南海8000系電車(なんかい8000けいでんしゃ)は、2007年(平成19年)に登場した南海電気鉄道の一般車両[1](通勤形電車)の一系列である。
本項では、難波方先頭車の車両番号+F(Formation=編成の略)を編成名として表記する。
概要
当時老朽化が進んでいた南海本線の7000系を置き換える目的で、2007年より製造が開始された。走行機器類の基本設計や客室設備は1000系 (2代) をベースにしている。登場時のキャッチコピーは「やさしいがうれしい」。
4両編成13本の計52両が、7年にわたって製造された。2015年度以降の車両増備は、次世代の8300系に移行している。
車両概説
車体
車体は東急車輛製造(現在の鉄道車両製造事業は総合車両製作所)標準の20m級片側4扉のステンレス製軽量構造で、側面と屋根部分の構体は雨樋部分をスポット溶接で接合する設計が採用された。断面は裾絞りに加えて雨樋が張り出しているため、吹き寄せ部付近から雨樋にかけて車体内側に1.3°傾斜している。外板はFRP製の前頭部を除いて基本的に無塗装で、側面吹寄せ部のみダルフィニッシュ仕上げとしている。アクセントとして配されるブルー■とオレンジ■の帯はフィルム張りでなく塗装となった。
前面は従来車を踏襲した貫通構造であるが、前照灯が2300系と同様に貫通扉上部へと配置されたため、標識灯は従来位置に単独で取り付けている。なお前照灯は、2016年よりシールドビームからLED電球への交換が行われ[2]、年内に全編成の交換が完了している。
車体長も南海の在来車と同一であるが、側引戸の中心間隔は標準仕様ガイドラインに適合した4,820mmへと変更されている。窓配置はdD2D2D2D1(d:乗務員室扉、D:側引戸)または1D2D2D2D1で、扉間の2連窓は客室内の左側のみ下降窓、その他の区画を固定窓としている。車端部の窓は1000系に比べ横幅が狭くなっている。窓ガラスには紫外線(UV)カットガラスを使用しているが、側窓の巻き上げカーテンは存置されている。床面高さは、台車の改良により1000系の1,170mmから1,150mmに低減、ホームとの段差を縮小することでバリアフリー化を図っている。
前面および側面の種別・行先表示器は南海では初めてフルカラーLED・白色LEDが採用された。側面表示器は横長のものを採用し、日本語と英語を3秒サイクルで交互表示する[注 1]。
4次車からは、先頭車両同士の連結部での転落防止措置として、和歌山市方の先頭部に転落防止放送装置を設置している[3]。開扉時に連結部であることを放送し注意喚起を行う。
客室
座席は車端部も含めて全て片持ち式のロングシートで、南海では2000系1 - 4次車以来のオールロングシートとなった。座席本体には車体メーカー標準品のバケットシートを採用し、端部の袖仕切りとして大型FRP板を設置している。1人あたりの座席幅は1000系の455mmから460mmへと拡大し、7人掛け座席の中間部には新たにユニバーサルデザイン化された弓形のスタンションポールを2本設置することで、2人 - 3人 - 2人に3区分化している。座席モケットは従来のグレーをやめて茶色系に、優先座席は青色系に変更することで、識別強化によるバリアフリーを推進している。クッション材は環境・リサイクル性を考慮したポリエステル綿で、座面にはSバネを使用している。荷棚は1000系6次車の金網式からパイプ式に変更している。
天井中央部の素材はFRP製となっている。ラインデリア整風板は1000系のような車体全長への設置ではなく、要所要所への設置に改められている。車内照明は当初カバーなしの蛍光灯だったが、5次車からはLED照明が採用され[3]、8008Fと8010F以降は直接照明、8009Fの一部車両では間接照明となった。なお2016年10月以降、蛍光灯の編成についても直接照明のLEDに更新されている[3]。吊り革は座席同様、優先座席付近を黄色とすることで識別化を図っている。
側引戸の内張りは化粧板を廃止し、2300系に倣ってステンレス無塗装仕上げとなった。ただしバリアフリー対応として、戸当たり部には新たに黄色のマーキングテープが高さいっぱいに貼り付けられ、床面部にも黄色の凹凸付き滑り止めが整備された。ドアチャイム、開扉誘導鈴、ドア開閉表示灯は2300系に引き続き装備している。車内案内表示器はLED1段スクロール式で、各車両に4基が千鳥配置で設置されている。車両間の貫通扉も表面をステンレス無塗装仕上げとした傾斜式戸閉機構の引き戸で、通行のしやすさを考慮し貫通路幅を拡張している点も2300系と同様である(ただし幅は775mm)。
空調装置は冷凍能力23.26kW (20,000kcal/h) のセミ集中式CU-732形を各車2基搭載する。これは2300系と同一で、冷媒には代替フロンを採用している。暖房は片持ち式座席下に吊り下げ式の電気ヒーターと、補助機能として空調装置による急速暖房機能を備える。
このほか、情報案内サービスとして4か国語対応の自動放送装置が全編成に設置されており[4]、一般車両への搭載は8300系に続き2例目(ワンマン対応車を除く)となった。なお、当初は準備工事の状態で、特急「サザン」の12000系および8300系と併結した場合のみ自動放送が流れ、それ以外は車掌の肉声放送で対応していたが、2016年12月頃からインバウンド需要の増加に対応し全面的に使用が開始された。
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車内
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車椅子・ベビーカースペース
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8009Fの間接照明タイプLED照明
機器類
制御装置は、1000系6次車を踏襲したIGBT素子による日立製作所製VVVFインバータ制御装置VFI-HR1420Q形(1C4M方式)であるが、トルク制御には速度センサレスベクトル制御を南海で初めて採用している。装置にはパワーユニットと断流器を内蔵させ、床下の主回路システムを集約化している。回生ブレーキおよび全電気ブレーキ機能を有し、両先頭車に1基ずつ搭載される。
主電動機は、三菱電機製かご形三相誘導電動機MB-5091-A2形で、定格出力は180kW、上記の通り速度センサは省略している。ただし速度センサは後から取付可能な構造としており、1000系の主電動機と互換性を持たせている。駆動システムは1000系に引き続きWNドライブ方式だが、歯車比は1000系の99:14から98:15に変更している。また、WN継手には低騒音型を採用している。
パンタグラフは、シングルアーム式の東洋電機製造製PT-7144-B形で、両先頭車の難波方に各1基搭載される。
サービス機器に電力を供給する補助電源装置は、PWM制御2レベルIGBT静止形インバータ(東洋電機製造製 SVH75-4045A形)を採用し、Mc1車(モハ8001形)とT2車(サハ8851形)に搭載されている。
台車は、モノリンク式ボルスタレス台車の住友金属工業→新日鐵住金製SS-177M形(電動台車)およびSS-177T形(付随台車)で、基礎ブレーキ装置が従来通勤車のシリンダー式から片押し式ユニットブレーキに変更されている。ホイールベースは2,100mm、空気ばねの中心間距離は車体ローリング剛性改善のため1000系から50mm広い1,950mmとしている。また先頭台車には、空転防止のため増粘着剤噴射装置を設置している。
ブレーキシステムは、遅れ込め制御を有する回生ブレーキ併用電気指令式で、1000系と共通である。
空気圧縮機は南海で初めてスクロール式を採用し、周辺機器や起動回路を一体箱に納めた省スペース・軽量型としている。これをMc2車(モハ8101形)とT1車(サハ8801形)に搭載する。
運転台の主幹制御器は1000系と同等の横軸2ハンドル式デスクタイプで、計器類は1000系6次車に準じたアナログ式である。
運用
2008年3月26日から南海本線・空港線・和歌山港線で営業運転を開始した[5][6]。当初は単独で普通車のみに使用されていたが、同年10月から1000系2両編成との併結による6両運転を開始し[7]、幅広い種別の列車に充当されるようになった。また2011年9月からは、12000系と連結して特急「サザン」の自由席車として運用されている。2014年10月のダイヤ改正からは、本系列同士での8両運転も開始された[8]。このため和歌山市方の先頭車は、平日朝ラッシュ時の一部列車で女性専用車両に設定されている。
その後も併結対応を拡大し、現在は8300系の2両編成を併結した6両編成や、9000系VVVF更新車・8300系の4両編成を併結した8両編成でも運用されている。ただし1000系2両編成との併結については、1000系がインバウンド対応工事を受けたのを機に実施されなくなっている[9]。
高野線平坦区間および泉北高速鉄道線での営業運転の実績はないが、検査時の千代田工場への入出場時に高野線を走行することがある。
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高野線で試運転中の8001F
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特急「サザン」自由席車として運用される8006F(
井原里駅)
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空港急行として運転される8005F以下8両編成(
二色浜駅)
甲種輸送
塗装前の車体
(2007年11月3日 「南海電車まつり」にて)
8001F・8002Fは2007年10月に東急車輛製造で8両が落成し、同年10月30日から10月31日にかけて安治川口駅まで甲種輸送が行われた[10]。その後は千代田工場まで陸送され[11]、11月3日に開催された「南海電車まつり」にて未装飾の状態で公開された[12]。
以降に増備された編成も全て未装飾で落成し、8003F・8004Fは2009年3月2日から3月4日にかけて、横須賀線・根岸線・東海道本線・城東貨物線(おおさか東線)・関西本線・和歌山線・紀勢本線を経由した甲種輸送で和歌山市駅に搬入された[13][14]。和歌山市駅へ搬入されたのは1000系1051F以来8年ぶりであった。
さらに2010年以降の輸送経路は、横須賀線・根岸線・東海道本線・梅田貨物線・大阪環状線・関西本線・和歌山線・紀勢本線経由に変更された[15]。
編成
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次車区分
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製造年
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所属
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形式
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< モハ8001 (Mc1)
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サハ8801 (T1)
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サハ8851 (T2)
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< モハ8101 (Mc2)
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機器類
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CONT, SIV |
CP |
SIV |
CONT, CP
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車両番号
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8001 |
8801 |
8851 |
8101
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1次車
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2007年
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南海本線
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8002 |
8802 |
8852 |
8102
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8003 |
8803 |
8853 |
8103
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2次車
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2009年
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8004 |
8804 |
8854 |
8104
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8005 |
8805 |
8855 |
8105
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3次車
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2010年
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8006 |
8806 |
8856 |
8106
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4次車
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2012年
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8007 |
8807 |
8857 |
8107
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8008 |
8808 |
8858 |
8108
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5次車
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2013年
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8009 |
8809 |
8859 |
8109
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8010 |
8810 |
8860 |
8110
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6次車
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2014年
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8011 |
8811 |
8861 |
8111
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8012 |
8812 |
8862 |
8112
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8013 |
8813 |
8863 |
8113
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備考
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弱冷車 |
女性専用車両 ステッカー
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凡例
- CONT:制御装置
- SIV:静止形インバータ
- CP:空気圧縮機
脚注
注釈
- ^ 特急「サザン」で運用される場合は、前面もスペースの関係から種別表示側が日本語と英語による交互表示となり、側面では行先の横に(自由席)と案内される。英語では上段に行先、下段に「Non-reserved」と表示される。7000系(全廃)・7100系では「サザン」の横に南十字星の星マークが配されるが、本系列では星マークの代わりに縦書きで「特急」の種別を表示する。さらに、側面では関西空港行きに接続する場合は関西空港接続(泉佐野乗り換え)が行先と交互に表示される。
出典
参考文献
- 南海電気鉄道(株)鉄道営業本部車両部車両課 福原栄二「南海電気鉄道8000系」『鉄道ピクトリアル』2008年6月号(通巻804号)、電気車研究会、2008年、103-107頁。
関連項目
外部リンク
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南海線 |
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高野線(大運転) |
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高野線(区間運転) | |
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支線 | |
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貴志川線 | |
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鋼索線 | |
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