ジョージ・ホサト・タケイ・アルトマン (英語 : George Hosato Takei Altman 、日本名:武井 穂郷 〈たけい ほさと〉、1937年 4月20日 - )は、アメリカ合衆国 カリフォルニア州 ロサンゼルス 生まれの俳優 である。日系アメリカ人 二世。『宇宙大作戦 』から始まる『スタートレック 』シリーズのヒカル・スールー (日本語吹替版:加藤{カトー/カトウ})役が有名。
来歴
ジョージ・タケイは1937年 4月20日 、ロサンゼルスで不動産業を営む、山梨県 生まれでアメリカ移民 の父タケクマ・ノーマン・タケイ (Takekuma Norman Takei) と、カリフォルニア州 生まれで日系二世の母フミコ・エミリー(Fumiko Emily, 旧姓ナカムラ)との間に3人兄弟の長男として生まれた。母方の祖父母 は広島県 からの移民[1] [2] [3] 。父が親英派であったために、ジョージ6世 の名前から「ジョージ」と名づけた[4] [5] 。母方の叔母は、2017年にノーベル平和賞 を受賞した平和活動家のサーロー節子 [6] 。第100代・第101代内閣総理大臣 の岸田文雄 は遠縁にあたる。
平和な日々を送る一家に転機が訪れたのは1941年 の日米開戦 からである。タケイ一家は1942年 、大統領令9066号 によりアーカンソー州 ローワー強制収容所 へ強制収容されることになる[7] [8] 。過酷な日々を送っていた一家は、今度はタケイの父が(当時、当局が徴兵検査の目的を隠して踏み絵的に行っていた)アメリカ政府に対する忠誠心の調査「忠誠登録 」(Loyalty Questionnaire) で忠誠を拒否したために、カリフォルニア州 テュールレイク強制収容所 へ送られた。テュールレイクは反米 主義者とみなされた者が多く送られた場所で、一種の隔離収容所であった。1945年 8月の終戦後もテュールレイクだけは翌年まで閉鎖されなかった。広島市への原子爆弾投下 が行なわれたその日、タケイは抑留キャンプの中におり、希望を失うほどの悲しみに打ちひしがれたという。タケイの母の姉妹とその5歳の子供の遺体は広島市内の運河に浮かんでおり、爆発によってほとんど見分けのつかないほどの火傷を負っていたという。タケイの母の家族は開戦直前、アメリカ国内から広島に向かって帰国していたので母は広島にいる姉妹や親戚の安否を確かめようとヒステリックになったという[9] 。タケイ一家は、3年あまりにわたる苦難の生活から解放された後、タケイの生まれ故郷ロサンゼルスへと帰郷する。片道切符と政府から支給された25ドルしかなかった家族は、ロサンゼルスのスラムに住まざるを得なかったが、そこでクリーニング店 を始め、その後軌道にのる。
タケイは1956年 、建築学 専攻でカリフォルニア大学バークレー校 に入学するが、在学中に俳優の夢を持っていたために1958年 にカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) に編入、演劇学学士 と大学院 で演劇学修士 を取得する。
1960年 にリチャード・バートン 主演の『北海の果て 』の出演がきっかけで、俳優としての知名度を高めていくこととなる。1966年 、自身の看板作品となる『スタートレック 』シリーズにおいて、番組のプロデューサー、ジーン・ロッデンベリー の発案でヒカル・スールー を演じることになり一層知名度を高める。当時のアメリカのテレビ界において、アジア系俳優が主要な役を与えられるのは初めてであった。
政治の世界にも興味を示し、1972年には民主党大統領大会の公式代表になった他、翌1973年にはロサンゼルス市議会の議員に立候補し落選している。1987年には日系人として初めてハリウッド のウォーク・オブ・フェーム に名前を残している。
1995年 、当時大統領 を務めていたビル・クリントン から指名を受け、日米文化教育交流会議 (CULCON) の承認を受けたプログラムを運営する、日米友好基金 (JUSFC) の理事を務める。
2004年 11月には今までの功績を称えられ、旭日小綬章 を授与された。
タケイは俳優業の傍ら日系市民協会 (JACL) に積極的に参加するなど、日系アメリカ人 の社会的地位向上にも大きく寄与している。ロサンゼルスにある全米日系人博物館 では1984年 から現在に至るまでメンバーとして参加。2002年 及び2003年 には理事会の会長を務めている。日系人の関わる行事には必ず出席しており、その誠実で真摯、気さくな人柄は日本人のみならず世界の多くの人に親しまれている。
2005年 には自叙伝である『星に向かって』の翻訳版が日本でも出版された。これまでも数多く来日 しており、自叙伝の出版記念で来日した際には京都 と神田 にある三省堂書店 本店でサイン会を行ったり、世界SF大会(ワールドコン )のファン交流のためにパシフィコ横浜 を訪れたりしている。また、母が広島 出身の関係で、広島の親戚の元も訪れた[10] 。
2011年 に起きた東日本大震災 の際には、Twitter などでアメリカ国内はもちろん、世界へ向けても支援を呼びかけた。動画配信なども行い、英語と日本語を交えてメッセージを発信したほか、メディアへ出演して日本への想いも語っている。
2012年、タケイは自身の遺産的作品と語るミュージカル 『アリージャンス 』に主演した。この作品は第二次世界大戦 時の日系人の強制収容 に関連した自身の経験を基にしている。カリフォルニア州 サンディエゴ にあるオールド・グローブ劇場で初演された[11] 。2015年11月8日、ブロードウェイ で上演された。
2016年、第15回アンフォゲッタブル・ガラ(エンターテイメント界のアジア系アメリカ人の先駆者を表彰する賞)のアイコン・アワードを受賞[12] 。
2018年、ハーヴェイ・ワインスタイン への告発以降、有名人に対する性的暴行告発が次々となされるなか、タケイもまた性的暴行告発を受けたが[13] 、次々と告発者証言の矛盾が明らかになり、後に告発者は自分の主張を否定した[14] 。タケイは継続して自身の潔白を強調しつつ、近年のハリウッドにおけるセクシャルハラスメントや性的暴行の告発行為の大切さを強調した[14] 。
私生活
「スター・トレック」1969年1月10日オンエア・エピソードの一幕。
カミングアウトと結婚
シカゴのゲイ&レズビアン・パレードにて (2006年)
2005年 10月26日 に発売されたロサンゼルスのゲイ・レズビアン のコミュニティ 誌『フロンティアズ』にて、自身が同性愛者 であるとカミングアウト した。パートナー であるブラッド・アルトマン とは20年来の付き合いであり、2008年 5月 に婚約を発表[15] し、9月14日 ロサンゼルスの全米日系人博物館 (Japanese American National Museum) で挙式した[16] 。自らゲイであると公表した主な理由として、同性愛について社会的な議論を喚起したい巻き起こしたいからと述べた[17] 。また、日系人収容所に収容されたがゆえの体験から、自分の人種 と性的指向 について、恥の意識を持ちながら育ったと述べたが、同性愛者への偏見 は人種差別 と同じだとし、「アメリカの価値観に反している」と語っている。
冷戦 のただ中に制作され不動の人気を誇った『スター・トレック 』は、当時の白人中心主義的なハリウッドにおいて多様性 を反映し、アフリカ系女性、アジア系、ロシア系を含む画期的な配役でスタートした。しかし、タケイが長い間カミングアウトできなかった背景として、当時、スタートレックで黒人と白人のキスシーンを使ったところ、異人種間結婚を規制する州法すら存在した南部 の諸州では放送ができなかったため、大きく視聴率が低下したことに言及し、根強いホモフォビア がある社会で、俳優の道を歩むためには、ゲイであることを隠すしかなかった、と述べている[18] 。タケイは主演のウィリアム・シャトナー と不仲であったことを公言している[19] 。
レイシズムとセクシズムの不条理を訴える声として
タケイのSNSは2018年4月の時点で、1,000万人を超えるフォロワーをもち、日系人あるいはアジア系アメリカ人としてだけではなく、LGBTQ を代弁する声として多くの人々に語り掛けてきた。現在、タケイは「カミング・アウト・プロジェクト」のスポークスパーソンを務めている。
2016年2月28日、第88回アカデミー賞授賞式の内容に「アジア系への差別を含むものがあった」として、タケイや著名な映画監督アン・リーらが正式に抗議文を公開し、主催側が謝罪した[20] 。
2018年6月、トランプ大統領 のゼロトレランス政策 は大戦中の差別政策と同じであると強く批判した[21] 。6月にはフォーリン・ポリシー誌に寄稿し、国境 での親子隔離政策に関し「少なくとも日系アメリカ人の強制収容ては、私や他の子どもたちが両親から強制的に引き離され、泣き叫びながら母の腕からもぎ取られるなどということはなかった」とトランプの政策を強く批判し共感を呼んだ[22] [23] [24] 。
2019年9月29日に開催されたトランプ大統領とジョー・バイデン 大統領候補の第一回テレビ討論会において、トランプがヘイトグループ として知られる白人至上主義 団体プラウド・ボーイズ に「下がって待機せよ」と言及した件に対し、タケイはヘイトではなく愛においてプライドを持つという意味において「ブラッドと私は"誇りあるボーイズ"です。法的に結婚してからは12年が経ちます」と写真を投稿し、それを契機として多くのLGBTカップルがプラウド・ボーイズのハッシュタグでホモフォビア のヘイトに愛で抗議するカップル写真を投稿した[25] 。
出演作品
映画
テレビシリーズ
テレビアニメ
ゲーム
吹き替え
舞台
著書
脚注
関連項目
外部リンク