基本的な構造としては、鉄道車両などの集電装置(パンタグラフ)と接触して電力を供給するためのトロリ線、それを吊し又は支持するためのハンガイヤー・ドロッパ・吊架線・懸垂碍子、トロリ線の横方向の固定を行う振止金具と曲線引き金具、それらを支持する電柱・ビーム・ブラケットなどの支持物で構成されている。直流電化区間では、確実な送電のために、変電所から「饋電線(きでんせん)」が架線に沿って敷設され、標準で250 m ごとに饋電分岐装置(フィードイヤー)によりトロリ線に接続される。トロリ線を吊り下げる方式のため、トロリ線の重量により弛みが生じ、支持間隔が長く、重量が重く、張力が低いほど、その弛みが大きくなる。車両の速度が低い場合には、トロリ線の弛みが多少大きくても、集電装置のトロリ線に対する追随性には問題ないが、車両の速度が高い場合には、集電装置(パンタグラフ)の上下動が激しくなって、トロリ線から離線するなどの障害を起こしやすくなる。そのため、架線には適切な張力を与える必要がある。
吊架線を設けず、トロリ線のみを直接吊したもの。費用が安くて済むが、列車速度は50 km/h程度以下に制限される。「逆Y線」の追加で離線しにくい構造にした場合には、85 km/h 以下に引き上げられる。路面電車やトロリーバスといった路面交通で一般的に使用されているほか、鉄道線であってもコストダウンのため、運転密度や最高運転速度の低い閑散線区で採用される例がある。日本では、弥彦線・越後線・和歌山線、境線のそれぞれ一部区間、土讃線の電化区間など、国鉄末期に電化されたローカル線や、銚子電気鉄道線にその例がある。
カテナリー吊架式
カテナリー = Catenary とは懸垂線の意味。
シンプルカテナリー式
最も多く用いられる代表的な架線である。パンタグラフが接触する部分であるトロリ線と、トロリ線をハンガーと呼ばれる金属線または金属板(5 m 間隔で設置)を吊架線で吊して支持する構造となっており、列車速度は100 km/h 程度までに制限される。なお、この方式にて地方の幹線などでメンテナンス頻度の低減を狙ってトロリ線・吊架線を特に太くし、張力を高めたものを「ヘビーシンプルカテナリー式」と呼び、列車速度は130 km/h 程度までに引き上げられる。なお材質は吊架線は亜鉛メッキ鋼線を、トロリ線は溝付硬銅線を使用している。
シンプルカテナリー方式の架線を2組並べたもの。デュアル、あるいはダブルシンプルカテナリー式とも呼ばれる。100 mm 間隔で架線に並列して架設しており、シンプルカテナリー式とほぼ同じ設備で負荷電流を増大できる。なお、運転密度の高い大都市圏の路線や幹線、連続急勾配区間(瀬野八上り線)で使用されている。
ダブルメッセンジャーシンプルカテナリー式
吊架線を横に2本並べたもの。風による影響が小さくなるため支持間隔を長くすることができる。
コンパウンドカテナリー式
パンタグラフによるトロリ線の押し上げ量を平均化する目的で、吊架線とトロリ線の間に補助用吊架線を追加し、それを吊架線がドロッパー(10m間隔で設置)で支持して、補助用吊架線がハンガー(5 m 間隔で設置)でトロリ線を支持する方式。列車速度は160 km/h 程度までに制限される。高速走行時の離線が少なく集電容量も増加するため、運転密度が高く高速走行する路線(JR神戸線、関西空港線、近鉄大阪線、阪急京都本線(宝塚本線の東側複線を含む)・神戸本線、阪神本線、南海本線・空港線など)で使用されている。新幹線(九州・北陸・北海道新幹線と東北新幹線の一部を除く)では、線を特に太くし、張力を高めた「ヘビーコンパウンドカテナリー式」が採用されており、列車速度は200 km/h 以上まで引き上げられる。
鋼材を直接トロリ線とするものや、鋼材に直接トロリ線をつけたものを「剛体架線式」と呼び、断線しにくいという特徴を持つ。カテナリー吊りのスペースを取れない地下鉄などの地下路線での採用例が多い。架線の柔軟性が無いためにパンタグラフの離線が多く、列車速度は90 km/h 以下に制限されるが[3][4]、高速走行に対応できる電車線及びパンタグラフを使用する場合には130 km/h 以下となる。そのためJRや大手私鉄では、当該区間を走行する際に車両のパンタグラフを2基とも使用することなどで対処している。近畿日本鉄道(近鉄)ではこの弱点を克服するため、「剛体架線を吊架線で吊る」独自の方式を採用し、新青山トンネルや近鉄難波線などのトンネルや地下区間で採用している。
自動張力調整装置
トロリ線は気温や日照の変動、流れる負荷電流による発熱により伸縮するため、たるみが発生すると集電装置の集電状況が悪化して、トロリ線の磨耗を異常に促進したり、逆に高い張力になると断線する恐れがある。そのため、架線の張力を常に一定の値に調整することが必要となる。そこで、自動張力調整装置、テンションバランサなどとも呼ばれる装置を架線に取付けて、架線の張力を自動的に一定の値に調整している。一般的な架線の張力の値としては、在来線が9.8 kN(1トン重)、新幹線は19.6 kNとしている。一定間隔毎に設置されており、架空電車線の長さが800 m未満の場合は片側、800 m 以上1,600 m 未満の場合は両側に設置する。そのため、架空電車線同士の境目ができてしまうので、そこを電気的に接続しておく必要がある。接続の方法としては、架空電車線同士を少しの間平行に設置して、架空電車線同士をコネクタ(金具)で接続する方法で電気的に接続することによってエアジョイントを設置するため、車両側から見れば架空電車線が入れ替わるように見える。