鳥羽 亮(とば りょう、1946年8月31日[1] -)は、日本の小説家・作家。埼玉県出身。本名、鳥羽 貴徳(とりば たかのり)[1]。
1946年、埼玉県秩父郡野上町(現・長瀞町)に生まれる。埼玉大学教育学部卒業。1968年、埼玉県越谷市立増林小学校に教師として赴任。同小学校の同僚と結婚。1990年『剣の道殺人事件』で第36回江戸川乱歩賞を受賞(阿部陽一の『フェニックスの弔鐘』と2作同時受賞[2])。応募前は小学校教員と教育関連の仕事についていた(1996年の時点では教頭であった[3])。その後、サスペンス・推理小説として『探偵事務所』シリーズ(角川書店刊)や『警視庁捜査一課南平班』(講談社刊)シリーズなどがある。剣豪小説にミステリーの要素を加えた『三鬼の剣』から時代小説を書き始めた。宮本武蔵や柳生十兵衛などの実在の剣豪を描いた作品のほか、狩谷唐十郎(『鬼哭の剣』シリーズ)、島田宗五郎(『天保剣鬼伝』シリーズ)、蓮見宗二郎(『深川群狼伝』シリーズ)、毬谷直二郎(『三鬼の剣』、『隠猿の剣』等)などの架空の剣豪ヒーローを多数生み出しており、近年では『剣客春秋』シリーズ、『闇の用心棒』シリーズ、『八丁堀剣客同心』シリーズ、『まろほし銀次捕物帳』シリーズ、『はぐれ長屋の用心棒』シリーズ、『首売り長屋日月譚』シリーズ、『剣客同心 鬼隼人』シリーズ、『流想十郎蝴蝶剣』シリーズ、『御助宿控帳』シリーズ、『隠目付江戸日記』シリーズ、『影与力嵐八九郎』シリーズ、『剣客旗本奮闘記』シリーズ、『影目付仕置帳』シリーズ、『火盗改鬼与力』シリーズ、『子連れ侍平十郎』シリーズ、『わけあり円十朗江戸暦』シリーズ、『さむらい』シリーズ、『八丁堀吟味帳』(鬼彦組)シリーズなど、剣術(秘剣)ミステリーや、江戸時代の絆と人情の厚さ(町人の長屋、武士の組屋敷などの生活環境のつながりによる人情)を描いた作品も書いている。また、時代推理小説として『波之助推理日記』シリーズがある。2007年6月には、著書100冊突破を記念して、『剣豪たちの関ヶ原』を出版した。2012年に第1回歴史時代作家クラブ賞のシリーズ賞を受賞。2017年2月下旬の時点で、著作数は300冊を超えている。
小中学生のころから推理小説に興味を持ち、江戸川乱歩やアーサー・コナン・ドイルを愛読していた、という。高校に入ってから読んだ松本清張の『点と線』に強い影響を受け、水上勉、高木彬光、森村誠一、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、ヴァン・ダイン、クロフツなどを読み、推理・ミステリー小説に関心を深めていった。大学入学後は一転して現代詩に熱中し、草野心平、三好達治、八木重吉などを読み、学部の卒業論文は中原中也について書いた、という[4]。
卒業後は埼玉県の小学校の教員となったが、40代になってから仕事用に購入したワープロの練習として小説を書き始めた。1988年に銀行員を主人公とする推理小説『それぞれのメッセージ』が、江戸川乱歩賞の二次選考に残り、自信を深めた。その後、1990年に『剣の道殺人事件』で第36回江戸川乱歩賞を受賞し、推理作家としてデビューする。小説家となってからも、小学校の教員として勤務を続け、土日などの休日に小説を書く、という生活がしばらく続いた、という。本人は、推理小説と時代小説を厳密に区別せず、時代小説の中でも推理小説の要素の強い小説を多く書いている。
故郷の秩父郡では甲源一刀流がさかんであり、中学・高校と剣道に打ち込み、大学の2年で剣道三段を取得している。乱歩賞受賞作の『剣の道殺人事件』や『一心館の殺人剣』などの推理小説においても剣道が主題となっている。高校時代、剣道の部活で疲れて倒れたとき、「まだ、立てばできる」と顧問に言われ、立ち上がり、稽古に励んだ。その言葉が心に残り、作家となった今も「まだ、できる」と作品を書き続けた。自身の剣道の修練体験における絆が、剣の戦いと江戸時代の人情の厚さをどう描くかという作品に影響している[5]。
自身が剣道の経験者であることから、剣豪小説の斬り合いの場面(チャンバラ活劇)においても、科学的・合理的に剣技を説明することに努力している。斬り合いの場面(チャンバラ活劇)を書くときは、木刀を握って実際に試すこともある、という。
実在の剣豪宮本武蔵の生涯を描いた小説として『覇剣 武蔵と柳生兵庫助』がある。かつて司馬遼太郎など多くの小説家が宮本武蔵について書いてきたが、鳥羽が描く武蔵像は、現実的な戦略家としての武蔵である。兵法の神髄は勝つことにあると確信する武蔵は、佐々木小次郎の「虎切刀」(別名・燕返し)を破るため、あらゆる偶然性を排除して、間合い、見切り、剣の長さや戦場の実地検分などを精密に行ったうえではじめて戦うのである。十三歳で新当流の有馬喜兵衛を撲殺して以来、六十余回の勝負にすべて勝利したという宮本武蔵は、乱世から治世へと向かう時代の流れの中で、晩年は霊巌洞にこもり、自己の兵法求道の道を「五輪書」にまとめ、地・水・火・風・空に分け、一切の迷いを断った空の境地(空を道とし、道を空と見るところ)こそが兵法の神髄であるという、抽象的な剣の求道者の境地を悟った。
他に実在の剣豪を描いた小説として『刺客 柳生十兵衛』(柳生十兵衛三巌、柳生宗矩の子)、『柳生十兵衛武芸録』シリーズ、『柳生連也斎』シリーズなどがある。