シェーレ緑は酸性亜ヒ酸銅で、組成式は CuHAsO3 で、1778年、カール・ヴィルヘルム・シェーレが初めて合成した、合成緑色顔料の嚆矢である。品質はそれ程高くなかったので、これに続くエメラルド緑に直ちに取って代わられる。硫黄や硫化物、鉛に触れると黒変し、酸では分解する。黄緑色を呈するがすぐさま褪色現象が現れる。毒性は極めて高い。18世紀から19世紀初頭には絵画にも使用されたとされている。Colour Index Generic Name, Pigment Green 22。
エメラルド緑 Emerald Green
エメラルド緑はアセト亜ヒ酸銅で、組成式は Cu(C2H3O2)3⋅Cu(AsO2)2 で、1814年にドイツのシュヴァインフルトで初めて合成された。かなり鮮明な緑色無機顔料で、亜鉛緑ともコバルトクロム緑とも全く異なる。硫黄を含む空気や物質で黒変する。酸や温アルカリで分解される。毒性が高いことから、パリグリーンと呼ばれ殺虫剤に使用された。油性の媒材 (Binder) で用いた場合の耐久性は高い。絵画における使用例は少なく、ド ヴェルトの報告では1例のみである。中国の古銅器の緑青のイミテーションとしての使用がある。Colour Index Generic Name, Pigment Green 21。
コバルト系緑色顔料
亜鉛緑/コバルト緑 Zinc Green / Cobalt Green
亜鉛緑・コバルト緑は亜鉛とコバルトの酸化物固溶体。1780年にドイツ人のリンマンによって発見された。A.P.ローリーによれば、最初に文献に登場するのは1835年である。コバルトの亜鉛に対する比率は僅かであり、コバルトと亜鉛の比率を多少変えても色合いは殆ど変化しない。耐光性が高く、濃酸には侵されるがアルカリには侵されない。加えて、かなりの高温でも影響を受けない。しかしながら、不透明な無機顔料としては透明性が高く、彩度もそれほど高くないのに高価であるため、美術家には喜ばれていない。マグネシウムを添加したものは暗緑色であり、そうでないものは淡い青緑色になる。Colour Index Generic Name, Pigment Green 19。
チタンコバルト緑 Cobalt Titanate Green
チタンとコバルトの酸化物固溶体。亜鉛やニッケルが加えられて製品化されたものも多く流通している。Colour Index Generic Name, Pigment Green 50。
コバルトクロム緑 Cobalt Chromium Green
コバルトとクロムとアルミニウムの酸化物固溶体。堅牢性は極めて高く、絵画技法をはじめ、耐熱性を要求される分野、例えば窯業に至る広い用途を持っている。Colour Index Generic Name, Pigment Green 26。類縁の顔料にコバルトクロム青がある。これはクロム含有量が少ないコバルトクロム緑である。
クロム系緑色顔料
酸化クロム緑 Chromium Oxide Green
酸化クロム緑は酸化クロムで、組成式は Cr2O3。最も安定した緑色顔料である。不透明で、硬度が高い。ヴォークランは1809年に陶器の釉薬への使用を提出している。美術家用絵具に採用されたのは1862年頃である。Colour Index Generic Name, Pigment Green 17。Chromium Oxide Green Brilliant は後述の含水酸化クロムを指す。
ビリジアン Viridian
ビリジアンは含水酸化クロムで、組成式は Cr2O3⋅2H2O で表す場合がある。含水量は約40%。ヨーロッパで製造されている伝統的なやや不透明で明るいエメラルドグリーンを呈するもの、これより不透明だが不鮮明なもの、透明性が高く色感に乏しいものなど、様々ある。1838年にフランス人のパンヌティエが発見したが、1859年にギネーが特許を公告させ普及した。このため、ギネーの緑とも呼ばれる。鮮明な青味のある緑を呈する、耐光性の高い顔料である。Colour Index Generic Name, Pigment Green 18。
葉緑素に似た化学構造を持つフタロシアニンは1933年、ICI(インペリアル ケミカル インダストリーズ)社のリンステッドたちがフタロシアニンと命名、1935年に工業化され、モナストラルブルーの名で商品顔料になった。アメリカでは、1936年に別の名で取引が始まる。鮮明で着色力が非常に強く、プロシア青の倍程の着色力がある。フタロシアニン緑はフタロシアニン青に続いて開発され、塩素化銅フタロシアニンは1838年に商品化された。Colour Index Generic Name には Pigment Green 7、臭素化塩素化フタロシアニンの Pigment Green 36、臭素化塩素化亜鉛フタロシアニンの Pigment Green 58 が記載されている。液晶テレビを含む液晶ディスプレイのカラーフィルタの緑には、構成要素として Pigment Green 36 が使われている。
ペリレン顔料は、ペリレンテトラカルボン酸二無水物(英語版)の六員環を構成している酸素原子2個を脱落させた構造を有する顔料である。赤から紫、そして、緑(但し黒い緑)といった幅広い色相を持つ顔料グループであり、一般に着色力、堅牢性に優れる。緑色のペリレン顔料である Pigment Black 31 は、緑味を呈する黒色顔料であるが、色相は濃度やバインダーなどの条件により相違する。