H3N2亜型
インフルエンザウイルスの3Dモデル図
分類
学名
Influenza A virus subtype H3N2
H3N2亜型 (えいちさんえぬにあがた、Influenza A virus subtype H3N2 )は、A型インフルエンザウイルス の亜型の一つであり、H3N2 、A(H3N2) とも表記される。
香港かぜを引き起こした亜型であり、A香港型 あるいは香港型 とも呼ばれる。主にヒト 、およびブタ に感染し、ヒトとブタの間でも相互に感染する。H3N2は、他の亜型との間で遺伝子再集合 によって抗原シフト を起こすことがある。
毎年冬季 に流行する季節性インフルエンザ である。ワクチン は次のシーズンに流行しそうなH1N1 、H3N2、H1N2 、B型インフルエンザウイルス の変異株の予想に基づいて製造され、北半球と南半球では別々に開発される。熱帯 においての流行では季節間で明確な差異が見られない。
過去10年間においては、H3N2はH1N1、H1N2、B型インフルエンザウイルスに比べてより大きな流行を起こしていた。H3N2には耐性株が出現しており、一般的な抗ウイルス薬 であったアマンタジン とリマンタジンに対する耐性株は1994年 には1%であったものが2003年 には12%、2005年 には91%に増加していることが判明したと報告された[ 1] 。
ブタインフルエンザ
ブタにおいてはA型インフルエンザウイルス の内、3つの亜型(H1N1、H3N2、H1N2)が世界中で豚インフルエンザ を起こしている。米国 では1998年 までH1N1がブタの間で流行していたが、1998年後期からはH3N2が分離されている。
H3N2の多くは3重の遺伝子再集合 を起こしており、ヒト(HA, NA, PB1)、ブタ(NS, NP, M)、トリ(PB2, PA)の3つの遺伝子領域を持っている。米国では、SIV(Swine Influenza Virus:ブタインフルエンザウイルス)のコントロールとブタへの感染予防のため、2価SIVワクチンの内の1つを使用している。近年分離された97株のH3N2の内、41株は3つのSIVワクチンに対して血清交差反応を起こした。インフルエンザワクチン は流行しているウイルスと一致しなければ効果がないため、H3N2が変異した場合は市販のブタに対するワクチンの効果がなくなる可能性がある[ 2] 。
H3N2トリインフルエンザウイルスは、もともと中国 のブタの間で流行していたが、ベトナム のブタでも感染が確認され、新しい変異株が出現する可能性が高まった。ブタはヒトインフルエンザウイルスにも感染するが、それによってH5N1 との間で遺伝子再集合を起こして変異する恐れがある。遺伝子再集合によって、ヒトに簡単に感染することが出来る株が出現する可能性がある。
H3N2はH2N2 から抗原シフト によって誕生し、香港かぜ を引き起こした。2006年 1月のインフルエンザ感染者数では、H3N2の感染者数が最も多かった。一般的な抗ウイルス薬であるアマンタジン とリマンタジンの耐性株の割合が2005年までに91%に増加した。H5N1 のようなトリインフルエンザウイルスと遺伝子再集合を起こして変異した場合は、大規模なパンデミックが起こることも考えられる。2004年 8月、中国でブタからH5N1が発見された[ 3] 。
流行
PSIカテゴリー
香港かぜ
香港かぜ (Hong kong flu)または香港インフルエンザ [ 4] はH3N2が引き起こした、CDCによるインフルエンザ・パンデミック重度指数 (PSI)カテゴリー2に価するパンデミック である。H3N2とH2N2の抗原不連続変異が新型 ウイルスとして一連の流布を引き起こした。香港かぜでは1968年 から翌年にかけて少なくともおおよそ50万人が亡くなったと考えられる。また、アメリカでも500万人の罹患者が出ており、33000人が亡くなった。
この流行ではH3N2とH2N2の両方がトリインフルエンザと共通する遺伝子を含んでいたとされる。この新型は豚が人型と鳥型の両方に感染して、すぐに人間に感染するようになった。豚は彼らに分岐している亜型の再分類を証拠付けたため、豚はインフルエンザの中間的宿主であることを暗示した。しかしながら、他の宿主も同様の複数の感染をすることができ、鳥から人間への直接感染も可能である。H1N1は鳥から直接人間に感染するようになった可能性もある。
香港かぜは1957年 のアジアかぜ との原因となったH2N2と同じノイラミニダーゼ を持っていた。内部たんぱく質やノイラミニダーゼに蓄積された抗体は結果として他のパンデミックに比べ少ない感染者ですんだ。しかし、インフルエンザ亜型の間の交差免疫はよくわかっていない。19世紀 にH3NX系の感染力に関する血清学的証拠の研究があるものの、H3N2の流布としてはじめて広く認知されるようになったはこの香港かぜが最初である。香港 での発生の最初の記録は1968年7月13日であり、都市の1エーカー当たり500人程度の人口密度の場所で確認された。この後2週間で最大数の感染に至り、この後6週にわたって流行が続いた。ウイルスはクイーン・メリー病院に隔離された。感染者の徴候は4日から5日の間続いた。
シンガポール でも感染が報告されている。1968年9月までにはインド 、フィリピン 、北オーストラリア 、ヨーロッパ に伝染。同時期にアメリカ合衆国 カリフォルニア州 では、ベトナム帰還兵 に感染が確認されている。1969年 には日本 、アフリカ 、南アメリカ に到達した。
香港から広まったインフルエンザであるために、日本では香港型、A/香港型と呼ばれることも多い。
福建かぜ
福建かぜは福建省 で人に引き起こされたH3N2亜型インフルエンザか、鳥に引き起こされたH5N1亜型インフルエンザの流行を指している。台湾海峡 の中国側の対岸である福建省にちなんで名づけられている。
H3N2亜型は2003年から2004年の流行期に人間に対して非常に猛威をふるった。これは2002年から2003年にかけての流行期に頒布したものにヘマグルチニン の遺伝子が供給されたクレードである。福建型は2004年からの流行期の際に3価のインフルエンザワクチンの一部を含むと、その子孫はH3N2の中で最も人間にとって一般的なインフルエンザウイルスとなっている。
新型H3N2(2011-)
インフルエンザ・ワクチン構成
○2017/2018冬シーズン[ 8]
A/Singapore(シンガポール)/GP1908/2015(IVR-180)(H1N1)pdm09
A/Hong Kong(香港) /4801/2014(X-263)(H3N2)
B/Phuket(プーケット)/3073/2013(山形系統)
B/Texas(テキサス)/2/2013(ビクトリア系統)
○2016/2017冬シーズン
A/California(カリフォルニア)/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09
A/Hong Kong(香港) /4801/2014(X-263)(H3N2)
B/Phuket(プーケット)/3073/2013(山形系統)
B/Texas(テキサス)/2/2013(ビクトリア系統)
○2015/2016冬シーズン(この年より4価ワクチンが導入[ 9] )
A/California(カリフォルニア)/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09
A/Switzerland(スイス)/9715293/2013(NIB-88)(H3N2)
B/ Phuket(プーケット)/3073/2013(山形系統)
B/Texas(テキサス)/2/2013(ビクトリア系統)
○2014/2015冬シーズン
A/California(カリフォルニア)/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09
A/New York(ニューヨーク)/39/2012(X-233A)(H3N2)
B/Massachusetts(マサチュセッツ)/2/2012(BX-51B)
○2013/2014冬シーズン
A/California(カリフォルニア)/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09
A/Texas(テキサス)/50/2012(X-223)(H3N2)
B/Massachusetts(マサチュセッツ)/02/2012(BX-51B)(山形系統)
○2012/2013冬シーズン
A/California(カリフォルニア)/7/2009(H1N1)pdm09
A/Victoria(ビクトリア)/361/2011(H3N2)
B/Wisconsin(ウイスコンシン)/01/2010(山形系統)
○2011/2012冬シーズン(昨シーズンと同様)
A/California(カリフォルニア)/7/2009(H1N1)pdm09
A/Victoria(ビクトリア)/210/2009(H3N2)
B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008(ビクトリア系統)
○2010/2011冬シーズン
A/California(カリフォルニア)/7/2009(H1N1)pdm
A/Victoria(ビクトリア)/210/2009(H3N2)
B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008 (ビクトリア系統)
○2009/2010冬シーズン
A/Brisbane(ブリスベン)/59/2007(H1N1)
A/Uruguay(ウルグアイ)/716/2007(H3N2)
B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008
○2008/2009冬シーズン
A/Brisbane(ブリスベン)/59/2007(H1N1)
A/Uruguay(ウルグアイ)/716/2007(H3N2)
B/Florida(フロリダ)/4/2006
○2007/2008冬シーズン
A/Solomon Islands(ソロモン諸島)/3/2006(H1N1)
A/Hiroshima(広島)/52/2005(H3N2)
B/Malaysia(マレーシア)/2506/2004
○2006/2007冬シーズン
A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
A/Hiroshima(広島)/52/2005(H3N2)
B/Malaysia(マレーシア)/2506/2004
○2005/2006冬シーズン
A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
A/New York(ニューヨーク)/55/2004(H3N2)
B/Shanghai(上海)/361/2002
○2004/2005冬シーズン
A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
A/Wyoming(ワイオミング)/3/2003(H3N2)
B/Shanghai(上海)/361/2002
○2003/2004冬シーズン(昨シーズンと同様)
A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
A/Panama(パナマ)/2007/99(H3N2)
B/Shandong(山東)/7/97(Victoria系統株)
○2002/2003冬シーズン
A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
A/Panama(パナマ)/2007/99(H3N2)
B/Shandong(山東)/7/97(Victoria系統株)
○2001/2002冬シーズン
A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
A/Panama(パナマ)/2007/99(H3N2)
B/Johannesburg(ヨハネスブルグ)/5/99(山形系統株)[ 10]
脚注
関連項目