『櫂』(かい)は、宮尾登美子の長編小説。1972年8月に第一部を自費出版し、1973年の第9回太宰治賞を受賞。同年12月および1974年3月に筑摩書房より上下巻にて刊行された。『春燈』『朱夏』『仁淀川』と続く自伝的四部作の第1作で、自らの父母をモデルに、大正から昭和初期の高知の花街を舞台に15歳で渡世人に嫁いだ薄幸の女のひたむきな生涯を描く[1][2][3]。
1985年に映画化、1975年と1999年にテレビドラマ化された。
あらすじ
高知の下町に生まれた喜和は15歳で岩伍に嫁いだ。渡世人で女衒である岩伍の稼業に喜和は飛び込んでいった。しかし、生まれ育った環境の違いから、喜和は岩伍の稼業をよしとはせず、二人の関係は破局へと向かった。
登場人物
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書誌データ
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のちに中公文庫、ちくま文庫、新潮文庫に収録された。
映画
東映京都撮影所制作で五社英雄監督、緒形拳および十朱幸代の主演により映画化され、1985年1月15日に公開された[8]。
概要
キャスト(映画)
- 富田岩伍 - 緒形拳
- 女衒で芸妓娼妓紹介業を営む。かつては青年相撲の力士で、力士だった岩伍を喜和が見初める。女衒の仕事に対し「貧乏が人を腐らせてるから、人を買って人助けしてる」と誇りを持っている。森山大蔵という大きな後ろ盾を得て、後に高知市立城北診療所の建設資金を半分寄付するまでに大成する。巴吉に自分の子を孕ませて別れた後、綾子の一切の世話を喜和に押し付け、照と関係を持つ。親は床屋を営んでいたが酒と博打で自殺し、母親は岩伍が5歳の頃に家を捨て、若い男と逃げた過去がある。
- 富田喜和 - 十朱幸代
- 岩伍の妻。岩伍の行動に振り回されながらも耐えて来たが、徐々に本音をぶつけるようになる。岩伍が女衒の仕事をしていることを良く思っておらず、本心では別の仕事をしてほしいと思っている。岩伍からは陰で「青竹が着物を着た融通の利かない一本木」と評されている。辛抱強いが裏を返せば頑固な性格。子宮筋腫を患い手術に成功するが、毛髪を次第に失ってゆく。岩伍の不始末を押し付けられ全てを背負おうが、岩伍と離縁する。
富田家で育つ子供たち(実子以外を含む)
- 菊 - 石原真理子
- 幼い頃、中国に売られて六神丸の材料になるところを、神戸で岩伍に10円で買われ、来ていた着物の模様から岩伍が菊と名付ける。子供の頃、ご飯の食べ方すらまともに親に教えてもらえなかったため周りの手を焼かせたが、喜和に一から教えられて気立ての良い娘に育つ。後に竹市とともに岩伍の朝倉町の店に来る。
- 竜太郎 - 井上純一
- 富田家の長男。生まれつき病弱で肺病を患ったせいで旧制中学校に上がれず弟に劣等感を持つ。菊を実の妹のように可愛がる。多仁川組の取り仕切る賭博場でトラブルになった健太郎をかばい、喀血して死亡。
- 健太郎 - 田中隆三
- 富田家の次男。兄弟である竜太郎とは仲が悪い。高知一中(旧制中学)に進学するが、学校をさぼり放蕩をしている。多仁川組の取り仕切る賭博場で殺傷事件を起こして拘留される。後に出所して喜和と離縁し、岩伍の稼業を手伝う。
- 綾子 - 高橋かおり(子役)
- 岩伍と巴吉の間に生まれた娘だが、生まれた直後に大貞と岩伍によって強引に富田家に引き取られ喜和に育てられる。その後天真爛漫な少女に育ち、喜和を実の母のように慕う。最後は岩伍に引き取られる。
岩伍と関わる女たち
- 大貞(だいさだ) - 草笛光子
- 岩伍と同業で『大貞楼』の女将。岩伍とは大阪にいた頃からの仲で、喜和に対して「男が妾を持つのは当然で、(喜和と)一緒にいるせいで岩伍が肩身のせまい思いをしている」と言い、岩伍の不始末を喜和に押し付けている。なお原作では、大貞の抱えの芸妓が妊娠しても臨月まで客をとらせ、流産しても商売をやめさせないくらいの鬼のような人物。
- 染勇(そめゆう) - 名取裕子
- 裏長屋の生まれで、『大貞楼』に預けられる。後に高知一の芸妓になり、豊美から染勇になる。男を手玉に取るのが上手く、男を次々と乗り換えていると地元では噂されている。子供時代に富田家に来た当初は、家族思いの健気な性格だったが成長後は負けん気の強い性格になる。
- 豊竹巴吉(ともきち) - 真行寺君枝
- 女義太夫で『巴吉太夫』と慕われ、岩伍の興行で人気となる。女義太夫としての喉の良さには定評があり人気の女義太夫だった“ろしょう”の再来と言われている。後日岩伍の妾となり綾子を身ごもる。
- 松井照(てる) - 白都真理
- 元人妻。以前夫は俥の車夫をしており岩伍を乗せていた所、多仁川組の組員に刺殺される。直後に線香を上げに来た岩伍と知り合い、ほどなくして男女の仲となる。
喜和の実家
- 小笠原楠喜 - ハナ肇
- 喜和の兄。古道具・古本「楠木堂」を経営。夫婦間でゴタゴタした時に喜和を数日間住まわせたり、助言したりしている。
- 里江(さとえ) - 園佳也子
- 喜和の姉。富田の家にもらわれたばかりの菊に幼い娘用の古着をあげたり、その後も喜和のことを気にかける。
富田家で働く人々
- 庄 - 左とん平
- 岩伍の店の番頭。岩伍の右腕となり外に仕事に出たり、米たちに色々と指示を出す。
- 米 - 桜金造
- 岩伍の店の若い衆。
- 女中 - 藤山直美
- 富田家の女中。家事をこなしながら喜和の子育てを手伝ったり忙しくしている。
その他
- 森山大蔵 - 島田正吾
- 四国造船の会長で地元で影響力がある人物。元々女義太夫で人気を博した“ろしょう”のファンで、“ろしょう”に似た巴吉のそのスター性を評価する。岩伍の興行の後ろ盾となる。
- 谷川文造 - 成田三樹夫
- ヤクザ、多仁川組の組長。染勇と親しい間柄。岩伍と興行で対立してたが、後に賭博場での一件で失脚する。さらに手下に体を支えられないと一人で歩けない状態となる。
- 木元武造 - 片桐竜次
- ヤクザ、多仁川組の組員。健太郎に刺殺される。
- 小夜子 - 加納みゆき
- 染勇の妹。傷害事件以前から恋仲だった富田健太郎と彼の出所後に結婚する。
- 松崎 - 成瀬正
- 市場の魚屋で働く。
- 竹市 - 島田紳助
- 市場の魚屋で働く。客の菊とは顔なじみで冗談で「一晩付き合って」などと言っているが、岩伍が怖くて実際には手出しができないでいる。後に菊とともに岩伍の朝倉町の店に来る。
スタッフ(映画)
撮影
撮影は1984年夏、東映京都撮影所で大半行われた[6]。緒形拳は付き人も就けず、一人で同撮影所に来ていた[6]。スチールカメラの渋谷典子に「幼い頃、母親に手を引かれ、あまり家に帰らないで新宿で働く父親のところにお金を貰いについて行ったことがある。父は女衒ではなかったけれど、今やっている役と重なってくるところがあった。僕は苦労して来た母のために家を建ててやりたくて、それまで乗り気でなかったコマーシャルの仕事を引き受けた。その母が亡くなった時、霊安室で久しぶりに会った父と酒を酌み交わし、一緒に歌を歌ったんだが、その時初めて気持ちが通じ合えた」「自分の一番好きな映画は『自転車泥棒』、あの親子関係が何ともいいんだよね」と話してくれたという[6]。フランクな緒形と比べて、無口なのが成田三樹夫で[6]、渋谷は成田と同じ山形県酒田市出身だったことから「私も酒田出身なんです」と言ったが、何の反応もなく、会話も続かず。成田が亡くなってから、同じ町内、同じ小中学校出身だったことを知ったという[6]。
ロケは熊本県山鹿市の芝居小屋「八千代座」[6]。滋賀県琵琶湖[6]。
テレビドラマ
1975年版
1975年10月10日 - 12月29日に、NETテレビ(現:テレビ朝日)『ポーラ名作劇場』にて全12話で放送された。1985年9月26日には、12話をまとめた再編集版が放送された。
キャスト(1975年版)
スタッフ(1975年版)
1999年版
1999年5月6日・5月13日・5月20日に、NHK-BS2「衛星ドラマ劇場」にて21時から22時29分に全3話で放送された。翌2000年1月8日、1月15日、1月22日には地上波のNHK総合テレビ「NHKドラマ館」でも21時から22時29分に放送された。
『藏』(1995年)、『春燈』(1998年)の2作品に続く、宮尾登美子原作、松たか子主演による3部作の最終章と位置づけられる[9]。
2021年5月22日にBSプレミアムおよびNHK BS4Kの同時放送で19時30分から23時57分に3本立てで再放送された[10]。
キャスト(1999年版)
スタッフ(1999年版)
放送日程
放送回 |
放送日(BS2) |
放送日(総合) |
サブタイトル |
地上波放送時の視聴率[11]
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第1話 |
1999年5月06日 |
2000年1月08日 |
奔馬 |
10.9%
|
第2話 |
5月13日 |
1月15日 |
修羅 |
10.9%
|
第3話 |
5月20日 |
1月22日 |
自立 |
13.5%
|
受賞
脚注
出典
外部リンク
- 小説
-
- 映画
-
- テレビドラマ
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第1回 - 第10回 | |
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第11回 - 第14回 | |
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三鷹市・筑摩書房共催(第15回 - ) |
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第15回 - 第25回 | |
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第26回 - 第35回 | |
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