勿来発電所(なこそはつでんしょ)は福島県いわき市佐糠町大島20にある常磐共同火力の石炭・石油火力発電所。同じ敷地内に勿来IGCCパワーの勿来IGCC発電所が所在する。
概要
常磐炭田の低品位炭の活用を目的に東北電力と東京電力(後に分社化・事業移管に伴い東京電力フュエル&パワーを経てJERAに持ち株を移管)および炭鉱会社の出資により常磐共同火力株式会社が設立され、1957年に1、2号機が運転を開始、7号機まで順次建設された。1983年には8、9号機を増設し、老朽化した1~5号機は1987年までに順次廃止、6号機は2015年11月20日に廃止された[1]。
燃料は石炭(現在は海外炭)と重油のほか、7~9号機では下水汚泥を原料とした炭化燃料の試用を2007年から開始、1%程度混焼している。2011年3月からは木材を原料とした木質バイオマス燃料(木質ペレット)の使用も開始した[2]。
1~5号機の跡地に株式会社クリーンコールパワー研究所(当時)により石炭ガス化複合発電(IGCC)の実証機が建設され、2007年9月から2013年3月まで運転試験が行われた後2013年4月から10号機として商用運転を開始、同研究所は常磐共同火力に吸収合併された。その後、2020年4月には計画停止され、2020年11月16日付で廃止された[3]。
2014年5月15日、東京電力と常磐共同火力は、福島復興大型石炭ガス化複合発電設備実証計画として、当発電所構内及び隣接地に世界最新鋭の大型石炭ガス化複合発電(IGCC)設備を共同で建設する計画を発表[4]、2016年10月20日には同計画を勿来IGCCパワー合同会社(三菱商事パワー、三菱重工業、三菱電機、東京電力ホールディングスおよび常磐共同火力の5社が出資)に承継し、同社が建設・運用を行うことを発表した[5]。これにより建設された勿来IGCC発電所は、2021年4月19日に営業運転を開始した[6]。
発電設備
常磐共同火力所有分
- 総出力:145万kW(2021年4月1日現在)[7]
- 敷地面積:697,000m2
- 7号機
- 発電方式:汽力発電方式
- 定格出力:25万kW
- 使用燃料:石炭、炭化燃料、木質バイオマス
- ボイラー形式:強制循環形
- 営業運転開始:1970年10月26日
- 8号機
- 発電方式:汽力発電方式
- 定格出力:60万kW
- 使用燃料:石炭、炭化燃料、木質バイオマス
- ボイラー形式:変圧貫流形
- 営業運転開始:1983年9月9日
- 9号機
- 発電方式:汽力発電方式
- 定格出力:60万kW
- 使用燃料:石炭、重油、炭化燃料、木質バイオマス
- ボイラー形式:変圧貫流形
- 営業運転開始:1983年12月15日
勿来IGCCパワー所有分
- 総出力:52.5万kW(2021年4月19日現在)
- 勿来IGCC発電所(福島復興大型石炭ガス化複合発電設備実証計画(勿来))
- 発電方式:空気吹き石炭ガス化複合発電方式(IGCC)[8]
- 定格出力:52.5万kW[6]
- ガスタービン 1400℃級 × 1軸
- 蒸気タービン × 1軸
- 使用燃料:石炭
- ガス化炉:乾式給炭酸素富化空気吹き二段噴流床⽅式
- ガス精製:湿式化学吸収法および湿式石灰石・石膏法併用
- SOx排出濃度:19ppm
- NOx排出濃度:6ppm
- 煤塵排出濃度:5mg/m3N
- 熱効率:約48%(低位発熱量基準)
- 営業運転開始:2021年4月19日[6]
廃止された発電設備
- 発電方式:1~6号機:汽力発電方式、10号機:1,200℃級石炭ガス化複合発電方式(IGCC)
- 1号機(廃止)
- 定格出力:3.5万kW
- 使用燃料:石炭、重油(当時は石炭専焼)
- 営業運転期間:1957年11月 - 1983年
- 2号機(廃止)
- 定格出力:3.5万kW
- 使用燃料:石炭、重油(当時は石炭専焼)
- 営業運転期間:1957年11月 - 1983年
- 3号機(廃止)
- 定格出力:7.5万kW
- 使用燃料:石炭、重油(当時は石炭専焼)
- 営業運転期間:1960年 - 1987年
- 4号機(廃止)
- 定格出力:7.5万kW
- 使用燃料:石炭、重油(当時は石炭専焼)
- 営業運転期間:1960年 - 1987年
- 5号機(廃止)
- 定格出力:7.5万kW
- 使用燃料:石炭、重油(当時は石炭専焼)
- 営業運転期間:1961年 - 1987年
- 6号機(廃止)
- 定格出力:17.5万kW
- 使用燃料:重油(当時は石炭)
- ボイラー形式:定圧貫流形
- 営業運転期間:1966年11月30日 - 2015年11月20日
- 10号機(廃止)
- 定格出力:25万kW
- ガスタービン:12.42万kW × 1軸[9]
- 蒸気タービン:12.58万kW × 1軸
- 使用燃料:石炭
- ガス化炉:二室二段噴流床方式
- 熱効率:42.4%(低位発熱量基準)
- 営業運転期間:2013年4月1日-2020年4月(11月16日廃止)[3]
東北地方太平洋沖地震による被害
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震によって長期計画停止中の6号機、定期検査中の8号機、IGCC実証機を含めた全機と、石炭の陸揚げに使用していた小名浜港からの重油導管が被災した[10]。
6月30日に9号機が運転を再開[11]、発電所構内への石炭コンベヤー、港からの送油導管も復旧した。7月17日には8号機[12]、7月28日にはIGCC実証機[13]、12月21日には7号機が運転を再開した[14]。2012年4月21日には長期計画停止中だった6号機も運転を再開[15]、これによりすべての発電設備が運転再開した。
石炭外航船の受け入れに使用していた小名浜港の7号埠頭は大きな被害を受けたが、従来東京電力が広野火力発電所向けに使用していた6号埠頭を交代で使用することで6月17日から受け入れを再開した[16]。
参考文献
「50年のあゆみ 1955-2005 人と事業の記録」常磐共同火力株式会社(2005年)
出典
関連項目
外部リンク