東北本線(とうほくほんせん、タイ語: ทางรถไฟสายตะวันออกเฉียงเหนือ)は、タイ王国の鉄道でありフアランポーン駅とノーンカーイ駅(621.10 km)間を結ぶ鉄道路線である。登記上の正式線名はバーンパーチー=ノーンカーイ線という。タノンチラ分岐駅-ウボンラーチャターニー駅(308.82 km)間の支線(タノンチラ=ウボンラーチャターニー線)と、ケンコーイ分岐駅-ブワヤイ分岐駅間のバイパス副線(ケンコーイ=ブワヤイ線)を有する。
当記事では上記バイパス副線、並びにラオス・タイ鉄道も併せて述べる。
1897年3月26日、タイ官営鉄道最初の開通区間であるフアランポーン駅-アユタヤ駅間が開業した[1]。複数回の延伸を重ね、1900年12月21日にナコンラチャシーマ駅までの路線が完成した。1930年4月1日、支線のウボンラーチャターニー線が開業し、1958年7月31日、ノーンカーイ駅[注釈 4]まで開通した。
ラオス方面には、ラオス・タイ鉄道として2009年3月5日にノーンカーイ駅からターナレーン駅まで開通した[2]。2023年10月30日にヴィエンチャン駅まで延伸工事が完成し[3]、翌2024年4月には旅客輸送の開始、同時にバンコクとの直通列車運行が予定され[4]、同年7月に営業開始した[5]。
東北本線の基幹路線は、バーンパーチー分岐駅-ナコンラーチャシーマ駅-ノーンカーイ駅の区間であるが、沿線人口は支線のタノンチラ=ウボンラーチャターニー線の方がはるかに多く、全線開業も1930年と早く、運行列車本数も同支線の方が圧倒的に多い[6][注釈 5]。この背景には、同支線の沿線がカンボジア、ラオスと国境を接しており、終点のウボンラーチャターニーが当時フランスの植民地であったインドシナ(仏印)への玄関口として国策的に開発された前線モデル都市であったという経緯がある。また、同支線はインドシナ戦争期における国防意識の高まりも助けて、本線(ナコンラーチャシーマ以北のノーンカーイ方面)よりも早くから線路規格の近代化が進められてきた。
一方、本線であるノーンカーイ方面は1940年代以後に順次延伸し、ノーンカーイまでの開通は1958年7月31日と遅い[7]。沿線は人口が希薄で、近年まではタイにおける最貧地帯という汚名を着せられてきた地域である。そのため設備の近代化も大幅に遅れ、バンコクとウドーンターニー、ノーンカーイ方面を結ぶ列車は廉価で利用できる座席夜行列車が主体で、旅行者にとっても決して便利なものとは言えなかった。(現在は富裕層と外国人旅行者を主な対象とした全車エアコン付き寝台急行列車が設定されている) しかし、終点のノーンカーイはメコン川を隔てて、ラオスの首都、ヴィエンチャンにほど近く、両国の歴史的、地理的な関係の深さからも国際交易上の主要な都市として位置づけられているほか、コーンケンはタナラット政権下で農村近代化のモデル都市として開発されるなど、ノーンカーイ方面を結ぶ本線はラオスとの交易や東北北部の近代化事業という国策上、北本線に次ぐタイ第2の幹線として位置づけられている。(将来的にはラオスを介してベトナムまで線路を延伸する計画がある) 2012年7月現在、ナコンラーチャシーマ-ノーンカーイ間で支線区と同等の線路規格に改良するべく、路盤改良工事、プラットホーム高床化が進行中である。
フアランポーン駅-ウボンラーチャターニー駅間に運転される寝台急行第67, 68列車には、JR西日本から譲渡された14系寝台客車が2両連結されていたが、2012年頃から在来車に変更された。
バーンパイ駅からマハーサーラカーム、ローイエット、ムックダーハーンを経由し、東北部ラオス国境のナコーンパノム県を結ぶ全長355 kmの支線建設が承認され、2025年開通予定とも伝えられたが[8]、2021年に入札が成立した時点では2028年頃の完成と報じられている[9]。
バンコク-ノンカーイ間の高速鉄道建設が進められており、先行開業区間のナコンラーチャシーマ以南については、その経路の多くが当線に隣接するよう設計されている。2030年(仏暦2573年)頃完成の見込み[10]。
2024年に開通したパーサデットトンネル(タイ語版)(全長 5.41 km)は、タイ国内における鉄道トンネルの最長記録を更新した[11]。2025年3月現在、本トンネルの開通により、周辺の2駅を含む旧線区間は臨時旅客列車と貨物列車のみが経由するよう改められている。
前述の通り、北本線に乗り入れバンコクへ直通する優等列車が設定されている。2025年2月現在の定期旅客列車について以下に示す。
2023年のダイヤ改正により、東北本線の直通列車については全列車がクルンテープ・アピワット中央駅始発・終着となり、フアランポーン駅への乗り入れは終了した。ただし冬季の観光列車など、臨時列車についてはこの限りでない。ドンムアン駅付近より南側の区間については高架線経由に変更された。
当線では非自動閉塞区間において、最低でも場内信号機が設置されている信号取扱駅のほかに、場内信号機、出発信号機ともに設置されていない停車場が幾つか存在する。これらの駅は、通常は閉塞境界としてのみ機能しており、双方向の閉塞区間の取扱いと、これに伴う通票の管理を主な業務としているが、簡易的な列車交換設備も併設している。これらの駅で列車の交換が行われる場合は、上下各方向直近の上位駅である信号取扱駅の駅長同士で打ち合わせを行い、当該駅にて列車の交換が行われる旨が通知される。これと同時に、対象となる列車の機関士に予め当該駅で対向列車の離合が行われる旨が通知される。(通常は通票とともにキャリアーに連絡票が挿入され通知される)
離合が行われる場合には駅長が赤色・緑色の旗(日本におけるフライキと同様のもの)によって手信号を現示し、先着列車(通常は対向列車に対して下位等級の列車)を待避線に入線させ、その後後着列車(通常は対向列車に対して上位等級の列車)を駅手前で一旦停止させたのち、本線上に入線させ停車もしくは通過させることとなる。
このような閉塞境界型の停車場での列車交換は、法規上特例として認められているものではあるが、列車の遅延が常態化しているタイ国鉄においては、こうした対応が臨機応変に行われているのもまた実情である。
2016年1月10日に、タノンチラ - コーンケン間の複線化工事着工式が行われ[12]、2019年に完成した[13]。
マップカバオ - タノンチラ 間の複線化事業が進行中。2021年末完成予定とされていたが用地確保の難航などを理由に遅延し[13]、2025年3月現在も未完成となっている。
2024年7月28日、その一部(マップカバオ - ムワックレック 間、2つのトンネルを含む)が開業した[11]。ただしトンネル内の空調管理が不十分で乗客の苦情が相次ぎ、経路変更は延期となった[14][15]。
2024年12月18日以降の定期旅客列車は新線を経由するように変更されており、旧線区間のパーサデート駅は臨時観光列車のみ、ヒンラップ駅は貨物列車のみが停車する。[16][注釈 8]
タイ政府はタイ国鉄に対し、複線化事業の未着工区間であるコーンケン - ノーンカーイの計画推進を急ぐよう命じていたが[18]、2024年12月に工事契約が結ばれた[15]。
長年に渡り全線(ケンコーイ分岐駅 - ブワヤイ駅)で施工されて来た線路補修工事が完成し、2015年7月1日より運行速度の向上が図られたダイヤに変更した[20]。 一部区間はダム湖の水上に建設されており、この区間を主眼としたバンコクとパーサック・チョンラシットダム停車場(タイ語版)を直通する不定期観光列車[注釈 10]が2019年11月より設定され、以降も貯水量の豊富な冬季に運転されている[22][23]。
2009年3月5日、ノーンカーイ駅よりラオス人民民主共和国のターナレーン駅間(6.15km)が開業した。2019年8月1日より、貨物列車の運行が開始された[24]。2023年10月30日、ヴィエンチャン駅まで延伸工事が完成し[3]、2024年7月19日より旅客列車の営業運転を開始した[5]。
ターナレーン - ヴィエンチャン間には貨物駅、ターナレーン・ドライポートが設置されており、ここで軌間の異なるラオス中国鉄道との間で貨物の積み替えが行われている[25]。