この項目では、文化史での「苔」について説明しています。生物学での分類については「コケ植物 」を、その他用法については「コケ (曖昧さ回避) 」をご覧ください。
樹木に生えた身近な苔 - コケ植物 の蘚類 と苔類 に地衣類 がまじる
苔むした石段
苔 (こけ、蘚、英 : moss )・コケ は地表や岩 の上にはいつくばるように成長し、広がるような植物的なもの。狭義のコケは苔類 、蘚類 、ツノゴケ類 の総称としてコケ植物 を指すが、コケはそれに加え菌類 と藻類 の共生体である「地衣類 」や、一部のごく小型の維管束植物 や藻類 などが含まれる。語源は「木毛」にあり、元々は樹の幹などに生えている小さな植物の総称だったとする説がある[ 1] 。自生している又は栽培されている苔は日本 などで鑑賞の対象となるほか、イワタケ など食用の苔もある。
概説
鑑賞・園芸
苔は日本庭園 や盆栽 で利用される。地面一面に苔を生えさせた西芳寺 (通称:苔寺、京都市 )など庭園のほか、多くの苔が自生する奥入瀬渓流 (青森県 )、白谷雲水峡 (屋久島 )などは観光地として人気が高い[ 2] 。日本 では、上記2カ所に白駒の池 (長野県 )など北八ヶ岳 山麓を加えて「モス(苔)ツーリズムの三大聖地」と称されることもある[ 3] 。
屋上緑化 にも使われる。在来種 を生かせるうえ、他の植物に比べて軽量で、管理の手間が少ない利点がある[ 4] 。
庭園づくり以外でも、苔は単独あるいは他の植物と一緒に、盆栽や苔玉 として栽培される。日本には約1700種の苔が生育しており、この中には直径数センチメートルのガラス瓶内で栽培できるものもある(苔テラリウム )[ 5] 。
実用
ミズゴケ類 は吸水・保水性が良い。このため梱包材やスポンジ 、脱脂綿 の代用、女性の生理用品や止血剤などとして用いられた。
石垣に自生した苔
苔の育て方
苔植物は胞子を作って子孫を残す有性生殖の他に、「無性芽」と呼ばれる自分のクローンを作るための芽を使って増殖する無性生殖を行っている[ 6] 。
苔は乾燥に強いが、高温のムレに弱い。暑い日中の水やりが苔を蒸らすことになり、苔の生育を阻害するので避けるべきである。夏は苦手で冬は強いので、秋に苔を蒔いて、来年の春までに、大きく育てるのがよい方法である。強い日当たりの場所は、苔は弱る。やはり半日蔭(木漏れ日 が動く場所)で苔はよく育つ。木陰を作ってやると良い。
苔の育て方のポイント
水やりは夕方にたくさんやる。
水はけをよくする。
風あたりの強いところは苦手なので、風避けを設ける。
落ち葉を取り除く。光合成ができなくなり、生育を阻害する。
生物の名称として
小型な植物は往々にしてコケの名を持つ。蘚苔類は当然であるが、地衣類の和名も「○○ゴケ」を使う。それ以外のものでは以下のような例がある。
その他、アクアリウム などの水槽 の内側に付着する藻類 もしばしば「コケ」と呼ばれる[ 11] 。
苔を用いた表現
「苔」という漢字が日本に伝わった当時は苔を主に藻 を指す言葉として用いられ、コケについては「蘿」という漢字が当てられている歌もある。
コケは岩や地表が長く放置された時に生え、耕すなどの攪乱(かくらん)が行われていると育たない、との認識がある。例えば「苔むす 」という言葉はその状態が長く続いてきたことを示す。岩に苔がむす様は、悠久な時間を示す意味で、日本の国歌 『君が代 』の歌詞 で言及される。
「転石苔むさず 」は、古くから使われてきた西洋のことわざ「A rolling stone gathers no moss.」 の翻訳にあたる。これには相反する二通りの解釈がある。「転々と職業や住居を変える人は、成功できない。」という意味と、「絶えず活動している人は、常に清新でいられる。」という意味に使われる。イギリス では一般的に前者の意味で使われるが、アメリカ では後者の意味で使われる[ 12] [ 注釈 1] 。
古い墓石 についた苔を掃除 するという意味で、墓参や墓掃除を「掃苔 」(そうたい)と称することがある[ 13] 。
苔の花言葉 は「母性愛」[ 14] 、「信頼」、「孤独」、「物思い」である。
苔に由来する色 として、モスグリーン(苔色) やモスグレー(モスグレイ)といったものがある。黄褐色 と緑 の中間の色で、色味が若いものを前者、灰色が強いものを後者という風に区別する[ 15] 。
脚注
注釈
^ 松本侑子 『誰も知らない「赤毛のアン」』(集英社 )によれば、(イギリス文化の影響が強い)アンは苔をロマンティックなものとして見ているという。古井戸のそばの苔の生えた窪地で弁当を広げたり、ままごとの家の椅子に苔むした石を使ったりしている。ウィリアム・ワーズワース は『片山里の乙女』で、ルーシーを「苔むした岩影に咲くすみれ」と詠っている。
出典
関連項目
外部リンク