M3 75mm対戦車自走砲 (75 mm Gun Motor Carriage M3、M3 GMCとも略される)は、第二次世界大戦 中のアメリカ合衆国 の開発した自走砲 (戦車駆逐車 )である。
概要
本車はアメリカが北アフリカとフィリピン の決定的な戦闘において任務に投入した、最多の戦車駆逐車である。また、シチリア では、1944年 の初期に旧式化が通達される前まで、より少ない台数の車輌が継続して投入された。その後1944ー1945年 のサイパンの戦い やペリリューの戦い 、沖縄戦 において、M3 GMCは連隊 付きの兵器 中隊 としてアメリカ海兵隊 連隊で用いられた。
第二次世界大戦後においても、フィリピン では1960年代まで装備されており、朝鮮戦争 でも少数を朝鮮半島に派遣されたフィリピン軍が使用している。
開発
1940年 のナチス・ドイツのフランス侵攻 では、機甲師団 が深い研究のもとに投入され、アメリカ陸軍 に強い印象を与えた。戦車 に対する効果的な対抗手段の実現は必須であり、アメリカ陸軍用の戦車駆逐車 を至急開発するよう要望が提出された[ 1] 。
1941年 6月、M3ハーフトラック にM1897A4 75mm砲 を搭載した車両が試作された。この砲は第一次世界大戦 時の評判で広く知られた「フランス75mm砲」のアメリカ 製ライセンス生産版で、当時は既に旧式化していたため、1940年 に採用された後継のM2A1 105mm榴弾砲 との置き換えが進められて予備兵器とすることが進められていたため、別任務に転用するには最適だった。この試作車輌はT12の仮制式番号が与えられ、速度性能、武装の威力共に十分な能力を持っているとされ、“際だってよく働く”と評価された[要出典 ] 。
T12は砲架の設計を変更し、副武装としての機関銃の廃止といった少改良を加えられた後に1941年8月に「75 mm Gun Motor Carriage M3」として制式化され、1943年 4月までに2,200両以上のM3 GMCが量産された。しかしながら、砲塔 を装備して最新の3インチ砲を搭載した戦車駆逐車であるM10 GMC の生産と配備が開始されたため、これらのうち相当数が一線部隊へと配備される前に普通のM3ハーフトラックへ再改造され、結果、842輌のみが実戦投入されることとなった[ 2] 。
T12として先行量産された極初期の生産車、36両は砲架に原型の牽引砲と同じM2A3砲架とその付属防盾を用いているが、実戦に投入された結果防護力が不足していると評価されたため、1942年からは防盾のみはより大型のM5防盾に変更されている。生産車の最終ロットでは、M2A3砲架の在庫が尽きてしまったため、1世代古いが在庫のあるM2A2砲架が防盾をM5に変更して用いられ、その他、前照灯の変更などの細かな変更が加えられて制式番号がM3A1と改められた。1943年内にはM3 75mm対戦車自走砲の制式化は限定的なものとして再分類され、後の1944年 に旧式化が宣告された。
構成
M3 75mm対戦車自走砲は、M3ハーフトラック の戦闘室前部にシャーシと直結された箱形の台座を増設し、これにM1897A4 75mm砲 の上部砲架をそのまま搭載したものである。この主砲 は8,400mの間接射撃能力を持ち[ 3] 、射程460mで8.1cmの貫通能力を持つAP M72(徹甲弾 )砲弾 を射撃する。APC M61(被帽徹甲弾)砲弾は、射程460mで7.1cmの装甲 を貫通し、また、HE M48(高性能榴弾 )砲弾は歩兵 や非装甲目標に対して用いられた。弾薬は59発を車内に携行し[ 4] 、そのうち即用弾19発は戦闘室前部に設置された砲架兼用の箱型構造物に収容される。
元来戦闘室前部にあった燃料タンクは後部へと移されており、原型のM3ハーフトラックに装備されていたM2 12.7mm機関銃 の機関銃架とその支柱は標準では装備されないが、現地改造で銃架およびその支柱を装備している車両が記録写真で見受けられる。この他、乗員は自衛用に1挺の小銃 と4挺のカービン を装備した。
なお、M3ハーフトラックとの変更点として、操縦室前面にフロントガラスがなく、開閉式の前面装甲板が上開き式から下開き式に変更されていることと、砲が俯角を取った際に干渉しないように装甲板の高さが低く抑えられていることが挙げられる。
運用
アメリカ軍による運用
様式化された「M3 75mm対戦車自走砲」。アメリカ陸軍の戦車駆逐車部隊の兵員 に記章として用いられた
日本との戦争 が間近に迫り、M3 GMCとT12は「Self-Propelled Mount」(SPM)ハーフトラック と呼ばれることになった。1941年 9月、(第二)暫定SPM旅団 を編成するため、これらは船でフィリピン の島々へ輸送 された。フィリピンに日本軍が侵攻した際 、これらの車輌は戦闘に投入され、バターン半島での戦いにおいて活躍した。後に少数の車輌が日本軍 に鹵獲 された。これらは1944年 にアメリカ軍 に対して用いられた[ 5] 。
1942年 後期および1943年 初期のチュニジア作戦 中、M3 GMCはアメリカ 戦車駆逐大隊 において最多配備された対戦車自走砲 であり、シディブジッド、カセリーヌ峠の戦い とエルゲタールでの戦闘中に有名となった。こうした戦闘で多数のM3 GMCが失われたが、アメリカ陸軍 はこうした損失の内のいくらかは不適切な投入(待ち伏せを主体とした運用が前提とされたものを積極的な攻勢に使用したこと)がもたらしたと結論した。1943年7月、シチリアの作戦 においてM3 GMCは対戦車自走砲の任務に再び使われた。その後、M3 GMCは戦車駆逐大隊から段階的に退役し、より本格的な戦車駆逐車であるM10 GMC と代替された。1944年のノルマンディ上陸作戦以後も一部の部隊においては装備が継続されていたが、M10の配備開始以降は損耗しても修理・再投入が行われなくなり、欧州方面では1944年末までに全車が用途廃止された。
なお、少数が特殊任務、例としてはブルターニュのシュガー特殊部隊 の隊員達によって突撃砲 (アサルトガン)として用いられた[ 6] 。
ドイツ の戦車 に対する投入には旧式であると考えられたものの、M3 GMCは日本軍が装備する軽戦車 を破壊するには充分強力であった。そこで、M3 GMCは太平洋戦線で使用が続けられた。主な配備はアメリカ海兵隊 の連隊 付属の兵器 中隊 であり、サイパンの戦い 、ペリリューの戦い 、沖縄戦 また、他の島嶼戦で実戦参加した。日本軍にはしばしば戦車が配備されていなかったため、ときおりM3 GMCは自走砲 の一種として用いられるか、もしくは日本軍の防御陣地に対する直接砲撃 を行って友軍を支援した。1945年 、海兵隊で運用されるM3 GMCは105mm砲装備のM7自走砲 によって代替され[ 7] 、太平洋戦線での運用も終了した。
連合軍その他での運用
M3 GMCは“暫定的装備”とされていたこともあり、連合国軍への供与数は少数に留まっている。
1943年 初期、約170両のM3 GMCがイギリス陸軍 に提供された。イギリス軍 はこれらの車輌を自走砲 の一種とし、司令部付きの装甲車 や戦車 部隊の兵力に採用した。イギリス の命名法ではこれらの車輌は「75mm SP,オートカー(75mm SP,AutoCar)」とされており、チュニジア やイタリア の作戦に投入された[ 8] 。フランス陸軍 (自由フランス軍 )は、M10 GMCの配備前に訓練部隊でM3 GMCを用いている。
また、第二次世界大戦 中、1942年 -1945年 まで日本軍 の支配下にあったフィリピン では、ゲリラ戦によって日本軍への抵抗を続けた“ユサッフェ・ゲリラ”が、日本軍に鹵獲された車両を再度奪取して使用している。
戦後もM3 GMCは1945年-1960年代 の戦後期にかけて、フィリピン軍 やフィリピン警察軍に用いられた。フクバラハップの反乱 では地方自治組織の兵力がフク反乱組織に対して投入した。朝鮮戦争 ではPEFTOK(韓国派遣フィリピン軍)が用いた。
登場作品
ゲーム
『total tank simulator』
アメリカの駆逐戦車M3として登場。
『War Thunder』
アメリカのランクI駆逐戦車75mm M3 GMCとして登場。
『STUG.io』
研究ツリーに C3 half-trackとして登場。
参考文献・出典
^ Chamberlain, Peter, and Ellis, Chris, British and American Tanks of World War Two , page 189. London: Cassell & Co., 2000, ISBN 0-304-35529-1 .
^ Zaloga, Stephen J., M3 Infantry Halftrack , page 35. Oxford: Osprey Publications, 1994, ISBN 1-85532-467-9 . オスプレイ・ミリタリー・シリーズ 世界の戦車イラストレイテッド 32『M3ハーフトラック1940‐1973』.大日本絵画:刊.ISBN 978-4499228732 .2005年 ※日本語版
^ Rottman, Gordon L., U. S. Marine Corps Order of Battle , page 523. Westport: Greenwood Press, 2002, ISBN 0-313-31906-5 .
^ Hogg, Ian V. (introduction), The American Arsenal , page 44. Mechanicsburg: Stackpole Books, 2001. この箇所はU.S. War Departmentの「Ordnance Standard Catalog」の再プリントである。他のM3 GMCについての引用データはよく提示されている
^ Zaloga, p. 33.
^ Turning Tide by Wayne Turner, Battlefront Miniatures
^ Rottman, p. 523.
^ Chamberlain, p. 189.
関連項目
外部リンク