適時開示(てきじかいじ)とは、公正な株価等の形成および投資者保護を目的とする、証券取引所に上場した会社(以下、「上場会社」)が義務付けられている「重要な会社情報の開示」のことをいう。
なお、東京証券取引所が適時開示制度をリードしてきたため、本稿は東京証券取引所を主に参考としている。
投資者が自己責任により投資を行うため、また、証券取引所の機能が十分に活かされるためには、投資判断材料として、証券市場に上場されている株式等に関する重要な会社情報が適時・適切に提供される必要がある。
会社法では、決算公告をはじめとする公告や登記等により、会社の情報が開示される。また、金融商品取引法では、法定開示と呼ばれる有価証券報告書・四半期報告書・臨時報告書といった書類の提出が上場会社をはじめとする一部の株式会社に義務付けられているものの、日々刻々と変化する経済情勢下においては、法定開示のみを投資判断材料とするには不十分と考えられ、また、法定されることによる制度変更等の機動性低下を補う観点から、法定開示のギャップを埋める意義が適時開示にあり、その重要性が高まっているといわれている。
法定開示のギャップを埋める一例として四半期決算制度が挙げられる。四半期決算制度は、証券市場の自主規制下で法制度に先立ち試験的に開始され、一定期間を経た後、金融商品取引法で法制度化された。このように、法制度化のクッションとしての機能も、証券取引所の自主規制は担っているといえる。同様の事例としては、有価証券報告書等の適正性に関する確認書と、金融商品取引法の確認書が挙げられる。
なお、会社法・金融商品取引法のいわゆる法令を「ハード・ロー」、証券取引所の自主規制を「ソフト・ロー」と呼ぶことがあり、これは証券取引所の自主規制が持つ柔軟性・弾力性・機動性等を表した用語と言える。
以下は、東京証券取引所のもの。
適時開示が求められる会社情報とは、投資者の投資判断に重要な影響を与える会社の業務、運営又は業績等に関する情報のことをいう。会社情報は「上場会社に関する情報」、「子会社に関する情報」および「非上場の親会社に関する情報」の各々「決定事実・発生事実・決算情報」に区分される。
投資判断に影響を与えるとは、「株価に影響を及ぼす(変動させる)」ことをいう。とはいえ、株価は人気投票的な側面もあり、既存の開示情報等に基づく判断によって株価形成が織り込み済みでなされることもあることから、「株価に影響を及ぼす可能性が『高い』」と考えた方が適切な場合もある。
適時・適切とは適時開示の要諦となる要素で、これらが充足されることで適切な株価形成や市場の公正性が担保される。
証券取引所で定めている会社情報は、主に次のもので構成されている。
なお、開示義務のある会社情報に関し報道等があった場合で証券取引所が必要と認めたときは、証券取引所が上場会社に対し照会を行うことができるようになっており、照会結果によっては開示を求めることができる。
会社情報の開示基準は、複数の要素で構成されている。
情報種別:情報の発生プロセスにより、以下の3つに区分される。
軽微基準:内容により、以下の3つに区分される。なお、上場会社・子会社とも企業グループ(連結決算上)の財務諸表の数値を参照し、軽微基準の判定を行う。ただし、上場会社については、インサイダー取引規制上の重要事実に該当する場合は、上場会社の財務諸表の数値を参照する。(2010年6月28日までは、上場会社は、一律、上場会社の財務諸表の数値を参照することとされていた。)
会社情報の発生源によっても開示基準が異なる。
決算情報
その他の情報
従来から、不適正開示があった場合には口頭注意処分・改善報告書の提出等の制裁的措置を行っていた。しかしながら上場会社の情報開示全般において不正が横行したことを受け、2005年より「宣誓書制度」と「有価証券報告書等の適正性に関する確認書制度」が開始された。さらには、市場に対する株主及び投資者の信頼を毀損したと取引所が認めたときには、上場契約違約金を求めることができるようになっている。(制度変更に伴い、経緯書が廃止となった)
2010年6月29日に施行された改正有価証券上場規程により、株式等を上場する会社等の代表者が提出を義務付けられる書類。
取引所規則の遵守に関する確認書
上場会社は、その代表者が、投資者への会社情報の適時適切な開示が健全な証券市場の根幹をなすものであることを十分に認識し、常に投資者の視点に立った迅速、正確かつ公平な会社情報の開示を徹底するなど誠実な業務遂行に努めることについて真摯な姿勢で臨む旨を宣誓した「宣誓書」と、その添付書類として適時開示に係る社内体制の状況を記載した「適時開示体制概要書」の提出が求められる。なお、宣誓書制度は2005年に開始されたが、2010年、提出義務のひとつである「前回提出から5年間が経過するとき」を初めて迎えることから、代表者の異動がなかった上場会社においても見直しが入った。 一方、2010年の制度変更に伴い適時開示に係る宣誓書は取引所規則の遵守に関する確認書へ、適時開示体制概要書はコーポレート・ガバナンス報告書の内容とすることとなり、適時開示に係る宣誓書制度は終焉を迎えた。
上場会社の有価証券報告書および半期報告書について、上場会社の代表者が、不実の記載がないと認識している旨およびその理由を記載した書面(有価証券報告書等の適正性に関する確認書)の提出が求められる。
旧証券取引法では任意提出だった確認書を提出した場合には、当該有価証券報告書等の適正性に関する確認書の提出は不要とされていた。そのため、本制度は、任意の確認書を提出していない上場会社のためにあったといえる。 金融商品取引法が施行され四半期報告書制度や内部統制報告書制度とともに、確認書制度が提出が義務化されたことに伴い、「有価証券報告書等の適正性に関する確認書」の提出は実質不要となった。
なお、いずれも最終的には同じ適時開示情報閲覧サービスへと繋がるようになっている。
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