『TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 〜ヘンダーソン氏の福音を〜』(ティーアールピージープレイヤーがいせかいでさいきょうビルドをめざす ヘンダーソンしのふくいんを)は、Schuldによる日本のライトノベル。イラストはランサネが担当。
メディアミックスとして、2022年8月12日よりWEBコミックマガジン『電撃コミックレグルス』(KADOKAWA)にて内田テモによるコミカライズが配信開始。
いわゆる「異世界転生もの」で、主人公が現代日本人としての人格と知識を持ったまま異世界へ転生し、転生前の知識や転生時に得た能力を生かして活躍する物語。元は小説投稿サイト「小説家になろう」にて『ヘンダーソン氏の福音を【データマンチが異世界に転生してTRPGをする話】』のタイトルで公開されたものだったが、書籍化にあたり現在のタイトルへと改題された[1]。
日本人男性「更待 朔」(ふけまち さく)は30代前半にして若年性癌に侵され、その緩和ケア(瞑想)の最中に神と出会う。そして「汝の為したいように為すがよい」との啓示と共に、とある異世界に転生することから物語は始まる。
啓示により与えられた権能は、前世の学生時代に耽溺した「テーブルトークRPG(以下「TRPG」)」システムを彷彿とさせるもので、幸か不幸か生前の朔は自身のキャラクターをルール上最強の存在にすることを目指す「データマンチ」と呼ばれる種類のTRPGプレイヤーだった。その結果、転生後の世界をTRPG世界に模して、自身の経験と志向に基づく「最強のプレーヤーキャラクター」を目標に自身を成長させ、かつて演じた幾多の冒険者に思いを馳せつつ第二の人生を歩んでいく。
作中では「神=ゲームマスター(以下、GM)」と置き換えたり、強敵を前にして「ゲームバランス」や「(ゲーム)デザイナー」に対する不満を述べるなどロールプレイ特有のノリが散見され、アーチエネミーやミドル戦闘といった単語や基本ルールブック(ルルブ)を「厚い本」、追加データ集(サプリメント)を「薄い本」と表現するなど、TRPGやゲームに疎い読者にはやや意味やニュアンスが伝わりずらい部分が随所に登場する(ある程度は作中のTipsなどで解説される)。
副題の「ヘンダーソン氏」とは、TRPGにおいてGMが想定した本来のストーリーとは大きく異なるゲーム進行になったものの、通常は破綻するゲーム進行を大団円へと導いたキャラクターの名。そこから「GMの想定したストーリーからどれほど逸脱しているか」を表す指標を「ヘンダーソン・スケール」と呼ぶようになった[注釈 1][2][3]。本作においては「ヘンダーソン・スケール x.x[注釈 2]」と題された小編がたびたび挟まれ、本編の裏事情や本編とは異なる主人公のIFルートが描かれる。
本編は「主人公の年齢と舞台となる季節」で章立てされており、作中における大まかな時間経過を示している。なお主人公は初秋生まれと言う設定のため、季節が夏から秋へと変わるタイミングで主人公の年齢がカウントアップする。 WEB版と書籍版では大筋は一致するものの、WEB版で省略されたエピソードが書籍版にて書き下ろされたり、エピソードの途中経過や参加者が異なる場合もある。本項では主に書籍版の設定を中心に解説する。
新たな英雄"金の髪"として知られるようになったエーリヒの周りに集った若手冒険者による氏族。「楽しく、かつ英雄的に(エンジョイ&ヒロイック)」を標語に、英雄譚に謳われる存在を目標とする酔狂者の集団。 当初は互助会組織としていたが、辺境動乱のアグリッピナとエーリヒの秘密協定により氏族として再編される。 互助会時代から会員と見習いの区別があり、会員になると揃いの紋入り外套を羽織、統制の取れた集団行動を叩き込まれる。またエーリヒが騎乗スキルと軍馬を保有していたことから軍馬を追加で6頭購入し、剣友会内で漂騎兵隊を創設した。騎手が育つまでは宝の持ち腐れだったが、ディードリヒの加入もあって辺境動乱時には運用可能となっていた。この騎兵は使用用途が限られる上に編成/維持コストが共に高く、さらに騎手を1から育てる必要があるなど、通常の氏族にはまず見られない部隊[注釈 57]。
武闘派として知られる有力氏族で、冒険者向けの酒保兼宿屋「黒い大烏賊亭」を拠点とする。 頭目であるロランスの下に自然発生的に集った冒険者によって構成され、主に商隊の護衛や商家の用心棒を請け負っており、巨鬼の戦士の武勇から専属契約を結ぶ商家が複数あり、収入は比較的安定している。辺境領で勝手に関所を作る土豪勢力が、護衛にロランス組が居ると事前に撤退すると云われるほど。 西方動乱期には土豪勢力の生き残りの騎士との闘いを求めて、氏族を挙げて遠征軍を組織して出征している。
辺境域の違法薬物市場を独占すると噂される有力氏族。 表向きは合法的な魔法薬の製造を主とする氏族であり、魔法使いを複数抱えているのが特徴で、新人時代のカーヤも勧誘されている。護衛要員として薬物で強化した戦闘員もいるが、他の有力氏族と比べると武力で劣るとされる。 流通や荒事などは主に下請け組織にやらせており、氏族連合のような形態をとっている。
悪名高い武闘派有力氏族。主に街中の用心棒や商隊の護衛を請け負っている。 同じ武闘派でも傭兵団に近く都市外の依頼が多いロランス組に比べ、都市内で複数の幹部が一定の権益と配下を持っており、任侠組織に近いイメージとなる。
激しい搾取[注釈 66]で悪評高い有力氏族。 マルスハイムの壁外で暮らす流民や貧民、難民たちにより構成され、マルスハイム内部でも貧民街を中心に勢力を持っている。複数の評議員による合議制とされ、個々の評議員が独自の組織を形成した連合体と思われるが、外部に対して閉鎖性が強く部外者が内部を知ることは困難で、他の氏族との関係性も薄い。
中央大陸西部北方に位置し、建国から500年を数える君主制国家。3つの皇統家から7つの選帝侯家により皇帝を選出する。
かつて世界が一つであった神代の時代から肥沃な穀倉地帯として知られ、神代の時代が崩壊した後の分裂時代であっても小国が十分な富を蓄積できるだけの富裕な地域であった。それゆえ他の地域で大国が出現した時代となっても相変わらず小国並立が続いていたが、開闢帝として知られるリヒャルトにより統一された。
富裕な地域ゆえに中産階級の層が厚く、帝国による安定した統治により世界的にも強国と認識されている。
3つの皇統家が全て異なる種族のため種族を問わず受け入れる国風があり、農民でも跡継ぎだけでなく優秀な子女を代官の私塾へ通わせる奨学の気風がある。また建国に関わる人物が温浴を奨励した歴史から、風呂好きとして知られる国民性を持つ。なお農村部など地方の風呂は蒸し風呂であり、大量の湯を消費する浴場などは都市部にしかない。
公用語である「帝国語」はドイツ語に酷似し、選帝侯・宮中伯・辺境伯・貴族称(フォン)など神聖ローマ帝国を彷彿とさせる単語が多い。また家名(苗字)を持てるのは貴種や特に許された名家に限られる。
行政システムは比較的近代的で、有力貴族が「領主」として治める「領邦」の下に配下の貴族が治める「行政管区」があり、更に細分化された地域や街を「代官」である下級貴族や騎士が治めている。代官は複数の荘園を治めるため、各荘園には領民のまとめ役である「名主」が信任され、必要に応じて代官の業務代行や補佐を執り行う。
この世界において同業の者が集う同業者組合(ギルド)は様々あり、基本的に大都市単位で職業ごとに組合が結成されており、職種によっては近隣の荘園に組合員が出向し常在している。例えば、鍛冶屋は日常生活に不可欠な包丁や農具や釘などを鍛造するため何処の荘園にも存在するが、その荘園に同業者組合はなく[注釈 88]、彼らの所属は近隣の大都市の同業者組合である。 相互扶助のため同職の組合同士は都市の垣根や国境を越えた繋がりを持っており、ある都市の同業者組合に属する者は別の都市の同職の組合においても便宜が図られる。
一般に認識されているのは単一世界を対象とする上位存在で、世界の理を担当する管理者的な存在。しかし直接世界に干渉する事は「人類の堕落を招く」とされており、世界創生初期の神代の時代以降は、時折人々に「神託」を授け、人々の願いに応じて「奇跡」を行使する程度に留めている。 神々の勢力は地域毎に偏在しており、信者である人類を介して他の神群と日々勢力争いを繰り広げている。また複数の神が実在する世界のため、多神教が基本(ただし唯一神を称する神もいる)で体系だった神話は存在していない様子。 なお、朔をエーリヒに転生させ権能を与えたのは、更に上位から複数の異世界を管理している存在である(エーリヒは弥勒菩薩?と解釈し、未来仏と呼んでいる)。神々自身は、その上位存在を「クライアント」と認識しており、エーリヒに「元請けと下請けの関係」や「親会社から子会社へ出向」などを想起させ、信仰を躊躇わせることになった。
舞台となる異世界には、「人間」として認知されている複数の種族が存在するが、大別して現実世界の人間やその亜種に相当する「人類種」、人類種に他生物の要素を加えた「亜人種」、“魔素”を体内に蓄積する「魔種」に分かれる。その他にも「人間」には含まれない知性体も多く存在する。なお、これらの分類は長命種が始めたため、長命種が基準となっている[19]。
また異種族間の婚姻も珍しくないが、ヒト種と異種族の間に生まれる子供に混血は存在せず、ほとんどの場合母親側の種族特性を持つ。
成年となる年齢は、生物的に長寿(あるいは寿命が無い)種ほど遅く、短命な種ほど早くなる。例えば、長命種や吸血種などは成年を百歳としている。ただヒト種が多数派を占める社会で育った場合、短命種などは周囲の同年代のヒト種に引きずられて精神的な成長が遅くなる傾向(マルギットの例)があるなど、一概には決められないのが実情。
魔力に含まれる“魔素”を蓄積する「魔晶」と呼ばれる器官を、生まれながら体内に持つ種族の総称。 “魔素”の詳細は不明だが、魔種に様々な特性を与える一方、蓄積量が限界を超えると自我や倫理観を失って怪物化し「魔物」と呼ばれるようになる。ただし“魔素”が溜まった高濃度な場所に長期間留まるなどの余程のことがない限り、魔物化することは稀。 国や地方によって扱いが異なり、基本的に差別のない帝国や吸血種が君主として君臨する国がある一方で、魔物と同一視されて激しい迫害を受ける国や地方も存在する。
基本的には産業革命以前のヨーロッパにも似た文化を持つが、ドイツの行政管区システムや製紙法や入浴習慣、手押しポンプなどが存在し、知識層には大地が「天体」であることや万有引力の法則などが知られ、古代ローマから19世紀ごろまでのファッションが混在しているため、エーリヒは「自身と同様の転生者がぼちぼち存在したのではなかろうか」と推測している。