行政

行政(ぎょうせい、: Executive /Administration)とは、国家の統治作用のうち、立法司法を除いた作用の総称であり、以下を指す[1]行法ともいう。

1. 法律に従ってを治めること。

2. 国の機関または地方公共団体が法律・政令の範囲内で行う政務

概説

行政法学上の定義

法律学においては立法司法と並ぶ一つの国家作用である[2]立法権司法権と並び、統治権の一つとして、行政を行う権能を行政権という。

実質的意義の行政

国家作用が作用自体の性質という点に着目して立法、司法、行政に三分類されるとき、これらはそれぞれ実質的意義の立法、実質的意義の司法、実質的意義の行政と概念づけられる[3]

実質的意義の行政とは何かという点については、現代の行政は複雑で多岐な内容にわたっており、これに必要かつ十分な定義を与えるのは、容易でない。そのため、行政の定義については、内容的に定義することを放棄し、消極的に定義するにとどまる控除説消極説)と、なんとか行政の内容を積極的に定義してその内容を明らかにしようと努める積極説が対立する。

控除説(消極説)
日本の公法学上は、国家作用のうち、立法作用と司法裁判)作用を控除した残余の作用を指すとする見解(控除説、消極説)が支配的である。
このような控除説による説明は、内容的な定義づけを放棄しており、意味がないようにも見える。しかし、君主が有していた包括的な国家権能のうちまず立法権が議会に移譲され、その残りである執行権のうち司法権がさらに分化され、君主に残された権能が行政とされたという沿革に対応している。さらに、現実問題としても、行政と観念される作用には様々なものがあり、それらを漏れなく包括する必要もある。したがって、控除説は一般的に支持されている。
積極説
控除説のような消極的な定義づけに満足せず、積極的な定義づけをする試みもある。代表的な見解は田中二郎によるものであり、「法の下に法の規制を受けながら、現実に国家目的の積極的実現をめざしておこなわれる全体として統一性をもった継続的な形成的国家活動」とするものである。だが、行政の特徴等を大まかにイメージしたものに過ぎないという批判もある。

実質的意義の行政を主たる任務とする機関を行政機関というが、実質的意義の行政は、行政機関のみならず、立法機関や司法機関にも存在する。

形式的意義の行政

行政府に属する一切の作用の総称をいう。

国家作用は作用自体の性質という点に着目すると実質的意義の立法、実質的意義の司法、実質的意義の行政とそれぞれ概念づけられるが、個々の国家作用が現実にいずれの機関に配当されるかは憲法の体制・個別の法律により異なる[3]。そこで、現実に配当されている機関という点に着目して国家作用を分類したものが形式的作用である[3]

日本の場合、政令の制定は実質的意義においては立法作用であり、また、恩赦の決定や行政審判は実質的意義においては司法作用であるが、行政府に属する権限とされるため、形式的意義においては行政に含まれることになる[4]

行政学上の定義

「政治体系において権威を有する意思決定者によって行われた公共政策の決定を実行することに関連する活動」[5]などと定義される。

行政法

行政法は、行政の組織・機構に関する行政組織法、行政の手続に関する行政作用法、違法な行政活動によって不利益を被った国民の救済に関する行政救済法の3部門に大別される[6]

行政組織法

行政主体とは「行政という国家作用を担当する行政機関が帰属する法主体」[7]と定義され、また、これと対をなす行政客体とは「行政主体の行う行政の相手方となる法主体」[7]と定義される。行政主体の代表例は国(中央政府)と地方公共団体(地方政府)である。

近代統一国家の下では立法・行政・司法などすべての国家権力は国に集中するが、地方分権主義が進むにつれ地方公共団体が国と並ぶ重要な行政主体となるに至っている[8]

行政作用法

行政主体が行政機関を通じて私人に対して行う行政活動をめぐって生ずる権利義務関係を規律する法であり、行政救済法を除く「行政外部の法」を意味する[9]。行政作用法は行政機関による「立法」作用(いわゆる行政立法)をも「行政作用法」の対象としてきており、行政作用法の対象となる「行政作用」は、行政立法をも含む広義の形式的意味をしている[10]

行政組織法や行政救済法と異なり、行政作用の領域には、まとまった統一的な法律が少ない[11]

法治国家ないし行政の原則の下においては、法に従ってなされることが要求される[12]

行政救済法

行政法において、市民の権利が行政によって違法か適法かを問わず侵害された場合、その権利を救済する。

日本の行政法

行政組織法

行政機関

行政機関とは、行政主体のために行政を実施する機関をいう。権限の帰属で捉えた機関概念である。
指揮監督権

行政の統一をはかるために、上級機関が下級機関に対して有する権限。具体的には以下のものが挙げられる[13][14]

権限の代行
  • 権限の委任(権限の所在を変更)
    事務の委任ともいう。
    法令の根拠が、必要である。
  • 権限の代理(権限の所在を変更しない)
    • 法定代理(権限の全てに及ぶ)
      • 狭義の法定代理
      • 指定代理
    • 授権代理(権限の一部について行われる)
      委任代理ともいう
国家行政組織
第2条第1項
内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣をもつて、これを組織する。
第4条第1項
内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。

日本では、憲法第65条で、行政権は内閣に属すると定めている。これは、一般的には行政権が内閣総理大臣一人に属しているのではなく、内閣総理大臣と国務大臣の合議体からなる内閣に帰属していることを意味すると解釈されている(憲法第66条第1項・内閣法第2条第1項参照)。ただし、例えば内閣総理大臣が自己の任命式を終えた後、人事熟考のために時間をかけて組閣を行う場合、全会一致を要する閣議において閣議決定・閣議了解の採択にすべての国務大臣が反対した場合に全閣僚を罷免して自身が兼務することで閣内意思の一致を図るなどの場合において、内閣総理大臣のみをもって内閣が組織されることがありうる(いわゆる一人内閣。憲法第68条・第71条参照)。

地方行政組織

都道府県市町村がある。

公務員

行政組織の人的要素である。

公物

行政組織の物的要素である。

行政作用法

行為形式

行政立法
行政立法は、行政機関によって定立された一般規範またはその立法行為である。
  • 実質による種類
    • 法規命令
      国民の権利義務にかかわる法規たる性質を有するもの
      (例)政令、内閣府令、省令、会計検査院規則、人事院規則、地方公共団体の長や教育委員会等の規則
      • 執行命令
        憲法・法律等上級の法令を実施するための具体的細目・手続事項
        (例)政令・府令・省令・府や省の外局である委員会の規則・会計検査院規則・人事院規則などの命令。
      • 委任命令
        法律等上級の法令に基づき発せられる。
        (例)政令の委任に基づく省令、委員会規則
    • 行政規則
  • 形式による種類
    • 政令
    • 府省令
    • 外局規則
    • 独立機関規則
    • 行政規則
行政行為
  • 法律行為的行政行為
  • 準法律行為的行政行為
    • 確認、公証、通知、受理
  • 附款
行政契約

行政契約とは、行政目的を達成するための契約

行政指導

行政指導とは、指導・勧告・助言等で処分に該当しない行為。

行政計画

強制措置

行政強制

行政目的の達成のために、行政権が国民の身体・財産等に実力をくわえ、行政上必要な状態を実現させる作用といわれる[15][16][17]

行政上の強制執行
即時強制
義務違反に対する制裁
行政罰
  • 行政刑罰
    刑法上の刑罰を科す
  • 秩序罰
    制裁として過料を科す
その他の手段
  • 許認可処分の停止・取消
  • 経済的負担
  • 違反事実の公表
  • 給付拒否

行政手続

行政調査

行政調査は、行政機関が行政作用を公正に行うために、身体・財産を半強制的に調査し情報を収集すること。

行政情報

行政救済法

脚注

注釈

  1. ^ 実地視察等[13]
  2. ^ 事後的に違法・不当な行為の取消または停止を命じる[14]
  3. ^ 権限を巡る下級行政庁同士の争いの裁定[14]

出典

  1. ^ 精選版, 日本国語大辞典,デジタル大辞泉. “行政とは”. コトバンク. 2021年8月17日閲覧。
  2. ^ 塩野『行政法1 第4版 行政法総論』2頁
  3. ^ a b c 塩野『行政法1 第4版 行政法総論』6頁
  4. ^ 伊藤正己『憲法 新版』弘文堂、1990年、504頁、ISBN 4-335-30036-0 
  5. ^ 竹尾『現代行政学理論』5頁
  6. ^ 原田『行政法要論 全訂7版』14頁
  7. ^ a b 塩野『行政法1 第4版 行政法総論』328頁
  8. ^ 原田『行政法要論 全訂7版』45頁
  9. ^ 稲葉・人見・村上・前田『行政法 第4版』20頁
  10. ^ 稲葉・人見・村上・前田『行政法 第4版』21頁
  11. ^ 稲葉・人見・村上・前田『行政法 第4版』51頁
  12. ^ 原田『行政法要論 全訂7版』82頁
  13. ^ a b c d e f 指揮監督権」『日本大百科全書』https://kotobank.jp/word/%E6%8C%87%E6%8F%AE%E7%9B%A3%E7%9D%A3%E6%A8%A9コトバンクより2022年5月5日閲覧 
  14. ^ a b c d e f g h 指揮監督権」『ブリタニカ国際大百科事典』https://kotobank.jp/word/%E6%8C%87%E6%8F%AE%E7%9B%A3%E7%9D%A3%E6%A8%A9コトバンクより2022年5月5日閲覧 
  15. ^ 行政強制」『ブリタニカ国際大百科事典』https://kotobank.jp/word/%E8%A1%8C%E6%94%BF%E5%BC%B7%E5%88%B6コトバンクより2022年3月27日閲覧 
  16. ^ 須藤陽子「「即時強制」の系譜」『立命館法學』第4号、2007年。 
  17. ^ a b c 即時強制https://kotobank.jp/word/%E5%8D%B3%E6%99%82%E5%BC%B7%E5%88%B6コトバンクより2022年3月27日閲覧 

参考文献

関連項目

外部リンク