ウィリアム・ジョセフ・"ワイルド・ビル"・ドノバン(William Joseph "Wild Bill" Donovan 1883年1月1日 - 1959年2月8日)は、アメリカの軍人、弁護士、諜報員、外交官。戦略諜報局(OSS)の創設者、また長官としてその名を知られる。「アメリカ情報機関の父」(Father of American Intelligence)、「CIAの父」(Father of Central Intelligence)などと通称される事も多い[1][2]。
1941年7月11日、ドノバンは情報調査局(Office of the Coordinator of Information, OCI)の長たる情報調査官(Coordinator of Information, COI)に就任する。当時、アメリカにおける対外諜報活動は陸軍、海軍、連邦捜査局(FBI)、国務省などがそれぞれの利害関係に基づき独自に行なっており、獲得した情報の共有も全く行われていなかった。情報調査官のポストはこれらの諜報活動を統括するものとされていたが、ドノバンは各機関の縄張り争いに悩まされることになる。多くの諜報機関の長は旧来からの分断されたシステムの中で獲得した権力を手放すことに難色を示していた。例えば当時ドノバンのライバルだったジョン・E・フーバーが長官を務めたFBIは、南米における諜報活動の自主権を主張していた。
1942年、COIは戦略諜報局(Office of Strategic Services, OSS)に改組され、長官となったドノバンは陸軍大佐として現役復帰を果たす。ドノバンの指揮下でOSSは世界各地に展開し、ヨーロッパやアジアでは数々のスパイ活動やサボタージュ任務を成功させた。一方でFBI長官フーバーの激しい抵抗の結果、南米が管轄に含まれることはなかった。また、南西太平洋戦線指揮官のダグラス・マッカーサー将軍もOSSに対する反感からフィリピンにおける活動を禁止している。
ドノバンは公的な立場からはCIAの設立に何ら関与していないが、実際には親交の深かった元部下のアレン・ダレスらを通じて設立に向けて働きかけを行なっていた。第二次世界大戦中にOSSという巨大な諜報機関を率いていたドノバンの意見は、新たな対立関係が生まれようとしていた戦後世界で非常に大きな影響をおよぼした。彼は再び発言力を持ち始めたが、諜報機関の統一というアイデアに対しては依然として陸軍省および海軍省、そしてフーバーのFBIからの激しい反対が起こっていた。この頃、トルーマンは諸外国における諜報機関の充実などを受けて対策の必要性を感じ始めており、ドノバンは期待に応えうる権限を持つ新組織の設置を主張した。トルーマン自身はあまりこの意見に興味を示さなかったものの、最終的にはドノバンの意見が受け入れられ、1947年国家安全保障法(National Security Act of 1947)と1949年中央情報局法(Central Intelligence Agency Act of 1949)の制定に繋がったのである。1946年、トルーマンは組織の設置に先立って、シドニー・ソワーズ(英語版)海軍予備役少将をCIA長官に任命したが、まもなく強い発言権が認められていたホイト・ヴァンデンバーグ空軍大将と交代している。1947年には正式にCIAの設置と権限を定めている国家安全保障法が成立し、これと共にロスコー・H・ヒレンケッター(英語版)海軍少将が公的な初代CIA長官に任命される[10]。
戦犯裁判が終わると、ドノバンはウォール・ストリートのドノバン、レージャー、ニュートン&アーヴィン法律事務所(Donovan, Leisure, Newton & Irvine)に戻る。こうして公的な役割を退いた後も、彼は諜報活動の専門家として大統領らから助言を求められることを想定し、それに備えていたという。
1949年、彼は新たに結成された在欧州連合アメリカ委員会(American Committee on United Europe)の議長となる。この委員会の任務はヨーロッパ各国の政治的結束を強化し、新たな共産主義の脅威に対向することであった。
ドノバンの息子、デイヴィッド・ラムゼイ・ドノバン(David Rumsey Donovan)は、海軍将校として第二次世界大戦に従軍した。孫のウィリアム・ジェームズ・ドノバン(William James Donovan)は徴兵されてベトナム戦争に従軍した。彼らは共にアーリントン国立墓地に埋葬されている。
Donovan and the CIA: A History of the Establishment of the Central Intelligence Agency by Thomas F. Troy, CIA Center for the Study of Intelligence, 1981.
Lovell, Stanley P (1964). Of spies & stratagems. Pocket Books. ASINB0007ESKHE
Douglas C. Waller (2011), Wild Bill Donovan: The Spymaster Who Created the OSS and Modern American Espionage, New York: Free Press, ISBN 1-4165-6744-5.
Duffy's War: Fr. Francis Duffy, Wild Bill Donovan, and the Irish Fighting 69th in World War I, by Stephen L. Harris, Potomac Books, 2006.
OSS: The Secret History of America's First Central Intelligence Agency, by R. Harris Smith, University of California Press, 1972.
Allen Dulles: Master of Spies, by James Srodes, Washington: Regnery Publishing, Inc., 1999.
A Doughboy with the Fighting 69th, by Albert M. and A. Churchill Ettinger, Simon & Schuster, 1992.
The Shamrock Battalion of the Rainbow: A Story of the Fighting Sixty-Ninth, by Martin J. Hogan, D. Appleton, 1919.
Into Siam, by Nicol and Blake Clark, Bobbs-Merrill, 1946.
No Banners, No Bands, by Robert Alcorn, D. McKay, 1965.
Americans All, the Rainbow at War: The Official History of the 42nd Rainbow Division in the World War, by Henry J. Reilly, F.J. Heer, 1936.
William Stevenson (1976/2009), A Man Called Intrepid: The Incredible WWII Narrative of the Hero Whose Spy Network and Secret Diplomacy Changed the Course of History, New York: Lyons.