完全数(かんぜんすう、英: perfect number)とは、自分自身を除く正の約数の和が自分自身に等しくなる自然数のことである。完全数は素数ではあり得ず、合成数に限られる。完全数の最初の4個は 6 (= 1 + 2 + 3)、28 (= 1 + 2 + 4 + 7 + 14)、496 (= 1 + 2 + 4 + 8 + 16 + 31 + 62 + 124 + 248)、8128 (= 1 + 2 + 4 + 8 + 16 + 32 + 64 + 127 + 254 + 508 + 1016 + 2032 + 4064) である。
「完全数」は「万物は数なり」と考えたピタゴラスが名付けた数の一つであることに由来する[1]が、彼がなぜ「完全」と考えたのかについては何も書き残されていないようである[1]。紀元1世紀ごろは、全ての数は過剰数と不足数と完全数の3種類に分けられて、道徳的な意味付けが真剣に考えられた[2]。中世の『聖書』の研究者は、「6 は『神が世界を創造した(天地創造)6日間』、28 は『月の公転周期』で、これら2つの数は地上と天界における神の完全性を象徴している」[1]と考えたとされる[3]。古代ギリシアの数学者は他にもあと2つの完全数 (496, 8128) を知っていた[1]。以来、完全数はどれだけあるのかの探求が2500年以上のちの現在まで続けられている。
完全数の定義は、正の約数の総和が自分自身の2倍に等しいことと同値である。すなわち、N が完全数であるとは、約数関数 σ に対して σ(N) = 2N が成り立つことであると表現できる。また、正の約数の逆数和が 2 であると表現することもできる。
完全数に関する数学上の最初の成果は紀元前3世紀ごろのユークリッドによってもたらされた。彼は『原論』(第9巻、命題36)で、「2n − 1 が素数ならば、2n−1(2n − 1) は完全数である」ということを証明した[注釈 1]。2n − 1 で表される数をメルセンヌ数といい、それが素数である場合をメルセンヌ素数という。
古代から、6、28、496、8128の4つの数が完全数であることは知られており、ゲラサのニコマコスの『算術入門』には4つの完全数に関する記述が存在する[4]。
ユークリッドの公式は2以上の n に対して偶数の完全数しか生成しない(1のときは唯一の1倍完全数である1になる)が、逆に偶数の完全数が全て 2n−1(2n − 1) の形で書けるかどうかは18世紀までは未解決であった。レオンハルト・オイラーは偶数の完全数がこの形に限ることを証明した[5][6][注釈 2]。
メルセンヌ素数の探索は、エドゥアール・リュカとデリック・ヘンリー・レーマー(英語版)によってメルセンヌ数が素数であるかどうかの効率的な判定法が考案され、1950年代からコンピュータが使われるようになる。現在では分散コンピューティング GIMPS による探求が行われていて、2024年11月 (2024-11)現在[update]で判明している最大のメルセンヌ素数は4102万4320桁の数である[8]。
2024年11月 (2024-11)現在[update]発見されている完全数はメルセンヌ素数と同じく52個である。紀元前より考察されている対象であるにもかかわらず、「偶数の完全数は無数に存在するか?」「奇数の完全数は存在するか?」という問題は未解決である。
完全数は、小さい順に
である。
各完全数の正の約数の総和は
隣り合う完全数の差は
完全数の総和の列は
6 と 28 がなぜ「完全」であるかは中世の学者の議論の対象になり、6 は神が創造した1週間(日曜日は神が天地創造を終えて休んだ安息日で、キリスト教ではこれを除外する)、28 は「月の公転周期」とされた[1]。聖アウグスティヌス(? - 604年)はこれとは一線を画し、「6 はそれ自体完全な数である。神が万物を6日間で創造したから 6 が完全なのでなく、むしろ逆が真である」としている[1]。
偶数の完全数 2p−1(2p − 1) = (Mp+1)Mp/2 は Mp 番目の三角数であり、Mp+1/2 番目の六角数でもある。
偶数の完全数は、Mp = 2p − 1 が素数のときの 2p−1Mp に限る(ユークリッド、オイラー)。
2p−1Mp が完全数であることの証明:[9]
Mp = 2p − 1 は奇数になるから、2p−1 と Mp は互いに素になる。
よって、σ(n) を約数関数とすると、約数関数は乗法的なので、N = 2p−1Mp の約数の総和 σ(N) は、
このとき、
Mp は素数なので、
したがって、
すなわち、N の約数の総和が 2N に等しくなるので、N は完全数である。Q.E.D.
偶数の完全数は 2p−1Mp の形に限ることの証明[5][6][注釈 2]:
N を偶数の完全数とする。N を 2 で割り切る最大回数を n とすると、N = 2nK(n は自然数、K は奇数)とおける。2n と K は互いに素であるので、σ(n) を約数関数とすると、約数関数は乗法的なので、N の正の約数の総和 σ(N) は以下のようになる。
N は完全数であるため、 σ(N) = 2N = 2n+1K なので
が導かれる。2n+1 − 1 は奇数なので 2 で割り切れず、式が成立するためには、σ(K) は 2n+1 で割り切れなければならない。 σ(K) = 2n+1a とおき、上の式に代入して両辺を 2n+1 で割れば
となる。
もし a ≠ 1 なら、1、 a、 (2n+1 − 1)a は K の相異なる約数のため、
となり矛盾する。ゆえに、a = 1 でなければならない。したがって、N が偶数の完全数であるためには、
でなければならない。σ(K) = K + 1 より、K は K と 1 以外に約数がない素数でなければならない。
ゆえに、N が偶数の完全数であるのは、 N = 2n(2n+1 − 1)(ただし 2n+1 − 1 は素数)の形のときに限られる。Q.E.D.
偶数の完全数を N = 2p−1(2p − 1)(2p −1 は素数)とする。
六角数の列は
偶数の完全数は無数に存在するか、つまり Mp = 2p − 1 が素数となる素数 p は無数に存在するかどうかは未解決である。
奇数の完全数が存在するか否かは未解決であるが、約数関数は乗法的 (英: multiplicative) であることから、二平方数の和であることが古くから知られていた。もし奇数の完全数 N が存在すれば、N は以下の各条件を満たさなければならないことが知られている。
約数の和や積を考えることで特徴付けられる数の種類には他にも次のようなものがある。完全数と併せて、これらの名称には古代ギリシアの数秘学の影響が見られる。
完全数でない自然数を不完全数 (imperfect number) という。
小川洋子の小説『博士の愛した数式』(2003年)では登場人物の「博士」が阪神タイガースの江夏豊投手のファンであったことの理由として江夏の背番号が28であったことを挙げ、その際に完全数の説明がなされている。
江夏ではないが、日本のプロ野球で初めて完全試合が達成されたのは月・日とも完全数の1950年6月28日だった。6月28日は「完全」の意味を持つ食べ物「パフェの日」にもなっている。
もし単位から始まり順次に1対2の比をなす任意個の数が定められ,それらの総和が素数になるようにされ,そして全体が最後の数にかけられてある数を作るならば,その積は完全数であろう。 — エウクレイデス、『ユークリッド原論』第9巻、命題36