ドニャーナの湿地帯
英名
Doñana National Park 仏名
Parque Nacional de Doñana 面積
54251.7 ha 登録区分
自然遺産 IUCN分類
II(国立公園) 登録基準
(7), (9), (10) 登録年
1994年 拡張年
2005年 公式サイト
世界遺産センター (英語) 使用方法 ・表示
ドニャーナ国立公園 は、スペイン のアンダルシア州 にある国立公園 。ウエルバ県 とセビリア県 にまたがっている[ 1] 。ヨーロッパでも最大級の自然保護区 である。ユネスコ の世界遺産 に登録されているほか、生物圏保護区 [ 2] 、ラムサール条約 登録地にもなっている[ 3] 。
この国立公園は、毎年50万羽以上の渡り鳥 や水鳥 たちが越冬地に選ぶ楽園である[ 4] だけでなく、多くの動植物にとっても良好な避難所となっている(後述#生態系 参照)。スペイン南部のアンダルシア 地方のカディス湾 沿岸に位置し[ 2] 、大西洋 に注ぐグアダルキビール川 右岸に広がっている。
歴史
伝説によれば紀元前、この地域にはタルテッソス 王国があったとされ[ 5] 、また、2009年より行われた調査によって伝説の都市アトランティス がこの地の湿地帯の下に眠っている、といった発表もあった[ 6] が、物的証拠としての最古の遺跡 はいくつかのローマ 遺跡が現存しているのみである[ 5] 。この一帯にある湿地は2000年ほど前はローマ人の手紙でも言及されている湖 であったが、その後堆積物により現在のような姿に変化した[ 7] 。
この地域は15世紀から当時の貴族の狩猟場として保護されていた[ 8] 。16世紀にメディナ=シドニア公 だったアロンソ・ペレス・デ・グスマン が、その妻アナのための宮殿 をこの辺りに建てたことから、ドーニャ ・アナ、すなわちドニャーナという地名となった[ 9] 。以降、18世紀までは狩猟場としてのみの存在であったが、18世紀以降はさらに伐採 、牧畜 にも利用されるようになり、19世紀からは科学者 や博物学者 が鳥類の卵や剥製 を目当てに訪れるようになった[ 10] 。このように中世においては貴族による保護のおかげで結果的に自然は維持されてきたともいえる
[ 11]
。また、湿地やその近くはマラリアなどの発生が危惧された結果、人が寄り付かなかったとも言われている[ 12] 。
1963年、開発や観光による希少生物への影響が懸念されていた
[ 13]
この地域で、スペイン政府とWWF が協力して約7000ヘクタール の土地を取得し、ドニャーナ生物保護区を設置した[ 10] 。ドニャーナ国立公園 となったのは1969年であった。その後1978年、2004年に区域の拡大が行われている[ 14] 。世界自然遺産に登録されたのは1994年であった[ 15] (後述#世界遺産 も参照)。
1998年4月近隣にある鉱山のダム から有害廃棄物が大量に排出されるという事故があり、生態系への影響が懸念される事態となった[ 16] 。実際の影響としては魚類だけでも30トン相当が犠牲になったとされる
[ 17]
。除去作業は同年11月末までにほぼ完了したものの、一部の酸性水が本公園の地下水に浸透した可能性と、それによる動植物 への影響も指摘されており
[ 18]
、2011年現在でも懸念材料となっている[ 19] 。なお、この事故が発生する可能性は1995年ごろから認識されていたという指摘もあるが(会社側は認識してなかったことを主張、またダム建設業者の強度計算ミスもあった)、事故の後処理については「即時の操業停止」およびスペイン政府と協力しての「除去作業」と、類似した事故への対応の模範と評価もされている[ 18] 。また、公園外ではあるが製油所の拡張計画とこれによるタンカー 増にともなう偶発的な事故の懸念
[ 20]
や石油 パイプライン 建設の計画もあり、これも注視されている[ 21] 。
特色
1969年に創設されたこの国立公園は、50720ヘクタールの面積を持ち[ 5] 、さらに周辺部には1989年に自然公園も設定されており、その面積は約54000ヘクタールである[ 22] 。毎年30-40万人以上が訪れる[ 23] 。オオフラミンゴ 、チチュウカイカメレオン 、アカシカ などにめぐり合うことも珍しくない。
ドニャーナ国立公園は、全地球的に絶滅が危惧されているネコ科 の動物であるスペインオオヤマネコ にとっても最後の隠れ家となっている[ 24] 。
地形
自然環境は実に多彩で、公園の面積の半分を占める湿地帯、固定砂丘 や移動砂丘 もあり、河口付近の海岸線、雑木林 、そしてラグーン とが、それぞれ対照的な景観 を形成している。
ヨーロッパ最大[ 4] の湿地 は季節ごとの気象条件によって水位が変化し、景観もまた変化する。夏には干上がり、秋から冬にかけては雨や近隣の小川の水位上昇にともなってラグーン になり、春にはキンポウゲ科 の花が咲く[ 25] 。移動砂丘 (ドゥナス・モビレス)というものはヨーロッパでは珍しく[ 25] 、また当公園の移動砂丘はヨーロッパでは最大級とも言われ
[ 26]
、1年で6メートルほども移動するという
[ 27]
。
コスタ・デ・ラ・ルス と呼ばれている河口付近の海岸線 [ 5] は、海水浴 客にも人気の海岸であり
[ 28]
、アンダルシアではよく見られる白い壁の建物と砂浜、ブドウ畑なども見られ、春には祭りも行われる
[ 29]
。
生態系
スペインオオヤマネコ
先述のように多彩な自然環境があり、多様な動植物が生息している。
900種類以上の植物 、両生類 11種、淡水魚 約20種、爬虫類 約20種、哺乳類 37種、そして鳥類 370種などが生息を確認されている[ 30] 。また、伝統的な生活も一部公認されているため、炭焼き、養蜂 などに従事する人間も生活している[ 25] 。
以下に動植物の例を挙げる。
ほかにはイタリアカサマツ 、ゴジアオイ属 、タイム 、ローズマリー 、ギョリュウモドキ も一帯に見られる[ 2] [ 3] 。
ドニャーナ国立公園の植生
ドニャーナ国立公園に茂る植物
観光
案内所
公園の複数の入り口に一般向けの案内所がある。ハイキングコースや動物を観察するためのコースでは、動物たちを控えめに観察することは認められている。この公園を秋に訪れれば、多くの渡り鳥 たちの大移動の様子を目の当たりにすることができるだろう。
ツアーには2つの方法がある。
観光バス - 公園の西側のエル・アセブーチェ(El Acebuche)入口から車輪の大きなバスによるもの。約4時間、27ユーロ。連絡:Donana National Park Tours, Centro de Recepcion El Acebuche, 電話:959 43 04 51、ファックス:959 43 04 51 [ 35]
観光船 - 公園の東側のカディス県 サンルーカル・デ・バラメーダ からレアル・フェルナンド号によるもの。約3時間半、16.20ユーロ。連絡:電話:956 363 813 [ 36]
海岸線沿いにはいくつかのリゾートホテルもあり、その中にはパラドール もある
[ 37]
。
エル・ロシーオの巡礼
復活祭後の第7日曜日にかけて行われるドニャーナ国立公園内にあるアルモンテ のエル・ロシーオ の聖堂に巡礼する巡礼祭があり、遠くアルゼンチン などからも多くの巡礼者が訪れ[ 38] 、大いに盛り上がるという[ 39] が、これは公園の運営方針に反しない範囲で認められている[ 25] 。
世界遺産
ドニャーナ国立公園は、1994年にユネスコ の世界遺産 に登録された。2005年に登録範囲の拡大が行われた[ 40] 結果、当公園と周辺にある自然公園をあわせたエリアのうち54252ヘクタールが登録されている[ 41] [ 42] 。
登録基準
この世界遺産は世界遺産登録基準 のうち、以下の条件を満たし、登録された(以下の基準は世界遺産センター 公表の登録基準 からの翻訳、引用である)。
(7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
(9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
(10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。
脚注
^ ユネスコ 2013 , 右上の表
^ a b c “Doñana Biosphere Reserve, Spain ” (英語). UNESCO (2020年4月). 2023年2月18日 閲覧。
^ a b “Doñana | Ramsar Sites Information Service ”. rsis.ramsar.org (2007年1月1日). 2023年2月18日 閲覧。
^ a b “ドニャーナ国立公園 - 「だいち」の目でみる世界遺産 ”. JAXA . 2013年5月1日 閲覧。
^ a b c d スペイン政府観光局 2011 , p. 35
^ 「津波 で沈んだ」、としている。“Lost city of Atlantis, swamped by tsunami, may be found ”. ロイター通信 . 2013年5月1日 閲覧。
^ F.Carrascal 2010 , p. 22
^ 畠中 2012 , p. 293
^ 畠中 2012 , pp. 293–294
^ a b 畠中 2012 , p. 294
^
“ドニャーナ国立公園 ”. 「小学生のための世界自然遺産プロジェクト」ユネスコキッズ実行委員会. 2013年5月1日 閲覧。
^ F.Carrascal 2010 , p. 23
^
“WWFの歴史(2)最初の活動 ”. WWFジャパン. 2013年5月1日 閲覧。 “絶えず地域開発や観光によって脅かされ”
^ これは「世界遺産の登録範囲」の拡大ではないことに注意。
^ 畠中 2012 , pp. 294–295
^ ユネスコ 1998
^
京都大学 ;長崎大学 ;名古屋大学 (2012年). “経済的価値の内部化による生態系サービスの持続的利用を目指した政策オプションの研究-最終研究報告書 ”. 平成23年度 環境経済の政策研究 . 財団法人地球環境戦略研究機関. p. 34. 2013年5月1日 閲覧。
^ a b
畑村洋太郎 . “廃サイダムの決壊で汚泥が流出 ”. 畑村創造工学研究所. 2013年5月1日 閲覧。
^ ユネスコ 2011 ,"Factors affecting the property identified in previous reports"のa)。
^
地域連絡会議 (2010年10月15日). “第34回世界遺産委員会の概要 ” (PDF). 第14回地域連絡会議 . 小笠原自然情報センター. 2013年5月1日 閲覧。
^ ユネスコ 2011 ,"Current conservation issues"
^ 畠中 2012 , p. 295
^ 畠中 2012 , p. 297,1996-2009年。
^ スペイン政府観光局 2011 , p. 36
^ a b c d 畠中 2012 , p. 296
^
“ドニャーナ国立公園 ”. 世界遺産の旅研究会. 2013年5月1日 閲覧。
^ a b
“第414回 ドニャーナ国立公園(II) ”. TBS . 2013年5月1日 閲覧。
^
“Europe's Leading Beach 2010 ”. World Travel Awards. 2013年5月1日 閲覧。 ,"Europe's Leading Beach"ノミネート。
^
“Costa de la Luz ”. スペイン政府観光局オフィシャルサイト . 2013年5月1日 閲覧。
^ 畠中 2012 , p. 295-296
^
“これまでの放送013 - ワイルドライフ ”. NHK . 2013年5月1日 閲覧。 “アンダルシア地方にわずか200匹”
^ a b
“第414回 ドニャーナ国立公園(I) ”. TBS . 2013年5月1日 閲覧。
^
“イベリアカタシロワシ ”. コニカミノルタ . 2013年5月1日 閲覧。
^
“Oryctolagus cuniculus ”. IUCN . 2013年5月1日 閲覧。
^ Donana National Park Tours
^ 『地球の歩き方、スペイン 2010~11』 (ダイヤモンド・ビッグ社)のサンルーカルの記述にある。
^ “Parador de Mazagón ”. Booking.com . 2014年11月9日 閲覧。 ,パラドール・デ・マサゴン。
^ 塩見 2012 , p. 91
^ 塩見 2012 , p. 92
^ ユネスコ 2005
^ ユネスコ 2013 , 右上の表
^ ユネスコ 2005 ,正確には"54,251.7 ha"。
参考文献
参考サイト
ユネスコ, UNESCO World Heritage Centre
関連項目
外部リンク