドガスケット を挟む形でボルトで結合されている金属製の皿 でしかなかった。この形式はフラットヘッド と呼ばれ、構造の簡便さが初期の自動車 や草刈機 を始めとする小型エンジン機器の大量生産に重要な役割を果たした。フラットヘッドとポペットバルブ を組み合わされたエンジンは、またたく間にスリーブバルブ のエンジンを駆逐して自動車 ・オートバイ エンジンの主流になった。このときすでにシリンダーヘッドには、燃焼室 と点火プラグ が内蔵されていた。
しかし、サイドバルブおよびフラットヘッドは構造が単純で整備性に優れている反面、バルブが側面に広がる関係上から燃焼室が大きくなり、熱効率上不利であり、圧縮比も制限される。また、簡素な構造を重視すると吸排気が複雑な経路で流れるターンフロー レイアウトを採用せざるをえず、一部のエンジンはクロスフロー レイアウト(サイドバルブにおいてはen:T-head engine と呼ばれる)を取ったものの複雑化するわりに高い性能は得られず主流とはならなかった。サイドバルブは高出力化、効率化が求められるなか、最高回転数に限界を生じるといったことから、前述の小型エンジンなどを除き、のちに頭上弁式 と呼ばれるOHV やOHC に主流は移っていくこととなる。
頭上弁式ヘッド
頭上弁式ヘッドのうち、OHC にはシリンダーヘッドの上半分にポペットバルブ とカムシャフト が納められ、クランクシャフト からの回転をカムシャフトに伝えるためのタイミングチェーン やタイミングベルト の一部が引き込まれている。OHC以前に主流であったOHV 形式ではカムシャフト はシリンダーブロック内に納められ、ポペットバルブはヘッド内のロッカーアームとプッシュロッド を介して駆動された。その他サイドバルブの吸気バルブのみをOHV化したIOEエンジン(Fヘッド)も存在し、それなりに用いられた。
OHVのシリンダーヘッドにはインテークマニホールド やエキゾーストマニホールド が同一側面に接続され、混合気や排気ガスが出入りするポート と呼ばれる出入口が並んで配置されたターンフロー レイアウトとウェッジ燃焼室 が多く見られた。OHC形式では吸排気形式も混合気がシリンダーヘッドの片方の面から吸入され排気ガスが反対の面へ流れるクロスフロー レイアウトが主流となり、燃焼室の形状も半球形 (英語版 ) やペントルーフ形 となり、燃焼効率や最高出力、最高回転数は大きく上昇して現在に至っている。なお上記のレイアウトはあくまで主流のものであり、クロスフローのOHVもターンフローのOHCも存在する。
材質としてはじめは鋳鉄 が用いられたが、比較的早期の段階で放熱性の高いアルミ合金 に切り換えられた。しかし、アルミ合金は放熱性が高い反面、熱膨張が大きいという短所もあり、初期のアルミ製シリンダーヘッドにおいてはヘッドガスケット がヘッド合わせ面の熱膨張に追従できず吹き抜けるトラブルが頻発したため、シリンダーヘッドの素材改良と同時にヘッドガスケットの材質改良も同時に進められていくことになった。
OHCによる頭上弁式ヘッドには、カムホルダー と呼ばれる部品によりカムシャフトが保持されている。ホンダ・スーパーカブ をはじめとする小排気量のオートバイ ではボールベアリング を介してカムシャフトを保持することが多いが、250cc超の排気量のオートバイ用エンジン や、今日のほぼ全ての自動車用エンジンはベアリングの耐久性の観点から、カムホルダー自体が一種のすべり軸受 として製造される。このような構造を持つシリンダーヘッドは、カムホルダー自体がシリンダーヘッドと一体加工され高度な真円度が保たれているために、カムホルダーの取り付け位置や取り付け方向が陽刻 などによって厳密に指定されていることがほとんどであり、順序や向きを入れ替えて取り付けることや他のシリンダーヘッドに取り付けられているカムホルダーを使用することは焼き付きの原因となるために禁忌とされている。もしも分解整備の際にカムホルダーを紛失したり破損したりした場合、そのシリンダーヘッドそのものが使用不可能となる危険性が高いため、取り扱いには細心の注意が必要である。
必要数
シリンダーヘッドはエンジンレイアウトによりその数が変わる。直列エンジン や単気筒 エンジンにはシリンダーヘッドが1つしかないが、V型エンジン や水平対向エンジン では2つのシリンダーヘッドを持つことが多い。かつてF1 エンジンなどごく一部の用途でのみ用いられたW型エンジン では3つ、第二次世界大戦 中の航空機用エンジンに用いられたX型エンジン では4つのシリンダーヘッドが用いられた。V型エンジンでも狭角V型エンジン と呼ばれるタイプのものは、シリンダーバンクの角度が非常に狭いためにシリンダーヘッドが1個で済ませられているものもある。
また産業機械 や機関車 、船舶 などに用いられる大排気量のディーゼルエンジン や、レシプロ航空機 で用いられた星形エンジン ではシリンダーの数だけシリンダーヘッドが存在する場合がある。このような形式のものは、部品点数が増えるという欠点はあるが、一つのシリンダーヘッドが故障した場合でもそのヘッドのみを交換すれば修理が完了するため、結果的に維持コストを安く抑えられるという利点がある。また、エンジンメーカーはシリンダーヘッドの設計を変更することなく、気筒数を増やしたり減らしたりなどの改良が容易ともなる。
ギャラリー
関連項目
外部リンク
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