発送電分離

発送電分離(はっそうでんぶんり)とは、電力会社発電事業と送電配電を含む広義の送電)事業を分離することである。

解説

発送電分離のメリットとしては新規事業者の参入で市場競争が生まれ、電気料金値下げにつながることとされているが、発送電分離がなされた国や地域で電気料金が下がった事例は存在せず、現実には電気料金は値上がりしている[1][2][3]

デメリットとしては、電力会社が効率を重視しすぎるため投資を抑え、結果的に国全体の発電能力の低下や設備の老朽化を招き、電力供給が不安定化することである[4]。また、海外の企業が参入することで、有事の際には自国内の送電システムに対立国が介入する危険性がある[5]

このため、日本の電力会社や専門家は「電力の安定供給が脅かされる」として発送電分離に反対していた[6]

経緯

欧米では1990年代半ばに、発送電分離に基づき電力自由化の法律ができ、送電線が開放されたが、日本では発送電分離を行わずに電力自由化がなされた。

2013年(平成25年)2月2日、経済産業省は2017年から2019年度に実施する方向で調整に入った[7]。また、与党・自由民主党は2013年(平成25年)3月29日の総務会で、2020年4月1日に、電力会社から送配電部門を切り離す「発送電分離」と電気料金の全面自由化を実施する、電力改革の日本政府方針案を了承した[8]

なお屋久島においては、先行して発送電分離が1960年(昭和35年)より行われている(「屋久島電工#水力発電」参照)。

2016年(平成28年)4月1日に東京電力が発送電分離し送配電を一般送配電事業者東京電力パワーグリッドに移管され、合わせて東京電力も東京電力ホールディングスに社名変更した。それ以外の発送電企業も沖縄電力を除き2020年(令和2年)4月1日に一般送配電事業者の北海道電力ネットワーク東北電力ネットワーク中部電力パワーグリッド北陸電力送配電関西電力送配電中国電力ネットワーク四国電力送配電九州電力送配電電源開発送変電ネットワーク(J-POWER送変電)にそれぞれ移管した。

議論

経済学者円居総一は「発送電の分離・自由化が進めば、発電体系・送配電体系が変わり、電力の効率性・供給基盤の強化が促進される」と指摘している[9]。円居は「発電・送配電の分離を中心に電力の自由化を進めれば、価格機能が働くようになり、市場メカニズムを通じて原子力発電への依存は加速的に低下していく」と指摘している[10]

経済学者の八田達夫は「発電事業者間の競争を促すためには、給電指令所は公平にすべての発電事業者を扱う必要がある。それによって実力のある新規参入者が公平に参入できるようになる。発電と送電とを同じ会社が持っていると、公平に扱うことは難しくなる。したがって、発送電分離が必要となる」と指摘している[11]

中野剛志は発送電を分離しても技術的・経済的な問題があることから再生可能エネルギー等の新エネルギーの普及は進まないとしている[12]

経済学者の高橋洋一は「電力の自由化をやれば、エネルギーの最適な組み合わせは達成できる」[13]「発送電分離などを実行すれば、長期的にコストが高い原発を、電力業者が漸次フェードアウトしていくことが可能である」[14]と指摘している。

電力改革研究会は、発送電分離がなされたドイツでは、政府による補助金や規制で無理やり電力システムを維持しているのが実態であるとしている[15]

脚注

  1. ^ 米国における発送電分離が電気事業に与えた影響 (PDF) (Report). 電力中央研究所.
  2. ^ 筒井美樹・澤部まどか (28 April 2014). 電気料金の国際比較 -2013年までのアップデート- (PDF) (Report). 電力中央研究所.
  3. ^ 平成24年度電源立地推進調整等事業(諸外国における電力自由化等による電気料金への影響調査) (PDF) (Report). 日本エネルギー経済研究所. March 2013.
  4. ^ “発送電分離 利点、欠点の深い議論を”. 佐賀新聞(論説). (2011年6月17日). http://www.saga-s.co.jp/news/ronsetu.0.1949574.article.html 2013年1月16日閲覧。 
  5. ^ フィリピンの電力網、中国が「いつでも遮断可能」 内部報告書が警告”. CNN (2019年11月26日). 2019年11月27日閲覧。
  6. ^ 高橋洋 (2012年3月13日). “3.11後の電力自由化 -- 今なぜ発送電分離が必要なのか”. 朝日新聞社. 2012年7月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年1月16日閲覧。
  7. ^ “電力会社:発送電分離は最短で4年後 経産省方針”. 毎日新聞社. (2013年2月2日). オリジナルの2013年2月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130212070241/http://mainichi.jp/select/news/20130203k0000m020071000c.html 2013年2月5日閲覧。 
  8. ^ “政府の電力改革案を了承=18〜20年に発送電分離-自民”. ウォール・ストリート・ジャーナル. (2013年3月29日). http://jp.wsj.com/article/JJ12690515065441453279518470494552382392429.html 2013年3月29日閲覧。 
  9. ^ 円居総一 『原発に頼らなくても日本は成長できる』 ダイヤモンド社、2011年、100頁。
  10. ^ 円居総一 『原発に頼らなくても日本は成長できる』 ダイヤモンド社、2011年、104頁。
  11. ^ “「リアルタイム精算」が電力市場を開放に導く原発は緊急時の電源として位置づけるべき--八田達夫・大阪大学招聘教授/学習院大学客員研究員”. ダイヤモンド・オンライン. (2012年3月16日). https://diamond.jp/articles/-/16625 
  12. ^ 『TPP亡国論』著者・中野剛志が緊急提言!【後編】 発送電分離はありえない”. ダイヤモンド・オンライン (2011年5月31日). 2011年12月16日閲覧。
  13. ^ “【日本の解き方】小泉氏「原発ゼロ」発言に安倍政権はどう対応するか 答えは電力自由化”. ZAKZAK: p. 1. (2013年11月17日). http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20131117/dms1311170720001-n1.htm 
  14. ^ “高橋洋一「ニュースの深層」 東京都だけで「脱原発」は実現できない!電力自由化と原発国有化で道筋をつけるべきだ”. 現代ビジネス. (2014年1月20日). https://gendai.media/articles/-/38131 
  15. ^ “二兎を追った悲劇 - ドイツの電力自由化と再生可能エネ促進”. Global Energy Policy Research. (2013年3月4日). http://www.gepr.org/ja/contents/20130304-03/ 

関連項目

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