ヘルツ(英: hertz 記号: Hz)は、国際単位系(SI)における周波数(en:frequency)のSI組立単位である[1]。その名前は、ドイツの物理学者で、電磁気学の分野で重要な貢献をしたハインリヒ・ヘルツに因む[2][3]。
用語(周波数と振動数)
英語の frequency の日本語訳としては、周波数と振動数の2つの訳語があり得る[注 1][注 2]。しかし日本の計量法は、計量の前提となる物象の状態の量(一般には物理量とみなして良い。)として、72量を定めているが、この中では「周波数」の語のみを用いている[4]。また、国際単位系国際文書のSI組立単位の一覧表における hertz の物理量として仏語版のfréquence[5], 英語版のfrequency[6]を日本語版では、「周波数」とのみ訳出している[7]。このため、この項目では「周波数」の語のみを用い、「振動数」の語を用いない。
定義
1ヘルツは、「1秒間に1回の周波数」と定義される[8]。
ヘルツとその記号 Hz はSI組立単位である s−1 に与えられた固有の名称と記号であるが、一定周期で発生する現象にのみ使用される。ランダムに発生するような現象についてはヘルツではなく s−1(毎秒)を使用する。特に、1秒間に原子核が崩壊する数は、ベクレル (Bq) という単位で表される[9]。
角速度・角周波数もs−1の次元を持っているが、常に、s−1ではなく明示的な単位であるHz または rad/s(ラジアン毎秒)を用いて表現されることが推奨される[10]。回転数はヘルツで表現することができ、60回転毎分 (rpm) = 1回転毎秒は1 Hzに等しい。1回転は2πradなので、角速度が2π rad/sの回転は1回転毎秒=1 Hzに等しい。
歴史
ヘルツという単位名称は、1930年に国際電気標準会議で制定され[11]、1960年に国際度量衡総会(CGPM)で、それまでの単位名称「サイクル毎秒」を置き換えて採用された。
サイクル毎秒 (記号: c/s, cps) または略してサイクル(記号: c)という単位は、日本では1972年7月1日を以ってヘルツに変更された。サイクル・サイクル毎秒は使用されなくなったが、(旧)計量法には、全面改正される1997年9月30日まで残っていた[1]。
使用例
一般的には、電波・電磁波・音波などの波の周波数を表すのに用いられることが多い。ラジオ放送では、テレビ放送などと違い、搬送波周波数表記で選局するのが一般的である。また、CPUなどのクロック周波数を表すのにも用いられる。
電磁波
電磁波の周波数について使われる場合は、Hzは1秒あたりの電磁放射の振動の数を指す。
- 長波(LF) 30 – 300 kHz
- 中波(MF) 300 – 3000 kHz
- 短波(HF) 3 – 30 MHz
- 超短波(VHF) 30 – 300 MHz
- 極超短波(UHF) 300 – 3000 MHz
- 極々超短波(SHF) 3 – 30 GHz
CPU動作周波数
CPUのクロック信号の周波数(クロックスピード)を意味する。
1974年から2000年までに製造されたほとんどのCPUは、メガヘルツの範囲の速度で動いていた。2000年代以降の家庭用コンピュータではギガヘルツ (GHz; 109ヘルツ) の速度で動作しているものが増えていった。
さまざまなバス(たとえばCPUとシステムRAMを接続しているメモリバス)もまた、周波数のクロック信号によって信号を転送している。
倍量・分量単位
ヘルツの倍量・分量単位は、以下の通りである。分量単位は、定義はできるが実用されることは稀である。
ヘルツ (Hz) の倍量・分量単位
分量
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|
倍量
|
値
|
記号
|
名称
|
値
|
記号
|
名称
|
10−1 Hz
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dHz
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デシヘルツ
|
101 Hz
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daHz
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デカヘルツ
|
10−2 Hz
|
cHz
|
センチヘルツ
|
102 Hz
|
hHz
|
ヘクトヘルツ
|
10−3 Hz
|
mHz
|
ミリヘルツ
|
103 Hz
|
kHz
|
キロヘルツ
|
10−6 Hz
|
µHz
|
マイクロヘルツ
|
106 Hz
|
MHz
|
メガヘルツ
|
10−9 Hz
|
nHz
|
ナノヘルツ
|
109 Hz
|
GHz
|
ギガヘルツ
|
10−12 Hz
|
pHz
|
ピコヘルツ
|
1012 Hz
|
THz
|
テラヘルツ
|
10−15 Hz
|
fHz
|
フェムトヘルツ
|
1015 Hz
|
PHz
|
ペタヘルツ
|
10−18 Hz
|
aHz
|
アトヘルツ
|
1018 Hz
|
EHz
|
エクサヘルツ
|
10−21 Hz
|
zHz
|
ゼプトヘルツ
|
1021 Hz
|
ZHz
|
ゼタヘルツ
|
10−24 Hz
|
yHz
|
ヨクトヘルツ
|
1024 Hz
|
YHz
|
ヨタヘルツ
|
10−27 Hz
|
rHz
|
ロントヘルツ
|
1027 Hz
|
RHz
|
ロナヘルツ
|
10−30 Hz
|
qHz
|
クエクトヘルツ
|
1030 Hz
|
QHz
|
クエタヘルツ
|
よく使われる単位を太字で示す
|
符号位置
脚注
注釈
- ^ [記載なし]「物理教育用語委員会報告(2)(学会報告)」『物理教育』第29巻第2号、日本物理教育学会、1981年、145-166頁、doi:10.20653/pesj.29.2_145。 。 1981年時点での用語集であるが、振動数,周波数(frequency)、角振動数,角周波数(angular frequency) の用語を掲げている。
- ^ 用語解説 公益社団法人 日本騒音制御工学会の用語集。2つの用語を並列している。「周波数,振動数 frequency:周期の逆数。周期が1sの振動数を1ヘルツ(hertz,Hz)という。1Hz=1s-1」
出典
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
ヘルツに関連するカテゴリがあります。
参考文献
- (準拠すべき基本文献)[2] BIPM 著、産業技術総合研究所 計量標準総合センター 訳『国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版』産業技術総合研究所 計量標準総合センター、2020年3月。